第73回 デジタル遺言が成立しました。でも、今日から使えるわけではありません

デジタル遺言が成立しました。でも、今日から使えるわけではありません

この記事の要点

  • 「デジタル遺言」の正式名称は保管証書遺言。2026年6月に法律は成立しています
  • ただし施行日はまだ決まっておらず、最長で2029年6月24日までのどこかです
  • 一方、公正証書遺言の手続きのデジタル化は2025年10月にすでに始まっています

「スマホで遺言が作れるようになるそうですね」

この夏、ご相談の途中でこの話題が出ることが何度かありました。ニュースをご覧になった方が多いようです。おっしゃるとおり、今年の6月に法律が成立しています。報道の内容そのものは間違っていません。

気になっているのは、そのあとに続く言葉のほうです。

「じゃあ、それができてから遺言を作ろうかな」

今回はこの一言について書きます。改正そのものは良い方向へ進んでいると思っています。手書きが負担だという声に応える内容ですし、私も歓迎しています。ただ、「それができてから」というのが、いつのことなのか。今日はそこを確かめていこうと思います。

1.何が決まったのか

令和8年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。報道で「デジタル遺言」と呼ばれているものの正式な名前は、保管証書遺言といいます。

法務省が公表している資料によると、おおよそ次のような制度です。

  • パソコンなどを使って遺言を作成できる(手書きでなくてよい)
  • 署名、またはそれに代わる措置(電子署名が想定されています)が必要
  • 作成したデータ、またはそれを印刷したものを法務局に提供して、保管を申請する
  • 保管の申請はオンラインでもできる
  • 遺言書保管官が相当と認めるときは、ウェブ会議を利用した手続きもできる
  • 遺言者本人が、遺言の全文を口述する
  • 法務局が保管するので、紛失や改ざんを防げる
  • 相続が始まったあと、家庭裁判所の検認は不要

あわせて、遺言書への押印も任意になります。自筆証書遺言、秘密証書遺言、特別の方式の遺言、いずれも押印が要件から外れます。加除訂正のときの押印も同じです。

ここまでは、報道されているとおりです。

「スマホで書いて終わり」ではありません

法務局への保管の申請が必要で、しかも遺言者ご本人が遺言の全文を口述することが要件になっています。言い換えると、文章を作る部分が楽になる制度であって、手続きが消えてなくなるわけではない、ということです。

2.ただ、いつから使えるかは、まだ決まっていません

ここが今回の本題です。

この法律は「公布の日から○年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」という形をとっています。そして、改正の中身によって、その期限が違います。

改正の内容 施行の期限
押印の任意化、証人の欠格事由の見直しなど 公布から1年以内
2027年6月24日まで
成年後見制度の見直し 公布から2年6月以内
2028年12月24日まで
保管証書遺言の創設など 公布から3年以内
2029年6月24日まで

保管証書遺言は③です。法務局のシステム改修が必要なので、一番あとのグループに入っています。

そしてもうひとつ、見落とされやすい点があります。これは「2029年6月24日から始まる」という意味ではありません。「2029年6月24日までのどこかで、政令が定めた日から始まる」という意味です。その政令は、まだ出ていません。

つまり今の時点では、開始日そのものが存在していないのです。2年後かもしれませんし、3年近くかかるかもしれません。「いつから使えますよ」と申し上げられる人は、現時点ではどこにもいません。

3.その数年のあいだに、何が起きるか

開始日が決まっていないということは、「待つ」というのは、終わりの見えないまま待つということでもあります。その数年をどう考えるか。ここで、遺言について最も大切なことを申し上げます。

遺言は、いつまでも作れる訳ではありません。

遺言をするには遺言能力が必要です(民法963条)。判断能力が十分でなくなってからでは、自筆証書遺言も、公正証書遺言も、そして保管証書遺言も、同じように作れません。新しい制度ができても、この前提は変わりません。

この仕事を21年続けてきて、いちばん申し訳ない気持ちになるのは、「もう半年早ければ」というご相談です。ご本人は元気なつもりでいらした。ご家族も、まだ先の話だと思っていらした。そして、あるとき急に、選択肢が減ってしまう。

しかもこの話は、ご家族の側から切り出すのが難しいのです。「遺言を書いておいて」とは言いにくい。財産を狙っていると思われたくない。そうやってお互いに遠慮しているうちに、時間だけが過ぎていきます。私が普段お受けしているご相談も、実際にはこの「切り出しにくさ」をどう扱うかという話が多くを占めています。

制度の施行日は政令で決まります。ご本人の状態は、政令とは関係なく変わります。確実にタイムリミットがあります。

4.デジタル化なら、もう使えるものがあります

「待とうかな」という気持ちの多くは、実は「今の手続きが面倒そうだ」というところから来ているように感じます。そこで、すでに始まっているものを整理しておきます。

(1)公正証書遺言の手続きは、2025年10月1日にデジタル化されています

令和5年の公証人法の改正により、公正証書に関する一連の手続きが、2025年10月1日からデジタル化されました。

  • 公証役場に出向かなくても、オンラインで嘱託(申込み)ができる
  • 条件を満たせば、ウェブ会議を利用したリモート方式で作成できる
  • 公正証書は原則として電子データで作成・保存される
  • 嘱託人は電子サインのみで、押印は不要
  • 正本や謄本は、紙でも電子データでも受け取れる

「公証役場まで行くのが大変だから」という理由で先送りにしていた方にとっては、事情がもう変わっています。

ただし、ウェブ会議が使えるのは、ご本人の希望があり、かつ公証人が相当と認めた場合に限られます。希望すれば必ず、というものではありません。また、この取扱いができるのは指定を受けた公証人の役場に限られますので、実際に進めるときは事前の確認が要ります。

(2)自筆証書遺言書保管制度でも、試行が広がっています

法務局が自筆の遺言書を預かる制度についても、令和8年2月2日から、保管申請の提出書類を電子メールで事前にチェックしてもらえる取扱いが、39都道府県・68の遺言書保管所に拡大されました。書類の写しを先に送っておけば、当日の手続きがスムーズになります。

ただし、保管の申請そのものは、今も遺言者ご本人が法務局に行く必要があります。ここは変わっていません。「オンラインで完結する」と誤解されると当日に困りますので、念のため申し添えます。

(3)民間の「デジタル遺言サービス」には、法的な効力はありません

スマートフォンのアプリやクラウドサービスで「デジタル遺言」をうたうものがありますが、現行法のもとでは、これらに遺言としての効力はありません。改正法が施行されても、法務局に保管を申請していないデータは保管証書遺言にはなりません。

ご自身の考えを整理しておくエンディングノートとしては、とても良いものだと思います。ただ、財産の行き先を法的に決めるものではない、という点は分けて考えていただければと思います。

5.「今作ったら、無駄になりませんか」

ご相談の場でよくいただく質問です。結論から申し上げると、無駄にはなりません。

遺言は、いつでも撤回できます(民法1022条)。前の遺言と内容が食い違う部分は、あとの遺言で撤回したものとみなされます(民法1023条)。つまり、あとから作り直すことが前提として認められている制度なのです。

ですから、こう考えていただくのが現実的だと思います。

  • 今は、自筆証書遺言書保管制度か公正証書遺言で作っておく
  • 保管証書遺言が始まって、そちらのほうが使いやすければ、そのときに作り直す
  • 作り直すまでの数年間は、今の遺言が効力を持ち続ける

この「作り直すまでの数年間」こそが、待つか作るかの差そのものです。何も起きなければ、作り直す手間が一度増えるだけです。何かが起きたときには、遺言があるかないかで、ご家族の手続きがまったく違うものになります。

なお、自筆証書遺言書保管制度の手数料は1件3,900円です。公正証書遺言は財産の額に応じた手数料がかかります。作り直しを前提にするなら、まず前者から、という選択も十分にあり得ます。

6.施設や法人への遺贈をお考えの方へ

最後に、報道ではあまり触れられていない改正をひとつ。一部の方には、これが今回いちばん実務に響くかもしれません。

遺言の証人になれない人の範囲が広がります。

今の民法では、受遺者(遺贈を受ける人)とその配偶者・直系血族は証人になれません。改正後は、ここに受遺者の被用者が加わります。受遺者が法人の場合は、その法人の被用者と役員も証人になれなくなります。

背景には、おひとりで暮らす高齢の方が増え、入所している施設などへ遺贈をされる例が出てきている、という事情があります。そのときに施設の職員の方が証人に入っていると、遺言が本当にご本人の意思なのか、あとから疑いを持たれかねません。

つくばでも、長くお世話になった施設や法人へ財産の一部を、というご相談はあります。心のこもったご判断だと思いますし、私はそうしたご希望をきちんと形にしたいと考えています。だからこそ、証人をどなたにお願いするかは、今後より慎重に考える必要があります。

この部分は、法務省の資料では公布から1年以内の施行とされているグループに入っています。保管証書遺言よりずっと早く、2027年6月24日までには動き出す見込みです。

おわりに

今回の改正は、遺言をもっと使いやすくしようという方向のものです。手書きの負担が減り、押印がなくなり、法務局に行かなくても手続きができるようになる。良い改正だと思います。

ただ、制度が整うのを待っている間も、ご本人とご家族の時間は進みます。

「デジタル遺言が始まったら考えよう」というのは、ご自身の予定を制度の施行日に合わせる、ということです。本来は逆で、ご自身とご家族の状況に合わせて、そのときに使える方法で備えておく。制度が良くなったら、そのときに乗り換える。そういう順番のほうが、無理がないように思います。

新しい制度が始まったら、このブログでもあらためてご案内します。それまでの間、今できることを一緒に考えさせてください。

公正証書遺言は、当事務所を窓口にして進められます

ここまで読んで、「では公正証書遺言のほうを作っておこうか」と思われた方に、ひとつご案内です。

公正証書遺言は、ご自身で文案を考えて公証役場に持ち込んでいただく必要はありません。当事務所を窓口として、作成までひととおりお手伝いできます。

まず司法書士がお話をうかがいます。ご家族の構成、財産の内容、これまでの経緯、そして「誰に何を、どうして遺したいのか」。そのうえで、そのご家族に合った文案をこちらで作成します。公証役場との日程調整、必要書類のご案内、当日の立ち会いまで、一連の流れをお任せいただけます。

