第50回 【親なき後問題】障がいのある子の生活費、どう守る?「使い込み」と「管理不能」を防ぐ家族信託の仕組み

こんにちは、司法書士の時任です。

障がいをお持ちのお子様がいる親御さんから、このような切実なお声を聞きます。

「私たちが死んだ後、あの子はお金の管理ができるだろうか?」 「遺した財産をすぐに使い果たしてしまわないだろうか?」

遺言書でお金を残すことはできます。しかし、「そのお金をどう使うか」までは、遺言書ではコントロールできません

今回は、お子様がご両親亡き後も安定した生活を送るために有効な**「福祉型信託(親なき後支援信託)」**について、解説します。

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なぜ、ただ「相続」させるだけではダメなのか?

例えば、収益不動産(アパート)やまとまった現金を、障がいのあるお子様にそのまま相続させたとします。そこには2つの大きなリスクがあります。

1. 財産管理ができないリスク アパート経営には、入居者との契約や修繕の手配など、高度な判断能力が必要です。もしお子様に判断能力が不足している場合、契約行為ができず、実質的に経営がストップしてしまう恐れがあります。

2. 浪費・使い込みのリスク 金銭管理が苦手なお子様の場合、手元にある現金をすぐに使い切ってしまう可能性があります。一度渡してしまった財産を、親戚であっても横から口出しして止めることは法的に難しいのです。

成年後見制度を使う手もありますが、財産が凍結され柔軟な活用ができなくなるケースもあり、ご家族が躊躇されることも少なくありません。

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解決策:「管理」と「利益」を分ける家族信託

そこで活用したいのが**「家族信託」です。これは、信頼できる家族(きょうだい等)に財産の「管理」を託し、障がいのあるお子様には「利益(生活費)」**だけを渡す仕組みです,。

【事例】アパートオーナーのお父さんのケース

父: アパートと現金を所有。

長女: 知的障がいがあり、金銭管理ができない。

次女: しっかり者で、近くに住んでいる。

お父様は、次のような信託契約を結びました,。

ステップ1:元気なうちに次女へ託す お父様は次女(受託者)にアパートと現金の管理を任せます。名義は形式上、次女に移りますが、家賃収入などの利益はまずお父様の老後資金として使います。

ステップ2:親亡き後は長女へ お父様が亡くなった後、その「利益を受け取る権利」は長女へ移ります。 ここが重要です。アパートの管理や大きなお金の管理は引き続き次女が行い、長女には「毎月の生活費」として決まった額を渡すように設定します

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この仕組みの3つのメリット

① お子様の「生活」を守れる 管理役である次女(または信託銀行等の専門家)が財布の紐を握るため、長女が一度に全財産を使い果たすことを防げます。長女は面倒なアパート経営に関わらず、安定した収入だけを受け取れます。

② 柔軟な資産運用が可能 次女に法的な管理権限があるため、将来アパートが古くなっても、次女の判断で修繕や建て替え、あるいは売却して現金化することがスムーズに行えます。

③ 「その次」まで決められる(受益者連続型信託) さらに、「長女が亡くなった後は、お世話をしてくれた次女(またはその子供)に財産を継承させる」と決めておくことができます,。 これにより、最終的に大切な資産が家系以外に散逸することを防げます。


【番外編】最大6,000万円が非課税に!「特定贈与信託」という選択肢

ここまで解説した「家族信託」は、ご家族同士で柔軟にルールを決めるものでしたが、実はもう一つ、障がいのあるお子様のために税金面で非常に有利な国の制度があります。

それが、信託銀行などが取り扱っている**「特定贈与信託」**です。

これは、親御さんが信託銀行にお金を預け、そこからお子様に定期的に生活費や医療費を払い出す仕組みです。 最大のメリットは、贈与税が非課税になる点です。通常、年間110万円を超えるお金を渡すと贈与税がかかりますが、この制度を使えば、まとまったお金を無税でお子様のために確保できます。

障がいの程度による非課税限度額

重度の障がいがある方(特別障害者): 6,000万円まで非課税 (対象:重度の精神障がい、身体障害者手帳1・2級、療育手帳の重度判定など)

中軽度の障がいがある方(特定障害者): 3,000万円まで非課税 (対象:中軽度の知的障がい、精神障害者保健福祉手帳2・3級など)

「家族信託」とどう使い分ける?

