第48回 【警告】認知症で「ハンコ」が押せない!資産凍結リスクと、目前に迫る「事業承継税制」の最終期限

「自分はまだ大丈夫」「物忘れくらいで会社は潰れない」——もしそうお考えなら、それは非常に危険な思い込みかもしれません。

法務の現場では、社長が認知症になったことで**「会社の全機能がストップする」**という悲劇が、今この瞬間も起きています。2026年現在、中小企業の経営者の平均年齢は上昇し続けており、認知症はもはや「万が一」の病気ではなく、経営における「最大のリスク」となりました。

本記事では、なぜ社長の認知症が「会社の死」に直結するのか、その恐ろしい3つの真実をお伝えします。


1. 認知症が「会社の死」に直結する3つの理由

社長の意思表示ができなくなるということは、法的には「経営のハンドルを握る人がいなくなる」ことを意味します。具体的には、以下の3つの機能不全が会社を襲います。

① 銀行口座の凍結:給与が払えない、決済ができない

銀行は、名義人の判断能力が不十分であると知った場合、預金者の財産を守るために口座を凍結します。

これは社長個人の預金口座だけではありません。社長が実質的な決定権を持つ法人口座においても、融資の実行や契約更新の際に「社長の意思確認」ができないと判断されれば、資金調達がストップする恐れがあります。 「手元にキャッシュはあるのに、引き出せない。従業員の給与が払えない。」 この状態に陥った会社が、その後どうなるかは想像に難くありません。

② 経営決定権の喪失:会社が「意思を持たない箱」になる

多くの中小企業では、社長が筆頭株主として「議決権」を握っています。しかし、認知症で判断能力を失うと、この議決権を行使することができなくなります。

  • 役員の選任・解任ができない: 後継者を役員に据えることも、引退することもできません。
  • 定款の変更ができない: 時代に合わせた組織改編や、事業承継のための準備がすべて止まります。
  • 重要資産の売却ができない: 会社の土地を売って資金繰りに充てる、といった経営判断も法的に無効となります。

つまり、会社が「何も決められない、動けない箱」と化してしまうのです。

③ 契約更新の停止:取引先・金融機関からの「信用失墜」

ビジネスは「信用」で成り立っています。取引先や銀行は、常に「この会社は将来も存続できるか?」を見ています。

もし、社長が認知症であることが対外的に知れ渡れば、**「この会社との契約を更新しても大丈夫か?」「誰が責任を持って判をついているのか?」**という疑念を抱かれます。最悪の場合、取引の停止や、銀行からの「債務の繰り上げ返済」を求められることすらあります。

認知症は、単なる健康問題ではありません。会社のブランドと信用を一瞬で崩壊させる「経営上の致命的なインシデント」なのです。

2. 【緊急】2026年3月末まで!「特例事業承継税制」の門が閉まります

認知症リスクという「いつ起こるかわからない不安」に加え、今すべての経営者が直面している「明確な期限」があります。

それが、「特例事業承継税制(特例承継計画)」の提出期限です。

あと2ヶ月の猶予:2026年3月31日が最終リミット

後継者が自社株を引き継ぐ際の贈与税・相続税が**「実質ゼロ」になるという、かつてない極めて有利なこの特例。その適用を受けるために必須となる「特例承継計画」の提出期限が、いよいよ2026年3月31日**に迫っています。

「まだ2ヶ月ある」と思われるかもしれません。しかし、法務・税務の手続きには、現状の株価評価、後継者の選定、遺言書の調整、そして認定経営革新等支援機関による確認など、膨大な準備が必要です。今すぐ着手しなければ、物理的に間に合わないタイミングに来ています。

認知症との「二重の罠」

ここで恐ろしいのが、第1章でお伝えした「認知症リスク」との兼ね合いです。 特例事業承継税制の活用を検討していても、提出期限までの間に社長が認知症を発症し、判断能力を失ってしまったらどうなるでしょうか?

