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相続時の預金の取り扱いでよくある疑問5選|口座凍結・税金・仏壇費用まで

相続が発生すると、故人名義の預金口座をどのように扱えば良いのか、様々な疑問や不安が生じることがあります。司法書士として相続のご相談をお受けする際にも、預金に関するご質問は非常に多く寄せられます。

例えば、「亡くなる前に故人の預金を引き出して使っても良いのか?」「亡くなった後、口座は凍結されてしまうのか?」「相続した預金で相続税を払っても問題ないのか?」といったことです。これらの疑問について、今回は5つのポイントに分けて分かりやすく解説いたします。(一部税務に関する記載がありますが、当職は税理士ではございません。ご参考程度にして頂き税理士にご確認頂きますようお願いします)

  1. 亡くなった方の預金、いつ引き出せる?(相続開始前後の対応)

相続が発生すると、お通夜や葬式など様々な費用が発生し、手元にお金が必要となる場面が多くあります。そのため、故人が入院中に、今後の葬儀費用などに充てるため、あるいは口座凍結を懸念して、亡くなる直前にご家族が故人の預金を引き出しておく、という話はよく聞かれます。これらの行為自体は、他の相続人の方々の了解を得て行う分には、特に問題となることはありません。

しかし、注意が必要なのは、相続税の申告における財産の評価です。相続税における財産評価は、原則として、亡くなった方(被相続人)が亡くなられた当日における財産の価値に基づいて行われます。預貯金や不動産、その他の財産や負債などが含まれます。

例えば、故人が亡くなる直前に、今後の費用に充てる目的で預金口座から300万円を引き出したとします。亡くなった当日の口座残高は、引き出し後の1700万円となります。一見、故人の財産が減ったように見えますが、税務上の評価においては注意が必要です。引き出された300万円は、形を変えて故人の財産として存在していると考えられます。したがって、相続税の申告では、引き出し後の口座残高1700万円と、手元にある現金300万円を合わせた2000万円が故人の預貯金等として計上されるべき、ということになります。安易に引き出し後の口座残高のみで申告すると、過少申告とみなされ、税務調査の際に指摘を受ける可能性があります。

相続税の申告においては、亡くなった日時点での預貯金残高と、引き出されて現金として手元にある分を合わせて計上します。その上で、実際に支払った葬儀費用などは、別途債務控除として差し引くという手続きをとります。固定資産税や入院費、公共料金なども同様に扱われます。

一方、相続が発生した後に、故人の預金を引き出すこと自体は、税務上の問題は生じにくいと言えます。なぜなら、相続財産の評価は亡くなった日時点で行われるためです。この場合も、他の相続人の了解を得て行うことが重要です。遺産分割協議がまとまっていれば、口座名義人以外の方でも手続きにより引き出しが可能になります。

  1. 口座が凍結されたらどうする? 一部を引き出す方法は?

「口座が凍結されてお金が引き出せなくなる」という話を聞いてご心配される方もいますが、実は銀行は自動的に口座名義人の死亡情報を把握しているわけではありません。ご家族が亡くなられたことを銀行に知らせなければ、多くの場合、すぐに口座が凍結されることはありません。

しかし、遺産分割協議がまとまる前に、銀行の窓口で故人の口座から多額(目安として50万円以上)の引き出しを試みたり、残高証明書を取得しようとしたりすると、銀行は口座名義人の死亡を認識し、口座が凍結される可能性があります。口座が凍結されると、原則として相続人全員の同意や、遺産分割協議書などの手続きを経て、凍結解除の手続きをしないとお金を引き出せなくなります。

ただし、2019年7月1日からは、遺産分割協議が完了する前でも、一定の要件を満たせば、故人の預金から生活費や葬儀費用などに充てるために、「仮払い制度」を利用して一部を引き出すことができるようになりました。引き出せる額には上限があり、口座残高に応じた法定相続分の3分の1まで、かつ最大150万円までとなっています。他の相続人の同意を得ずに手続きを進めることも可能ですが、後々のトラブルを防ぐためにも、他の相続人への配慮は重要です。

また、遺産分割協議がまとまる前に一部の相続人が勝手に預金を引き出す行為は、他の相続人との間で争いの火種となる可能性があるため、十分な注意が必要です。さらに、故人に借金が多く相続放棄を検討している場合に、安易に預金を引き出してしまうと、相続放棄ができなくなる場合もあります。

  1. お墓や仏壇の購入費用、相続財産から引ける?

相続税の計算において、故人の借金(債務)や葬儀にかかった費用は、相続財産から差し引いて計算することができます(債務控除、葬式費用控除)。では、故人のためにお墓や仏壇を購入した費用は、この控除の対象となるのでしょうか?

亡くなられた後にご家族が故人のためにお墓や仏壇を購入した場合、その費用は相続税計算上の「債務控除」の対象とはなりません。つまり、相続財産から購入費用分を差し引いて相続税を計算することはできない、ということです。

一方、故人が生前にご自身の預金などでお墓や仏壇を購入されていた場合、これらの祭祀財産は相続税法上「非課税財産」とされており、相続財産に含めなくて良いとされています。故人生前にご自身の財産で購入しておけば、その購入費用で資産は減少し、購入したお墓や仏壇は非課税財産として相続されるため、結果として相続税の負担を軽減できる可能性があると言えます。

  1. 相続税の支払い、相続した預金からでも大丈夫?

「被相続人から相続した財産を使って相続税を支払ってはいけない」という話を聞いて、不安に思われる方がいらっしゃるようですが、そのような法律上の制限は一切ありません。ご安心ください。多くの相続人の方が、相続によって得た預貯金などから相続税を支払われています。ご自身の固有の預金から支払っていただいても全く問題ありません。

ただし、相続財産の大部分が不動産で、預貯金などの現金資産が少ない場合、相続税を支払うための現金が不足し、納税に苦労する可能性があります。このような事態を防ぐため、財産を残す側のご両親などは、遺族が相続税の支払いに困らないよう、生前のうちから現預金をある程度確保しておいたり、不動産の一部を持分贈与するなどして対策を検討することが望ましいでしょう。専門家である税理士などに相談し、計画的に対策を進めることをお勧めします。

  1. 遺産をまとめて分配するのは贈与?

遺産分割協議がまとまった後、相続財産である預金などを代表相続人(例:長男)の口座に一度集約し、そこから各相続人の口座へ、協議で定めた割合に応じて分配するという手続きをとる場合があります。この場合、代表相続人の口座を経由したとしても、それは遺産分割の履行として行われるものであり、贈与には該当しません。贈与税がかかる心配はありませんのでご安心ください。

通常、家族間でも年間110万円を超える財産のやり取りには贈与税がかかる可能性がありますが、相続財産の分配はこれとは異なる扱いとなります。

まとめ

相続における預金は、日常生活と密接に関わるため、多くの疑問が生じやすい部分です。適切な知識がないまま手続きを進めると、他の相続人とのトラブルに発展したり、税務上の問題が生じたり、場合によっては相続放棄ができなくなるといったリスクもあります。

特に、相続開始前後の預金の引き出しについては、税務上の注意点や、他の相続人との事前の話し合いが不可欠です。また、遺産分割協議がまとまる前に預金を引き出す場合は、口座凍結のリスクや、「仮払い制度」の利用を検討するなど、慎重な対応が求められます。

相続手続きは複雑で、預金一つをとっても様々な注意点が存在します。ご自身の状況に合わせて、適切な手続きを進めるためには、専門家である司法書士にご相談いただくことをお勧めします。当事務所では、預貯金の解約、遺産分割協議の支援や相続登記など、相続手続き全般をサポートさせて頂きます。

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