家族信託(今回のメインテーマ): 家族が管理します。不動産の管理や、将来の資産承継先の指定など、「オーダーメイドの管理」が得意です。

特定贈与信託: 信託銀行が管理します。対象は主に金銭で、「非課税での資金確保」と「定期給付」に特化しています。

「不動産は家族信託で守り、まとまった現金は特定贈与信託で非課税にする」といったように、これらを組み合わせて対策される方もいらっしゃいます。 なお、特定贈与信託を利用するには、取り扱いのある信託銀行等の窓口で手続きを行う必要があります。


まとめ:頼れる親族がいない場合は?

「うちは頼れる兄弟がいない」という場合でも、法人を受託者(管理する人)に設定する方法があります。

親なき後の対策は、親御さんに判断能力がある元気なうちしかできません。 「あの子のために何を残せるか」ではなく、「どう残せばあの子が幸せに暮らせるか」

その答えの一つが家族信託です。ご家族ごとの事情に合わせた設計が必要ですので、まずは一度、司法書士事務所TOKITOまでご相談ください。

第49回 「介護してくれた長女に全財産を」その遺言が、最愛の娘を地獄に突き落とす? 知らないと怖い「遺留分」の罠と、家族を守る3つの秘策

「最後は、ずっとそばにいてくれた長女に報いたい」 その温かい親心、そして決断。司法書士として多くの現場を見てきた私は、その尊さを誰よりも理解しているつもりです。

しかし、その想いを「全財産を長女に相続させる」という一行の遺言に託すだけで終わらせてはいけません。なぜなら、その一言があなたの死後、最愛の娘さんを「泥沼の裁判沙汰」に引きずり込む火種になってしまうからです。

「うちは仲が良いから大丈夫」 「他の兄弟も、介護の苦労を考えれば納得してくれるはず」

その期待は、法律という冷徹なルールの前では無力です。あなたの想いを守り、家族の絆を壊さないために、まずは「遺留分」という恐ろしい落とし穴について知ってください。

1. なぜ「全財産を長女に」という遺言は危険なのか?

日本の法律には、亡くなった方の意思(遺言)よりも優先される、極めて強力な権利があります。それが**「遺留分(いりゅうぶん)」**です。

遺留分は「法律が認めた最低限の取り分」

たとえ遺言に「誰々にすべてを」と書かれていても、残された家族(配偶者や子供など)には、最低限の財産を受け取る権利が保障されています。

ここで、プロとして知っておいていただきたい重要なポイントがあります。

【ここが重要!】遺留分がある人と、ない人

  • 遺留分がある人: 配偶者、子供(直系卑属)、親(直系尊属)
  • 遺留分がない人: 「兄弟姉妹」

つまり、あなたが「自分の兄弟(叔父・叔母)」に財産を渡さない遺言を書くのは比較的安全ですが、「子供たちの間で差をつける」場合は、この遺留分が最大の障壁となります。

【計算例】3,000万円の財産がある場合

例えば、相続人が長女と長男の2人で、全財産が3,000万円(自宅と預金)だとします。

あなたが「長女にすべて」と書いた場合、長男が主張できる遺留分は以下のようになります。

$$3,000万円 \times \frac{1}{2}(法定相続分) \times \frac{1}{2}(遺留分率) = 750万円$$

長男は長女に対し、**「俺の取り分である750万円を支払え」**と正当に要求できてしまうのです。

2. 実例公開! 遺留分が招く「最悪の二次被害」

この「遺留分」、実は2019年の法改正によって、受け継ぐ側(今回の例では長女さん)にとってさらに厳しいものになりました。

「不動産を分けろ」ではなく「今すぐ現金で払え」

かつては遺留分として「土地の一部」を渡すこともありましたが、現在は**「現金での支払い(遺留分侵害額請求)」**が原則です。

  • 家しか財産がない時の悲劇: 長女さんが「お父さんと住んだこの家に住み続けたい」と願っても、預金がなければ、長男に支払う750万円を作るために、住み慣れた家を売却するか、多額の借金をするしかなくなるのです。

葬儀の翌日に届く内容証明

「介護を丸投げしていた長男が、お金の話だけは一人前……」 そんな親族間のわだかまりは、相続が発生した瞬間に一気に噴き出します。昨日まで葬儀で手を取り合っていた家族が、翌日には弁護士を通じて届く「内容証明郵便」によって、一生修復不可能な関係へと変わる。これが相続現場のリアルです。

あなたの「感謝」を形にしたはずの遺言が、娘さんに「借金」や「家の売却」を強いる結果になっては本末転倒です。 では、この法律の壁をどう乗り越えればいいのでしょうか?

