第67回 生前贈与の「7年ルール」、結局どう変わったのか。つくばの司法書士が整理してみました

「年間110万円までなら贈与税がかからない」

生前対策のご相談にいらっしゃる方の多くが、この話をご存じです。ただ、2024年1月から生前贈与の持ち戻しルールが変わったことまで正確に把握されている方は、実はそれほど多くありません。「7年ルールって聞いたけど、うちはどうなるの?」というご質問を、最近よくいただきます。

つくば市で司法書士をしている時任です。今回は、この「7年ルール」について、できるだけ専門用語を使わずに整理してみようと思います。すでに動き出している方も、これから考える方も、まずは現状を正しく知ることから始めましょう。

生前贈与が相続対策になる理由

生前贈与とは、生きているうちに財産を家族に渡しておくことです。相続税は亡くなった時点の財産総額にかかりますから、生前に少しずつ財産を減らしておけば、その分相続税の負担も軽くなります。

贈与税には年間110万円の基礎控除があり、この範囲内なら贈与税はかかりません。これを毎年コツコツ続けるのが「暦年贈与」で、生前対策としてはもっとも基本的な方法です。ここは今回の改正でも変わっていません。

2024年の改正で変わったのは「持ち戻し期間」

今回の改正の本題はここです。亡くなる前の一定期間に行った贈与は、相続財産に「持ち戻して」相続税を計算するというルールがあり、この期間が3年から7年に延びました。

「せっかく生前贈与したのに、結局相続財産に足し戻されるなら意味がないのでは」と思われるかもしれませんが、これは「亡くなる直前に慌てて贈与して相続税を逃れる」ことを防ぐための仕組みです。裏を返せば、7年より前の贈与であれば、これまで通り相続財産に加算されません。だからこそ「早く始めるほど有利」なのです。

実際にはいつから7年になるのか

ここが誤解されやすいところなのですが、2024年1月1日にいきなり7年ルールがフル適用されたわけではありません。対象となるのは2024年1月1日以降に行われた贈与のみで、そこから段階的に持ち戻し期間が延びていきます。

相続が発生した時期持ち戻し期間
2024年1月1日〜
2026年12月31日
従来通り3年
2027年1月1日〜
2030年12月31日
2024年1月1日から死亡日までが対象
(3年〜7年弱)
2031年1月1日以降完全に7年間が対象

たとえば2027年7月に相続が発生した場合、対象となるのは2024年1月1日からの約3年6か月分の贈与です。2018年や2019年の贈与まで遡って持ち戻されるわけではありません。完全に7年分が持ち戻し対象になるのは、2031年以降に発生する相続からです。

つまり、今(2026年)の時点で亡くなった場合の持ち戻し期間は、実はまだ3年のままです。

ただし、これから先は年を追うごとに対象期間が広がっていきますので、「まだ3年だから」と先延ばしにする理由にはなりません。むしろ、この移行期間のうちに贈与を始めておくほど、7年を超えて非課税になる部分を増やせるということでもあります。

110万円の基礎控除自体はなくなっていません

誤解されがちなのですが、年間110万円までの基礎控除そのものは廃止されていません。

  • 年間110万円以下の贈与には贈与税がかからない
  • 申告も不要
  • 贈与自体はこれまで通りできる

変わったのは、相続が発生したときに「何年前までの贈与を相続財産に足し戻すか」という部分だけです。贈与のやり方が変わったわけではなく、後から見返される期間が長くなった、と理解していただくのが一番わかりやすいと思います。

延長された4年分には100万円の控除がある

持ち戻し期間が延びた分、税負担が急に重くなりすぎないよう、緩和措置も用意されています。延長された4年間(相続開始前3年超〜7年以内)に受けた贈与については、その期間の合計から100万円まで控除できます。「毎年100万円」ではなく、4年分まとめて100万円という点にご注意ください。

例:2031年に相続が発生し、亡くなる7年前から毎年100万円ずつ贈与を受けていた場合
直近3年分(合計300万円)全額を加算
それより前の4年分(合計400万円)100万円控除
→ 300万円を加算
加算額の合計600万円

このように、延長された期間の分だけ、多少の緩和が効く設計になっています。

孫への贈与は、原則として持ち戻しの対象外

これは知っておいていただきたいポイントです。7年ルールの持ち戻し対象になるのは、「相続または遺贈により財産を取得する人」です。通常、孫は相続人ではないため、孫への贈与は持ち戻しの対象になりません。

⚠ ただし、次のケースでは孫も対象になります
  • 遺言で孫に財産を遺贈する場合
  • 孫が代襲相続人になる場合(親であるあなたのお子様が先に亡くなっている場合)
  • 孫を養子にしている場合

この仕組みを踏まえると、お子様だけでなくお孫様への贈与も選択肢に入れることで、持ち戻しの影響を受けにくい形で財産を渡していくことができます。

相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が新設された

暦年贈与と並んで選択肢になるのが「相続時精算課税制度」です。60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税がかからず、贈与財産は相続時に相続財産へ加算して精算する制度です。

