- 制度の概要と基本的考え方
- 対象となる登記申請と作成者の範囲
- 委任状(代理権限証書)への記載と特別の委任
- 登記原因証明情報の作成・確認実務
- 登記申請手続とシステム上の対応
- 特殊な実務事案への対応
- 実務チェックリスト(まとめ)
1. 制度の概要と基本的考え方
制度の定義と根拠
「特別委任方式」とは、司法書士(司法書士法人を含む。以下「司法書士等」)が代理人として電子申請を行う際、司法書士等が作成名義人となった「報告形式」の登記原因証明情報について、登記義務者の電子署名を省略して適式な添付情報として取り扱う制度である。
根拠通知
- 「司法書士等が電子申請の方法により権利に関する登記の申請をする場合における電磁的記録で作成する登記原因証明情報の取扱いについて(依命通知)」(令和7年12月9日付法務省民二第1578号)
- 「司法書士等が電子申請の方法により権利に関する登記の申請をする場合における電磁的記録で作成する登記原因証明情報の取扱いの留意事項について(事務連絡)」(令和7年12月9日付法務省民二第1579号/補佐官通知)
施行日:令和8年3月1日
従来の取扱いとの決定的な違い
最大の違いは、電磁的記録としての登記原因証明情報の作成名義そのものが登記義務者から司法書士等に移行する点にある。
必須であった
不要となる
司法書士等が自らの職責において作成名義人となり、電子署名を付与する
「報告形式」の登記原因証明情報に限定。遺言書などの既存書面(証書)には適用されない
📌 制度の目的:登記義務者の電子署名環境の有無にかかわらず、司法書士の関与によって証明力を担保し、「フルオンライン申請の促進」を図ることにある。
2. 対象となる登記申請と作成者の範囲
特別委任方式を利用できる「登記の目的」を具体的に教えてください。
実務上の混乱を防ぐため、対象となる登記の目的は以下のものに限定列挙されている(依命通知2(1))。
- 売買または贈与を原因とする所有権移転登記(共有持分移転を含む)
- 抵当権または根抵当権の設定・抹消の登記
一見、設定や抹消に準じるように見える「抵当権の変更」などは対象になりますか?
対象外である。以下の登記については、現時点では本方式を利用できない。
- 交換、寄付を原因とする所有権移転
- 登記名義人の住所・氏名変更登記
- 抵当権の変更(抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更、利息の元本組入れ、一部弁済による変更、根抵当権の極度額の減額等)
- 所有権移転仮登記、設定仮登記、およびそれらの仮登記の本登記
司法書士法人の場合、社員以外の司法書士が作成者となれますか?
作成者(登記申請の代理人)は司法書士法人となるが、実際に事実を確認したのが代表社員以外の社員または使用人司法書士である場合、「法人の電子署名」に加えて「事実を確認した社員または使用人の電子署名」の両方が必須となる(後述「4」参照)。なお、復代理人や使者は、登記義務者との直接の委任関係がないため、本方式の作成者には含まれない。
合同事務所形態における取扱いはどうなりますか?
司法書士法人のような組織としての同一性は認められない。合同事務所の各司法書士は独立して業務を執行しているため、「確認を行った司法書士」と「作成名義人として署名する司法書士」は同一でなければならず、法人のような「組織としての署名」は認められない(質疑事項集 問12)。
3. 委任状(代理権限証書)への記載と特別の委任
「特別の委任」として委任状に記載すべき具体的な文言を教えてください。
単なる「登記申請に関する一切の件」という包括的な文言では不十分である。登記義務者が、司法書士を作成名義人とすることを確認し、これを委任した旨を明示する必要がある。
記載例:「司法書士何某が作成名義人となって登記原因証明情報を作成することに関する一切の件」
委任状に記載する登記原因の日付について、注意点はありますか?
正確な日付(または予定日)の記載が必須である。法務局による形式的審査において、特別の委任が明確になされたかを判断するため、「令和〇年〇月中」といった概括的な表記は受理されない(質疑事項集 問9)。
委任情報の作成日から登記原因日までの期間制限について詳しく教えてください。
原則として、「委任情報の作成日」から「登記原因が生じた日」までの期間が1か月以内である必要がある。
例外と立証資料
- 海外居住者:パスポートの写し等の添付により、やり取りに相応の期間を要することが確認できる場合。
- 農地法許可:転用許可証の記載(申請日や許可日)により、原因発生まで時間を要することが確認できる場合(質疑事項集 問6)。
4. 登記原因証明情報の作成・確認実務
司法書士自らが行う「事実の確認」は、どのように記録すべきですか?
登記義務者に不利益が生じないよう、職責に基づき相当な方法で確認し、その態様を具体的に記録する。
記載例
- 「契約への立会いおよび契約書の確認により売買の事実を現認した」
- 「決済への立会いにより代金支払の事実を現認した」
- 「登記義務者からの聴取および提供資料により契約等の事実を確認した」
⚠ 注意:登記権利者(買主等)側からのみの聴取や資料提示に基づく確認は、相当な方法とは認められない。
作成時期および電子署名のタイミングに関する厳格なルールはありますか?
