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第42回 自筆証書遺言と公正証書遺言、どう違う?

実務20年の司法書士が教える「失敗しない遺言の作り方」

「うちは揉めない」と思っていませんか?

「うちの家族は仲がいいから大丈夫」
「財産なんて大したものはないし、揉めるはずがない」

相続の現場では、そうおっしゃる方が本当に多いです。
しかし、20年以上にわたり相続の手続きをお手伝いしてきた中で感じるのは、
“揉める・揉めない”は財産の多寡ではなく、準備の有無で決まるということです。

実際、遺言がないまま相続が発生し、兄弟姉妹の間で話し合いが進まず
関係が壊れてしまうケースは少なくありません。
相続人全員が納得する形にまとめるのは、思っている以上に難しいものなのです。


遺言がないと何が起きるのか

遺言がない場合、法律に従って「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」を行います。
これは、相続人全員の合意がなければ成立しません。

たとえば――

  • 不動産を誰が相続するか決まらず、名義変更が何年も進まない
  • 預貯金の一部を引き出せず、葬儀費用の支払いに困る
  • 親の介護をしていた人が不公平だと感じ、兄弟間で口論になる

こうしたトラブルは、「誰が悪い」わけではなく、
あらかじめ意思を示す遺言がなかったことが原因です。
つまり、遺言は“争いを防ぐための準備書面”でもあるのです。


遺言が果たす本当の役割

遺言は「財産の分け方を決めるためのもの」と思われがちですが、
それだけではありません。

遺言とは、残された家族へのメッセージでもあります。

  • どのような形で感謝を伝えたいのか
  • 誰にどんな想いを託したいのか
  • 家族の生活が混乱しないようにどう配慮するか

こうした「心の整理」を形にできるのが遺言です。
“遺言=終わりの準備”ではなく、**“家族への思いやりの準備”**と考えてみてください。


遺言の種類と特徴

遺言にはいくつかの方式がありますが、代表的なのが次の2つです。

① 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)
ご本人がすべて自筆で書く遺言書です。
費用はかからず、自宅で作成できるのが魅力ですが、形式を間違えると無効になるおそれがあります。

② 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)
公証人が作成する公的な遺言書です。
公証役場で証人立会いのもとに作られるため、
内容の信頼性と保管の安全性が非常に高いのが特徴です。


自筆証書遺言のメリットと注意点

〈メリット〉
・自宅で簡単に作成できる
・費用がほとんどかからない
・内容を秘密にできる

〈注意点〉
・日付や署名、押印など形式を1つでも誤ると無効になる
・書き直しや訂正にルールがあり、誤るとトラブルの原因に
・相続開始後、家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きが必要になる
・自宅保管だと紛失・改ざんのリスクがある

最近では「法務局での保管制度」も始まりましたが、
内容の正確性まではチェックされません
そのため、実務では「書いたけれど内容に誤りがあった」という例も珍しくありません。


公正証書遺言が選ばれる理由

公正証書遺言は、“失敗しない遺言”を作るための最も確実な方法です。

公証人(こうしょうにん)は法律の専門職であり、文面を法的に整えてくれます。
また、遺言は公証役場で保管されるため、紛失・改ざんの心配がありません

さらに、家庭裁判所での検認手続きが不要なので、
すぐに遺言を実行に移せるという大きなメリットもあります。

特に以下のような方には公正証書遺言をおすすめしています。

  • 不動産を持っている方
  • 相続人が複数いて、関係が複雑な方
  • 再婚などで家族構成が変わっている方
  • 会社経営や事業承継を考えている方

「費用が高いのでは?」と心配される方も多いですが、
遺言費用の相場は数万円から十数万円程度
家庭の平穏を守る“保険料”と考えれば、決して高いものではありません。


遺言の証人と遺言執行者についての誤解

公正証書遺言を作成する際には、2人の証人が必要です。
ただし、相続人やその配偶者は証人になれません。

「誰に頼めばいいの?」という声も多いですが、
司法書士などの専門職が立ち会うことも可能です。

また、遺言の内容を実際に実行する役割を担うのが
**遺言執行者(いごんしっこうしゃ)**です。

遺産分割や名義変更、銀行手続きなどをスムーズに行うための“実務担当者”と考えてください。
専門家が遺言執行者に指定されている場合、
相続人同士が直接やり取りせずに済むため、トラブルの予防にもつながります。


揉めない遺言に欠かせない「遺留分(いりゅうぶん)」の配慮

遺言を作るうえで見落とされがちなのが、**「遺留分」**です。
遺留分とは、法定相続人に法律上保証された「最低限の取り分」のこと。

たとえば「長男にすべてを相続させる」と書いたとしても、
他の相続人には遺留分の請求権が残ります。

この遺留分を無視した遺言は、かえってトラブルの火種になりかねません。
内容が偏りすぎていると、後で「取り戻したい」と訴えられることもあります。

したがって、「誰に何を残したいか」だけでなく、
法的なバランスをどう取るかを考慮した遺言作成が重要です。

そのためには、相続法や判例に精通した専門家によるアドバイスが欠かせません。
経験豊富な私たち司法書士にご相談いただければ、
ご家族の状況や財産の内容に合わせて、
揉めないための最適な遺言内容を一緒に設計いたします。


司法書士として伝えたい「遺言は最後の思いやり」

これまで数多くのご家族の相続に立ち会ってきましたが、
**「遺言があったおかげで、家族がもめずに済んだ」**という事例は本当に多いです。

反対に、わずかな誤解から兄弟が絶縁してしまったケースもあります。
どちらも「遺言ひとつ」で結果がまったく変わってしまうのです。

遺言とは、財産をどう分けるか以上に、
**“家族の心を守るための道しるべ”**です。

もしも「まだ早いかな」と思っている方も、
思い立った今が最適なタイミングです。


まとめ:遺言は“備え”であり“安心”です

相続は、いつか必ず訪れる現実です。
だからこそ、「まだ元気なうちに」準備することが、家族への何よりの贈り物になります。

  • 自筆証書遺言は気軽に書けるが、ミスのリスクがある
  • 公正証書遺言は手間はかかるが、確実で安心
  • 費用や証人、遺言執行者、そして遺留分も専門家に相談すればスムーズに進められる

司法書士として、私・時任がいつもお伝えしているのは、
**「遺言は争族を防ぐための“最後の思いやり”」**ということ。

ぜひ一度、遺留分を踏まえた上での公正証書遺言について、
私たち専門家にご相談ください。

準備を始めることで、安心が生まれてくると思います。

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