第45回 つくば廃墟怪談の裏側~司法書士TOKITOの挑戦〜


【再生・X】

見捨てられた廃墟に命を吹き込め

茨城県つくば市谷田部。
かつて陣屋町として栄え、交通の要衝だったこの街に、
長年、人の手が入らないまま残されてきた建物があります。

昭和元年に建てられた
旧横田医院です。

外壁は剥がれ、窓は曇り、
診察室には古い医療器具が今も残っています。

地元では、
「廃墟」「いずれ壊される建物」
そんなふうに言われる存在でした。


相続相談から始まった話

2024年10月。
私の事務所に、一本の電話が入りました。

相談者は、東京に住む女性。
祖父の相続不動産についての相談でした。

「祖父が昔使っていた診療所が、
長年、空き家になっています。
相続対策として、どうしたらいいでしょうか」

祖父は99歳。
診療所は、すでに10年以上使われていませんでした。

私は現地を確認し、
不動産業者にも相談しました。

返ってくる答えは、どこも同じでした。

「解体して更地にするしかないですね」
「アパート用地が現実的です」

不動産として見れば、
それが正解なのだと思います。


それでも壊せなかった理由

何度か現地に足を運ぶうちに、
私はある違和感を覚えるようになりました。

室内に入ると、
まず天井に目を奪われました。

格天井。
屋久杉を使った天井材。
そして、うねるように歪んだガラス。

紫や黄色が溶け込んだ色ガラスは、
100年前の時間を、
そのまま閉じ込めているようでした。

単に古いのではなく、
当時の技術と美意識が、
手間を惜しまず注ぎ込まれている建物。

今の建築では、
コストや工期の制約を考えれば、
まず選ばれない素材や構造ばかりです。

その場に立つたび、
心の中で問いが浮かびました。

「本当に、
この建物は“役目を終えた”と
言い切ってしまっていいのだろうか」

そう考えながらも、
答えはすぐに出ませんでした。


買い取るという決断

最終的に、
私は所有者の方に提案しました。

「もし可能であれば、
私が買い取らせていただけませんか」

司法書士事務所として活用しながら、
時間をかけて手を入れ、
できる限り残していきたい。

医師として地域に貢献してきた
お祖父様の建物を、
形を変えて引き継ぎたいと考えたのです。

「解体せずに使ってもらえるなら、
祖父も喜ぶと思います」

そう言っていただき、
2024年12月27日、売買契約が成立しました。


想像以上に厳しかった現実

取得後、
すぐに現実に直面しました。

隣接する居宅部分は
司法書士事務所として整えられましたが、
医院棟は手付かずのまま。

改修の見積もりは高額で、
すぐに手を出せる状況ではありません。

試しに、
コスプレイヤー向けの撮影スタジオとして
貸し出してみました。

しかし、
暖房も冷房もなく、
半年間で利用は1件だけ。

正直、
「このまま持ち続けていけるのだろうか」
そう思うこともありました。


転機

転機になったのが、
つくば市周辺市街地で活動する人材を育成する
伴走支援プログラム Story.8 への参加でした。

そこで出会ったのが、
ディレクターの 南馬越一義 氏です。

スターバックスコーヒーや
スパメッツァおおたかなど、
数々のプロジェクトを手がけ、
「ビームス ディレクターズバンク」でも活躍する
クリエイティブのプロフェッショナルでした。

建物の話をすると、
南馬越氏は言いました。

「建物改修なんて、しなくていい」
「そのまま使いましょう」

「廃墟を、
観光資源として見てみませんか」
「ここは、お化け屋敷として
使えると思います」

正直、戸惑いました。

私が思い描いていたのは、
古き良き建物を活かした
落ち着いた空間だったからです。

「地域の人は受け入れてくれるだろうか」

そう思いながらも、
最終的に私は決断しました。

自分の理想を一度脇に置き、
プロの視点に委ねてみようと。


横田医院が動き出した

こうして始まったのが、
横田医院お化け屋敷プロジェクトです。

廃墟であることを隠さず、
その空間そのものを
体験として届ける。

都市ボーイズさん、
そして地元クリエイターの力を借りながら、
準備を進めました。

コンセプトは明確でした。

外壁は剥がれ落ち、
窓は曇り、
診察室には古い医療器具がそのまま残る。

まるで、
誰かが今も
ここで診察を続けているかのような空間。

廃墟であることを隠すのではなく、
その圧倒的な存在感を
そのまま作品にする。

恐怖と同時に、
言葉にできない魅力に引き込まれる
「異形の美」を目指しました。

関連グッズの開発も進めました。

グッズデザインは、
ヒッチコックの名作
『サイコ』へのオマージュ。

制作したTシャツやトートバッグは、
洗濯を重ねることで
プリントが擦れ、
より廃墟らしい風合いが増すように
設計されています。

退廃と美が同居する、
怪談的な風景。


そして、、、

2025年12月26日。
「つくば廃墟怪談 in 横田医院」 を開催しました。

告知と同時に、
ネット上は大きな反響を呼びました。

チケットは、
発売開始からわずか9分で完売。

かつて、
半年で1件しか利用されなかった建物に、
全国から注目が集まりました。


これからについて

旧横田医院は、
ようやくスタートラインに立ったばかりです。

改修も、活用も、
これから少しずつ進めていきます。

「壊すしかない」と言われた建物にも、
別の可能性がある。

この経験から、
私はそう感じています。


空地・空家で悩んでいる方へ

空地や空家について、

「どうせ売れない」
「解体するしかない」

そう感じている方は、
少なくないと思います。

ですが、
法律の整理と、
少し視点を変えることで、
別の道が見えることもあります。

空地・空家の相談を、
司法書士時任にしてみませんか。

不動産の背景にある
歴史や想いも含めて、
一緒に考えていけたらと思います。