お引き受けできること

  • ご家族の状況をうかがったうえでの、オーダーメイドの文案作成
  • 公証役場との打ち合わせ・日程調整
  • 戸籍謄本など必要書類の取り寄せ
  • 作成当日の立ち会い

ご本人にしていただくのは、お話しいただくことと、できあがった文案をご確認いただくことです。

遺言は、書き方によって、遺したい形にならないことがあります。不動産の表示が正確でないために登記が通らない。遺言執行者を定めていなかったために、手続きのたびに相続人全員の協力が必要になる。こうしたことは実際に起こります。文案を作るという仕事は、そのあとの登記や名義変更まで見ている司法書士の領分と、かなり近いところにあります。

どう書けばいいかわからない、という段階でかまいません。むしろ、その段階からご一緒するほうが、良いものになります。

相続・遺言・家族信託のご相談は、司法書士事務所TOKITOへ

つくば市を中心に、キャリア21年・2,000件を超えるご相談に向き合ってきました。ご相談の約6割が、生前対策・家族信託に関するものです。

「何から始めればいいかわからない」

「家族に切り出しにくい」

「相続人同士が疎遠で、連絡を取りづらい」

そうした、まだ形になっていない段階のご相談こそ歓迎しています。揉めてしまう前に、整えておく。それが私たちの仕事です。

司法書士事務所TOKITO 代表司法書士 時任 裕

茨城県つくば市谷田部2980

TEL:〔電話番号〕029-875-5991

受付:〔受付時間〕月~金8:30-18:00 土日祝日定休日

参考にした資料

  • 法務省「民法等の一部を改正する法律案」(令和8年法律第45号)
  • 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」概要資料
  • 法務省「預けて安心!自筆証書遺言書保管制度」
  • 日本公証人連合会「公正証書の作成手続がデジタル化されます!」

第72回 「一度始めたらやめられない」後見は終わります

 「一度始めたらやめられない」後見は終わります

「父の預金が下ろせなくなった」「母名義の実家を売りたいのに、話ができない」

相続のご相談をお受けしていると、こうしたお話を伺うことがあります。解決の手段として案内されるのが成年後見制度なのですが、説明を進めると、多くの方が同じところで手を止めます。「一度始めたら、亡くなるまでやめられないんですよね?」と。

その仕組みが、2026年6月の法改正で変わりました。ただ、この改正には「まだ使えない」という大きな注意点があります。今回はそこを中心にお話しします。

1. 2026年6月、成年後見制度の改正法が成立しました

令和8年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が参議院本会議で可決・成立し、同月24日に公布されました。あわせて関係法律の整備法(令和8年法律第46号)も成立しています。

成年後見制度は2000年に始まった制度です。介護保険と同じ年のスタートでした。私がこの仕事を始めたのはその5年後ですので、司法書士としてのキャリアのほぼ全期間、この制度と付き合ってきたことになります。四半世紀を経て、はじめての抜本的な改正です。

法務省は改正の背景として、高齢化の進展や単独世帯の増加といった家族のあり方の変化により、成年後見制度・遺言制度へのニーズが増加し、多様化していることを挙げています。

2. これまでの成年後見制度は、なぜ「使いにくい」と言われてきたのか

現行の制度は、ご本人の判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。もっとも判断能力が低下している方が「後見」で、選ばれた成年後見人が包括的な代理権と取消権を持ちます。

ここに、二つの難点がありました。

ひとつは、必要のない範囲まで任せることになる点です。たとえば「遺産分割協議をするため」という理由で後見を申し立てたとします。ところが後見が始まると、遺産分割だけでなく、日々の預金の出し入れから契約ごとまで、財産に関わることが広く後見人の権限に入ります。法務省の資料でも、利用の動機と比べて自己決定が必要以上に制限される、という点が課題として明記されています。

もうひとつは、やめられない点です。現行法では、判断能力が回復しない限り制度の利用を終えることができません。実家の売却が終わっても、遺産分割が済んでも、後見は続きます。当然、後見人への報酬もご本人の財産から支払われ続けます。

最高裁判所が公表している「成年後見関係事件の概況」によれば、令和7年12月末時点の利用者数は259,901人です。認知症の方の数を考えれば、決して多い数字ではありません。制度が知られていないというより、知ったうえで「それなら使わない」と判断されてきた面があると、私は受け止めています。

3. 何がどう変わるのか

今回の改正で、制度の骨格が次のように変わります。

項目 改正後の内容
① 3類型の一元化 「後見」と「保佐」を廃止し、「補助」に一元化します。特定の行為について個別に権限を付与する仕組みが基本になります。
② 必要な範囲だけ たとえば遺産分割の代理権だけを補助人に与える、といった設計が可能になります。権限を付与するには、原則としてご本人の同意が必要です。
③ 終了できるように 判断能力が回復していない場合でも、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立てまたは職権によって終了できます。
④ 交代しやすく 解任事由に「本人の利益のために特に必要があるとき」が加わります。横領などの不正がなくても、たとえば補助人がご本人と面談しないといった場合に交代を求められます。
⑤ 本人の意見を最優先に 家庭裁判所が補助人を選ぶ際に考慮すべき要素の冒頭に「本人の意見」が置かれます。補助人にはご本人の意向を把握する義務も明文化されました。
⑥ 任意後見も柔軟に 家庭裁判所が明らかに監督の必要がないと認めるときは、任意後見監督人を選任せず、家庭裁判所が直接監督することが可能になります。

あわせて遺言制度も見直されました。押印が任意になるほか、パソコン等で作成した遺言のデータを法務局に提供し、法務局が保管する「保管証書遺言」が新設されます。こちらは別の回で改めて取り上げます。

4. 「では、改正を待てばいいのでは?」──ここが今回いちばんお伝えしたいところです

ニュースをご覧になった方から、すでに何度か同じ質問をいただいています。「新しい制度のほうが良さそうだから、それまで待ちます」。

お気持ちはよく分かります。ただ、ここで施行日を確認していただきたいのです。

成年後見制度の見直しに関する部分の施行日は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされています。公布日が令和8年6月24日ですから、遅くとも令和10年(2028年)12月24日までに施行される、ということになります。政令で定める日ですので、それより早まる可能性はありますが、家庭裁判所のシステム改修や運用ルールの整備が必要ですから、相応の準備期間がかかると見ておくべきでしょう。

つまり、これから2年ほどは、これまでどおりの制度が動き続けます。今日申し立てをすれば、今日の制度が適用されます。「後見・保佐は廃止された」という報道の見出しだけを見て、もう変わったと思い込んでしまうと、判断を誤ります。

なお、改正法には経過措置が置かれています。施行日の時点ですでに後見や保佐を利用している方は、基本的に現行法の内容のまま利用を継続できます。新制度に移りたい場合は、改正後の補助の制度について申立てをすることになり、その際に現在の後見・保佐開始の審判は取り消されます。利用そのものを終えたい場合の申立ての道も用意されています。

5. 待てるご家族と、待てないご家族

ここが分かれ道です。判断の軸は「改正がいつか」ではなく、ご本人の判断能力が今どの状態かです。

すでに判断能力が低下している場合

  • 入院費や施設費の支払いのために預金を動かす必要があるなら、待つという選択肢はありません。
  • 相続が発生していて、相続人の中に判断能力が低下した方がいる場合、遺産分割協議はその方を抜きに進められません。
  • この段階では、任意後見契約も家族信託も締結できません。契約には判断能力が必要だからです。

まだお元気な場合

  • 選択肢が最も広い状態です。任意後見、家族信託、遺言を組み合わせて設計できます。
  • 「まだ大丈夫」と思っているうちが、実は唯一の準備期間です。

最高裁の統計で、申立ての動機を見ると特徴がはっきり出ています。もっとも多いのが預貯金等の管理・解約で全体の約93.4%、次いで身上保護が約74.2%、不動産の処分が約36.3%、相続手続が約25.6%です(令和7年、複数計上)。どれも「もう動かなければならなくなってから」の動機です。備えとして申し立てる方は、ほとんどいらっしゃいません。

茨城県のデータも見ておきます。水戸家庭裁判所管内の集計は578件で、そのうち市区町村長による申立てが176件、約30.4%を占めています。全国平均は約23.7%ですから、これを上回る水準です。ご親族が申立てをできない、あるいは申立てをする方が身近にいない、という事情を抱えたケースが、この地域では相対的に多いことがうかがえます。

6. お元気なうちだからできる備え

改正を待つのではなく、今できることを整理しておきます。

任意後見契約は、判断能力があるうちに「将来こうなったら、この人に、この範囲で任せる」と自分で決めておく契約です。家庭裁判所が選ぶのではなく、ご自身で相手と内容を決められる点が最大の違いです。今回の改正では、家庭裁判所が明らかに監督の必要がないと認めるときは任意後見監督人を選任せず家庭裁判所が直接監督できる仕組みや、ご本人が公正証書で指定した方も契約を発効させる申立てをできる仕組みが設けられました。使いやすくする方向の見直しです。

ただ、任意後見の利用者数は令和7年12月末時点で2,833人にとどまっています。全体の259,901人と比べると、ごくわずかです。国会の附帯決議でも、任意後見制度の利用が低調である要因の把握と分析、利用促進が求められました。裏を返せば、備えとして先に手を打っている方はまだ少ない、ということでもあります。

家族信託は、財産の管理や承継の方法を契約で設計しておく仕組みです。家庭裁判所の関与なく、ご家族の判断で不動産の管理や売却を進められる点が実務上の利点です。参議院法務委員会の附帯決議でも、成年後見制度の利用前または利用と同時に備えることのできる将来設計として、福祉型信託の環境整備を進めることが挙げられています。

