親御様の相続、またはご自身の将来を見据えた準備をされている40代から70代の皆様。相続手続きと聞くと、「複雑で時間がかかる」「専門家に頼むと費用がかさむ」といったイメージをお持ちではないでしょうか?
特に、預貯金は身近な財産であるだけに、「どうすればいいのだろう」と漠然とした不安を抱える方も少なくありません。
私も司法書士として多くの相続に携わってきましたが、実は「少額の預貯金」に限って、一般的な相続手続きよりもずっとシンプルに進められる方法があることをご存知でしょうか?
この方法を知っていれば、不必要な手間や不安から解放され、よりスムーズに手続きを進めることが可能です。
今回は司法書士時任が、その「賢い少額預貯金相続手続き」について、具体的なポイントをわかりやすく解説します。
「こっそりATM引き出し」はもう不要!堂々と手続きできる新常識
相続が発生した際、少額の預貯金について「専門家に依頼するほどではないし、ATMで少しずつ引き出してしまおうか…」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ATMでは1円単位で引き出せないため端数が残ってしまったり、何よりも「こっそり」行うことに抵抗を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回ご紹介する方法を使えば、後ろめたさを感じることなく、堂々と金融機関で預貯金を引き出す(解約する)ことができます。これが、この簡略化された手続きの大きなメリットの一つです。
「簡略化」の鍵は、提出書類の大幅削減!
では、具体的に何が「簡単」になるのでしょうか?
それは、金融機関に提出する書類が格段に少なくなる点にあります。
【一般的な預貯金相続手続きの場合】
通常、金融機関で預貯金の相続手続きを行う際には、以下のような書類の準備と手順が必要です。
• 相続人の確認:亡くなった方(被相続人)の「出生から死亡までのすべての戸籍謄本」を全て集め、法定相続人を確定します。
• 遺産分割協議:確定したすべての相続人全員で、「誰が預貯金を相続するか」を話し合って決定します。
• 遺産分割協議書の作成:話し合いがまとまった内容を「遺産分割協議書」という正式な書類にまとめ、相続人全員が署名・捺印します。
• 印鑑証明書の準備:相続人全員の印鑑証明書を揃えます。
• 金融機関への提出:「戸籍一式」「遺産分割協議書」「相続人全員の印鑑証明書」を全て金融機関に提出します。
これだけでも時間と手間がかかることがお分かりいただけるでしょう。特に、戸籍謄本を過去に遡って収集する作業は非常に骨の折れるものです。
【少額預貯金の「簡略化された手続き」の場合】
一方で、少額預貯金であれば、手続きに必要な書類が大幅に簡略化されます。
• 戸籍謄本:亡くなった方の「死亡の記載が確認できる戸籍」と、手続きを行う方が「相続人であることを証明できる戸籍」だけで足ります。
• 印鑑証明書:相続人全員の印鑑証明書は不要です。
• 遺産分割協議書:提出する必要がありません。つまり、少額預貯金の手続きのためだけに遺産分割協議書を作成する必要はないのです。
このように、提出書類が圧倒的に少なくなるため、手続きの負担が大きく軽減されます。
最大のポイント:相続人同士が「揉めていない」ことの明確な意思表示
この簡略化された手続きを利用するための、最も重要な条件の一つが、「相続人同士で揉めていない」という状態であることです。
金融機関は相続トラブルに巻き込まれることを避けるため、この点を非常に重視します。そのため、手続きの際には、相続人同士で争いがないことを金融機関にきちんと伝える必要があります。
金融機関によっては、口頭での確認に加え、書類に「相続人同士で揉めていない」ことを記載させたり、「万が一、他の相続人から異議が出た場合は、相続人同士で解決します」といった項目にチェックを求めたりすることもあります。
この点については、手続きを進める上でしっかりと意思表示できるよう、事前に把握しておくことが大切です。
「少額」の具体的な金額は?金融機関に確認を!
「少額」とは具体的にいくらを指すのでしょうか?実は、この金額は金融機関によって様々です。
一つの目安として、ゆうちょ銀行では「100万円以下」であれば、この簡略化された手続きで進めることが可能であるとされています。
しかし、これはあくまで目安であり、金融機関ごとに取り扱いが異なるため、ご自身で手続きを進める際は、必ず事前に該当の金融機関に直接確認することが重要です。私が確認した限りでは、茨城県内のある銀行では簡略化手続きが可能ということでした。
この方法が最も有効なケースと注意点
この簡略化された手続きは、特に以下のような場合に非常に有効です。
• 相続財産が預貯金中心で、その額が少額である場合
• 相続財産の中に不動産がない場合
しかし、重要な注意点があります。
もし相続財産の中に不動産がある場合は、不動産の名義変更(相続登記)の際に、遺産分割協議書を法務局に提出する必要があります。
この場合は、預貯金が少額であっても、結局は遺産分割協議書を作成する必要が出てきます。
したがって、この簡略化された手続きは、「預貯金の額が少なく、かつ不動産がない相続」において、最もその利便性を発揮する強力な方法だと言えるでしょう。
まとめ:賢くスムーズな相続のために
相続手続きは、多くの方にとって一生に一度あるかないかの経験であり、不安を感じるのが当然です。
しかし、今回ご紹介した「少額預貯金の簡略化された相続手続き」のように、知っておくことで負担を大きく減らせる方法も存在します。
大切なことは、ご自身の状況に合わせて、最適な手続き方法を選択することです。
もし、今回の内容を読まれて、「自分の場合はどうだろう?」「もう少し詳しく知りたい」と感じた方がいらっしゃいましたら、ぜひ専門家である司法書士時任にご相談ください。
皆様の疑問を解消し、安心して相続手続きを進められるよう、全力でサポートさせていただきます。未来のために、今から準備を始めてみませんか?
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