2024年1月から、この制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の部分については、

  • 贈与税がかからない
  • 相続時にも加算されない
  • 申告も不要

となり、暦年贈与の基礎控除とは別枠で使えます。将来値上がりが見込まれる財産(自社株や収益不動産など)は相続時精算課税で早めに評価額を固定し、それ以外の財産は暦年贈与で少しずつ、という組み合わせ方がよく使われます。どちらが有利かは財産の種類や家族構成によって変わりますので、迷ったらご相談ください。

世代別に、今できることを整理してみます

制度の話だけでは実感が湧きにくいと思いますので、世代ごとに今から取り組めることを挙げてみます。

40代の方(ご両親の相続対策をサポートする世代)
  • ご両親と、相続について話す機会を持つ
  • ご両親からお子様(お孫様)への贈与を検討する
  • ご両親が認知症になる前に、家族信託の活用を検討する
  • 2024年4月から義務化された相続登記について、未登記の不動産がないか確認する
50代〜60代の方(親御さんとご自身、両方の相続を考える世代)
  • 7年ルールを意識して、早めに生前贈与を始める
  • 遺言書を作成する(公正証書遺言がおすすめです)
  • 家族信託を検討する
  • 使っていない不動産の整理・売却を検討する
  • 生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を活用する
70代の方(具体的な対策を実行していく世代)
  • 遺言書の作成・見直し
  • 相続時精算課税制度の活用を検討する
  • 家族信託による財産管理を検討する
  • 任意後見契約を検討する

⚠ なお、以前は孫への教育資金の一括贈与(最大1,500万円まで非課税)も生前対策の定番としてご案内していましたが、この制度は令和8年(2026年)3月末で新規の拠出ができなくなりました。すでに拠出済みの資金は引き続き非課税で使えますが、これから新たに始めることはできませんので、ご注意ください。

生前贈与だけで終わらせないことが大切です

相続対策は、生前贈与だけで完結するものではありません。私たちが「点ではなく設計図で考える」とお伝えしているのはこのためで、いくつかの対策を組み合わせて初めて、ご家族にとって無理のない形になります。

家族信託

認知症になると、ご本人の預金や不動産が実質的に動かせなくなってしまいます。家族信託を組んでおけば、判断能力が低下した後も、信頼できるご家族が財産を管理・活用できます。

遺言書

遺言があれば、ご自身の意思通りに財産を分けられ、残されたご家族の間でのトラブルも防ぎやすくなります。2025年10月からは公正証書遺言の作成手続きがデジタル化され、要件を満たせばご自宅からオンラインで作成できる「リモート方式」も利用できるようになりました。ただし、本人確認や意思確認の重要性は変わらず、すべてのケースでリモート方式が使えるわけではありません。

生命保険

死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。相続税対策として使い勝手のよい方法です。

不動産の整理

使っていない不動産は、生前に売却する、共有状態を解消しておくなど、早めに手を打っておくことでご家族の負担を減らせます。

よくいただくご質問

Q

今から生前贈与を始めても意味はありますか?

A

十分意味があります。持ち戻し期間は「亡くなる前の一定期間」ですから、早く始めれば始めるほど、その期間を超えた贈与は相続財産に加算されません。今(2026年時点)であれば、持ち戻し期間はまだ実質3年ですので、動き出すなら早いに越したことはありません。

Q

孫への贈与は本当に持ち戻されないのですか?

A

原則としてその通りです。ただし、遺言で孫に財産を遺贈する場合や、孫が代襲相続人になる場合などは対象になりますので、個別に確認することをおすすめします。

Q

贈与の証拠は残しておくべきですか?

A

必ず残してください。贈与契約書を作成し、現金の手渡しではなく銀行振込で記録を残すことが重要です。手渡しの現金贈与は、税務署に「名義預金(実質的には本人の預金)」と判断されるリスクがあります。

Q

相続時精算課税制度と暦年贈与、どちらがいいですか?

A

ご家族の状況によって異なります。将来値上がりが見込まれる財産は相続時精算課税、そうでない財産は暦年贈与が有利になりやすい傾向はありますが、一概には言えません。財産の内容や家族構成をお伺いした上で、一緒に考えさせてください。

おわりに

2024年の改正で持ち戻し期間は7年に延びましたが、これは「生前贈与に意味がなくなった」ということでは決してありません。むしろ、今のうちから動き始めれば、その分だけ非課税になる財産を増やせるということでもあります。

この記事のポイント
  • 110万円の基礎控除は今も有効
  • 実質的な持ち戻し期間が7年に近づいていくのはこれから
  • 孫への贈与は原則として持ち戻しの対象外
  • 相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が新設された
  • 生前贈与に加えて、家族信託や遺言など他の対策も組み合わせることが大切

ご家族の財産状況やお考えによって、最適な組み合わせ方は一つひとつ違います。「そろそろ考えないと」と思われた今が、ちょうどよいタイミングです。

私たち司法書士事務所TOKITOは、難しい言葉を使わず、ご家族に合った形をご一緒に考えることを大切にしています。まずはお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料でお受けしています。

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この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。実際の相続税・贈与税の計算や申告については、税理士など専門家への確認もあわせてお願いいたします。