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第10回 ”争続”を回避!―手遅れになる前に相続対策してください。

相続は、大切な家族の財産を次の世代へ引き継ぐ、人生において非常に重要な出来事です。しかし、残念ながら多くのケースで「争族」となってしまい、家族間の関係がこじれたり、最悪の場合は裁判にまで発展したりすることがあります。今回は、相続を円満に進めるために、ぜひ知っておいていただきたい対策についてお話しします。

相続対策と聞くと、「相続税をどれだけ安くできるか」という税金対策を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん税金の問題も大切ですが、それ以上に重要なのが「家族間の揉め事を防ぐ」ことです。相続税がかかるケースは実は少なく、多くの方が心配すべきは相続による揉め事です。相続をきっかけに兄弟姉妹の縁が切れてしまう、といった悲しい事態を避けるための対策こそが、被相続人から家族への最後の贈り物となるのではないでしょうか。

相続発生から遺産分割まで

人が亡くなると相続が開始し、亡くなった方(被相続人)の財産は、原則として法定相続人が承継することになります。法定相続人とは、民法で定められた相続権を持つ人のことです。

  • 常に法定相続人となるのは配偶者です。
  • 次に、被相続人のがいれば子が相続人となります。子がすでに亡くなっている場合は孫が代わりに相続します。
  • 子や孫がいない場合は、被相続人の(直系尊属)が相続人となります。
  • 子、孫、親(直系尊属)のいずれもいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。

法定相続人には、それぞれ法律で定められた相続分の目安(法定相続分)があります。例えば、配偶者と子がいる場合は、配偶者が財産の半分、子が残りの半分を子の人数で分け合うことになります。

しかし、実際に財産を分ける際には、法定相続分はあくまで目安であり、必ずしもその通りに分けられるわけではありません。相続人全員で遺産分割協議を行い、どのように財産を分けるか話し合って合意する必要があります。

なぜ相続で揉めるのか?

遺産分割協議で揉めてしまう原因は様々ですが、よくあるケースの一つに、特定の相続人が被相続人の介護や世話を献身的に行っていたにも関わらず、他の相続人はほとんど関わっていなかった、という状況があります。法律上の相続分は貢献度を必ずしも反映しないため、貢献した側の相続人が納得できず、感情的な対立が生じやすくなります。

また、特定の財産(不動産など)を誰が相続するか、あるいはどのように分けるかで意見が対立することもあります。相続人全員の合意が得られない限り、遺産分割協議は成立せず、財産は「未分割」のままになってしまいます。これは、財産の名義変更などができず、塩漬け状態が続くことを意味します。未分割の状態が長く続くと、さらに手続きが複雑になったり、関係者の増加によって話し合いが困難になったりするリスクが高まります。

揉め事を防ぐための最も有効な手段「遺言書」

こうした相続をめぐる争いを未然に防ぐために、最も有効な手段となるのが遺言書を作成することです。遺言書があれば、被相続人ご自身の意思で誰にどの財産をどれだけ渡すかを指定することができます。これにより、法定相続分とは異なる分け方をすることも可能です。

遺言書は、遺産分割協議を経ずに相続手続きを進められるため、手続きがスムーズになるというメリットもあります。ただし、遺言書があっても、兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」という、法律で保障された最低限の取り分を請求する権利があることには注意が必要です。遺言書を作成する際には、遺留分にも配慮した内容にすることで、後々のトラブルを防ぐことができます。

遺言書の種類と選び方

遺言書にはいくつかの種類がありますが、一般的に利用されるのは以下の2つです。

  1. 自筆証書遺言: 遺言者が自分で全文、日付、氏名を書いて押印する遺言書です。手軽に作成できるのがメリットですが、方式に不備があると無効になったり、紛失・隠匿・偽造・変造のリスクがあったりします。家庭裁判所の検認手続きが必要になる場合もあります。
  2. 公正証書遺言: 公証役場で、公証人に作成してもらう遺言書です。証人2名以上の立ち会いが必要となります。作成には費用と手間がかかりますが、法律の専門家である公証人が作成するため方式の不備の心配がなく、原本は公証役場で保管されるため紛失や偽造のリスクが極めて低いという大きなメリットがあります。司法書士として、トラブルを防ぐ観点から最もお勧めしているのがこの公正証書遺言です。

遺言書はいつ作るべきか?

遺言書は、一度作成したら終わりではなく、財産の状況や家族構成の変化に応じていつでも書き換えることができます。「まだ早い」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、相続はいつ発生するか分かりません。遺言書を作成しようと決意しても、準備中に不測の事態が起こり、間に合わなかったというケースも実際にあります。

ですから、「いつか作ろう」ではなく、「〇歳までに作る」といった具体的な目標を決めておくことが大切です。そして、作成後も定期的に内容を見直し、必要に応じて修正・加筆することをお勧めします。

経営者の相続と不動産を活用した相続対策

経営者の方は、会社の株式も相続財産に含まれるため、相続税の負担が大きくなる可能性が高い傾向にあります。さらに、誰に会社の株式を相続させるかは、その後の事業承継を円滑に進める上で非常に重要です。遺言書で後継者を明確にし、その者に株式を集中させるように定めておくことで、共同経営による混乱や他の相続人からの権利主張によるトラブルを防ぎ、事業の継続性を確保しやすくなります。

また、資産家の方の中には、相続税対策として現金で所有している財産を不動産(アパートやマンションなど)に組み替えることを検討される方がいらっしゃいます。これは、不動産の相続税評価額が一般的に現金や時価よりも低くなるため、相続税の負担を減らせる可能性があるからです。特に、アパートなどを建築して人に貸し付けると、評価額が大幅に圧縮されるケースがあります。

しかし、この対策は安易に実行すべきではありません。不動産は流動性が低く、売却したいときにすぐに現金化できるとは限りません。また、アパート経営には空室リスク、家賃滞納、修繕費の発生、金利変動など、様々な経営リスクが伴います。これらのリスクを十分に理解せず、あるいは相続人がアパート経営の経験がないまま引き継ぐことになると、かえって負担になってしまう可能性が高いのです。

相続対策として不動産を検討する際は、税金対策だけでなく、その後の維持管理や経営、そして何よりも相続人となるご家族が、その不動産を本当に望んでいるのかをしっかり話し合うことが非常に大切です。多くの場合、多少相続税を支払ったとしても、手元に現金が残る方が相続人にとっては助かるという声が多いのが実情です。それでも不動産を検討した方が良いケースがあることも事実です。その際は、専門家(不動産業者、税理士)に十分ご相談の上で進めて頂くことが良いと思います。

まとめ

相続対策は、単に財産をスムーズに引き継ぐためだけのものではなく、残されるご家族が争うことなく、お互いを思いやりながら生きていけるようにするための大切な準備です。その中でも、ご自身の意思を明確に示せる遺言書は、家族間の揉め事を防ぐための強力なツールとなります。

「うちは財産が少ないから関係ない」「うちは家族仲が良いから大丈夫」と思っている方こそ、万が一に備えて遺言書の作成を含めた相続対策について考えてみることをお勧めします。

どこから手をつけて良いか分からない、自分の場合はどうしたら良いのだろう、といった疑問や不安がある場合は、ぜひ相続に関する専門家であるつくば市の司法書士事務所TOKITOにご相談ください。司法書士は、遺言書の作成支援や相続手続きを通じて、皆様の円満な相続をサポートいたします。

あなたの「家族への想い」を形にするために、今できることから始めてみましょう。

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