遺言は、遺す側の意思をはっきりさせておく方法です。相続人が集まって話し合う必要そのものを減らせます。

どれかひとつが正解ということはありません。ご家族の構成、財産の中身、そしてご本人の希望によって、組み合わせ方は変わります。

7. 相続が始まってから気づく方が、いちばん多いのが実情です

私どもにご相談をいただくきっかけで多いのが、相続手続きが途中で止まってしまったというものです。

よくあるのは、こういう流れです。父が亡くなり、相続人は母と子ども2人。実家の名義変更をしようと手続きを進めたところ、母の判断能力が低下していて遺産分割協議ができないと分かる。金融機関でも同じことを言われる。そこではじめて、成年後見制度という言葉が出てくる。

この段階では、もう選べる手はかなり限られています。制度を利用するしかない、という状況です。

これは「争い」ではありません。誰も揉めていないのに、手続きだけが進まなくなる。ここが成年後見の問題の本質だと、私は思っています。相続人同士が本気で争っている案件は弁護士の領域ですが、こうした「止まってしまった手続き」や、相続人の間の意見の調整は、司法書士がお手伝いできる範囲です。

そして、この止まり方の多くは、生前に手を打っておけば起きなかったものです。

⚠ 今すでに申立てを検討されている方へ

「改正されるなら待とう」という判断は、状況によっては取り返しのつかない結果につながります。

施行は早くても2年近く先です。その間に施設費の支払いが滞る、空き家になった実家の管理ができない、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)が迫る、といった事態は待ってくれません。

逆に、急ぐ事情がなく、ご本人の状態も安定しているのであれば、あえて今すぐ動かないという判断もあり得ます。どちらが良いかは、ご事情を伺わなければ判断できません。迷われたら、動く前に一度ご相談ください。

おわりに

今回の改正は、成年後見制度を「守られる制度」から「必要な分だけ選んで使う制度」へ変えるものです。方向としては、ご本人にとって良い改正だと考えています。

ただ、制度が良くなることと、ご自身のご家族が困らないことは別の話です。制度が変わるまでの2年間にも、ご家族の状況は動きます。

成年後見について当事務所が後見人としての実績を数多く持っているわけではありません。そこは正直に申し上げます。私どもがお役に立てるのは、ご事情を詳しく伺ったうえで、後見・任意後見・家族信託・遺言のどれをどう組み合わせるのが最善かを一緒に考え、必要な手続きと登記まで一貫して形にすることです。

「うちはまだ早い」と思われるうちが、いちばん選択肢の多い時期です。

相続・生前対策のご相談は、司法書士事務所TOKITOへ

つくば市を中心に、キャリア21年・相談実績2,000件超。生前対策と家族信託のご相談が全体の約6割を占めています。まずはご事情をお聞かせください。

司法書士事務所TOKITO

〒305-0861 茨城県つくば市谷田部2980

TEL 029-875-5991

FAX 029-859-8806

営業時間 月〜金 8:30〜18:00/定休日:土日祝日

【出典】法務省民事局「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」/法務省民事局「成年後見制度に関する制度改正の状況について」(令和8年7月)/最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況──令和7年1月〜12月──」
※本記事は令和8年(2026年)9月時点の情報に基づいています。施行期日は今後政令で定められます。個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

第71回 千葉の豪雨と「残クレ」――ローンを残したまま、ご他界されてしまったら

2026年8月13日から14日にかけて、千葉県を記録的な豪雨が襲いました。被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

こんにちは、司法書士事務所TOKITOの時任です。冠水した道路に何百台もの車が取り残された映像を、ご覧になった方も多いと思います。報道を見ながら私が思ったのは、「あの中には、まだローンが残っている車も相当あるだろう」ということでした。

車が使えなくなっても、ローンは消えません。では、そのローンを抱えたご本人が亡くなったら、残りの支払いは誰がするのか。今回は災害をきっかけに、「車のローンと相続」について、司法書士の立場からお話しします。

路上に残された車、約2,700台

📊 令和8年8月千葉豪雨をめぐる数字

・道路上に残された車両:約2,700台(県・千葉市への取材にもとづく報道)
・JAFが受け付けた冠水関連の救援要請:3,871件(8月16日までの受付分・速報値)
・車両保険の加入率:全国47.4%/千葉県50.5%/茨城県43.9%(2025年3月末時点)

まず押さえておきたいのが、車両保険は任意加入だということです。すべての車に加入が義務づけられている自賠責保険は、人身事故の被害者を救済するための保険ですから、ご自分の車が水につかっても補償されません。車両保険に入っていなければ、修理費も買い替え費用も自己負担が原則になります。

そして目を引くのが、茨城県の加入率が43.9%と、全国平均を下回っていることです。つくば市のように車が生活の足になっている地域で、半数以上が未加入。これは決して他人事の数字ではないと感じます。

その車、本当に「あなたのもの」ですか

近年よく耳にするのが「残クレ」、正式には残価設定型クレジットです。数年後の下取り価格をあらかじめ「残価」として据え置き、その差額を分割で払う仕組みで、月々の負担を抑えられるのが特徴です。日本自動車工業会の「2025年度 乗用車市場動向調査」によれば、新車購入者のうち残価設定・据置型ローンを利用した人は1割台半ば。新車の平均購入価格は331万円だそうです。

ここで、ぜひ一度ご自宅の車検証(自動車検査証)の「所有者」欄を見てみてください。残クレやディーラーローンの場合、この欄がご自分の名前ではなく、信販会社や販売店の名前になっていることが少なくありません。

これを所有権留保といいます。ローンを完済するまで、車の所有権は信販会社等に残したままにしておく、という約束です。つまり乗っている方は法律上「使用者」であって、所有者ではない。この一点が、後々の手続きに大きく効いてきます。

ここからが本題――契約者が亡くなったら、残債は誰が払うのか

相続というと、預貯金や不動産といったプラスの財産を思い浮かべる方が多いのですが、民法896条は「一切の権利義務を承継する」と定めています。借金などのマイナスの財産も、当然に引き継ぐということです。車のローンも例外ではありません。

しかも、ここには相談の現場でよく誤解される点が3つあります。

1
「長男が全部払う」と家族で決めても、それだけでは足りない
金銭債務は、遺産分割協議を待たず、相続開始と同時に法定相続分どおりに分かれて各相続人に承継されます。相続人同士の取り決めは有効ですが、それを信販会社(債権者)に対して主張することはできません。債権者の承諾がなければ、ほかのご兄弟にも請求が及ぶ可能性があります。
2
車がなくなっても、債務は残る
水没して廃車になった車でも、残債務そのものは相続の対象です。「乗れない車のローン」と「新しく買う車のローン」を同時に抱える、という事態も起こり得ます。
3
所有権留保がついていると、車を動かせない
車検証の所有者が信販会社のままでは、相続人への名義変更も、売却も、廃車手続きも進みません。完済して所有権解除を受けるのが先になります。全損や盗難の場合に一括返済を求める契約もありますので、まずは契約書の確認と、販売店・信販会社への問い合わせが出発点です。

相続放棄を考えるなら、「3か月」と「うっかり」に注意

明らかに債務のほうが多い、というときには相続放棄という選択肢があります。放棄が認められれば、はじめから相続人でなかったものとみなされ、残クレの残債も引き継ぎません。

ただし期限があります。自分のために相続が開始したことを知った時から3か月(民法915条)。この間に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。そして、この3か月のあいだにやってはいけないことがあります。

⚠ 放棄を検討中の「やってはいけない」

・車を売却したり、廃車手続きをしたりする

・車の名義を相続人に変更する

・故人の預貯金を引き出して使ってしまう

これらは「相続財産の処分」にあたり、単純承認したものとみなされるおそれがあります(民法921条1号)。いったんそうみなされると、あとから放棄することはできません。

「3か月では財産の全体像がつかめない」という場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。過去には東日本大震災の際、特例法によって熟慮期間が延長された例もありました。被災された状況では、まず期限を延ばす手立てがないかを検討するのが定石です。

見落とされがちな「車両保険金」の扱い

もう一つ、意外と知られていないのが保険金の扱いです。

生命保険金は、受取人が指定されていれば受取人固有の財産となり、相続放棄をしても受け取れるのが原則です。ところが車両保険は、車という「物」の損害を補償する保険ですから、支払われる保険金は相続財産に含まれます

つまり、相続放棄を検討している段階で車両保険金を受け取って使ってしまうと、これも単純承認とみなされるおそれがあるということです。同じ「保険金」でも扱いがまったく違いますので、手続きの順番を間違えないようにしてください。

災害は、隠れていた「名義」の問題をあぶり出す

災害が起きると、ふだんは見えていなかった名義の問題が、一気に表面化します。車もそうですが、より深刻なのは不動産です。

被災した実家の名義が、何年も前に亡くなったお父さまのままになっている。この状態では、解体も売却も、思うように進みません。相続登記は2024年4月から義務化され、「相続を知った日から3年以内」という期限も設けられました。

そしてこういう場面では、相続人同士で意見が割れることがあります。「修理して残したい」「もう売ってしまいたい」「そんなお金は出せない」——。本格的な争いにまで至れば弁護士の領域ですが、その手前で意見をすり合わせ、必要な調査をして、手続きの形に落とし込むところは、私たち司法書士がお手伝いできる部分です。連絡が取れない相続人がいる、長年疎遠で今さら自分からは話しかけにくい――そうしたご相談も、これまで数多くお受けしてきました。

まとめ:今日、車検証を1枚見てみてください

災害がいつ来るかは、誰にも分かりません。それでも、今日のうちにできる備えはあります。

✓ 車検証の「所有者」欄を確認する(信販会社の名前になっていないか)

✓ 車両保険に入っているか、補償の範囲はどこまでかを確認する

✓ ローンの契約書の保管場所を、家族が分かるようにしておく

✓ 誰が、どこと、どんな契約を抱えているかを家族で共有しておく

とくに最後の一つが大切です。ご本人が亡くなったあと、残されたご家族が「どこの会社と、いくらの契約をしていたのか分からない」という状態から始めるのは、本当に骨が折れます。逆に言えば、紙一枚の情報共有が、ご家族の負担を大きく減らします。