  • 計画への同意ができない: 社長本人の意思確認ができなければ、手続きは進められません。
  • 贈与の実行ができない: 税制を活用するための「株の贈与」そのものが法的に不可能になります。

期限が迫る焦りの中で、社長の健康に異変が起きた瞬間、数千万〜数億円という莫大な節税チャンスが永遠に失われる。これが、今そこにあるリアルな危機なのです。

「知らなかった」では済まされない税負担の差

この期限を逃すと、従来からある「一般措置」しか使えなくなります。一般措置では納税猶予が全額ではなく、要件も格段に厳しくなります。

「うちはまだ先のことだから」と放置した結果、数年後に社長が倒れ、多額の相続税を支払うために会社を切り売りする……。そんな最悪の事態を防ぐためのラストチャンスが、この2026年3月31日なのです。

3. 【実録】「あの時やっておけば…」後悔する後継者たちの苦悩

「社長が認知症になっても、家族がなんとかすれば大丈夫だろう」 そう楽観視されている方は少なくありません。しかし、法治国家である日本では、家族であっても「法的な権限」がなければ、会社の資産や契約に触れることは一切許されません。

実際に当事務所に寄せられた、準備を後回しにしたために起きた悲劇の実例をご紹介します。

ケース1:銀行口座の凍結で「給与」が払えない

製造業を営むA社の社長(75歳)が、脳梗塞の後遺症で認知症を発症しました。 幸い命に別状はありませんでしたが、意思疎通が困難に。銀行がその事実を知った瞬間、社長名義の預金口座だけでなく、一部の法人口座も事実上の凍結状態となりました。

二代目の息子さんは「自分がサインするから」と必死に訴えましたが、銀行の回答は冷徹でした。「社長ご本人の意思確認ができない以上、出金は認められません」。 結果、毎月の従業員の給与支払いのために、息子さんは個人の貯金を切り崩し、親戚中から借金をして回るという地獄を味わうことになったのです。

ケース2:成年後見制度の罠。「経営を知らない他人」が介入してくる現実

不動産管理会社のB社長が認知症になった際、家族はやむを得ず「成年後見制度」を利用しました。 しかし、ここで大きな誤算が生じます。家庭裁判所が選任した「成年後見人」は、経営に詳しい親族ではなく、**全く面識のない専門家(弁護士や司法書士)**でした。

成年後見人の役割は、あくまで「本人の財産を守ること」です。 「新しい事業に投資したい」「節税のために資産を動かしたい」という二代目の提案に対し、後見人は**「リスクがあることは認められません」**とすべて却下。会社を成長させるための経営判断が一切できなくなり、B社は緩やかに衰退の道を辿ることになってしまいました。

4. 解決策:認知症対策×税制活用を両立させる「攻めの備え」

認知症による資産凍結を防ぎ、かつ3月31日までの税制優遇も逃さない。この二難を解決する最強のスキームが、「家族信託」を活用した事業承継です。

「経営権」と「財産権」を切り分ける

これまでの承継は「株を譲る(=経営権も財産価値も一度に移る)」という一択でした。しかし家族信託を使えば、これらを切り離して管理できます。

  • 経営権(議決権): 後継者に託す。これにより、社長がもしもの時も後継者がスムーズにハンコを押せます。
  • 財産権(株の価値): 社長が持ち続ける(または受益権として指定する)。

これにより、社長は「元気なうちは自分が実権を握り、認知症になった瞬間、自動的に後継者にバトンを渡す」という魔法のような設定が可能になります。成年後見制度のように、「経営を知らない外部の専門家」に会社をかき回される心配もありません。

