「自分はまだ大丈夫」「物忘れくらいで会社は潰れない」——もしそうお考えなら、それは非常に危険な思い込みかもしれません。
法務の現場では、社長が認知症になったことで**「会社の全機能がストップする」**という悲劇が、今この瞬間も起きています。2026年現在、中小企業の経営者の平均年齢は上昇し続けており、認知症はもはや「万が一」の病気ではなく、経営における「最大のリスク」となりました。
本記事では、なぜ社長の認知症が「会社の死」に直結するのか、その恐ろしい3つの真実をお伝えします。
1. 認知症が「会社の死」に直結する3つの理由
社長の意思表示ができなくなるということは、法的には「経営のハンドルを握る人がいなくなる」ことを意味します。具体的には、以下の3つの機能不全が会社を襲います。
① 銀行口座の凍結:給与が払えない、決済ができない
銀行は、名義人の判断能力が不十分であると知った場合、預金者の財産を守るために口座を凍結します。
これは社長個人の預金口座だけではありません。社長が実質的な決定権を持つ法人口座においても、融資の実行や契約更新の際に「社長の意思確認」ができないと判断されれば、資金調達がストップする恐れがあります。 「手元にキャッシュはあるのに、引き出せない。従業員の給与が払えない。」 この状態に陥った会社が、その後どうなるかは想像に難くありません。
② 経営決定権の喪失:会社が「意思を持たない箱」になる
多くの中小企業では、社長が筆頭株主として「議決権」を握っています。しかし、認知症で判断能力を失うと、この議決権を行使することができなくなります。
- 役員の選任・解任ができない: 後継者を役員に据えることも、引退することもできません。
- 定款の変更ができない: 時代に合わせた組織改編や、事業承継のための準備がすべて止まります。
- 重要資産の売却ができない: 会社の土地を売って資金繰りに充てる、といった経営判断も法的に無効となります。
つまり、会社が「何も決められない、動けない箱」と化してしまうのです。
③ 契約更新の停止:取引先・金融機関からの「信用失墜」
ビジネスは「信用」で成り立っています。取引先や銀行は、常に「この会社は将来も存続できるか?」を見ています。
もし、社長が認知症であることが対外的に知れ渡れば、**「この会社との契約を更新しても大丈夫か?」「誰が責任を持って判をついているのか?」**という疑念を抱かれます。最悪の場合、取引の停止や、銀行からの「債務の繰り上げ返済」を求められることすらあります。
認知症は、単なる健康問題ではありません。会社のブランドと信用を一瞬で崩壊させる「経営上の致命的なインシデント」なのです。
2. 【緊急】2026年3月末まで!「特例事業承継税制」の門が閉まります
認知症リスクという「いつ起こるかわからない不安」に加え、今すべての経営者が直面している「明確な期限」があります。
それが、「特例事業承継税制(特例承継計画)」の提出期限です。
あと2ヶ月の猶予:2026年3月31日が最終リミット
後継者が自社株を引き継ぐ際の贈与税・相続税が**「実質ゼロ」になるという、かつてない極めて有利なこの特例。その適用を受けるために必須となる「特例承継計画」の提出期限が、いよいよ2026年3月31日**に迫っています。
「まだ2ヶ月ある」と思われるかもしれません。しかし、法務・税務の手続きには、現状の株価評価、後継者の選定、遺言書の調整、そして認定経営革新等支援機関による確認など、膨大な準備が必要です。今すぐ着手しなければ、物理的に間に合わないタイミングに来ています。
認知症との「二重の罠」
ここで恐ろしいのが、第1章でお伝えした「認知症リスク」との兼ね合いです。 特例事業承継税制の活用を検討していても、提出期限までの間に社長が認知症を発症し、判断能力を失ってしまったらどうなるでしょうか?