つくば市を中心に21年間、2,000件を超えるご相談をお受けしてきました。「これは相続に関係あるのだろうか」という段階のご相談で結構です。どうぞお気軽にお声がけください。

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【参考】損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版(2025年3月末時点)/日本自動車工業会「2025年度 乗用車市場動向調査」/令和8年8月千葉豪雨に関する各報道(放置車両台数・JAF救援要請件数)

第70回 「うちは普通の家だから」――その安心こそ、”争族”のはじまりかもしれません

お盆やお正月に家族が集まると、ふと「実家はこの先どうなるんだろう」と頭をよぎることはありませんか。

こんにちは、司法書士事務所TOKITOの時任です。つくば市を中心に相続のご相談を21年間、2,000件以上お受けしてきました。その中でよく耳にするのが、「うちは資産家じゃないから、相続でもめるなんて無縁ですよ」というお言葉です。ですが実は、その"普通の家"こそ注意が必要だ、というのが私の正直な実感です。

この記事では、最新の司法統計をもとに、なぜ一般的なご家庭ほど相続トラブルになりやすいのか、そして元気なうちにできることを、司法書士の視点でわかりやすく解説します。

もめている家の約8割は「遺産5,000万円以下」

📊 最高裁判所「令和6年 司法統計年報(家事編)」より

・家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件のうち、遺産額5,000万円以下が約78%
・解決まで1年以上かかった事件が約3割(3件に1件)

「争いになるのはお金持ちの家だけ」というイメージとは、むしろ逆なのです。ごく一般的なご家庭でこそ、遺産の分け方をめぐって話がこじれてしまう。数字がそれをはっきり示しています。金額の大小ではなく、「どう分けるか」でつまずくのが相続だと、私は考えています。

こじれると長い――解決まで「1年以上」が3件に1件

いったんもめると、解決までに時間がかかります。同じ司法統計では、家庭裁判所での手続きが「1年以内」に終わるのは全体の約7割。裏を返せば、およそ3件に1件は、解決まで1年以上かかっています。

その間、預貯金の解約や不動産の名義変更といった手続きも進めにくくなり、残されたご家族の生活にも影響が出かねません。感情のもつれが絡むほど、短期間では終わらない――これが相続の難しいところです。

なぜ"普通の家"ほどもめるのか

理由はシンプルで、多くのご家庭の財産の中心が「不動産」だからです。特に、主な遺産が「自宅の土地・建物だけ」という場合、これは非常に分けにくい財産です。

  • 現金なら等分できるが、一軒の家を3等分することはできない
  • 誰かが住み続ければ、他のきょうだいには何も残らない
  • その結果、分け方をめぐって不公平感が生まれやすい
  • 持ち家の多いつくばエリアでも、決して他人事ではない

金額の問題ではなく、「分けにくい不動産をどう扱うか」が、円満に相続できるかどうかの大きな分かれ道になります。

では、元気なうちに何ができるのか

「もめてから」では、選べる手段が限られてしまいます。だからこそ、生前の"設計"が大切です。

正直に申し上げると、いったん本当の"争い"にまで発展した案件は、代理人として交渉にあたる弁護士の領域です。ただ、その一歩手前――「まだもめてはいないけれど、放っておくと危ういかもしれない」という段階の準備や、相続人どうしの意見の調整であれば、司法書士がお役に立てます。私たちでは、弁護士や税理士の力が必要な場面でも、連携してご案内する窓口の役割を担っています。

具体的に、司法書士事務所TOKITOがお手伝いできるのは次のようなことです。

1
遺言書の作成サポート
「誰に何を遺すか」をあらかじめ形にしておき、分け方の迷いをなくします。
2
家族信託・任意後見
判断能力が落ちた後の管理や承継の仕組みを、元気なうちに用意しておきます。
3
相続登記の手続き
2024年4月から義務化されました。期限は「相続を知った日から3年以内」です。
4
相続財産・相続人の調査
財産の全体像と相続人を確定し、後のトラブルの芽を防ぎます。
5
相続全般の相談窓口
「何から始めればいいかわからない」という段階から、ご相談に応じます。

「連絡がつかない相続人がいる」ときこそ、ご相談を

相続の現場で意外と多いのが、「相続人の中に、長年連絡を取っていない人がいる」というケースです。

⚠ こんなお悩み、よくいただきます

・疎遠になっていて、今さら自分から連絡するのは気が引ける

・住所も分からず、どこにいるのかも把握できていない

・何を考えているのか見当もつかず、話を切り出せない

遺産分割は、相続人全員がそろわないと前に進みません。かといって放置すれば、相続登記の義務化もあり、後々ご自身やお子さんの負担になってしまいます。司法書士は、戸籍をたどって相続人を確定し、所在を調べ、話し合いの土台を整えるところからお手伝いできます。「誰に、どう声をかければいいのか分からない」――そんな段階こそ、まずは司法書士にお任せください。

まとめ:いちばんの対策は「元気なうちの話し合い」

相続トラブルは、財産の多い少ないではなく、「分けにくい財産をどうするか」「家族で情報を共有できているか」で決まります。そして最大の予防策は、親御さんがお元気なうちに、家族で少しずつ話をしておくことです。

「実家はどうするつもりか」「どんな財産があるのか」――それを共有しておくだけでも、いざというときの手続きは驚くほどスムーズになります。家族が顔をそろえる帰省の機会に、ぜひ一度、将来の話をしてみてください。

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【参考】最高裁判所「令和6年 司法統計年報(家事編)」

第69回 相続放棄が過去最多32.4万件|「負動産」時代に知っておきたい相続対策のすべて

「相続」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。親から受け継ぐ財産、家族の思い出が詰まった実家、先祖代々の土地…。相続は本来、財産を次の世代へ引き継ぐ大切な営みです。

しかし今、日本では「相続を放棄する」方が急増しています。2025年の相続放棄件数は、前年比5%増の32.4万件と過去最多を記録しました。

こんにちは、司法書士事務所TOKITOの時任です。つくば市を中心に相続のご相談を21年間、2,000件以上お受けしてきましたが、この数字の伸び方には正直驚いています。なぜこれほど多くの方が、相続を手放す選択をしているのでしょうか。その背景にあるのが「負動産」問題です。

この記事では、司法書士の視点から、相続放棄が増えている理由と、40代から70代の方が今知っておきたい相続対策について、わかりやすく解説します。

「負動産」とは?なぜ相続したくない不動産が増えているのか

負動産の定義

「負動産」とは、所有することで経済的・精神的負担が発生し、売却や活用が困難な不動産を指します。具体的には、次のようなものが当てはまります。

  • 地方の空き家・実家:遠方で管理が困難、買い手がつかない
  • 老朽化したマンション:管理費・修繕積立金が高額、資産価値の低下
  • 山林・農地:売却困難、固定資産税の負担のみ
  • 市街化調整区域の土地:建物が建てられず、活用方法がない
  • 境界未確定の土地:測量費用がかかり、売却時にトラブルの元

こうした不動産は、相続しても維持費や税金ばかりがかかり、利益を生みません。むしろ「負の遺産」として、相続人に重い負担を強いることになるのです。

なぜ負動産が増えているのか

負動産が増えている背景には、次のような社会構造の変化があります。

1
少子高齢化と人口減少
地方を中心に人口が減少し、不動産需要が低下しています。かつては価値があった土地も、今や買い手がつかない状況です。
2
都市部への人口集中
子世代は都市部で生活し、親の実家がある地方には戻らないケースが増えています。遠方の不動産を相続しても、管理のために頻繁に通うことは現実的ではありません。
3
空き家問題の深刻化
総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は約900万戸(2023年時点、過去最多)に達しています。放置された空き家は、倒壊リスクや防犯面での問題を引き起こし、地域社会にも悪影響を及ぼします。
4
不動産の維持コスト増加
固定資産税、都市計画税、火災保険、修繕費、草刈り費用…。不動産を所有するだけで、年間数十万円の費用がかかることも珍しくありません。

こうした理由から、「相続しても負担になるだけ」と判断し、相続放棄を選択する方が増えているのです。つくば市近郊でも、遠方の実家をどうするかというご相談は、ここ数年で確実に増えている印象があります。

相続放棄とは?メリットとデメリットを理解する

相続放棄の基本知識

⚠ 期限は「3か月以内」

相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切受け継がない手続きです。相続開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。相続放棄をすると、プラスの財産(預貯金、不動産など)も、マイナスの財産(借金、負債など)も、すべて放棄することになります。

相続放棄のメリット

  • 負債を引き継がなくて済む:借金や保証債務がある場合に有効
  • 負動産を避けられる:管理困難な不動産を相続せずに済む
  • トラブルから距離を置ける:相続争いに巻き込まれるリスクを回避

相続放棄のデメリット

  • すべての財産を放棄する:不動産だけを放棄することはできない
  • 取り消しができない:一度放棄すると、原則として撤回不可
  • 次順位の相続人に影響:放棄すると、兄弟姉妹など次の順位の人が相続人になる可能性がある

相続放棄の注意点

相続放棄は慎重に判断すべき手続きです。特に次の点に注意しましょう。

⚠ 判断前に確認したいこと

財産全体を把握してから判断する:不動産以外に預貯金などがある場合、それも放棄対象になります。

他の相続人との調整:放棄することで他の相続人に影響が出る場合があります。

期限を守る:3か月の期限を過ぎると、原則として放棄できなくなります。

相続放棄以外の選択肢:負動産への対処法

相続放棄だけが唯一の選択肢ではありません。次のような対処法も検討できます。

1. 相続土地国庫帰属制度の活用

2023年4月から始まった制度で、一定の要件を満たす土地を国に引き取ってもらうことができます。

📌 対象となる土地の主な要件

建物がない土地/担保権が設定されていない/境界が明確/崖地などの危険な土地でない など

手数料は、審査手数料に加えて10年分の管理費相当額の負担金がかかります。相続放棄と違い、土地だけを手放すことができるため、他の財産は受け継げるメリットがあります。