登記原因証明情報は、原則として「登記原因が生じた後」に作成しなければならない。
- 署名日:電子署名が付与された日付が、登記原因日よりも前であってはならない(質疑事項集 問11)。
- 代理権不消滅:登記原因が生じる前に「特別の委任」を受けていれば、不登法第17条の規定により、原因発生後に委任者が死亡した場合でも、司法書士は有効に原因証明情報を作成できる。ただし、農地法許可前など、原因自体が生じる前に死亡した場合は、改めて相続人から特別の委任を受ける必要がある。
司法書士法人の署名ルールを整理してください。
以下の二重の署名体制が求められる(QIII3-5)。
- 司法書士法人の電子署名(法人の代表権に基づく署名)
- 事実を確認した社員または使用人司法書士の電子署名
※法人の電子証明書だけでは、「誰が事実を確認したか」という個人責任の所在が不明確になるため、個人の署名も必須となる。
【実務指針】
司法書士は、依命通知の要件を満たすだけでなく、リスクベースアプローチの観点から、本人確認および犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認を併せて行い、不正登記を防止する高い倫理観が求められる(QIII4-2参照)。
5. 登記申請手続とシステム上の対応
オンライン申請時、添付情報欄にはどのように記載しますか?
以下のように記録する。
記載内容:「登記原因証明情報(特別委任方式)」
登録免許税の電子納付ができない場合、申請は却下されますか?
却下されない。電子納付はフルオンライン促進のための要件であるが、金融機関の限度額設定等により電子納付が困難な「特段の事情」がある場合は、書面等での納付も認められる。この場合、特段の証明資料や理由の記載も不要である(質疑事項集 問15)。
本方式によるPDFファイル提供において、なぜ補正が認められるのですか?
従来の特例方式(書面をスキャンしたPDF)では、原本との同一性担保および不正申請防止の観点からPDFの補正は一切不可であった。しかし、特別委任方式は「司法書士自身が作成名義人」であり、自らが受けた「特別の委任」の範囲内であれば、自ら作成した内容を修正する権限を有するため、論理的に補正が可能となる(質疑事項集 問4)。
6. 特殊な実務事案への対応
「わかれ取引」における対応の違いを教えてください。
申請方式により可否が分かれる(QIII5-2)。
- 利用可能 共同代理方式:義務者代理人が申請代理人となるため、特別委任方式による原因証明情報を提供できる。
- 利用不可 復代理方式:本方式は「作成名義人である司法書士等が自ら代理人として申請する」ことが要件であり、義務者から直接の委任を受けていない復代理人による申請は認められない。
三者間契約(三為取引)における委任状の取扱いは?
中間者(第三者のためにする契約の売主等)も登記義務者に準じた作成名義人となるため、中間者からも「特別の委任」を受ける必要がある。
ただし、中間者は「不動産登記法上の登記義務者」ではないため、法理上、中間者からの委任状を法務局へ提出する必要はない(質疑事項集 問8)。
本人確認情報(不登法23条4項)との関係を整理してください。
本人確認情報と特別委任方式の登記原因証明情報は、法的性質が全く異なるため、一体化や兼用はできない。
- 理由:本人確認情報は「本人の同一性」を確認する情報であり、「登記義務者が登記原因を自認する性質のものではない」ためである(質疑事項集 問13)。
- ただし、両者を別個の情報として作成し、併用することは可能である。
7. 実務チェックリスト(まとめ)
本方式を利用する際は、以下の要件をすべて満たしているか最終確認すること。
- 司法書士等が代理人として電子申請(特例方式を含む)すること
-
登記の目的が次のいずれかであること
① 売買または贈与を登記原因とする所有権(共有持分を含む)の移転の登記 ② 抵当権(根抵当権を含む)の設定または抹消の登記 - 司法書士等が、登記義務者から、登記原因証明情報の作成名義人となることについて具体的な内容まで含めた特別の委任を受け、その旨が委任情報に記録されていること
- 司法書士等が、委任に基づいて自らが確認した登記原因となる事実等を記録した登記原因証明情報を電磁的記録で作成し、電子署名をしていること
- 確認方法が、契約の締結や金銭の授受の現認、登記義務者からの聴取その他の相当と認められる方法であること
- 登記原因証明情報を作成した司法書士等が、代理人としてその登記原因に基づく登記を申請し、その添付情報として当該登記原因証明情報を提供していること
- 申請情報の添付情報欄に「登記原因証明情報(特別委任方式)」と記録されていること
- 登録免許税が電子納付の方式により納付されていること(電子納付金額の上限超過等、納付できない正当な理由がある場合を除く)
- 法務省民二第1578号(令和7年12月9日付・依命通知)
- 法務省民二第1579号(令和7年12月9日付・補佐官通知)
- 日本司法書士会連合会策定・実務指針(QIII各項)
- 不動産登記法第17条(代理権の不消滅)、第23条第4項(本人確認情報)
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