事業承継税制との「同時並行」がカギ

2026年3月31日が期限の「特例事業承継税制」は、株を贈与することが前提ですが、実は**「信託」と組み合わせることも可能**です(※専門的な設計が必要です)。

  1. 特例承継計画の提出: まずは3月31日までに計画を出し、税制優遇の切符を確保する。
  2. 信託契約の締結: 認知症になっても計画が頓挫しないよう、法的なバックアップ(家族信託)を敷く。

この「二段構え」こそが、2026年現在、最も賢明な経営者が選んでいる選択肢です。

「まだ早い」が「もう遅い」に変わる前に

家族信託も事業承継税制も、共通する絶対条件が一つだけあります。それは、**「社長本人に、しっかりとした判断能力があること」**です。

一度でも「認知症」の診断が下り、判断能力が不十分とみなされれば、これらの高度な法的スキームは一切使えなくなります。そうなれば、残された家族や社員には、第3章で見たような「悲劇」を強いることになってしまうのです。

5. 2026年最新版!「うちの会社は間に合うか?」緊急チェックリスト

ここまでお読みいただき、「うちは大丈夫だろうか」と不安を感じられた方も多いはずです。

そこで、現在地を確認するための**「事業承継・認知症リスク診断」**を用意しました。以下の項目に1つでもチェックが入る場合は、今すぐ専門家への相談が必要です。

チェック項目リスクの内容
□ 社長の年齢が70歳を超えている統計上、認知症発症リスクが急増する年齢です。
□ 「特例承継計画」をまだ提出していない2026年3月31日で節税のチャンスが消滅します。
□ 後継者は決まっているが、株は渡していない社長が倒れた瞬間、経営権がロックされます。
□ 顧問税理士から「認知症対策」の話がない税務だけでなく「法務(信託・遺言)」の備えが漏れています。
□ 最近、同じ話を繰り返すことが増えた予兆を見逃すと、法的な契約が結べなくなります。

【診断結果】

チェックが1つ以上:**「黄色信号」です。今ならまだ間に合いますが、準備を急ぐ必要があります。

チェックが3つ以上:「赤信号」**です。一刻の猶予もありません。3月31日の期限、そして健康リスクの両面で「手遅れ」になる寸前です。


6. まとめ:経営者の最後の仕事は「自分がいない後」を整えること

経営者にとって、会社は人生そのものです。

これまで幾多の荒波を乗り越えてこられたことでしょう。しかし、**「自分自身の衰え(認知症)」と「法的な期限(3月31日)」**だけは、気合や根性で乗り越えることはできません。

もし、今あなたが対策を後回しにすれば、苦労するのは残されたご家族や、あなたを信じてついてきた従業員たちです。

  • 事業承継税制で、会社のお金を守る。
  • 家族信託で、会社の経営権を守る。

この2つを同時に進められる時間は、もう残りわずかです。

「あの時、相談しておけばよかった」と後悔する前に、まずはご相談ください。

第47回 1円でも売れない「負動産」を合法的に手放す方法 相続土地国庫帰属制度の落とし穴と、プロが教える現実的な解決策

「親が残してくれた土地だから、大切にしなければ……」

そう思っていたはずなのに、気づけば毎年の固定資産税や草むしりの管理費用、そして「もし何かあったら」という心理的な重荷に。

今、こうした**「負動産(ふどうさん)」**に悩む方が増えています。

特に2023年からスタートした**「相続土地国庫帰属制度」は、「いらない土地を国が引き取ってくれる」という夢のような制度として期待されました。しかし、いざ蓋を開けてみると、そこには一般の方が一人で突破するには高すぎる壁**がいくつも存在しています。

「国が引き取ってくれると思っていたのに、審査で落とされた」

「結局、手放すために数百万円の持ち出しが必要になった」

そんな後悔をしないために、まずはこの制度の「残酷な真実」を知ることから始めてください。


1. 「相続土地国庫帰属制度」は救世主か? 制度の基本を整理

これまで、一度相続した土地は「いらないから捨てる」という選択肢がありませんでした。それを、一定の条件を満たせば国に返還できる(所有権を移転できる)ようにしたのが、この制度です。

背景には、2024年4月から始まった**「相続登記の義務化」**があります。

「放置しておけばいい」という逃げ道が事実上なくなり、過料(罰金)のリスクが発生する中で、国もようやく「手放すための出口」を用意した形です。

2. 【衝撃の現実】なぜ、あなたの土地は「国に拒否」されるのか?

