相続や介護を見据える40代から70代の皆様、こんにちは。司法書士の時任です。
ご自身の老後や親御様の介護について考える際、もし親御様が認知症になったら、
「実家を売って介護費用に充てたい」
「親の預貯金を下ろして医療費を払いたい」
といった手続きができなくなるかもしれない、という不安はありませんか?
財産管理の手続きができなくなる事態に備えるために、**「法定後見」「任意後見」「家族信託」**という3つの対策が広く知られています。
しかし、
- 「どれを選べばいいか分からない」
- 「何がどう違うの?」
と感じる方も多いでしょう。
今回は、これらの制度が必要なケースと、それぞれの特徴・費用、そしてご家族にとって最適な選び方について、分かりやすさを重視して解説します。
なぜ事前の対策が必要なのか?
まず、これらの対策が不要なご家族もいます。
例えば、仮に親御様の財産(家や預貯金)が凍結してしまっても、特に困らないという場合は、対策は必須ではありません。
しかし、認知症などで判断能力が低下した際、親御様の財産(家や預貯金)を使って介護費用などを捻出する可能性がある方は、事前の準備を強くお勧めします。
準備を怠ると、万が一の際に家庭裁判所の関与なしには預貯金を下ろしたり、不動産を売却したりする手続きができなくなるためです。
【比較の軸】「元気なうちの準備」か「判断能力低下後の対処」か
これらの対策を比較する上で、最も重要な軸となるのが「利用するタイミング」です。
対策名 | 利用するタイミング | 裁判所の関与 | 財産管理の範囲 |
---|---|---|---|
任意後見 | 判断能力があるうち(元気なうち)に契約 | あり(監督人が選任される) | すべての財産が原則 |
家族信託 | 判断能力があるうち(元気なうち)に契約 | なし | 特定の財産のみ |
法定後見 | 判断能力が低下してから | あり(後見人が選任される) | すべての財産が原則 |
1. ご自身の希望を最大限に叶える「家族信託」
ご自身の意思が尊重されやすい形で、特定の財産管理を家族に託したい場合に最適なのが「家族信託」です。
特徴とメリット
- 利用のタイミング:ご本人が元気で判断能力があるうちに行います。
- 財産管理の範囲:法定後見や任意後見がすべての財産を対象とするのに対し、家族信託は信託する特定の財産のみを対象とします。
例:実家と預貯金の一部だけを信託財産とするご家族が非常に多いです。 - 裁判所の関与:法定後見や任意後見と違い、一切裁判所の関与がない点が最大の特徴です。そのため、財産管理を頼んだ人の希望が最も叶えられやすい仕組みといえます。
- 報酬:後見人制度のように、裁判所の指示によって毎年報酬を支払う必要が原則としてありません。ただし、管理が複雑な場合は、将来的に事務処理を外部専門家に外注する可能性を見据えて、信託報酬を決めることも可能です。
費用(専門家に依頼した場合)
- 信託組成を専門家に作成してもらう場合:信託する財産の1.5%~2%が目安
2. 信頼できる家族に「すべて」の財産を任せる「任意後見」
将来、万が一判断能力が低下した場合に、確実にご自身が信頼できる家族や友人に、すべての財産管理を任せたい場合に有効なのが「任意後見」です。
特徴とメリット
- 利用のタイミング:ご本人が元気で判断能力があるうちに、将来の財産管理について契約を交わします。
- 財産管理の範囲:原則として、すべての財産管理をお願いすることになります。
- 受任者の選択:家族や友人など、信頼できる人を後見人に選ぶことができます。
- 報酬:契約書作成後に判断能力が低下し、実際に財産管理が必要になると、後見人(家族がなることが多い)と、それを監督する監督人に対して、毎年報酬を払っていく必要があります。
費用(専門家に依頼した場合)
- 公正証書の作成にかかる費用:2万円前後
- 契約書の作成を専門家に頼む場合:20万円前後
3. 判断能力低下後の「最終手段」となる「法定後見」
法定後見は、ご本人の判断能力がすでに低下しており、上記のような事前の準備(任意後見や家族信託)をしていなかった場合に利用される**「最終手段」**という位置づけです。
特徴とデメリット
- 利用のタイミング:判断能力が低下してから利用します。
- 後見人の選任:裁判所への申立てにより手続きを開始しますが、誰が後見人に選ばれるかは分かりません。もしご家族以外(司法書士などの専門家)が後見人に選ばれた場合、財産管理の柔軟性が低下する可能性があります。
- 報酬:専門家が後見人に選ばれた場合、毎年14万円から72万円程度の報酬を払い続ける必要があります。
費用(専門家に依頼した場合)
- 裁判所への申立て費用:1万円前後
- 申立ての書類作成を専門家に依頼した場合:10万円前後
司法書士からのアドバイス:どの対策を選ぶべきか
どの対策が「優れている」という話ではなく、ご自身やご家族の将来をしっかりと見据え、**「どの方法が合っているか」**という目線で検討することが重要です。
検討のポイント(3つ)
- そもそも対策は必要か?
(親の認知症で財産を動かす必要性があるか?) - 誰に財産管理を任せたいか?
(信頼できる家族か、専門家でも構わないか?) - 管理してもらいたい財産は全部か、特定の一部か?
これらの検討が難しい場合は、司法書士などの専門職に相談することで、ご家族の状況に最適な方法を見つけることができます。
親御様との会話を始めるきっかけ作り
親御様自身がまだお元気で、将来の話やお金の話がしにくい、という声をよく聞きます。
もし会話のきっかけが掴みにくいと感じるなら、親御様ご自身の経験を聞いてみるのはいかがでしょうか。
例えば、
- 「おばあちゃんの介護の時はどうしたの?」
- 「あの時、財産管理はどうしていたの?」
といった過去の経験をきっかけに話を聞き出してみると、ご自身の老後の計画についても具体的に話しやすくなることがあります。
当事務所では、ご家族の将来設計に関するご相談を承っております。
まずはお気軽にご連絡ください。
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