3. プロが教える「争族」を防ぐ3つの防衛策

法律で決まっている「遺留分」そのものを消し去ることは簡単ではありません。しかし、司法書士の知恵を使えば、**「請求させない空気を作る」ことや「請求されても困らない準備」**をすることは十分に可能です。

① 遺言書の「付言事項(ふげんじこう)」で、わだかまりを解きほぐす

遺言書には、財産配分を指定する「法的効力のある部分」の他に、家族へのメッセージを残せる「付言事項」という欄があります。

実は、相続争いの引き金は「お金」だけでなく、「なぜ自分は軽視されたのか」という感情的なわだかまりであることがほとんどです。

  • プロのアドバイス: 単に「長女に全部やる」と書くのではなく、「長男にも感謝しているが、長女にはこれだけの介護負担をかけた。その埋め合わせとしてこの配分にした。どうか長女を責めず、仲良くやってほしい」と、あなたの「言葉」で理由を語るのです。これが、残された家族の心のトゲを抜き、わだかまりを解きほぐす最大の手立てになります。

② 「生命保険」を使い、長女に「戦う武器(現金)」を遺す

2019年の法改正で、遺留分は「現金」で払わなければならなくなりました。ならば、最初から長女さんが支払いに困らないだけの現金を用意しておけばいいのです。

  • 活用術: 受取人を長女にした生命保険に入っておくと、その保険金は「長女固有の財産」となり、原則として遺産分割や遺留分の対象外になります。もし長男から「750万円払え」と言われても、保険金から即座に支払うことができれば、住み慣れた家を売る必要はなくなります。

③ 「生前贈与」と「遺留分の放棄」の合わせ技

もし、ご家族の間で事前に話し合いができる状態であれば、家庭裁判所の許可を得て、あらかじめ特定の相続人に**「遺留分を放棄」**してもらう手続きも存在します。

  • 注意点: これは非常に強力な手段ですが、無理強いは禁物です。生前贈与と組み合わせるなど、バランスの取れた設計が求められます。まさに専門家のコンサルティング能力が問われる領域です。

4. 「幸せな相続」か「不幸な争い」か。分かれ道は「事前の診断」

「遺言書さえ書けば安心」というのは、大きな誤解です。 不備のある自筆の遺言書は、かえって家族の対立を激化させ、無効になるリスクさえはらんでいます。

大切なのは、**「あなたの死後、誰が、いくら請求できる権利を持っているのか」**をあらかじめ可視化し、それに対する「防具」をセットで用意しておくことです。

当事務所では、単なる書類作成代行ではなく、以下のステップであなたの「想い」を形にします。

  1. 遺留分リスクのシミュレーション: 現状で誰がいくら請求できるかを算出。
  2. 最適な「防衛策」の立案: 保険、生前贈与、付言事項の組み合わせを提案。
  3. 公正証書遺言の作成: 偽造や紛失のリスクをゼロにし、確実に執行できる状態へ。

5. まとめ:あなたの代で「負の連鎖」を断ち切るために

「介護してくれた娘に報いたい」というあなたの愛情は、何物にも代えがたいものです。その愛情を、決して「争いの種」に変えてはいけません。

法律は時に冷酷ですが、使いこなせば最強の「守り」になります。あなたが元気な今だからこそできる対策が必ずあります。

まずは一度、あなたの手元にある資料を持ってご相談ください。あなたの「わだかまり」を解き、ご家族が笑顔で明日を迎えられるための「出口戦略」を、一緒に描き出しましょう。

第48回 【警告】認知症で「ハンコ」が押せない!資産凍結リスクと、目前に迫る「事業承継税制」の最終期限

「自分はまだ大丈夫」「物忘れくらいで会社は潰れない」——もしそうお考えなら、それは非常に危険な思い込みかもしれません。

法務の現場では、社長が認知症になったことで**「会社の全機能がストップする」**という悲劇が、今この瞬間も起きています。2026年現在、中小企業の経営者の平均年齢は上昇し続けており、認知症はもはや「万が一」の病気ではなく、経営における「最大のリスク」となりました。