YouTubeやSNSでも話題になっていますが、この制度は**「どんな土地でも引き取ってくれる」わけではありません。** むしろ、国は「管理に手間がかかる土地」は徹底的に排除しようとしています。

特に注意すべき**「3つの拒絶理由」**がこちらです。

拒絶される主な理由内容の詳細
建物が立っている建物は100%NGです。古家がある場合は、自費で解体して更地にする必要があります。
境界が不明確隣地との境界がハッキリしていない土地は審査すら受けられません。確定測量には多額の費用がかかることも。
崖地・担保権の設定一定以上の勾配がある崖地や、抵当権などがついたままの土地は引き取ってもらえません。

3. 「お金を払って」引き取ってもらうという矛盾

「土地を国に譲るのだから、タダ、あるいは少しはプラスになるのでは?」

そう考える方も多いですが、現実は逆です。

この制度を利用するには、審査手数料に加え、国が今後10年間管理するための**「負担金」**を支払う必要があります。

  • 審査手数料: 土地1筆につき14,000円
  • 負担金: 原則として20万円〜(宅地、農地、山林など種別による)

つまり、「更地にする解体費用」+「測量費用」+「負担金」を合わせると、手放すために100万円単位の支出が必要になるケースも珍しくないのです。

4. 国庫帰属がダメならどうする? プロが教える「負動産処分」の代替案

「うちの土地は国に引き取ってもらえそうにない……」と肩を落とすのはまだ早いです。国庫帰属制度はあくまで「手段の一つ」。司法書士の現場では、他にもいくつかの解決ルートを組み合わせて検討します。

  • ① 隣地所有者への「寄付・譲渡」の打診 国は厳しくても、隣の土地の持ち主なら「格安(あるいはタダ)なら、自分の土地を広げるために欲しい」と考えるケースは意外と多いものです。個人間の交渉はトラブルになりやすいため、我々のような専門家が「法的な道筋」を立てて交渉をサポートします。
  • ② 「負動産」専門の買取・処分業者への相談 近年、一般の不動産屋が扱わないような「売れない土地」を専門に引き取る業者が現れています。処分費用を支払う形にはなりますが、国庫帰属の厳しい条件をクリアする手間と時間を考えれば、トータルで安く、確実に手放せる場合があります。
  • ③ 「相続土地管理命令制度」の活用 特定の相続人が管理しきれない場合、裁判所に申し立てて管理人に委ねる新しい制度も始まっています。どの制度が最適かは、土地の状況や相続人の構成によって全く異なります。

5. 「何もしない」が最大のリスク。2024年からの義務化に備える

最もやってはいけないのが、**「放置」**です。

2024年4月から相続登記が義務化されました。放置し続けると最高10万円の過料(罰金)が科される可能性があるだけでなく、時が経てば経つほど、隣地との境界が分からなくなったり、相続人が枝分かれして権利関係が複雑になったりと、処分コストは膨れ上がる一方です。

「いつか誰かがやるだろう」の「いつか」は、残念ながら勝手にはやってきません。

6. まとめ:あなたの代で「負の連鎖」を断ち切るために

相続土地国庫帰属制度は、決して魔法の杖ではありません。しかし、法改正によって「いらない土地を手放すための選択肢」が確実に増えているのも事実です。

当事務所では、単に書類を作成するだけでなく、「負動産」の御相談もお受けしております。

  • あなたの土地が「国庫帰属」できる可能性の判定
  • 更地にする費用と、そのまま持ち続ける費用のシミュレーション
  • 国庫帰属が難しい場合の、次なる解決策の提示

「固定資産税の通知書を見るたびに溜息が出る」 そんな毎日は、もう終わりにしませんか?