- 計画への同意ができない: 社長本人の意思確認ができなければ、手続きは進められません。
- 贈与の実行ができない: 税制を活用するための「株の贈与」そのものが法的に不可能になります。
期限が迫る焦りの中で、社長の健康に異変が起きた瞬間、数千万〜数億円という莫大な節税チャンスが永遠に失われる。これが、今そこにあるリアルな危機なのです。
「知らなかった」では済まされない税負担の差
この期限を逃すと、従来からある「一般措置」しか使えなくなります。一般措置では納税猶予が全額ではなく、要件も格段に厳しくなります。
「うちはまだ先のことだから」と放置した結果、数年後に社長が倒れ、多額の相続税を支払うために会社を切り売りする……。そんな最悪の事態を防ぐためのラストチャンスが、この2026年3月31日なのです。
3. 【実録】「あの時やっておけば…」後悔する後継者たちの苦悩
「社長が認知症になっても、家族がなんとかすれば大丈夫だろう」 そう楽観視されている方は少なくありません。しかし、法治国家である日本では、家族であっても「法的な権限」がなければ、会社の資産や契約に触れることは一切許されません。
実際に当事務所に寄せられた、準備を後回しにしたために起きた悲劇の実例をご紹介します。
ケース1:銀行口座の凍結で「給与」が払えない
製造業を営むA社の社長(75歳)が、脳梗塞の後遺症で認知症を発症しました。 幸い命に別状はありませんでしたが、意思疎通が困難に。銀行がその事実を知った瞬間、社長名義の預金口座だけでなく、一部の法人口座も事実上の凍結状態となりました。
二代目の息子さんは「自分がサインするから」と必死に訴えましたが、銀行の回答は冷徹でした。「社長ご本人の意思確認ができない以上、出金は認められません」。 結果、毎月の従業員の給与支払いのために、息子さんは個人の貯金を切り崩し、親戚中から借金をして回るという地獄を味わうことになったのです。
ケース2:成年後見制度の罠。「経営を知らない他人」が介入してくる現実
不動産管理会社のB社長が認知症になった際、家族はやむを得ず「成年後見制度」を利用しました。 しかし、ここで大きな誤算が生じます。家庭裁判所が選任した「成年後見人」は、経営に詳しい親族ではなく、**全く面識のない専門家(弁護士や司法書士)**でした。
成年後見人の役割は、あくまで「本人の財産を守ること」です。 「新しい事業に投資したい」「節税のために資産を動かしたい」という二代目の提案に対し、後見人は**「リスクがあることは認められません」**とすべて却下。会社を成長させるための経営判断が一切できなくなり、B社は緩やかに衰退の道を辿ることになってしまいました。
4. 解決策:認知症対策×税制活用を両立させる「攻めの備え」
認知症による資産凍結を防ぎ、かつ3月31日までの税制優遇も逃さない。この二難を解決する最強のスキームが、「家族信託」を活用した事業承継です。
「経営権」と「財産権」を切り分ける
これまでの承継は「株を譲る(=経営権も財産価値も一度に移る)」という一択でした。しかし家族信託を使えば、これらを切り離して管理できます。
- 経営権(議決権): 後継者に託す。これにより、社長がもしもの時も後継者がスムーズにハンコを押せます。
- 財産権(株の価値): 社長が持ち続ける(または受益権として指定する)。
これにより、社長は「元気なうちは自分が実権を握り、認知症になった瞬間、自動的に後継者にバトンを渡す」という魔法のような設定が可能になります。成年後見制度のように、「経営を知らない外部の専門家」に会社をかき回される心配もありません。
事業承継税制との「同時並行」がカギ
2026年3月31日が期限の「特例事業承継税制」は、株を贈与することが前提ですが、実は**「信託」と組み合わせることも可能**です(※専門的な設計が必要です)。
- 特例承継計画の提出: まずは3月31日までに計画を出し、税制優遇の切符を確保する。
- 信託契約の締結: 認知症になっても計画が頓挫しないよう、法的なバックアップ(家族信託)を敷く。
この「二段構え」こそが、2026年現在、最も賢明な経営者が選んでいる選択肢です。
「まだ早い」が「もう遅い」に変わる前に
家族信託も事業承継税制も、共通する絶対条件が一つだけあります。それは、**「社長本人に、しっかりとした判断能力があること」**です。
一度でも「認知症」の診断が下り、判断能力が不十分とみなされれば、これらの高度な法的スキームは一切使えなくなります。そうなれば、残された家族や社員には、第3章で見たような「悲劇」を強いることになってしまうのです。
5. 2026年最新版!「うちの会社は間に合うか?」緊急チェックリスト
ここまでお読みいただき、「うちは大丈夫だろうか」と不安を感じられた方も多いはずです。
そこで、現在地を確認するための**「事業承継・認知症リスク診断」**を用意しました。以下の項目に1つでもチェックが入る場合は、今すぐ専門家への相談が必要です。
| チェック項目 | リスクの内容 |
| □ 社長の年齢が70歳を超えている | 統計上、認知症発症リスクが急増する年齢です。 |
| □ 「特例承継計画」をまだ提出していない | 2026年3月31日で節税のチャンスが消滅します。 |
| □ 後継者は決まっているが、株は渡していない | 社長が倒れた瞬間、経営権がロックされます。 |
| □ 顧問税理士から「認知症対策」の話がない | 税務だけでなく「法務(信託・遺言)」の備えが漏れています。 |
| □ 最近、同じ話を繰り返すことが増えた | 予兆を見逃すと、法的な契約が結べなくなります。 |
【診断結果】
チェックが1つ以上:**「黄色信号」です。今ならまだ間に合いますが、準備を急ぐ必要があります。
チェックが3つ以上:「赤信号」**です。一刻の猶予もありません。3月31日の期限、そして健康リスクの両面で「手遅れ」になる寸前です。
6. まとめ:経営者の最後の仕事は「自分がいない後」を整えること
経営者にとって、会社は人生そのものです。
これまで幾多の荒波を乗り越えてこられたことでしょう。しかし、**「自分自身の衰え(認知症)」と「法的な期限(3月31日)」**だけは、気合や根性で乗り越えることはできません。
もし、今あなたが対策を後回しにすれば、苦労するのは残されたご家族や、あなたを信じてついてきた従業員たちです。
- 事業承継税制で、会社のお金を守る。
- 家族信託で、会社の経営権を守る。
この2つを同時に進められる時間は、もう残りわずかです。
「あの時、相談しておけばよかった」と後悔する前に、まずはご相談ください。
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