本記事では、なぜ社長の認知症が「会社の死」に直結するのか、その恐ろしい3つの真実をお伝えします。


1. 認知症が「会社の死」に直結する3つの理由

社長の意思表示ができなくなるということは、法的には「経営のハンドルを握る人がいなくなる」ことを意味します。具体的には、以下の3つの機能不全が会社を襲います。

① 銀行口座の凍結:給与が払えない、決済ができない

銀行は、名義人の判断能力が不十分であると知った場合、預金者の財産を守るために口座を凍結します。

これは社長個人の預金口座だけではありません。社長が実質的な決定権を持つ法人口座においても、融資の実行や契約更新の際に「社長の意思確認」ができないと判断されれば、資金調達がストップする恐れがあります。 「手元にキャッシュはあるのに、引き出せない。従業員の給与が払えない。」 この状態に陥った会社が、その後どうなるかは想像に難くありません。

② 経営決定権の喪失:会社が「意思を持たない箱」になる

多くの中小企業では、社長が筆頭株主として「議決権」を握っています。しかし、認知症で判断能力を失うと、この議決権を行使することができなくなります。

  • 役員の選任・解任ができない: 後継者を役員に据えることも、引退することもできません。
  • 定款の変更ができない: 時代に合わせた組織改編や、事業承継のための準備がすべて止まります。
  • 重要資産の売却ができない: 会社の土地を売って資金繰りに充てる、といった経営判断も法的に無効となります。

つまり、会社が「何も決められない、動けない箱」と化してしまうのです。

③ 契約更新の停止:取引先・金融機関からの「信用失墜」

ビジネスは「信用」で成り立っています。取引先や銀行は、常に「この会社は将来も存続できるか?」を見ています。

もし、社長が認知症であることが対外的に知れ渡れば、**「この会社との契約を更新しても大丈夫か?」「誰が責任を持って判をついているのか?」**という疑念を抱かれます。最悪の場合、取引の停止や、銀行からの「債務の繰り上げ返済」を求められることすらあります。

認知症は、単なる健康問題ではありません。会社のブランドと信用を一瞬で崩壊させる「経営上の致命的なインシデント」なのです。

2. 【緊急】2026年3月末まで!「特例事業承継税制」の門が閉まります

認知症リスクという「いつ起こるかわからない不安」に加え、今すべての経営者が直面している「明確な期限」があります。

それが、「特例事業承継税制(特例承継計画)」の提出期限です。

あと2ヶ月の猶予:2026年3月31日が最終リミット

後継者が自社株を引き継ぐ際の贈与税・相続税が**「実質ゼロ」になるという、かつてない極めて有利なこの特例。その適用を受けるために必須となる「特例承継計画」の提出期限が、いよいよ2026年3月31日**に迫っています。

「まだ2ヶ月ある」と思われるかもしれません。しかし、法務・税務の手続きには、現状の株価評価、後継者の選定、遺言書の調整、そして認定経営革新等支援機関による確認など、膨大な準備が必要です。今すぐ着手しなければ、物理的に間に合わないタイミングに来ています。

認知症との「二重の罠」

ここで恐ろしいのが、第1章でお伝えした「認知症リスク」との兼ね合いです。 特例事業承継税制の活用を検討していても、提出期限までの間に社長が認知症を発症し、判断能力を失ってしまったらどうなるでしょうか?

  • 計画への同意ができない: 社長本人の意思確認ができなければ、手続きは進められません。
  • 贈与の実行ができない: 税制を活用するための「株の贈与」そのものが法的に不可能になります。

期限が迫る焦りの中で、社長の健康に異変が起きた瞬間、数千万〜数億円という莫大な節税チャンスが永遠に失われる。これが、今そこにあるリアルな危機なのです。

「知らなかった」では済まされない税負担の差

この期限を逃すと、従来からある「一般措置」しか使えなくなります。一般措置では納税猶予が全額ではなく、要件も格段に厳しくなります。

「うちはまだ先のことだから」と放置した結果、数年後に社長が倒れ、多額の相続税を支払うために会社を切り売りする……。そんな最悪の事態を防ぐためのラストチャンスが、この2026年3月31日なのです。

3. 【実録】「あの時やっておけば…」後悔する後継者たちの苦悩

「社長が認知症になっても、家族がなんとかすれば大丈夫だろう」 そう楽観視されている方は少なくありません。しかし、法治国家である日本では、家族であっても「法的な権限」がなければ、会社の資産や契約に触れることは一切許されません。

実際に当事務所に寄せられた、準備を後回しにしたために起きた悲劇の実例をご紹介します。

ケース1:銀行口座の凍結で「給与」が払えない

製造業を営むA社の社長(75歳)が、脳梗塞の後遺症で認知症を発症しました。 幸い命に別状はありませんでしたが、意思疎通が困難に。銀行がその事実を知った瞬間、社長名義の預金口座だけでなく、一部の法人口座も事実上の凍結状態となりました。