まずは一度、あなたの手元にある資料を持ってご相談ください。プロの視点で、あなたの家族が将来にわたって笑顔でいられるための「出口戦略」を一緒に描き出します。

第46回 【社長の終活】認知症で自社株が凍結?事業承継の「2027年期限」と家族信託で会社を守る全手法

はじめに:社長、その「平等」が会社を殺すかもしれません

司法書士の時任です。

2026年(令和8年)1月。

新年あけましておめでとうございます。

本年も宜しくお願い致します。

つくば市の寒さも厳しくなってきましたが、経営者の皆様にとっては、もっと背筋が凍るような「期限」が迫っていることをご存知でしょうか。

  • 「うちは息子が継ぐから大丈夫」
  • 「株は兄弟仲良く分ければいい」

もしそう思われているなら、この記事はあなたの会社を救うことになるかもしれません。

なぜなら、中小企業の廃業理由の多くは、業績不振ではなく、**「社長の老化(認知症)」「親子の対話不足」**による経営の麻痺だからです。

今日は、きれいごとは抜きにして、社長が元気なうちに打つべき3つのポイントを、現場のリアルな事例を交えて解説します。

  1. 「法務(家族信託)」
  2. 「税務(事業承継税制)」
  3. 一番難しい「親子の対話」

第1章:最大のリスクは「社長の認知症」による資産凍結

まず、個人の終活として絶対に避けていただきたいリスクがあります。 それは**「資産の凍結」**です。

社長がもし今日、脳梗塞や認知症で意思表示ができなくなったら、銀行口座が凍結されることはご存知かと思います。しかし、経営者にとっての悪夢はそこではありません。

「自社株の議決権」が凍結されるのです。

株主総会で誰も賛成の手を挙げられなくなります。 役員の選任も、銀行融資の担保設定も、定款変更も一切できなくなります。 会社は「植物状態」に陥ります。

既存の制度(遺言・後見)の限界

  • 「遺言があるから大丈夫」? 残念ながら、遺言は「死んでから」しか効力を発揮しません。認知症の期間中は無力です。
  • 「成年後見制度を使う」? これも経営者には劇薬です。後見人(弁護士等)がつくと、裁判所の管理下に入り、「株式の運用」や「積極的な投資」は財産保全の観点から制限されます。 つまり、経営の自由が失われます。

切り札としての「家族信託」

そこで今、最強の解決策となるのが**「家族信託(かぞくしんたく)」**です。 仕組みはシンプルです。

  • 委託者(社長): 財産を預ける
  • 受託者(後継者): 財産を管理・運用する
  • 受益者(社長): 利益を受け取る

この仕組みを使えば、**「名義(管理権限)は息子に移し、利益と指図権(実権)は社長が持ち続ける」**ことが可能です。

車に例えるなら、 「息子を運転席に座らせてハンドルを握らせ(受託者)、社長は後部座席から行き先を指示する(指図権)」 という状態を作れます。

これなら、もし社長が後部座席で居眠り(認知症)をしても、運転席の息子さんがそのまま会社を走らせることができます。資産凍結リスクを回避しつつ、権限移譲のトレーニング期間を作ることができるのです。


