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第8回 相続における自宅不動産の名義変更:配偶者と子供、どちらを選ぶべきか?

ご家族にとってかけがえのない存在であった方が亡くなられた場合、残されたご家族には様々な手続きが求められます。その中でも、故人が所有されていた不動産の相続手続きは、多くの方にとって重要な関心事の一つでしょう。特に、故人が住んでいた自宅不動産を誰の名義にするのかは、今後の生活に大きく関わるため慎重な判断が必要です。今回は、父親が亡くなった場合の自宅不動産の名義を、母親と子供のどちらにすべきかというテーマについて、詳しく解説いたします。

配偶者(母親)名義で相続登記をする場合

メリット

  • 住み慣れた環境を維持できる: 母親が引き続き自宅に住み続ける場合、名義を母親にすることで生活環境の変化を最小限に抑えることができます。長年住み慣れた家での生活は、精神的な安定にも繋がるでしょう。

デメリットと対策

  • 将来的な不動産売却の困難性: 母親がご高齢になり、認知症などを患った場合、不動産の売却手続きや契約内容の理解が難しくなることがあります。
    • 対策1:成年後見制度の利用: 母親が認知症などにより判断能力が低下した場合、成年後見人を選任することで、不動産の管理や売却などの法律行為を代わりに行ってもらうことが可能です。ただし、成年後見制度の利用には手続きと費用がかかり、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要となる場合があります。
    • 対策2:家族信託の活用: 母親が元気なうちに、不動産を子供などに信託しておくという方法もあります。信託契約を結ぶことで、母親が認知症になった後でも、受託者である子供が信託の目的に従い、柔軟に不動産の管理や処分を行うことが可能になります。売却代金は、信託財産として母親のために活用することができます。

子供名義で相続登記をする場合(非同居)

リスク

  • 予期せぬ相続の発生: 母親よりも先に子供が亡くなった場合、その子供の相続人(配偶者や子供など)が不動産の権利の一部を取得することになります。これにより、母親にとって見知らぬ第三者と不動産を共有することになり、将来的に不動産の活用や処分を行う際に、関係が複雑化する可能性があります。

不動産を売却する場合の税金に関する特例

不動産を売却した際には、原則として譲渡所得税と住民税が課税されます。しかし、居住用財産(マイホーム)を売却した場合には、「居住用財産の3,000万円特別控除」という特例が利用できる場合があります。この特例は、売却益から最高3,000万円まで控除できるというもので、要件を満たせば税負担を大幅に軽減することが可能です。この特例を適用するためには、原則として売却する人がその不動産に居住している必要があります。したがって、父親の死後、実際に母親が住んでいる自宅を売却する際には、母親名義で相続登記をしておくことで、この特例を利用できる可能性が高まります

相続税について

相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告と納税が必要になります。

相続税の基礎控除額は、「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算されます。

遺産の分け方によって、相続税の金額が変わる特例も存在します。

  • 配偶者の税額軽減: 配偶者が相続した財産については、1億6,000万円まで、または法定相続分相当額までは相続税が課税されないという特例があります。この特例を活用することで、一次相続における配偶者の税負担を軽減できます。ただし、配偶者に多くの財産を相続させると、将来的に配偶者が亡くなった際の二次相続で相続税が高額になる可能性も考慮する必要があります。
  • 小規模宅地等の特例: 亡くなった方の自宅の敷地については、一定の要件を満たす配偶者や同居親族が相続した場合、相続税評価額を最大80%減額できるという特例があります。この特例を利用できるかどうかは、誰が自宅を相続するのかによって変わるため、慎重な検討が必要です。

相続税の申告が必要な場合には、遺産の分割方法によって税額が大きく変動する可能性があるため、税理士に相談することをおすすめします

まとめ

父親が亡くなった場合の自宅不動産の名義を母親と子供のどちらにすべきかは、ご家族の状況や将来設計によって最適な選択肢が異なります。

  • 母親が引き続き安心して自宅に住み続けたいという希望が強い場合は、母親名義での相続登記を検討するのが良いでしょう。ただし、将来的な不動産管理や処分に備えて、成年後見制度や家族信託といった対策も視野に入れる必要があります。
  • 将来的な相続手続きの煩雑さを避けたいという理由で子供名義を検討する場合、非同居の子供名義にすると、予期せぬ相続が発生するリスクがあることを理解しておく必要があります。
  • 将来的に不動産を売却する可能性がある場合は、実際に居住している人の名義で登記しておくことで、税金の特例が利用できる可能性が高まります。
  • 相続税の申告が必要な場合は、遺産の分割方法によって税額が大きく変わるため、必ず税理士に相談し、最適な分割方法を検討することが重要です。

ご自身の状況をしっかりと把握し、それぞれのメリットとデメリットを比較検討した上で、最適な名義人を選択することが大切です。不動産の相続登記の手続きや、将来的な不動産の管理・活用、相続税に関するご不安などがありましたら、司法書士や税理士といった専門家にご相談いただくことを強くお勧めいたします。専門家は、お客様一人ひとりの状況に合わせた的確なアドバイスを提供し、スムーズな手続きをサポートいたします。

【免責事項】

本ブログ記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言を提供するものではありません。具体的な手続きは、必ず専門家にご相談ください。

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