二代目の息子さんは「自分がサインするから」と必死に訴えましたが、銀行の回答は冷徹でした。「社長ご本人の意思確認ができない以上、出金は認められません」。 結果、毎月の従業員の給与支払いのために、息子さんは個人の貯金を切り崩し、親戚中から借金をして回るという地獄を味わうことになったのです。

ケース2:成年後見制度の罠。「経営を知らない他人」が介入してくる現実

不動産管理会社のB社長が認知症になった際、家族はやむを得ず「成年後見制度」を利用しました。 しかし、ここで大きな誤算が生じます。家庭裁判所が選任した「成年後見人」は、経営に詳しい親族ではなく、**全く面識のない専門家(弁護士や司法書士)**でした。

成年後見人の役割は、あくまで「本人の財産を守ること」です。 「新しい事業に投資したい」「節税のために資産を動かしたい」という二代目の提案に対し、後見人は**「リスクがあることは認められません」**とすべて却下。会社を成長させるための経営判断が一切できなくなり、B社は緩やかに衰退の道を辿ることになってしまいました。

4. 解決策:認知症対策×税制活用を両立させる「攻めの備え」

認知症による資産凍結を防ぎ、かつ3月31日までの税制優遇も逃さない。この二難を解決する最強のスキームが、「家族信託」を活用した事業承継です。

「経営権」と「財産権」を切り分ける

これまでの承継は「株を譲る(=経営権も財産価値も一度に移る)」という一択でした。しかし家族信託を使えば、これらを切り離して管理できます。

  • 経営権(議決権): 後継者に託す。これにより、社長がもしもの時も後継者がスムーズにハンコを押せます。
  • 財産権(株の価値): 社長が持ち続ける(または受益権として指定する)。

これにより、社長は「元気なうちは自分が実権を握り、認知症になった瞬間、自動的に後継者にバトンを渡す」という魔法のような設定が可能になります。成年後見制度のように、「経営を知らない外部の専門家」に会社をかき回される心配もありません。

事業承継税制との「同時並行」がカギ

2026年3月31日が期限の「特例事業承継税制」は、株を贈与することが前提ですが、実は**「信託」と組み合わせることも可能**です(※専門的な設計が必要です)。

  1. 特例承継計画の提出: まずは3月31日までに計画を出し、税制優遇の切符を確保する。
  2. 信託契約の締結: 認知症になっても計画が頓挫しないよう、法的なバックアップ(家族信託)を敷く。

この「二段構え」こそが、2026年現在、最も賢明な経営者が選んでいる選択肢です。

「まだ早い」が「もう遅い」に変わる前に

家族信託も事業承継税制も、共通する絶対条件が一つだけあります。それは、**「社長本人に、しっかりとした判断能力があること」**です。

一度でも「認知症」の診断が下り、判断能力が不十分とみなされれば、これらの高度な法的スキームは一切使えなくなります。そうなれば、残された家族や社員には、第3章で見たような「悲劇」を強いることになってしまうのです。

5. 2026年最新版!「うちの会社は間に合うか?」緊急チェックリスト

ここまでお読みいただき、「うちは大丈夫だろうか」と不安を感じられた方も多いはずです。

そこで、現在地を確認するための**「事業承継・認知症リスク診断」**を用意しました。以下の項目に1つでもチェックが入る場合は、今すぐ専門家への相談が必要です。

チェック項目リスクの内容
□ 社長の年齢が70歳を超えている統計上、認知症発症リスクが急増する年齢です。
□ 「特例承継計画」をまだ提出していない2026年3月31日で節税のチャンスが消滅します。
□ 後継者は決まっているが、株は渡していない社長が倒れた瞬間、経営権がロックされます。
□ 顧問税理士から「認知症対策」の話がない税務だけでなく「法務(信託・遺言)」の備えが漏れています。
□ 最近、同じ話を繰り返すことが増えた予兆を見逃すと、法的な契約が結べなくなります。

【診断結果】

チェックが1つ以上:**「黄色信号」です。今ならまだ間に合いますが、準備を急ぐ必要があります。

チェックが3つ以上:「赤信号」**です。一刻の猶予もありません。3月31日の期限、そして健康リスクの両面で「手遅れ」になる寸前です。


6. まとめ:経営者の最後の仕事は「自分がいない後」を整えること

経営者にとって、会社は人生そのものです。

これまで幾多の荒波を乗り越えてこられたことでしょう。しかし、**「自分自身の衰え(認知症)」と「法的な期限(3月31日)」**だけは、気合や根性で乗り越えることはできません。