第2章:【緊急】あと2ヶ月!事業承継税制のラストチャンス

次に、「カネ(税金)」の話です。 自社株の評価額が高い会社にとって、贈与税・相続税は死活問題です。

現在、**「事業承継税制(特例措置)」という、自社株にかかる納税を実質100%猶予(ゼロに)**できる特例があります。

しかし、この制度を使うための「特例承継計画」の提出期限が、2026年(令和8年)3月31日に迫っています。

残り2ヶ月です。

この期限までに計画書を県に出しておかないと、将来この特例を使いたくても門前払いされます。

重要なのは、**「計画書を出したからといって、必ず制度を使わなくてもいい」**ということです。「とりあえず出しておいて、やっぱり使わない」という選択も可能です。

選択肢を消さないために、まずは顧問税理士に連絡し、計画書だけでも提出しておくことを強くお勧めします。


第3章:自社株は「分けるな」。集中させろ

冒頭で触れた「兄弟仲良く株を分ける」という考え方。 これは、会社経営においては**「悪」**です。

株が分散すると、後継者が何か新しい事業を始めようとした時、株を持つ他の兄弟や親戚から 「配当を出せ」 「そんな投資は認めない」 と反対され、何も決められない会社になってしまいます。

「後継者に株(議決権)を集中させる」。 これが鉄則です。

他の兄弟の遺留分(最低限の取り分)が問題になる場合は、「除外合意」や「固定合意」といった民法の特例を使って、経営用の資産を守る防波堤を築く必要があります。


第4章:泥沼の「親子ゲンカ」を防ぐ対話の技術

法務と税務が整っても、最後に立ちはだかる最大の壁があります。 **「感情」**です。

あるパネルディスカッションでの事例です。 建設会社を営む社長と息子さんが、事業承継を巡って毎日怒鳴り合いの喧嘩をしていました。父は「まだ早い、覚悟が足りない」と言い、息子は「古臭い、任せてくれない」と嘆く。

しかし、彼らは乗り越えました。 ポイントは3つありました。

  1. 第三者を入れる: 親子だと感情的になります。商工会や専門家を交えることで、冷静な「通訳」が可能になります。
  2. 期限(Xデー)を決める: 「いつか譲る」ではなく「65歳で譲る」と決めたことで、親には「教える覚悟」、子には「学ぶ覚悟」が生まれました。
  3. 経営指針(ビジョン)の共有: 過去の武勇伝ではなく、「なぜこの会社があるのか(理念)」を明文化し、共有しました。

後継者が本当に欲しいのは、株や金だけではありません。 **「親父が何を大切にしてきたか」という「見えない資産(知的資産)」**なのです。


結び:最後のラブレター「付言事項」

事業承継や相続において、法的な手続き(遺言書や信託契約)は「体」を守るものですが、「心」を守るものが必要です。

それが**「付言事項(ふげんじこう)」**です。 遺言書の最後に添える、法的な効力のないメッセージのことです。

「長男へ。お前に株を集中させたのは、会社と従業員を守る責任を託すためだ。苦労をかけるが頼んだぞ」

「次男へ。お前には株を渡せないが、その分、預貯金で配慮したつもりだ。兄を支えてやってくれ」

この数行があるだけで、残された家族の「納得感」は劇的に変わります。 争族を防ぐのは、法律ではなく**「言葉」**なのです。


追伸:その「一歩」をいつ踏み出しますか?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。 「やらなきゃいけないのは分かったけど、何から始めれば……」 そう思われた社長のために、つくば市商工会の主催で私が講師を務めるセミナーを開催します。

つくば市商工会【社長のための終活と事業承継セミナー】

  • 日時: 2026年(令和8年)1月28日(水) 14:00〜16:00
  • 場所: つくば市大穂交流センター
  • 講師: 司法書士 時任 裕

当日は、以下の**「3つの配布ツール」**をプレゼントします。

  1. 社長のための終活セルフチェックシート(認知症リスク診断)
  2. 事業承継・自社株現状整理シート(Xデーの設定)
  3. 家族と話すためのきっかけ質問集(会話のドアノックツール)

特に「2027年問題」の期限は待ってくれません。家族信託の組成にも最短で3ヶ月はかかります。

会社と家族を守るために、まずはセミナーで情報を整理することから始めてみませんか? 会場でお会いできることを楽しみにしています。

司法書士事務所TOKITO 代表 時任 裕