2. 遺産分割協議での調整

相続人が複数いる場合、遺産分割協議で不動産以外の財産を受け取る方法もあります。例えば、次のような分け方です。

  • 兄が不動産を相続し、弟は預貯金を相続する
  • 不動産を売却して現金化し、分割する(換価分割)
  • 一人が不動産を相続し、他の相続人に代償金を支払う(代償分割)

3. 不動産の売却・活用を検討

「売れない」と思い込んでいる不動産も、専門業者に相談すれば買い取ってもらえる場合があります。また、次のような活用方法もあります。

  • 空き家バンクへの登録:自治体が運営する制度で、移住希望者とマッチング
  • 賃貸物件として活用:リフォームして賃貸に出す
  • 解体して更地にする:駐車場や太陽光発電用地として活用

4. 相続放棄ではなく「限定承認」

限定承認とは、相続財産の範囲内で負債を支払う方法です。プラスの財産が残れば受け取れるため、負債がどれくらいあるか不明な場合に有効です。ただし、相続人全員が共同で手続きする必要があり、手続きが複雑なため、専門家のサポートが不可欠です。

司法書士事務所TOKITOができる相続サポート

相続には、法律・税務・不動産の知識が必要です。特に負動産が絡む相続は、一人で判断するのは難しいものです。私たち司法書士事務所TOKITOでは、次のような相続サポートを行っています。

1
相続放棄の手続き代行
家庭裁判所への申述書作成から提出まで、迅速にサポートします。3か月の期限に間に合うよう、スケジュール管理も行います。
2
遺産分割協議書の作成
相続人全員が納得できる遺産分割協議書を作成し、後のトラブルを防ぎます。
3
相続登記の手続き
不動産を相続した場合、2024年4月から義務化された相続登記を代行します。期限は「相続を知った日から3年以内」です。
4
相続財産の調査
被相続人の財産を調査し、全体像を把握します。隠れた負債や不動産がないか、しっかり確認します。
5
相続全般の相談窓口
「何から始めればいいかわからない」という方のために、相続全般のご相談に応じます。

今すぐできる相続対策:40代〜70代の方へ

相続対策は、早ければ早いほど選択肢が広がります。

親世代(60代〜70代)がすべきこと

  • 財産目録の作成:不動産、預貯金、株式などをリスト化
  • 遺言書の作成:誰に何を相続させるか明確にする
  • 負動産の整理:生前に売却や処分を検討
  • 家族との話し合い:相続について子世代と情報共有

子世代(40代〜50代)がすべきこと

  • 親の財産状況の確認:どんな不動産があるか把握する
  • 負動産リスクの確認:相続したくない不動産があるか確認
  • 専門家への相談:司法書士や税理士に早めに相談
  • 相続シミュレーション:相続税や手続きの流れを事前に理解

まとめ:負動産時代の賢い相続対策

相続放棄が過去最多を記録した背景には、「負動産」という深刻な社会問題があります。しかし、相続放棄だけが唯一の選択肢ではありません。相続土地国庫帰属制度、遺産分割協議、不動産の売却・活用など、さまざまな方法があります。

大切なのは、早期に情報を把握し、専門家と一緒に最適な選択をすることです。私たち司法書士事務所TOKITOは、相続登記や遺産分割協議書の作成だけでなく、相続全体の戦略設計をサポートしています。

「うちは大丈夫」と思っていても、いざ相続が発生すると想定外のトラブルが起こることも少なくありません。40代から70代の皆さん、今こそ親御さんやご自身の相続について、一度立ち止まって考えてみませんか。

あなたとご家族の未来を守るために、私たちが全力でサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。

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相続放棄の手続き、相続財産調査、相続登記まで、経験豊富な司法書士がサポートします。初回相談は無料です。

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第68回 2026年最新|金融機関の「相続手続き一括対応(みらいたすく)」とは?司法書士が本当に知っておいてほしいポイント

こんにちは、司法書士事務所TOKITOの時任です。

2026年4月、金融業界で大きな発表がありました。SMBC日興証券、三井住友信託銀行、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、大和証券グループ本社、野村ホールディングスという大手金融機関7社と、システム開発を担うNTTデータなどが、相続手続きを一元化するプラットフォーム「みらいたすく(仮称)」を作るための基本合意を結んだというニュースです。予定では2026年秋頃に運営会社を設立し、2027年夏頃に一部地域で試験導入、2028年秋頃に全国展開ということですから、実際に私たちの手元に届くのはもう少し先の話になりそうです。

それでも、つくば市を中心に相続のご相談を21年間、2,000件以上お受けしてきた立場から見ると、この動き自体は歓迎したいと思っています。ただ、司法書士としてどうしてもお伝えしておきたいことがあります。それは「手続きが楽になる」ことと「相続問題が解決する」ことは、まったく別の話だということです。

この記事では、40代・50代の方がご自身やご両親の相続について今から知っておくべきポイントを、なるべく専門用語を使わずにお伝えします。

1. 金融機関の相続手続き一括対応とは?「みらいたすく」の概要

従来の相続手続きの課題:何度も同じ書類を集める苦労

これまで、親が亡くなった後の相続手続きは、想像以上に大変でした。

たとえば、亡くなった方が次のような口座を持っていたとします。

  • A銀行の普通預金
  • B証券会社の株式口座
  • C信託銀行の投資信託

この場合、それぞれの金融機関ごとに、戸籍謄本一式、印鑑証明書、遺産分割協議書といった書類を用意し、窓口に出向いて手続きをする必要がありました。窓口では何時間も待たされることが珍しくなく、平日に仕事を休んで対応された方も少なくありません。私自身、そうしたご苦労を伺う機会が本当に多くありました。

新制度でどう変わる?期待されている3つのメリット

「みらいたすく」では、以下のようなメリットが期待されています。

1
書類の提出が1回で済む
従来は金融機関ごとに必要だった戸籍謄本や印鑑証明書を、オンラインで1セット提出すれば複数の金融機関に対応できるようになる見込みです。
2
把握できていなかった口座の発見につながる
「亡くなった親が、どこにいくつ口座を持っていたかわからない」というのは、相続の現場で本当によく聞くお悩みです。一定範囲で口座の一括照会ができるようになれば、忘れられていた地方支店の口座や、昔作ったまま放置されていた証券口座が見つかる可能性も高まります。
3
手間と時間の大幅な短縮
オンラインでの手続きが可能になれば、窓口での長時間待機が不要になります。お仕事が忙しい方や、遠方に住んでいるご家族にとっては大きな負担軽減になるはずです。

2. それでも残る「法律上の相続問題」

相続手続きと相続問題は別物である

ここで大事なのは、「金融機関の手続きが終わること」と「相続問題が解決すること」は、まったく別の話だということです。

新しい制度は、あくまで「事務手続きの効率化」であり、次のような法律上の問題を解決してくれるわけではありません。

  • 誰が相続人なのか(相続人調査)
  • 財産と借金はどれだけあるのか(相続財産調査)
  • 誰が何を相続するのか(遺産分割協議)
  • 遺留分や特別受益の問題
  • 相続税の申告と納税

これらは専門家のサポートなしに正しく対応するのが難しい、非常にデリケートな問題です。ここから先は、私がこれまでのご相談で実際によくお受けしてきた内容を中心にご説明します。

3. 相続人調査:認知された子や前妻の子が後から判明するリスク

相続人調査とは?戸籍をさかのぼる大事な作業

相続人調査とは、「法律上、誰が相続する権利を持っているのか」を確定するための調査です。亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍を取り寄せ、配偶者の有無、子どもの人数(認知された子を含む)、親や兄弟姉妹の存在などを確認していきます。

実務でよくあるケース:前妻の子が後から現れる

実務でよくあるのが、「再婚していて、前妻との間に子どもがいた」というケースです。この場合、前妻の子も法定相続人であり、遺産分割協議に参加する権利があります。

相続人調査を怠り、一部の相続人を除外したまま遺産分割協議を進めてしまうと、その協議は無効になってしまいます。後から「私も相続人です」と名乗り出られた場合、すべてやり直しになるだけでなく、感情的な対立に発展するリスクも高まります。私も、戸籍を丁寧に追いかけたことで思わぬご事情が判明した案件を何度も経験してきました。

4. 相続財産調査:借金や保証債務の見落としが命取りに

プラスの財産だけでなくマイナスの財産も調査が必要

相続財産調査では、預金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や保証債務といったマイナスの財産も漏れなく調べる必要があります。

相続放棄の期限は3か月:判断を誤ると取り返しがつかない

⚠ 相続放棄には「3か月」の期限があります

借金が多い場合には「相続放棄」という選択肢があります。ただし相続放棄には「相続の開始を知った日から3か月以内」という厳格な期限があります。この期限を過ぎると、原則として相続放棄はできなくなり、借金を背負うことになってしまいます。

また、相続財産を処分してしまうと、相続を承認したとみなされ、後から相続放棄ができなくなる「法定単純承認」に該当してしまうリスクもありますので、ご注意ください。

5. 遺産分割協議:全員の合意が必要な高いハードル

遺産分割協議とは?相続人全員で話し合う手続き

遺産分割協議とは、相続人全員で「誰が何を相続するのか」を話し合い、合意する手続きです。ここで重要なのは、相続人全員の合意が必要だということ。一人でも反対すれば、協議は成立しません。

遺産分割協議が揉める典型的なパターン

実務でよく見られるのは、次のようなケースです。

  • 「長男だから実家を相続したい」vs「平等に分けるべき」
  • 「親の介護をしたのは私だけ」vs「法定相続分は平等」
  • 「生前に多額の援助を受けた兄弟がいる」(特別受益の問題)

こうした感情的な対立が絡むと、話し合いは長期化し、最悪の場合は家庭裁判所での調停や審判に発展します。私の感覚では、財産の多い少ないよりも、こうした感情のもつれの方がこじれやすいという印象があります。

