2026年8月13日から14日にかけて、千葉県を記録的な豪雨が襲いました。被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

こんにちは、司法書士事務所TOKITOの時任です。冠水した道路に何百台もの車が取り残された映像を、ご覧になった方も多いと思います。報道を見ながら私が思ったのは、「あの中には、まだローンが残っている車も相当あるだろう」ということでした。

車が使えなくなっても、ローンは消えません。では、そのローンを抱えたご本人が亡くなったら、残りの支払いは誰がするのか。今回は災害をきっかけに、「車のローンと相続」について、司法書士の立場からお話しします。

路上に残された車、約2,700台

📊 令和8年8月千葉豪雨をめぐる数字

・道路上に残された車両:約2,700台(県・千葉市への取材にもとづく報道)
・JAFが受け付けた冠水関連の救援要請:3,871件(8月16日までの受付分・速報値)
・車両保険の加入率:全国47.4%/千葉県50.5%/茨城県43.9%(2025年3月末時点)

まず押さえておきたいのが、車両保険は任意加入だということです。すべての車に加入が義務づけられている自賠責保険は、人身事故の被害者を救済するための保険ですから、ご自分の車が水につかっても補償されません。車両保険に入っていなければ、修理費も買い替え費用も自己負担が原則になります。

そして目を引くのが、茨城県の加入率が43.9%と、全国平均を下回っていることです。つくば市のように車が生活の足になっている地域で、半数以上が未加入。これは決して他人事の数字ではないと感じます。

その車、本当に「あなたのもの」ですか

近年よく耳にするのが「残クレ」、正式には残価設定型クレジットです。数年後の下取り価格をあらかじめ「残価」として据え置き、その差額を分割で払う仕組みで、月々の負担を抑えられるのが特徴です。日本自動車工業会の「2025年度 乗用車市場動向調査」によれば、新車購入者のうち残価設定・据置型ローンを利用した人は1割台半ば。新車の平均購入価格は331万円だそうです。

ここで、ぜひ一度ご自宅の車検証(自動車検査証)の「所有者」欄を見てみてください。残クレやディーラーローンの場合、この欄がご自分の名前ではなく、信販会社や販売店の名前になっていることが少なくありません。

これを所有権留保といいます。ローンを完済するまで、車の所有権は信販会社等に残したままにしておく、という約束です。つまり乗っている方は法律上「使用者」であって、所有者ではない。この一点が、後々の手続きに大きく効いてきます。

ここからが本題――契約者が亡くなったら、残債は誰が払うのか

相続というと、預貯金や不動産といったプラスの財産を思い浮かべる方が多いのですが、民法896条は「一切の権利義務を承継する」と定めています。借金などのマイナスの財産も、当然に引き継ぐということです。車のローンも例外ではありません。

しかも、ここには相談の現場でよく誤解される点が3つあります。

1
「長男が全部払う」と家族で決めても、それだけでは足りない
金銭債務は、遺産分割協議を待たず、相続開始と同時に法定相続分どおりに分かれて各相続人に承継されます。相続人同士の取り決めは有効ですが、それを信販会社(債権者)に対して主張することはできません。債権者の承諾がなければ、ほかのご兄弟にも請求が及ぶ可能性があります。
2
車がなくなっても、債務は残る
水没して廃車になった車でも、残債務そのものは相続の対象です。「乗れない車のローン」と「新しく買う車のローン」を同時に抱える、という事態も起こり得ます。
3
所有権留保がついていると、車を動かせない
車検証の所有者が信販会社のままでは、相続人への名義変更も、売却も、廃車手続きも進みません。完済して所有権解除を受けるのが先になります。全損や盗難の場合に一括返済を求める契約もありますので、まずは契約書の確認と、販売店・信販会社への問い合わせが出発点です。

相続放棄を考えるなら、「3か月」と「うっかり」に注意

明らかに債務のほうが多い、というときには相続放棄という選択肢があります。放棄が認められれば、はじめから相続人でなかったものとみなされ、残クレの残債も引き継ぎません。

ただし期限があります。自分のために相続が開始したことを知った時から3か月(民法915条)。この間に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。そして、この3か月のあいだにやってはいけないことがあります。

⚠ 放棄を検討中の「やってはいけない」

・車を売却したり、廃車手続きをしたりする

・車の名義を相続人に変更する

・故人の預貯金を引き出して使ってしまう

これらは「相続財産の処分」にあたり、単純承認したものとみなされるおそれがあります(民法921条1号)。いったんそうみなされると、あとから放棄することはできません。

「3か月では財産の全体像がつかめない」という場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。過去には東日本大震災の際、特例法によって熟慮期間が延長された例もありました。被災された状況では、まず期限を延ばす手立てがないかを検討するのが定石です。

見落とされがちな「車両保険金」の扱い

もう一つ、意外と知られていないのが保険金の扱いです。

生命保険金は、受取人が指定されていれば受取人固有の財産となり、相続放棄をしても受け取れるのが原則です。ところが車両保険は、車という「物」の損害を補償する保険ですから、支払われる保険金は相続財産に含まれます

つまり、相続放棄を検討している段階で車両保険金を受け取って使ってしまうと、これも単純承認とみなされるおそれがあるということです。同じ「保険金」でも扱いがまったく違いますので、手続きの順番を間違えないようにしてください。

災害は、隠れていた「名義」の問題をあぶり出す

災害が起きると、ふだんは見えていなかった名義の問題が、一気に表面化します。車もそうですが、より深刻なのは不動産です。

被災した実家の名義が、何年も前に亡くなったお父さまのままになっている。この状態では、解体も売却も、思うように進みません。相続登記は2024年4月から義務化され、「相続を知った日から3年以内」という期限も設けられました。

そしてこういう場面では、相続人同士で意見が割れることがあります。「修理して残したい」「もう売ってしまいたい」「そんなお金は出せない」——。本格的な争いにまで至れば弁護士の領域ですが、その手前で意見をすり合わせ、必要な調査をして、手続きの形に落とし込むところは、私たち司法書士がお手伝いできる部分です。連絡が取れない相続人がいる、長年疎遠で今さら自分からは話しかけにくい――そうしたご相談も、これまで数多くお受けしてきました。

まとめ:今日、車検証を1枚見てみてください

災害がいつ来るかは、誰にも分かりません。それでも、今日のうちにできる備えはあります。

✓ 車検証の「所有者」欄を確認する(信販会社の名前になっていないか)

✓ 車両保険に入っているか、補償の範囲はどこまでかを確認する

✓ ローンの契約書の保管場所を、家族が分かるようにしておく

✓ 誰が、どこと、どんな契約を抱えているかを家族で共有しておく

とくに最後の一つが大切です。ご本人が亡くなったあと、残されたご家族が「どこの会社と、いくらの契約をしていたのか分からない」という状態から始めるのは、本当に骨が折れます。逆に言えば、紙一枚の情報共有が、ご家族の負担を大きく減らします。

つくば市を中心に21年間、2,000件を超えるご相談をお受けしてきました。「これは相続に関係あるのだろうか」という段階のご相談で結構です。どうぞお気軽にお声がけください。

相続・生前対策のご相談は
つくば市の司法書士事務所TOKITOへ

遺言・家族信託から相続登記まで、経験豊富な司法書士がサポートします。初回相談は無料です。

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受付時間:8:30〜18:00(月〜金)

【参考】損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版(2025年3月末時点)/日本自動車工業会「2025年度 乗用車市場動向調査」/令和8年8月千葉豪雨に関する各報道(放置車両台数・JAF救援要請件数)

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