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第36回 50代から考える会社の未来:前編 事業承継考えてますか?

今、日本全国で「大廃業時代」が目前に迫っています。地域経済や物づくりを支える中小企業の多くが、深刻な問題に直面しているのです。
黒字であるにもかかわらず、後継者が見つからずに廃業に追い込まれる企業は、推計60万社に上るとされています。これは決して他人事ではありません。

今回と次回は、事業承継にスポットを当てて解説していきます。

私の事務所のある地域(つくば市谷田部)でも、名店として長年親しまれながら、まだ続けられると願うお客さんの声とは裏腹に、体の限界と後継者不在のため、廃業を決意される経営者が少なくありません。長年培われた技術や、地域にとっての「ともしび」が、あっけなく消えてしまうのです。

  • この危機は、雇用や販売先、仕入れ先にも連鎖的な影響を及ぼし、地域経済の衰退に繋がりかねません。
  • 後継者難による倒産も、今年10月までの時点で過去最多に迫る勢いです。

あなたの会社が持つ技術や、経営者の思いを未来につなぐためには、今すぐ事業承継対策に着手する必要があります。この「人には話しづらい」テーマ に対し、私たちはどのような準備をすべきでしょうか。対策は「待ったなし」の状況です。


近年、日本社会で深刻な社会問題となっているのが、企業の**「後継者不足」**です。民間調査会社のデータによると、後継者不足を理由とする倒産件数は増加の一途を辿っており、2024年には調査開始以降で過去最多の463件を記録しました。また、黒字経営を続けていても、経営者の高齢化により後継者を選定できず、廃業に追い込まれてしまうケースも増えています。この傾向は特に小規模事業者や地方で顕著であり、このままでは地域に根付いた大切な文化や産業が失われてしまう危険性があります。

しかし、この深刻な課題を乗り越え、事業を未来へと繋ぐ有力な解決策として、**「第三者承継」**が今、大きな注目を集めています。これは、親族や社内の役員といった身内ではなく、外部の第三者が事業を引き継ぐ手法です。


「第三者承継」が提示する解決の可能性

第三者承継は、単なる経営資源の移動にとどまらず、その事業の価値や地域からの愛情を守り、発展させる「解決可能性」を提示しています。

  • 例えば、横浜市にある創業の長い町中華「三公苑」の事例です。高齢と体調不良を理由に引退を考えていた先代の店主(小川さん)から、お店を継いだのは、その味に惚れ込んだ中国出身のリンさんでした。リンさんは、先代からマンツーマンで厳しい特訓を受け、難易度の高いチャーハンやチャーメンの調理技術、調味料の配分や火加減を見事に習得しました。その結果、店は7年前に承継された現在も、長年の常連客が「味が変わらない」「いつもの美味しさ」と絶賛するほど、伝統の味を守り抜いています。
  • また、福島県にある30年以上続く画材店「美術堂」では、さらに意外な形で承継が実現しました。年齢を理由に廃業を考えていた元オーナーに対し、店の常連客だった伊藤深夜さん(59歳)が事業を引き継いだのです。伊藤さんは、会社員時代、残業後の帰宅途中に灯る店の温かい明かりと雰囲気に「背中を押されるような気持ち」になった経験から、「この灯を消したくない」という強い思いでオーナーとなることを決意しました。現在は、全オーナーの残した「お客さんへの愛情」が詰まったメモを頼りに試行錯誤を続けながら、温かい接客でお客さんを迎え入れています。

このように、第三者承継は、事業の大ファンであったり、地方移住を視野に入れるなど、様々な動機を持つ新たな担い手と出会うことで(長野県の温泉宿の例では地方移住を考えた男性が承継しました)、事業の継続を可能にします。


柔軟なマッチングによる継承のサポート

こうした第三者への事業承継を現実のものにしているのが、事業承継マッチングサービスの存在です。譲渡希望者と承継希望者を結びつけるサービス(リレなど)は、間に立って交渉や手続きをサポートし、後継者問題を解決に導きます。

  • 特に大きなメリットは、その柔軟性です。事業全体だけでなく、店舗のみ、機材・設備のみ、あるいは場所に関係なく味や技術のみを承継するといった、範囲を選択して交渉で決めることができます。
  • 事業を譲る側は、後継者問題の解決に加え、従業員や取引先への影響を最小限に抑えられます。
  • 一方、継ぐ側は、費用を抑えつつ、先代が培ってきたノウハウなどの経営資源をそのまま引き継げるという大きなメリットがあります。さらに、新たな担い手が異なる業界の知識や顧客目線といった新しい視点を持ち込むことで、事業に変革(掛け算)が起こり、新しい未来を築くきっかけにもなります。

事業承継マッチングサービスは有効な選択肢ですが、メリットだけでなく留意すべき点もあります。

  • 費用負担と条件面の硬直性
    成功報酬や掲載料、アドバイザリー費用が発生し、スモールM&Aでは相対的に負担感が大きいことがあります。サービス標準の手順に沿うため、交渉の自由度が下がる場面も。
  • 風評・機密管理の難しさ
    募集情報から従業員・取引先に噂が広まり、不安や離反を招くおそれ。
    → 対策:**秘密保持契約(NDA)**の徹底、段階開示(匿名→限定開示→現地確認)を採用。
  • 人・文化・暗黙知の承継の難度
    レシピ・仕入れ勘所・常連対応など、紙に落ちないノウハウは短期では移転しにくい。
  • 許認可・契約上の制約
    事業譲渡では許認可の取り直しや取引先の同意が必要なケースがあり、承継スキーム(株式譲渡/事業譲渡)の選択を誤ると止まります。
  • PMI(統合プロセス)の負荷
    引継ぎ後のオペレーション統合作業(会計・労務・IT・ブランド運用)が後手に回ると、品質低下や離職に直結します。
  • 希望者不足・時間要因
    地域・業種次第では「待っても応募が来ない」「合う相手に出会うまで長期化」もあり得ます。
  • 評価(バリュエーション)のギャップ
    売り手の思い入れと買い手の収益基準が乖離しやすく、交渉が停滞。のれん(ブランド)価値の捉え方もズレが出がち。

次回の後編では、非常に重要なPMIについて解説していきます。

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