6. 遺留分・特別受益・寄与分:言葉の意味を正しく理解する

遺留分とは?一定の相続人に保障された最低限の取り分

遺留分とは、法律で保障された「最低限もらえる相続分」のことです。たとえば「全財産を長男に相続させる」という遺言が残っていても、他の子どもには遺留分を請求する権利があります。遺留分侵害額請求は、相続の開始及び侵害があったことを知った時から1年以内に行う必要がありますので、期限には注意が必要です。

特別受益とは?生前に受けた援助が相続に影響する

特別受益とは、生前に親から特別な援助(住宅購入資金、事業資金など)を受けた場合、それを相続財産に持ち戻して計算する制度です。「兄は家を建ててもらったのに、私は何ももらっていない」といった不公平感が、相続トラブルの火種になることがあります。

寄与分とは?介護などの貢献への配慮

寄与分とは、被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人に対し、相続分に上乗せして財産を分配する制度です。「私だけが親の介護をしていたのに、相続は平等なんて納得できない」という思いは、寄与分として考慮される可能性があります。

7. 相続税の申告期限:10か月以内に申告しないとペナルティ

相続税の申告期限は厳守:遅れると重いペナルティ

⚠ 申告期限は「10か月以内」

相続税の申告期限は、「相続の開始を知った日の翌日から10か月以内」です。この期限を過ぎると、配偶者控除や小規模宅地等の特例が使えなくなったり、延滞税や加算税が課されたりと、重大な不利益が生じます。

相続税がかかるかどうかの判断も専門家に相談を

📌 相続税の基礎控除 3,000万円+600万円×法定相続人の数

「うちは資産家じゃないから相続税は関係ない」と思っている方も多いのですが、不動産を持っているだけで、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるケースは珍しくありません。自己判断で放置せず、早めに税理士に相談することをおすすめします。

8. 実務でよく見るケース:手続きはスムーズだったのに紛争に発展した例

📌 守秘のため内容は一部変更していますが、実務でたびたび見かけるパターンを一つご紹介します。

ケース:認知された子からの遺留分請求

父親を亡くしたAさん(50代男性)は、金融機関の窓口手続きをスムーズに終えることができました。しかし数か月後、父が生前に認知していた子どもから「遺留分を請求します」という通知が届きます。Aさんはその方の存在を知らず、相続人調査が不十分なまま遺産分割を進めてしまっていたのです。

結果として、家庭裁判所での調停、解決金の支払い、そして家族関係の悪化という事態に発展してしまいました。

教訓:事務手続きと法律問題は別物

この例が示すように、「金融機関の手続きが終わった=相続が完了した」ではありません。法律上の問題を見落とすと、後から取り返しのつかない事態を招くリスクがあります。

9. 司法書士が伝えたい:今からできる相続対策

親が元気なうちに「資産の見える化」を

相続対策は、親が元気なうちに始めることが何より大切です。具体的には、次のような情報を家族全員で共有しておくことをおすすめします。

  • 親がどんな財産を持っているか(預金、不動産、株式など)
  • 借金や保証債務はないか
  • 遺言書は作成しているか
  • 相続税がかかる可能性はあるか

専門家への早めの相談が安心への第一歩

相続は、法律・税務・不動産など、複数の専門分野が絡む問題です。司法書士は相続登記や遺産分割協議書の作成を、税理士は相続税の申告を、弁護士は遺産分割調停や遺留分請求の対応を、それぞれ専門としています。私たちの事務所でも、必要に応じて信頼できる税理士や弁護士と連携しながらサポートしていますので、早めにご相談いただくことで、後悔のない相続につながります。

10. まとめ:相続DXの時代だからこそ、法律の知識が重要

2026年から動き出す金融機関の相続手続き一括対応「みらいたすく」は、確かに画期的な取り組みです。ですがそれはあくまで「事務手続きの効率化」であり、相続問題の本質的な解決には、法律の知識と専門家のサポートが欠かせません。

40代・50代の皆さんには、今から親御さんとの対話を始め、「資産の見える化」をしておくことで、将来の相続トラブルを未然に防いでいただきたいと思います。「まだ早い」ではなく「今だからこそ」、少しずつ準備を始めてみませんか。

相続は、ご家族の絆を守るための大切なプロセスです。気になることがあれば、どうぞお早めにご相談ください。

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第67回 生前贈与の「7年ルール」、結局どう変わったのか。つくばの司法書士が整理してみました

「年間110万円までなら贈与税がかからない」

生前対策のご相談にいらっしゃる方の多くが、この話をご存じです。ただ、2024年1月から生前贈与の持ち戻しルールが変わったことまで正確に把握されている方は、実はそれほど多くありません。「7年ルールって聞いたけど、うちはどうなるの?」というご質問を、最近よくいただきます。

つくば市で司法書士をしている時任です。今回は、この「7年ルール」について、できるだけ専門用語を使わずに整理してみようと思います。すでに動き出している方も、これから考える方も、まずは現状を正しく知ることから始めましょう。

生前贈与が相続対策になる理由

生前贈与とは、生きているうちに財産を家族に渡しておくことです。相続税は亡くなった時点の財産総額にかかりますから、生前に少しずつ財産を減らしておけば、その分相続税の負担も軽くなります。

贈与税には年間110万円の基礎控除があり、この範囲内なら贈与税はかかりません。これを毎年コツコツ続けるのが「暦年贈与」で、生前対策としてはもっとも基本的な方法です。ここは今回の改正でも変わっていません。

2024年の改正で変わったのは「持ち戻し期間」

今回の改正の本題はここです。亡くなる前の一定期間に行った贈与は、相続財産に「持ち戻して」相続税を計算するというルールがあり、この期間が3年から7年に延びました。

「せっかく生前贈与したのに、結局相続財産に足し戻されるなら意味がないのでは」と思われるかもしれませんが、これは「亡くなる直前に慌てて贈与して相続税を逃れる」ことを防ぐための仕組みです。裏を返せば、7年より前の贈与であれば、これまで通り相続財産に加算されません。だからこそ「早く始めるほど有利」なのです。

実際にはいつから7年になるのか

ここが誤解されやすいところなのですが、2024年1月1日にいきなり7年ルールがフル適用されたわけではありません。対象となるのは2024年1月1日以降に行われた贈与のみで、そこから段階的に持ち戻し期間が延びていきます。

相続が発生した時期 持ち戻し期間
2024年1月1日〜
2026年12月31日
従来通り3年
2027年1月1日〜
2030年12月31日
2024年1月1日から死亡日までが対象
(3年〜7年弱)
2031年1月1日以降 完全に7年間が対象

たとえば2027年7月に相続が発生した場合、対象となるのは2024年1月1日からの約3年6か月分の贈与です。2018年や2019年の贈与まで遡って持ち戻されるわけではありません。完全に7年分が持ち戻し対象になるのは、2031年以降に発生する相続からです。

つまり、今(2026年)の時点で亡くなった場合の持ち戻し期間は、実はまだ3年のままです。

ただし、これから先は年を追うごとに対象期間が広がっていきますので、「まだ3年だから」と先延ばしにする理由にはなりません。むしろ、この移行期間のうちに贈与を始めておくほど、7年を超えて非課税になる部分を増やせるということでもあります。

110万円の基礎控除自体はなくなっていません

誤解されがちなのですが、年間110万円までの基礎控除そのものは廃止されていません。

  • 年間110万円以下の贈与には贈与税がかからない
  • 申告も不要
  • 贈与自体はこれまで通りできる

変わったのは、相続が発生したときに「何年前までの贈与を相続財産に足し戻すか」という部分だけです。贈与のやり方が変わったわけではなく、後から見返される期間が長くなった、と理解していただくのが一番わかりやすいと思います。

延長された4年分には100万円の控除がある

持ち戻し期間が延びた分、税負担が急に重くなりすぎないよう、緩和措置も用意されています。延長された4年間(相続開始前3年超〜7年以内)に受けた贈与については、その期間の合計から100万円まで控除できます。「毎年100万円」ではなく、4年分まとめて100万円という点にご注意ください。

例:2031年に相続が発生し、亡くなる7年前から毎年100万円ずつ贈与を受けていた場合
直近3年分(合計300万円) 全額を加算
それより前の4年分(合計400万円) 100万円控除
→ 300万円を加算
加算額の合計 600万円

このように、延長された期間の分だけ、多少の緩和が効く設計になっています。

孫への贈与は、原則として持ち戻しの対象外

これは知っておいていただきたいポイントです。7年ルールの持ち戻し対象になるのは、「相続または遺贈により財産を取得する人」です。通常、孫は相続人ではないため、孫への贈与は持ち戻しの対象になりません。

⚠ ただし、次のケースでは孫も対象になります
  • 遺言で孫に財産を遺贈する場合
  • 孫が代襲相続人になる場合(親であるあなたのお子様が先に亡くなっている場合)
  • 孫を養子にしている場合

この仕組みを踏まえると、お子様だけでなくお孫様への贈与も選択肢に入れることで、持ち戻しの影響を受けにくい形で財産を渡していくことができます。

相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が新設された

暦年贈与と並んで選択肢になるのが「相続時精算課税制度」です。60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税がかからず、贈与財産は相続時に相続財産へ加算して精算する制度です。

2024年1月から、この制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の部分については、

  • 贈与税がかからない
  • 相続時にも加算されない
  • 申告も不要

となり、暦年贈与の基礎控除とは別枠で使えます。将来値上がりが見込まれる財産(自社株や収益不動産など)は相続時精算課税で早めに評価額を固定し、それ以外の財産は暦年贈与で少しずつ、という組み合わせ方がよく使われます。どちらが有利かは財産の種類や家族構成によって変わりますので、迷ったらご相談ください。