もし、今あなたが対策を後回しにすれば、苦労するのは残されたご家族や、あなたを信じてついてきた従業員たちです。

  • 事業承継税制で、会社のお金を守る。
  • 家族信託で、会社の経営権を守る。

この2つを同時に進められる時間は、もう残りわずかです。

「あの時、相談しておけばよかった」と後悔する前に、まずはご相談ください。

第47回 1円でも売れない「負動産」を合法的に手放す方法 相続土地国庫帰属制度の落とし穴と、プロが教える現実的な解決策

「親が残してくれた土地だから、大切にしなければ……」

そう思っていたはずなのに、気づけば毎年の固定資産税や草むしりの管理費用、そして「もし何かあったら」という心理的な重荷に。

今、こうした**「負動産(ふどうさん)」**に悩む方が増えています。

特に2023年からスタートした**「相続土地国庫帰属制度」は、「いらない土地を国が引き取ってくれる」という夢のような制度として期待されました。しかし、いざ蓋を開けてみると、そこには一般の方が一人で突破するには高すぎる壁**がいくつも存在しています。

「国が引き取ってくれると思っていたのに、審査で落とされた」

「結局、手放すために数百万円の持ち出しが必要になった」

そんな後悔をしないために、まずはこの制度の「残酷な真実」を知ることから始めてください。


1. 「相続土地国庫帰属制度」は救世主か? 制度の基本を整理

これまで、一度相続した土地は「いらないから捨てる」という選択肢がありませんでした。それを、一定の条件を満たせば国に返還できる(所有権を移転できる)ようにしたのが、この制度です。

背景には、2024年4月から始まった**「相続登記の義務化」**があります。

「放置しておけばいい」という逃げ道が事実上なくなり、過料(罰金)のリスクが発生する中で、国もようやく「手放すための出口」を用意した形です。

2. 【衝撃の現実】なぜ、あなたの土地は「国に拒否」されるのか?

YouTubeやSNSでも話題になっていますが、この制度は**「どんな土地でも引き取ってくれる」わけではありません。** むしろ、国は「管理に手間がかかる土地」は徹底的に排除しようとしています。

特に注意すべき**「3つの拒絶理由」**がこちらです。

拒絶される主な理由内容の詳細
建物が立っている建物は100%NGです。古家がある場合は、自費で解体して更地にする必要があります。
境界が不明確隣地との境界がハッキリしていない土地は審査すら受けられません。確定測量には多額の費用がかかることも。
崖地・担保権の設定一定以上の勾配がある崖地や、抵当権などがついたままの土地は引き取ってもらえません。

3. 「お金を払って」引き取ってもらうという矛盾

「土地を国に譲るのだから、タダ、あるいは少しはプラスになるのでは?」

そう考える方も多いですが、現実は逆です。

この制度を利用するには、審査手数料に加え、国が今後10年間管理するための**「負担金」**を支払う必要があります。

  • 審査手数料: 土地1筆につき14,000円
  • 負担金: 原則として20万円〜(宅地、農地、山林など種別による)

つまり、「更地にする解体費用」+「測量費用」+「負担金」を合わせると、手放すために100万円単位の支出が必要になるケースも珍しくないのです。

4. 国庫帰属がダメならどうする? プロが教える「負動産処分」の代替案

「うちの土地は国に引き取ってもらえそうにない……」と肩を落とすのはまだ早いです。国庫帰属制度はあくまで「手段の一つ」。司法書士の現場では、他にもいくつかの解決ルートを組み合わせて検討します。

  • ① 隣地所有者への「寄付・譲渡」の打診 国は厳しくても、隣の土地の持ち主なら「格安(あるいはタダ)なら、自分の土地を広げるために欲しい」と考えるケースは意外と多いものです。個人間の交渉はトラブルになりやすいため、我々のような専門家が「法的な道筋」を立てて交渉をサポートします。
  • ② 「負動産」専門の買取・処分業者への相談 近年、一般の不動産屋が扱わないような「売れない土地」を専門に引き取る業者が現れています。処分費用を支払う形にはなりますが、国庫帰属の厳しい条件をクリアする手間と時間を考えれば、トータルで安く、確実に手放せる場合があります。
  • ③ 「相続土地管理命令制度」の活用 特定の相続人が管理しきれない場合、裁判所に申し立てて管理人に委ねる新しい制度も始まっています。どの制度が最適かは、土地の状況や相続人の構成によって全く異なります。

