第39回 「まさか、知らない親族が?」40代からの相続準備!

面識のない相続人が現れたときの手続きと解決法

ご自身の相続、またはご両親の相続について考え始めた40代から70代の皆様。
相続手続きを進める中で、予期せぬ問題に直面することがあります。

特に多いのが、
「全く交流のない親族が、戸籍上は相続人になっていた」
というケースです。

「本当に連絡を取らないといけないの?」「トラブルになるのでは?」と不安に感じるかもしれません。
しかし、ご安心ください。司法書士として、このようなケースを現場でどのように進め、解決へと導いているのかを具体的に解説します。


1. なぜ「知らない相続人」が現れるのか?

相続の手続きは、亡くなられた方(被相続人)の「戸籍調査」から始まります。
これは、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍を集めて、法律上の相続人が誰なのかを確定させる作業です。

この戸籍調査の過程で、
「あら、こんなところに相続人がいたんだ」
という事態が発覚することは、実は珍しくありません。

特に、おじい様やおばあ様、あるいは伯父様・伯母様の相続手続きを進める際に、こうしたケースが起こりやすい傾向にあります。

背景にある事情

  • 昔の方は、現在よりもお子様の人数が多いことが一般的でした。
  • 「養子縁組」によって家を出ていかれた方も多くいらっしゃいました。

例えば、おばあ様の相続手続きを進める際、養子に出されたお子様がいた場合、その方も当然に法律上の相続人となります。
もしその方がすでに亡くなっている場合、さらにそのお子様(孫世代)に相続権が移り、結果として相続人の人数が予想以上に増えていることもあります。

交流が全くないとはいえ、遺産分割協議にはその方々の協力が欠かせません。


2. 知らない相続人への最初のコンタクトと5つの重要書類

「知らない相続人がいる」と判明した場合、実務上、私たちはまずその方へお手紙を書くところから手続きをスタートさせます。

相手の方は、見ず知らずの人間から突然「あなたが相続人です」と連絡を受けて、大きな不安を感じている可能性が高いからです。
単なる事務的な手続きとして進めるのではなく、人間的な配慮が必要です。

この最初のコンタクトにおいて、私たちでは信頼と安心感を持っていただくために、5つの重要な書類を同封して送付しています。

同封する5つの書類

  1. 事情説明書
     ご依頼を受け、相続人調査を行った結果、あなたが法律上の相続人であることが判明した旨を説明します。
     また、相続手続きの流れについても丁寧に説明します。
  2. 相続関係説明図
     被相続人を中心に、誰が相続人になり、それぞれの法定相続分がどれくらいかを一目で分かる家系図形式で作成します。
     これにより、ご自身の立場と全体像を理解していただけます。
  3. 財産目録
     今回手続きの対象となっている相続財産の一覧です。
     不動産であれば所在地や評価額、預貯金であれば金融機関名や残高など、詳細をまとめて透明性を確保します。
  4. 意向確認書
     相続手続きについて、
     「協力していただけるか」「それとも難しいか」
     という意向を確認するための重要な書類です。
  5. 依頼者様の「お気持ちを伝える手紙」(最も重要)
     事務的な書類だけでは不安や警戒を感じる方もいます。
     そこで最も大切にしているのが、ご家族の「お気持ちを伝える手紙」です。

 なぜ今この手続きを進めているのか、生前の被相続人がどのような方だったのか——そうした人間的な情報を伝えることで、書類に温かみが生まれます。
 この手紙があることで印象が変わり、協力的な姿勢へつながるケースが多くあります。


3. 相手の意向確認と手続きの3つの道筋

お手紙を送付した後、多くの場合、相手の方からお電話などで連絡があります。
意向確認書に記入・返送いただくか、電話で意向を伺います。

意向確認書では、「協力する」場合でも、具体的にどのような遺産分割を希望されるかを確認します。

  • 法定相続分通りに相続するか
  • 自分は何も相続しない意思か
  • 不動産はいらないが預貯金だけは欲しい、など特定の希望があるか

また、「協力は難しい」という場合には、相続放棄を希望されるかをお聞きします。
相続放棄をすれば、その方は相続人ではなくなります。

手続きの3つの道筋

道筋1:協力していただける場合
希望に沿って遺産分割協議書を作成します。
全員が署名・実印を押印し、印鑑証明書を添付して完成。
その後、不動産の名義変更や預貯金の分配を行います。

道筋2:相続放棄を希望された場合
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行い、その方は「最初から相続人ではなかった」扱いになります。
残りの相続人で遺産分割を進めます。

道筋3:協力も放棄も難しい場合
合意形成が困難な場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
調停委員を交えて話し合い、それでも決着しない場合は審判により裁判所が決定します。
その決定内容に基づき、最終的に名義変更を行います。


4. 諦めずに解決を目指すために

相続の手続きは複雑でも、最終的には必ず何らかの形で決着します。
ただし、その結果が「自分の望んだ形」とは限りません。

相続人の構成や財産内容によっては、柔軟な調整が必要なこともあります。
「知らない相続人」とのやり取りは精神的な負担も大きいものです。

そんな時こそ、専門家である司法書士に相談いただくことで、スムーズで円満な解決への道筋を描くことができます。


【最後に】

相続は、パズルのように複雑に絡み合った人間関係と法律を、一つひとつ解きほぐしていく作業だと言えるかもしれません。

特に交流のない方が相続人になった場合、最初のコンタクトでいかに信頼関係を築くかが非常に重要です。

このプロセスは、「見知らぬ人へ心を込めた手紙を送ること」から始まります。

まずは状況を正確に把握し、最善の解決策を見つけるために、どうぞお気軽にご相談ください。