第46回 【社長の終活】認知症で自社株が凍結?事業承継の「2027年期限」と家族信託で会社を守る全手法

はじめに:社長、その「平等」が会社を殺すかもしれません

司法書士の時任です。

2026年(令和8年)1月。

新年あけましておめでとうございます。

本年も宜しくお願い致します。

つくば市の寒さも厳しくなってきましたが、経営者の皆様にとっては、もっと背筋が凍るような「期限」が迫っていることをご存知でしょうか。

  • 「うちは息子が継ぐから大丈夫」
  • 「株は兄弟仲良く分ければいい」

もしそう思われているなら、この記事はあなたの会社を救うことになるかもしれません。

なぜなら、中小企業の廃業理由の多くは、業績不振ではなく、**「社長の老化(認知症)」「親子の対話不足」**による経営の麻痺だからです。

今日は、きれいごとは抜きにして、社長が元気なうちに打つべき3つのポイントを、現場のリアルな事例を交えて解説します。

  1. 「法務(家族信託)」
  2. 「税務(事業承継税制)」
  3. 一番難しい「親子の対話」

第1章:最大のリスクは「社長の認知症」による資産凍結

まず、個人の終活として絶対に避けていただきたいリスクがあります。 それは**「資産の凍結」**です。

社長がもし今日、脳梗塞や認知症で意思表示ができなくなったら、銀行口座が凍結されることはご存知かと思います。しかし、経営者にとっての悪夢はそこではありません。

「自社株の議決権」が凍結されるのです。

株主総会で誰も賛成の手を挙げられなくなります。 役員の選任も、銀行融資の担保設定も、定款変更も一切できなくなります。 会社は「植物状態」に陥ります。

既存の制度(遺言・後見)の限界

  • 「遺言があるから大丈夫」? 残念ながら、遺言は「死んでから」しか効力を発揮しません。認知症の期間中は無力です。
  • 「成年後見制度を使う」? これも経営者には劇薬です。後見人(弁護士等)がつくと、裁判所の管理下に入り、「株式の運用」や「積極的な投資」は財産保全の観点から制限されます。 つまり、経営の自由が失われます。

切り札としての「家族信託」

そこで今、最強の解決策となるのが**「家族信託(かぞくしんたく)」**です。 仕組みはシンプルです。

  • 委託者(社長): 財産を預ける
  • 受託者(後継者): 財産を管理・運用する
  • 受益者(社長): 利益を受け取る

この仕組みを使えば、**「名義(管理権限)は息子に移し、利益と指図権(実権)は社長が持ち続ける」**ことが可能です。

車に例えるなら、 「息子を運転席に座らせてハンドルを握らせ(受託者)、社長は後部座席から行き先を指示する(指図権)」 という状態を作れます。

これなら、もし社長が後部座席で居眠り(認知症)をしても、運転席の息子さんがそのまま会社を走らせることができます。資産凍結リスクを回避しつつ、権限移譲のトレーニング期間を作ることができるのです。


第2章:【緊急】あと2ヶ月!事業承継税制のラストチャンス

次に、「カネ(税金)」の話です。 自社株の評価額が高い会社にとって、贈与税・相続税は死活問題です。

現在、**「事業承継税制(特例措置)」という、自社株にかかる納税を実質100%猶予(ゼロに)**できる特例があります。

しかし、この制度を使うための「特例承継計画」の提出期限が、2026年(令和8年)3月31日に迫っています。

残り2ヶ月です。

この期限までに計画書を県に出しておかないと、将来この特例を使いたくても門前払いされます。

重要なのは、**「計画書を出したからといって、必ず制度を使わなくてもいい」**ということです。「とりあえず出しておいて、やっぱり使わない」という選択も可能です。

選択肢を消さないために、まずは顧問税理士に連絡し、計画書だけでも提出しておくことを強くお勧めします。


第3章:自社株は「分けるな」。集中させろ

冒頭で触れた「兄弟仲良く株を分ける」という考え方。 これは、会社経営においては**「悪」**です。

株が分散すると、後継者が何か新しい事業を始めようとした時、株を持つ他の兄弟や親戚から 「配当を出せ」 「そんな投資は認めない」 と反対され、何も決められない会社になってしまいます。

「後継者に株(議決権)を集中させる」。 これが鉄則です。

他の兄弟の遺留分(最低限の取り分)が問題になる場合は、「除外合意」や「固定合意」といった民法の特例を使って、経営用の資産を守る防波堤を築く必要があります。


第4章:泥沼の「親子ゲンカ」を防ぐ対話の技術

法務と税務が整っても、最後に立ちはだかる最大の壁があります。 **「感情」**です。

あるパネルディスカッションでの事例です。 建設会社を営む社長と息子さんが、事業承継を巡って毎日怒鳴り合いの喧嘩をしていました。父は「まだ早い、覚悟が足りない」と言い、息子は「古臭い、任せてくれない」と嘆く。

しかし、彼らは乗り越えました。 ポイントは3つありました。

  1. 第三者を入れる: 親子だと感情的になります。商工会や専門家を交えることで、冷静な「通訳」が可能になります。
  2. 期限(Xデー)を決める: 「いつか譲る」ではなく「65歳で譲る」と決めたことで、親には「教える覚悟」、子には「学ぶ覚悟」が生まれました。
  3. 経営指針(ビジョン)の共有: 過去の武勇伝ではなく、「なぜこの会社があるのか(理念)」を明文化し、共有しました。

後継者が本当に欲しいのは、株や金だけではありません。 **「親父が何を大切にしてきたか」という「見えない資産(知的資産)」**なのです。


結び:最後のラブレター「付言事項」

事業承継や相続において、法的な手続き(遺言書や信託契約)は「体」を守るものですが、「心」を守るものが必要です。

それが**「付言事項(ふげんじこう)」**です。 遺言書の最後に添える、法的な効力のないメッセージのことです。

「長男へ。お前に株を集中させたのは、会社と従業員を守る責任を託すためだ。苦労をかけるが頼んだぞ」

「次男へ。お前には株を渡せないが、その分、預貯金で配慮したつもりだ。兄を支えてやってくれ」

この数行があるだけで、残された家族の「納得感」は劇的に変わります。 争族を防ぐのは、法律ではなく**「言葉」**なのです。


追伸:その「一歩」をいつ踏み出しますか?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。 「やらなきゃいけないのは分かったけど、何から始めれば……」 そう思われた社長のために、つくば市商工会の主催で私が講師を務めるセミナーを開催します。

つくば市商工会【社長のための終活と事業承継セミナー】

  • 日時: 2026年(令和8年)1月28日(水) 14:00〜16:00
  • 場所: つくば市大穂交流センター
  • 講師: 司法書士 時任 裕

当日は、以下の**「3つの配布ツール」**をプレゼントします。

  1. 社長のための終活セルフチェックシート(認知症リスク診断)
  2. 事業承継・自社株現状整理シート(Xデーの設定)
  3. 家族と話すためのきっかけ質問集(会話のドアノックツール)

特に「2027年問題」の期限は待ってくれません。家族信託の組成にも最短で3ヶ月はかかります。

会社と家族を守るために、まずはセミナーで情報を整理することから始めてみませんか? 会場でお会いできることを楽しみにしています。

司法書士事務所TOKITO 代表 時任 裕