5. 「何もしない」が最大のリスク。2024年からの義務化に備える

最もやってはいけないのが、**「放置」**です。

2024年4月から相続登記が義務化されました。放置し続けると最高10万円の過料(罰金)が科される可能性があるだけでなく、時が経てば経つほど、隣地との境界が分からなくなったり、相続人が枝分かれして権利関係が複雑になったりと、処分コストは膨れ上がる一方です。

「いつか誰かがやるだろう」の「いつか」は、残念ながら勝手にはやってきません。

6. まとめ:あなたの代で「負の連鎖」を断ち切るために

相続土地国庫帰属制度は、決して魔法の杖ではありません。しかし、法改正によって「いらない土地を手放すための選択肢」が確実に増えているのも事実です。

当事務所では、単に書類を作成するだけでなく、「負動産」の御相談もお受けしております。

  • あなたの土地が「国庫帰属」できる可能性の判定
  • 更地にする費用と、そのまま持ち続ける費用のシミュレーション
  • 国庫帰属が難しい場合の、次なる解決策の提示

「固定資産税の通知書を見るたびに溜息が出る」 そんな毎日は、もう終わりにしませんか?

まずは一度、あなたの手元にある資料を持ってご相談ください。プロの視点で、あなたの家族が将来にわたって笑顔でいられるための「出口戦略」を一緒に描き出します。

第46回 【社長の終活】認知症で自社株が凍結?事業承継の「2027年期限」と家族信託で会社を守る全手法

はじめに:社長、その「平等」が会社を殺すかもしれません

司法書士の時任です。

2026年(令和8年)1月。

新年あけましておめでとうございます。

本年も宜しくお願い致します。

つくば市の寒さも厳しくなってきましたが、経営者の皆様にとっては、もっと背筋が凍るような「期限」が迫っていることをご存知でしょうか。

  • 「うちは息子が継ぐから大丈夫」
  • 「株は兄弟仲良く分ければいい」

もしそう思われているなら、この記事はあなたの会社を救うことになるかもしれません。

なぜなら、中小企業の廃業理由の多くは、業績不振ではなく、**「社長の老化(認知症)」「親子の対話不足」**による経営の麻痺だからです。

今日は、きれいごとは抜きにして、社長が元気なうちに打つべき3つのポイントを、現場のリアルな事例を交えて解説します。

  1. 「法務(家族信託)」
  2. 「税務(事業承継税制)」
  3. 一番難しい「親子の対話」

第1章:最大のリスクは「社長の認知症」による資産凍結

まず、個人の終活として絶対に避けていただきたいリスクがあります。 それは**「資産の凍結」**です。

社長がもし今日、脳梗塞や認知症で意思表示ができなくなったら、銀行口座が凍結されることはご存知かと思います。しかし、経営者にとっての悪夢はそこではありません。

「自社株の議決権」が凍結されるのです。

株主総会で誰も賛成の手を挙げられなくなります。 役員の選任も、銀行融資の担保設定も、定款変更も一切できなくなります。 会社は「植物状態」に陥ります。

既存の制度(遺言・後見)の限界

  • 「遺言があるから大丈夫」? 残念ながら、遺言は「死んでから」しか効力を発揮しません。認知症の期間中は無力です。
  • 「成年後見制度を使う」? これも経営者には劇薬です。後見人(弁護士等)がつくと、裁判所の管理下に入り、「株式の運用」や「積極的な投資」は財産保全の観点から制限されます。 つまり、経営の自由が失われます。

切り札としての「家族信託」

そこで今、最強の解決策となるのが**「家族信託(かぞくしんたく)」**です。 仕組みはシンプルです。

  • 委託者(社長): 財産を預ける
  • 受託者(後継者): 財産を管理・運用する
  • 受益者(社長): 利益を受け取る

この仕組みを使えば、**「名義(管理権限)は息子に移し、利益と指図権(実権)は社長が持ち続ける」**ことが可能です。

車に例えるなら、 「息子を運転席に座らせてハンドルを握らせ(受託者)、社長は後部座席から行き先を指示する(指図権)」 という状態を作れます。

これなら、もし社長が後部座席で居眠り(認知症)をしても、運転席の息子さんがそのまま会社を走らせることができます。資産凍結リスクを回避しつつ、権限移譲のトレーニング期間を作ることができるのです。


