■はじめに 「最近、親の物忘れが少し増えてきたかもしれない……」 そんなとき、多くの方が真っ先に心配されるのは健康のことでしょう。しかし、それと同じくらい、あるいはそれ以上に切実な問題となるのが「お金の管理」です。

もし親御さんの判断能力が低下し、認知症と診断されると、銀行口座が凍結されたり、実家の売却ができなくなったりすることをご存知でしょうか。これを「資産凍結」と呼びます。

今回は、生前対策と相続の専門家である司法書士の視点から、この資産凍結を防ぐための2つの大きな柱、「家族信託」と「成年後見制度」について、分かりやすく解説していきます。

■1.親が認知症になると直面する「お金の壁」とは

認知症になると、なぜお金が動かせなくなるのでしょうか。それは、銀行や不動産会社が「本人の意思確認ができない」と判断するためです。

銀行口座が凍結される仕組み

銀行は、名義人本人の判断能力が不十分だと知ると、預金の引き出しを制限します。たとえ子が「親の介護費用や入院費に使いたい」と申し出ても、本人の意思が確認できなければ、原則として応じてもらえません。さらに見落としがちなのが、口座振替(引き落とし)への影響です。口座が凍結されると、公共料金や施設への支払い、医療費などの自動引き落としも止まってしまう恐れがあります。そうなると、ご家族が立替払いをするなどの対応に追われ、精神的・経済的な負担がさらに増してしまうのです。

自宅の修繕や売却もできなくなるリスク

空き家になった実家をどうするかという問題も深刻です。親御さんが施設に入所し、誰も住まなくなった実家の屋根が壊れたり、庭木が隣家に迷惑をかけたりした場合、修繕や伐採が必要になります。

しかし、たとえ子が「親のために実家を直したい(あるいは解体したい)」と思っても、家主である親御さんに判断能力がなければ、工事契約を結ぶ権限がありません。

特に深刻なのは「解体」や「売却」です。これらは財産価値を大きく変える行為であるため、法律上、所有者本人の明確な意思確認が厳格に求められます。 「実家を売って、そのお金を親の介護費用に充てよう」と家族で話し合っていても、いざ不動産会社や司法書士が親御さんの意思を確認できないと判断すれば、売買契約は成立せず、手続きはストップしてしまいます。結果として、誰も住まない家を高い固定資産税を払いながら放置せざるを得ない「負の不動産」となってしまうリスクがあるのです

■2.「元気なうち」だからこそ選べる家族信託 こうした事態を防ぐために、今もっとも注目されているのが「家族信託」です。

家族信託とは何か。分かりやすく解説 一言でいえば、「信頼できる家族に、財産の管理を託す契約」のことです。親(委託者)が元気なうちに、子(受託者)との間で「将来、自分の判断力が落ちたら、このお金や不動産はあなたが管理してね」と約束し、あらかじめ管理権限を移しておきます。

・ご本人の意思を尊重しつつ、子が財産を管理する仕組み 家族信託の大きな特徴は、親御さんが元気なうちからスタートできる点です。万が一認知症になっても、管理権限はすでに子に移っているため、子の判断で預金を引き出したり、実家を売却したりすることがスムーズに行えます。

家族信託で「できること」と「できないこと」

家族信託は「財産管理」には非常に強力ですが、身の回りの手続き(身上保護といいます)、例えば施設の入所契約や入院手続きの代理人としての権限は持ちません。これらは、後述する成年後見制度が得意とする分野です。

■3.もう一つの備え「任意後見制度」とは

家族信託が「財産の管理」に特化した制度であるのに対し、もう一つの有力な選択肢が「任意後見制度」です。

・「誰に、どんな生活をサポートしてほしいか」を予約する制度

任意後見とは、親御さんが元気なうちに「将来、もし自分の判断能力が落ちたら、この人に自分の代理人になってほしい」とあらかじめ契約しておく制度です。

・家族信託ではカバーしきれない「身上保護」の役割

家族信託の弱点は、施設への入所契約や入院の手続きといった「身の回りの法律行為(身上保護)」ができない点にあります。任意後見はこの部分を補うためのもので、いわば「生活全般のサポート役」を予約しておくイメージです。

■4.【比較】家族信託と任意後見、どちらを選ぶ?

どちらか一方を選ぶというよりは、それぞれの「得意分野」を組み合わせて活用するのが、現在の生前対策のスタンダードとなっています。

・財産活用の「家族信託」 vs 契約代行の「任意後見」 【家族信託】は、空き家になった実家を貸し出して施設代に充てたり、必要な時に柔軟に売却したりといった「財産の運用・処分」に非常に強いのがメリットです。 一方の【任意後見】は、施設との契約や医療の同意(身上保護)において、公的な代理人としての強い権限を持ちます。

・コストの比較(初期費用とランニングコスト) 【家族信託】は、最初にコンサルティング費用や公正証書作成などの「初期費用(数十万円〜)」がかかりますが、その後の月々の報酬は基本的に不要です。

【任意後見】は、契約時点での費用は数万円程度と安価ですが、実際に制度がスタート(判断能力が低下)した後は、家庭裁判所が選ぶ「任意後見監督人」への報酬(月額1万〜3万円程度)が、ご本人が亡くなるまで一生涯続きます。

・【重要】対策をしなかった場合の「法定後見」のリスク もし、家族信託も任意後見も準備しないまま認知症が進行してしまったらどうなるでしょうか。その場合は「法定後見」を利用せざるを得ません。 法定後見では、家族が希望しても「見ず知らずの専門家(司法書士や弁護士)」が後見人に選ばれるケースが多く、その場合は月額2万〜6万円程度の高い報酬が発生し続けます。また、実家の売却や賃貸といった柔軟な資産運用も、家庭裁判所の厳しい制限により、ほとんど認められなくなってしまいます。

■5.司法書士事務所TOKITOと一緒に「家族のこれから」をデザインする

生前対策で最も大切なのは、「どのような老後を送り、どのような形で資産を家族に繋いでいきたいか」というご本人とご家族の想いです。

・まずは家族で話し合うきっかけ作りから 家族信託や任意後見は、いわば「家族の絆を形にする契約」です。親御さんが元気な今だからこそ、将来の不安をオープンに話し合い、最適な組み合わせを見つけることができます。

・手続きの複雑さを解消し、円満な相続へつなげる 司法書士事務所TOKITOは、単に書類を作成するだけでなく、ご家族の状況に合わせたオーダーメイドの対策をご提案します。将来、ご家族が「あの時準備しておいて良かった」と思えるよう、しっかりとサポートいたします。

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