世代別に、今できることを整理してみます

制度の話だけでは実感が湧きにくいと思いますので、世代ごとに今から取り組めることを挙げてみます。

40代の方(ご両親の相続対策をサポートする世代)
  • ご両親と、相続について話す機会を持つ
  • ご両親からお子様(お孫様)への贈与を検討する
  • ご両親が認知症になる前に、家族信託の活用を検討する
  • 2024年4月から義務化された相続登記について、未登記の不動産がないか確認する
50代〜60代の方(親御さんとご自身、両方の相続を考える世代)
  • 7年ルールを意識して、早めに生前贈与を始める
  • 遺言書を作成する(公正証書遺言がおすすめです)
  • 家族信託を検討する
  • 使っていない不動産の整理・売却を検討する
  • 生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を活用する
70代の方(具体的な対策を実行していく世代)
  • 遺言書の作成・見直し
  • 相続時精算課税制度の活用を検討する
  • 家族信託による財産管理を検討する
  • 任意後見契約を検討する

⚠ なお、以前は孫への教育資金の一括贈与(最大1,500万円まで非課税)も生前対策の定番としてご案内していましたが、この制度は令和8年(2026年)3月末で新規の拠出ができなくなりました。すでに拠出済みの資金は引き続き非課税で使えますが、これから新たに始めることはできませんので、ご注意ください。

生前贈与だけで終わらせないことが大切です

相続対策は、生前贈与だけで完結するものではありません。私たちが「点ではなく設計図で考える」とお伝えしているのはこのためで、いくつかの対策を組み合わせて初めて、ご家族にとって無理のない形になります。

家族信託

認知症になると、ご本人の預金や不動産が実質的に動かせなくなってしまいます。家族信託を組んでおけば、判断能力が低下した後も、信頼できるご家族が財産を管理・活用できます。

遺言書

遺言があれば、ご自身の意思通りに財産を分けられ、残されたご家族の間でのトラブルも防ぎやすくなります。2025年10月からは公正証書遺言の作成手続きがデジタル化され、要件を満たせばご自宅からオンラインで作成できる「リモート方式」も利用できるようになりました。ただし、本人確認や意思確認の重要性は変わらず、すべてのケースでリモート方式が使えるわけではありません。

生命保険

死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。相続税対策として使い勝手のよい方法です。

不動産の整理

使っていない不動産は、生前に売却する、共有状態を解消しておくなど、早めに手を打っておくことでご家族の負担を減らせます。

よくいただくご質問

Q

今から生前贈与を始めても意味はありますか?

A

十分意味があります。持ち戻し期間は「亡くなる前の一定期間」ですから、早く始めれば始めるほど、その期間を超えた贈与は相続財産に加算されません。今(2026年時点)であれば、持ち戻し期間はまだ実質3年ですので、動き出すなら早いに越したことはありません。

Q

孫への贈与は本当に持ち戻されないのですか?

A

原則としてその通りです。ただし、遺言で孫に財産を遺贈する場合や、孫が代襲相続人になる場合などは対象になりますので、個別に確認することをおすすめします。

Q

贈与の証拠は残しておくべきですか?

A

必ず残してください。贈与契約書を作成し、現金の手渡しではなく銀行振込で記録を残すことが重要です。手渡しの現金贈与は、税務署に「名義預金(実質的には本人の預金)」と判断されるリスクがあります。

Q

相続時精算課税制度と暦年贈与、どちらがいいですか?

A

ご家族の状況によって異なります。将来値上がりが見込まれる財産は相続時精算課税、そうでない財産は暦年贈与が有利になりやすい傾向はありますが、一概には言えません。財産の内容や家族構成をお伺いした上で、一緒に考えさせてください。

おわりに

2024年の改正で持ち戻し期間は7年に延びましたが、これは「生前贈与に意味がなくなった」ということでは決してありません。むしろ、今のうちから動き始めれば、その分だけ非課税になる財産を増やせるということでもあります。

この記事のポイント
  • 110万円の基礎控除は今も有効
  • 実質的な持ち戻し期間が7年に近づいていくのはこれから
  • 孫への贈与は原則として持ち戻しの対象外
  • 相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が新設された
  • 生前贈与に加えて、家族信託や遺言など他の対策も組み合わせることが大切

ご家族の財産状況やお考えによって、最適な組み合わせ方は一つひとつ違います。「そろそろ考えないと」と思われた今が、ちょうどよいタイミングです。

私たち司法書士事務所TOKITOは、難しい言葉を使わず、ご家族に合った形をご一緒に考えることを大切にしています。まずはお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料でお受けしています。

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この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。実際の相続税・贈与税の計算や申告については、税理士など専門家への確認もあわせてお願いいたします。

第66回 親名義の実家をそのままにしていませんか?相続登記義務化で今すぐ確認したいポイント

「親が亡くなってから何年も経つけれど、実家の名義はそのまま……。」

「固定資産税は払っているから問題ないと思っていた。」

このようなケースは、決して珍しいことではありません。これまでは、相続した不動産の名義変更(相続登記)を後回しにしてしまう方も少なくありませんでした。

しかし、2024年4月1日から相続登記が義務化されたことで、「いつかやろう」が通用しなくなりました。今回は、相続を考え始める40代から70代の皆さまに向けて、相続登記の義務化の内容と、今すぐ確認しておきたいポイントをわかりやすく解説します。

1.相続登記が義務化!2024年4月から何が変わったの?

相続登記とは、亡くなった方が所有していた土地や建物の名義を、相続人へ変更する手続きのことです。

これまでは申請の期限や罰則がなかったため、「手続きが面倒だから」「急いで困ることがないから」と、長年放置されている不動産も多くありました。

⚠ 2024年4月1日からの変更点

相続登記の申請が法律上の義務となり、正当な理由なく期限内に手続きをしなかった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。「知らなかった」では済まされない制度になったことを、まず知っておきましょう。

2.なぜ今、相続登記が必要なのか?

相続登記が義務化された背景には、「所有者不明土地問題」があります。所有者不明土地とは、登記簿を見ても現在の所有者がわからない土地のことです。実は、その大きな原因の約3分の2が「相続登記の未了」といわれています。

所有者がわからない土地は、以下のような社会問題につながっています。

  • 災害時の復旧工事が進まない
  • 空き家の解体ができない
  • 土地の売買や有効活用ができない

📌 東日本大震災や熊本地震、能登半島地震などでも、所有者不明の不動産が復旧の妨げになったことが指摘されています。相続登記の義務化は、個人の問題だけではなく、社会全体の課題を解決するための制度でもあるのです。

3.「親名義の実家」のまま放置していると起こるリスクとは?

「親が亡くなっても、兄弟で話がまとまっているから大丈夫。」そう思っている方も多いかもしれません。しかし、相続登記をしないまま年月が経つと、思わぬトラブルにつながることがあります。

リスク①

相続人の一人が亡くなり、さらに相続人が増えてしまった

リスク②

実家を売却したいのに手続きができない

リスク③

相続人全員の協力が必要になり、話し合いがまとまらない

リスク④

相続関係が複雑になり、手続きの負担が大きくなる

📌 相続の手続きは、時間が経てば経つほど複雑になる傾向があります。「まだ大丈夫」と思っているうちに、家族に大きな負担を残してしまうこともあるのです。

4.相続登記とは?不動産の名義変更をわかりやすく解説

相続登記は、法務局に申請して不動産の名義を変更する手続きです。一般的には、以下の流れで進めます。

1
戸籍謄本などの必要書類を集める
2
相続人を確認する
3
遺産分割協議を行う
4
登記申請書を作成する
5
法務局へ申請する

📌 不動産の数や相続人の人数によって必要な書類も異なるため、早めに確認しておくことが大切です。

5.相続登記の期限は3年!いつから数えるの?

相続登記には期限があります。

2024年4月1日以降に相続した場合

不動産を相続したことを知った日から
3年以内

2024年4月1日より前に相続した場合

2027年3月31日
までに手続きが必要

⚠ 例えば、2021年に親が亡くなり、実家を相続していたにもかかわらず、まだ名義変更をしていない場合でも、義務化の対象になります。「昔の相続だから関係ない」というわけではありませんので注意しましょう。

6.2024年4月以前の相続も義務化の対象です

実は、「何十年も前の相続」がそのままになっているケースも少なくありません。祖父名義のままの土地を、父が相続し、その後さらに子どもが相続するというように、相続が何代にもわたって発生していることもあります。

このような場合は以下のような問題が生じます。

  • 戸籍の収集に時間がかかる
  • 相続人が全国に散らばっている
  • 面識のない親族との話し合いが必要になる

📌 だからこそ、早めに確認し、必要な手続きを進めることが大切なのです。

7.相続登記をしないとどうなる?10万円以下の過料について

期限内に相続登記を行わなかった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。過料は刑事罰ではありませんので前科にはなりませんが、法律上の義務違反に対する行政上の制裁です。

⚠ 不動産ごとに過料が科される可能性があります

例えば、土地1筆・建物1棟の場合は、それぞれ対象となります。土地が複数に分かれている場合には、その分だけ対象となることもありますので注意が必要です。

8.実家の土地や建物が複数ある場合の注意点

地方の実家などでは、以下のような複数の不動産を所有していることがあります。

宅地 山林 駐車場 建物

「実家はひとつ」と思っていても、登記上は複数の不動産として扱われているケースも少なくありません。

📌 まずは、固定資産税の納税通知書などを確認し、ご家族がどのような不動産を所有しているのか把握することが重要です。

9.今すぐできる!ご家庭で確認しておきたい3つのポイント

相続登記の準備として、次の3つを確認してみてください。

1
不動産の名義は誰になっていますか?

親名義なのか、祖父母名義なのかを確認しましょう。

2
相続人は誰になりますか?

配偶者や子どもだけでなく、場合によっては兄弟姉妹や甥・姪が相続人になることもあります。

3
固定資産税の納税通知書は誰宛ですか?