第2章:【緊急】あと2ヶ月!事業承継税制のラストチャンス

次に、「カネ(税金)」の話です。 自社株の評価額が高い会社にとって、贈与税・相続税は死活問題です。

現在、**「事業承継税制(特例措置)」という、自社株にかかる納税を実質100%猶予(ゼロに)**できる特例があります。

しかし、この制度を使うための「特例承継計画」の提出期限が、2026年(令和8年)3月31日に迫っています。

残り2ヶ月です。

この期限までに計画書を県に出しておかないと、将来この特例を使いたくても門前払いされます。

重要なのは、**「計画書を出したからといって、必ず制度を使わなくてもいい」**ということです。「とりあえず出しておいて、やっぱり使わない」という選択も可能です。

選択肢を消さないために、まずは顧問税理士に連絡し、計画書だけでも提出しておくことを強くお勧めします。


第3章:自社株は「分けるな」。集中させろ

冒頭で触れた「兄弟仲良く株を分ける」という考え方。 これは、会社経営においては**「悪」**です。

株が分散すると、後継者が何か新しい事業を始めようとした時、株を持つ他の兄弟や親戚から 「配当を出せ」 「そんな投資は認めない」 と反対され、何も決められない会社になってしまいます。

「後継者に株(議決権)を集中させる」。 これが鉄則です。

他の兄弟の遺留分(最低限の取り分)が問題になる場合は、「除外合意」や「固定合意」といった民法の特例を使って、経営用の資産を守る防波堤を築く必要があります。


第4章:泥沼の「親子ゲンカ」を防ぐ対話の技術

法務と税務が整っても、最後に立ちはだかる最大の壁があります。 **「感情」**です。

あるパネルディスカッションでの事例です。 建設会社を営む社長と息子さんが、事業承継を巡って毎日怒鳴り合いの喧嘩をしていました。父は「まだ早い、覚悟が足りない」と言い、息子は「古臭い、任せてくれない」と嘆く。

しかし、彼らは乗り越えました。 ポイントは3つありました。

  1. 第三者を入れる: 親子だと感情的になります。商工会や専門家を交えることで、冷静な「通訳」が可能になります。
  2. 期限(Xデー)を決める: 「いつか譲る」ではなく「65歳で譲る」と決めたことで、親には「教える覚悟」、子には「学ぶ覚悟」が生まれました。
  3. 経営指針(ビジョン)の共有: 過去の武勇伝ではなく、「なぜこの会社があるのか(理念)」を明文化し、共有しました。

後継者が本当に欲しいのは、株や金だけではありません。 **「親父が何を大切にしてきたか」という「見えない資産(知的資産)」**なのです。


結び:最後のラブレター「付言事項」

事業承継や相続において、法的な手続き(遺言書や信託契約)は「体」を守るものですが、「心」を守るものが必要です。

それが**「付言事項(ふげんじこう)」**です。 遺言書の最後に添える、法的な効力のないメッセージのことです。

「長男へ。お前に株を集中させたのは、会社と従業員を守る責任を託すためだ。苦労をかけるが頼んだぞ」

「次男へ。お前には株を渡せないが、その分、預貯金で配慮したつもりだ。兄を支えてやってくれ」

この数行があるだけで、残された家族の「納得感」は劇的に変わります。 争族を防ぐのは、法律ではなく**「言葉」**なのです。


追伸:その「一歩」をいつ踏み出しますか?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。 「やらなきゃいけないのは分かったけど、何から始めれば……」 そう思われた社長のために、つくば市商工会の主催で私が講師を務めるセミナーを開催します。

つくば市商工会【社長のための終活と事業承継セミナー】

  • 日時: 2026年(令和8年)1月28日(水) 14:00〜16:00
  • 場所: つくば市大穂交流センター
  • 講師: 司法書士 時任 裕

当日は、以下の**「3つの配布ツール」**をプレゼントします。

  1. 社長のための終活セルフチェックシート(認知症リスク診断)
  2. 事業承継・自社株現状整理シート(Xデーの設定)
  3. 家族と話すためのきっかけ質問集(会話のドアノックツール)

特に「2027年問題」の期限は待ってくれません。家族信託の組成にも最短で3ヶ月はかかります。

会社と家族を守るために、まずはセミナーで情報を整理することから始めてみませんか? 会場でお会いできることを楽しみにしています。

司法書士事務所TOKITO 代表 時任 裕