「相続」と聞くと、不動産や預貯金、有価証券といった“形ある財産”を思い浮かべる方がほとんどでしょう。しかし現代には、スマートフォンやパソコン、インターネット上に存在する「デジタル遺産」という、もう一つ無視できない重要な財産があります。
40代から70代の皆さま、ご自身やご両親の“もしもの時”に備え、デジタルの世界へ目を向けたことはありますか? 近年このデジタル遺産をめぐるトラブルは急増しており、過去8年間で相談件数は3倍以上に膨れ上がっているそうです。思わぬ問題に直面するご家庭が少なくないのが現状です。
なぜ「デジタル遺産」が家族の負担になるのか?
想像してみてください。大切な家族が突然この世を去った後、残された遺族は悲しみの中でさまざまな手続きを進めなければなりません。その過程で、次のような“デジタルの壁”にぶつかるケースが後を絶ちません。
- ネット銀行や証券口座にアクセスできない
ログイン ID やパスワードが分からなければ、残高確認も解約手続きも進みません。手続きは可能でも、膨大な時間と労力がかかります。相続人がデジタル遺産に気が付かず、相続手続きや確定申告を済ませたあとで、遺産分割協議のやり直しや修正申告となってしまうケースもあります。 - サブスク料金の支払いが続く
動画配信やオンラインストレージなどの月額サービスは、契約状況が分からなければ利用していなくても料金が引き落とされ続けてしまいます。 - 思い出やプライベートな写真・データにアクセスできない
デバイスにロックがかかっていると、写真や連絡先など大切なデータにたどり着けないことがあります。 - 知られざる秘密のデータが見つかる
故人が家族に知られたくなかった個人的情報が発見され、遺族が精神的ショックを受ける例も報告されています。
これらの問題は“他人事”ではなく、いつでも誰にでも起こり得る“自分事”です。
トラブルを未然に防ぐための「デジタル時代の備え」
司法書士としておすすめする三つの対策をご紹介します。
- ログインパスワードの共有方法を決める
- 物理メモを活用:名刺サイズの紙などにデバイスや重要サービスのパスワードを書き留め、通帳や保険証券と一緒に保管しておく。プライバシーが気になる場合は、家族だけが解読できるヒントや暗号にし、スクラッチ加工で隠すなどの工夫を。
- 緊急時情報伝達サービス:定期的に生存確認を行い、一定期間応答がない場合に指定家族へ情報を自動送信する有料サービスもあります。単身世帯や急変リスクが気になる方に有効です。
- デジタルデータを整理しプライバシーを守る
- データ整理ツールの利用:データを「重要」「開示」「秘密」の三つに分類できるアプリを活用し、相続関連情報とプライベート情報を明確に分ける。
- 生前整理を習慣化:不要データの削除や整理を定期的に行い、万が一の負担を軽減しましょう。
- 専門家へ相談する
デジタル遺産は範囲が広く、すべてを把握して対策を講じるのは容易ではありません。情報開示の範囲や管理方法、法的手続きとの連携など、専門知識が求められる場面も少なくありません。当事務所では、デジタル資産の棚卸しから具体的な対策、ご家族への情報共有まで、状況に合わせた最適なプランをご提案いたします。例えば、死後事務委任契約や遺言での対策が理想的です。
今すぐ始められる「デジタル時代の備え」
「終活」はまだ先のことと思われるかもしれませんが、デジタル遺産の問題は“突然への備え”としての性格が強いものです。まずはご自身のスマートフォンやパソコンに何が入っているか、どのサービスと契約しているかを「見える化」してみましょう。そして「誰に」「どのように」伝えるかを具体的に決めることが、家族をトラブルから守り、平穏な相続を実現する第一歩となります。
ご自身とご家族の安心のために、デジタル時代の新しい「備え」を今日から始めましょう。ご不明点やご不安があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
No comment yet, add your voice below!