納税通知書の宛名と登記名義人が異なるケースもあります。固定資産税を払っているからといって、名義変更が済んでいるとは限りません。

10.家族が困らないために、今から始める相続準備

相続は、「その時が来たら考えるもの」ではありません。元気なうちから家族で話し合い、不動産の名義を確認しておくことで、将来のトラブルを防ぐことができます。

👨‍👩‍👧
40代・50代の方へ

ご両親の実家について確認する良いタイミングです。

🏡
60代・70代の方へ

ご自身の不動産をどのように次の世代へ引き継ぐかを考えてみてください。

まとめ

相続登記の義務化によって、不動産の名義変更は「後回しにしてもよい手続き」ではなくなりました。親名義の実家をそのままにしている場合は、まず名義を確認し、いつ相続が発生したのかを整理することから始めましょう。

相続は、早めに準備をしておくことで、ご自身の負担を減らし、大切なご家族を守ることにつながります。

「うちは大丈夫かな?」と思った今が、確認を始めるベストタイミングです。
小さな一歩が、将来の安心につながります。

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第65回 相続で見落としがちな「サブスク」の落とし穴

司法書士が解説するデジタル終活

「相続対策」と聞くと、多くの方が不動産や預貯金、株式、生命保険などを思い浮かべるのではないでしょうか。

しかし近年、相続手続きの現場で見落とされがちなものがあります。それが動画配信や音楽配信、クラウドサービスなどの「サブスクリプション(サブスク)」契約です。

月額数百円から数千円の契約だからと軽く考えられがちですが、契約者が亡くなった後、その解約手続きに遺族が多くの時間と労力を費やすケースが増えています。

今回は、司法書士の視点から、相続時に知っておきたいサブスクの注意点と、今からできるデジタル終活について解説します。

サブスクは亡くなっても自動では解約されない

NetflixやAmazonプライム、Spotify、Appleの各種サービス、新聞の電子版、クラウドストレージなど、多くのサブスク契約は契約者が亡くなっても自動的には終了しません。

銀行口座やクレジットカードが止まるまでの間は利用料金が発生し続けることもあり、口座が停止された後でも未払い料金の請求が相続人に届くことがあります。

⚠ 注意

「もう使っていないはずだから大丈夫」と思っていても、契約そのものが残っているケースは珍しくありません。

相続人はサブスクを解約できる?

原則として、相続人は故人が契約していたサブスクを解約できます。

これは、新たな利用料金の発生を防ぎ、相続財産が減少することを防ぐための「保存行為」と考えられており、多くの場合、相続人が単独で手続きを行えます。

ただし、解約までに発生した利用料金や契約内容によっては解約料についても、相続人が負担することになります。

📌 「契約も負債も相続の対象になる」という点は、知っておく必要があります。

相続放棄を考えている方は要注意

ここで注意したいのが相続放棄です。

相続放棄を予定しているにもかかわらず、契約内容や手続きによっては「相続財産を処分した」と判断される可能性があります。

⚠ 専門家への相談をおすすめするケース
  • 負債が多い可能性がある場合
  • 相続放棄を検討している場合

ケースによっては相続放棄に影響することもあるため、安易に手続きを進めず、専門家へ相談することをおすすめします。

最大の壁は「スマホが開けない」

実際の相続手続きでは、法律よりも困ることがあります。

それはスマートフォンのロック解除ができないことです。

近年のサブスクは、契約情報も解約手続きもスマートフォンのアプリから行うことが多く、IDやパスワードが分からないと、どのサービスを契約しているのかさえ確認できません。

事業者によっては郵送での手続きに応じてくれますが、戸籍や本人確認書類など多くの資料が必要となり、遺族の負担は決して小さくありません。

🔒
スマホが開けない

パスコード・Face IDが分からず中身を確認できない

何を契約しているか不明

アプリやIDが確認できず、契約数すら把握できない

📮
郵送手続きは手間がかかる

戸籍・本人確認書類など多くの書類が必要になる

💸
料金が発生し続ける

解約できない間も課金が続く場合がある

デジタル終活という新しい相続対策

こうしたトラブルを防ぐため、最近では「デジタル終活」という考え方が広まっています。

デジタル終活とは、以下のような取り組みです。

  • 利用しているサブスクを一覧にする
  • ネット銀行や証券口座を整理する
  • スマートフォンやパソコンのパスワード管理を行う
  • 家族が必要な情報を確認できるよう準備する

📌 特に資産をお持ちの方ほど、ネット証券やネット銀行、ポイント、暗号資産なども含めて整理しておくことで、ご家族の負担を大きく減らすことができます。

司法書士として感じること

相続相談を受けていると、「財産が分からない」という相談以上に、「何を契約していたのか分からない」という相談が年々増えています。

サブスクは一件ごとの金額こそ大きくありません。

しかし、それが10件、20件と積み重なると、金銭的な負担だけでなく、解約手続きに費やす時間や精神的な負担も決して軽くありません。

ご家族が悲しみの中で複雑な手続きに追われないよう、生前から情報を整理しておくことも、大切な相続対策の一つだと感じています。

まとめ|「分かるように残す」ことも財産です

相続対策は、財産を増やすことや節税だけではありません。

「家族が困らないように情報を残すこと」も、これからの時代には欠かせない相続対策です。

遺言書や財産目録を準備される際には、ぜひサブスクやネットサービス、デジタル資産についても一緒に整理してみてください。

その少しの準備が、ご家族への大きな思いやりとなり、円滑な相続手続きにつながります。

相続は、財産を「残す」だけでなく、
家族に安心を「残す」ことでもあります。

今こそ、デジタル終活を始めてみてはいかがでしょうか。
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第64回 紙が大好きな司法書士がAIツールを使ってみた話|スーパーウィスパー+ワイヤレスマイクで業務が変わった

司法書士という仕事は、良くも悪くもアナログな部分が多い業界だと思います。書類は正確さが命ですし、依頼者様の情報を扱う以上、慎重になるのは当然のこと。正直、AIツールにはどこか苦手意識がありました。「便利そうだけど、士業には合わないのでは」と、食わず嫌いをしていた自覚もあります。

ただ、日々の書類作成やメール対応に追われる中で、「このままでは業務時間がいくらあっても足りない」と限界を感じる場面が増えてきました。そこで一念発起し、思い切って評判を耳にしていたAIツールを試してみることにしました。

■ きっかけになった「スーパーウィスパー」

最初に導入したのは、音声入力AIツール「スーパーウィスパー」です。OpenAIのWhisper技術をベースにしたアプリで、ショートカットキーを押すだけで、話した内容がそのままテキストとして入力されます。驚いたのは、その精度とスピード。タイピングの3倍近い速さで、しかも「えー」「あの」といった言い淀みや言い直しを自動でカットし、句読点まで整えた自然な文章に変換してくれます。

使い方の幅も広く、「モード」機能で用途ごとに変換ルールをカスタマイズできるのが便利です。自分がよく使っているのは、言い淀みや言い直しをすべて取り除き、一文ごとに適度な改行を入れて整形してくれる「言い直し修正モード」。打ち合わせの内容をそのまま話しかけるだけで、そのまま議事録の下書きとして使える形に整うので、面談後にメモを取り直す手間がかなり減りました。メール作成用のモードも作っており、「丁寧語のメール文にして」という指示をあらかじめ登録しておけば、依頼者様への連絡文もその場で仕上がります。

主な機能・特徴

  • 言語・モデルの選択が可能:日本語はもちろん他の言語にも対応。使用するAIモデルも選択でき、自分は文章生成の精度を重視してSonnet 4.5、音声認識にはウルトラV3ターボという組み合わせで使用。
  • ログ機能付き:過去に話した内容がログとして残り、音声を聞き直すことも可能。依頼内容の確認にも便利。
  • 時間節約の可視化:「今週何時間節約できたか」という目安が表示されるため、業務効率化の実感を数字で確認でき、続けるモチベーションになる。
  • ローカルモード搭載:音声データを外部サーバーに送らずに処理できる。依頼者様の個人情報や案件の詳細を扱う士業にとって、導入の後押しになるポイント。

対応OS・料金プラン

プラン 料金
無料プラン 無料
Proプラン 月額 8.49ドル
買い切り(ライフタイム) 249.99ドル(一括払い)
Enterpriseプラン 法人向け(要問い合わせ)

📌 対応OS:Mac・iPhone・iPad・Windows と幅広く対応。Mac版で購入したライセンスのままiPhoneアプリにもログインして使用可能。
自分はサブスクリプションを増やしたくなかったこともあり、ライフタイムプランを選択しました。

■ 事務所ならではの悩みと、もう一つの工夫

とはいえ、実際に使ってみると一つ壁がありました。事務所は個室ではないため、内蔵マイクで音声入力しようとすると、周囲に聞こえる声量で話す必要があり、依頼者様に関わる内容を口にすること自体に抵抗があったのです。かといって声を潜めると、今度はマイクが拾ってくれない。

そこで組み合わせて使い始めたのが、ワイヤレスピンマイク「BOYA mini2」です。USB-C接続で受信機を挿すだけとセットアップが簡単な上、口元に近い位置で音を拾う設計のため、小さな声でもしっかり認識してくれます。周囲がざわついているオフィスでも、抑えた声のままスーパーウィスパーへ正確に音声を届けられるようになり、結果として声を張らずに済むようになりました。守秘義務を意識する場面が多い司法書士業務との相性は、想像以上に良かったです。

🎤
スーパーウィスパー

音声→テキスト変換AIツール
話すだけで文章が整う

📎
BOYA mini2

ワイヤレスピンマイク
小声でも正確に認識

声を張らずに済む

守秘義務を守りながら
業務効率化を実現

■ まとめ

正直なところ、ここまで業務が変わるとは思っていませんでした。AIツールというと構えてしまいがちですが、「話すだけ」で書類やメールの下書きが整うという体験は、想像以上に大きな時間短縮につながっています。同じように多忙な士業の方や、AIに苦手意識のある方にこそ、一度試していただきたいと感じています。

今後も不定期にAI情報を発信していきたいと考えています。ご期待ください。

司法書士事務所TOKITOでは、相続・登記・家族信託に関するご相談を承っております。
お気軽にお問い合わせください。

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