司法書士の時任です。
ご自身の老後の備えや、ご両親の今後の資産管理について「そろそろ真剣に考えなければ」と思われている40代から70代の方は多いのではないでしょうか。
特に、ご両親がアパートなどの賃貸経営をされている場合、万が一、親御さんが認知症になってしまったら、その大切な資産はどうなってしまうのか、不安を感じるかもしれません。
今回は、**アパート経営者が認知症になっても、資産の管理や運用を円滑に継続するための画期的な対策、「家族信託」**について、具体的に解説いたします。
認知症で困る前に!アパート経営を円滑に引き継ぐ「家族信託」徹底解説
1. アパート経営者が「認知症」になると、なぜ困るのか?
賃貸経営者が認知症になると、経営に大きな支障が出ます。
なぜなら、重要な契約行為ができなくなるためです。
親御さんが認知症になると、以下のような問題が発生し、アパート経営が事実上ストップしてしまう可能性があります。
- 預金口座からの引き出しができない
→ アパートの賃料が入る銀行口座からお金を下ろせなくなり、必要な経費や税金の支払いができなくなります。 - 新しい入居者との契約が結べない
→ 入居希望者が現れても、賃貸借契約を結ぶことができません。 - 大規模修繕やリフォームの契約ができない
→ 建物の維持管理に必要な修繕契約が締結できません。 - 資産活用や売却ができない
→ 不動産の売却や建て替えといった資産活用ができなくなります。
こうした事態に備えずにいると、経営が滞り、資産価値が下落するリスクに直面します。
2. 成年後見制度では不十分な「資産活用」
認知症になってしまった場合の対策として「成年後見制度」がありますが、この制度にも限界があります。
成年後見制度を利用すれば、財産の管理や経費の支払いは可能になる場合もあります。
しかし、後見人はご本人の財産を「守る」ことを目的としているため、資産を積極的に活用する行為(投資)には制限がかかります。
例えば、
- 大規模修繕やリフォーム → 投資と捉えられると実行できない可能性があります。
- アパートの建設や投資用物件の購入 → 基本的にできません。
- 相続税対策のための不動産売却 → これも難しくなります。
また、財産が多い方の場合は、弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選任される可能性が高く、その場合、継続的に後見人への報酬が発生します。
3. 「家族信託」の仕組みと登場人物
そこで有効な対策となるのが「家族信託」です。
家族信託とは、ご本人の判断能力がしっかりしているうちに、信頼できる家族(主に子ども)との間で信託契約を結び、ご本人の財産管理・処分を託す仕組みです。
家族信託では、財産を巡る登場人物が3つの立場に分かれます。
| 立場 | 役割 | 具体例(アパート経営のケース) |
|---|---|---|
| 委託者(いたくしゃ) | 元々財産を所有していた人 | 親御さん(アパートの所有者) |
| 受託者(じゅたくしゃ) | 財産を託され、管理・処分をする人 | お子さん(契約に基づきアパートを管理) |
| 受益者(じゅえきしゃ) | 信託財産から利益(賃料)を受け取る人 | 親御さん(アパート経営の利益を受け取る) |
この場合、親御さんは「委託者」であり、「受益者」を兼ねることが一般的です。
4. 家族信託で「できること」を具体的に定める
親御さんとお子さんの間で信託契約を結び、アパートを子どもに信託(託す)します。
信託契約書の中では、お子さん(受託者)にどのような権限を与えるかを細かく定めておきます。
受託者に与えられる権限の例
- 不動産を管理する権限
- 入居者と賃貸借契約を結ぶ権限
- 大規模修繕やリフォームを行う権限
- 状況に応じて、不動産を売却・建て替えする権限
- 新たな不動産を購入する権限(資産活用)
これにより、家族信託を組んだ後に親御さんが認知症になっても、お子さんが契約書に基づいて必要な手続きを問題なく進めることができます。
賃料の受け取りやリフォーム契約など、日常的な経営行為が滞りなく継続できます。
5. 信託財産の管理とお金の流れ
お子さんがアパートの管理を続け、入居者から賃料を受け取りますが、そのお金はお子さん個人のものではありません。
受託者であるお子さんは、受け取った賃料から必要な経費を支払い、賃貸経営を続けます。
そのお金は「信託専用の口座」で厳密に管理され、受益者である親御さんのために使われます。
具体的には、
- 親御さんの生活費として渡す
- 医療費や介護費の支払いに充てる
といった使い方が想定されます。
6. 相続発生時(二次相続)への備え
家族信託の大きなメリットの一つは、親御さん(委託者・受益者)が亡くなった後の資産の行方を、あらかじめ契約で指定できることです。
信託契約書に「信託の終了の仕方」や「帰属権利者(財産の承継者)」を定めておくことができます。
ケース1:親御さんの死亡で信託を終了する場合
信託を終了させ、残った信託財産を契約書で指定した帰属権利者(配偶者やお子さんなど)に引き継がせます。
受託者であるお子さんは、不動産の名義を帰属権利者に移転登記し、信託口座の残金を個人口座に振り込んで引き渡します。
ケース2:親御さんの死亡後も信託を継続する場合(二次相続対策)
信託を継続させ、引き続きお子さん(受託者)がアパートの管理を続けます。
この場合、信託契約書の中で次の受益者を定めておきます。
たとえば、次の受益者を配偶者(お子さんから見ればお母さん)とすれば、亡くなったお父様に代わり、その後の利益はお母様の生活費や医療費に充てることができます。
さらに、次の受益者(お母さん)が亡くなった後の財産の承継者についても指定可能です。
このように、家族信託は数代にわたる資産承継の設計を可能にする強力なツールなのです。
7. 家族信託を検討すべきタイミング
家族信託は、認知症対策としての財産管理に非常に有効です。
しかし、親御さんが信託の仕組みや契約内容を理解できない状態(認知症など)になってしまうと、家族信託を組むことはできません。
そのため、親御さんの判断能力がしっかりしているうちに、早めに専門家にご相談いただくことが重要です。
アパート経営という大切な資産を家族で守り、未来へ活かし続けるために、家族信託の活用をぜひ検討してみてください。
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