こんにちは、司法書士の時任です。
障がいをお持ちのお子様がいる親御さんから、このような切実なお声を聞きます。
「私たちが死んだ後、あの子はお金の管理ができるだろうか?」 「遺した財産をすぐに使い果たしてしまわないだろうか?」
遺言書でお金を残すことはできます。しかし、「そのお金をどう使うか」までは、遺言書ではコントロールできません。
今回は、お子様がご両親亡き後も安定した生活を送るために有効な**「福祉型信託(親なき後支援信託)」**について、解説します。
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なぜ、ただ「相続」させるだけではダメなのか?
例えば、収益不動産(アパート)やまとまった現金を、障がいのあるお子様にそのまま相続させたとします。そこには2つの大きなリスクがあります。
1. 財産管理ができないリスク アパート経営には、入居者との契約や修繕の手配など、高度な判断能力が必要です。もしお子様に判断能力が不足している場合、契約行為ができず、実質的に経営がストップしてしまう恐れがあります。
2. 浪費・使い込みのリスク 金銭管理が苦手なお子様の場合、手元にある現金をすぐに使い切ってしまう可能性があります。一度渡してしまった財産を、親戚であっても横から口出しして止めることは法的に難しいのです。
成年後見制度を使う手もありますが、財産が凍結され柔軟な活用ができなくなるケースもあり、ご家族が躊躇されることも少なくありません。
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解決策:「管理」と「利益」を分ける家族信託
そこで活用したいのが**「家族信託」です。これは、信頼できる家族(きょうだい等)に財産の「管理」を託し、障がいのあるお子様には「利益(生活費)」**だけを渡す仕組みです,。
【事例】アパートオーナーのお父さんのケース
• 父: アパートと現金を所有。
• 長女: 知的障がいがあり、金銭管理ができない。
• 次女: しっかり者で、近くに住んでいる。
お父様は、次のような信託契約を結びました,。
ステップ1:元気なうちに次女へ託す お父様は次女(受託者)にアパートと現金の管理を任せます。名義は形式上、次女に移りますが、家賃収入などの利益はまずお父様の老後資金として使います。
ステップ2:親亡き後は長女へ お父様が亡くなった後、その「利益を受け取る権利」は長女へ移ります。 ここが重要です。アパートの管理や大きなお金の管理は引き続き次女が行い、長女には「毎月の生活費」として決まった額を渡すように設定します。
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この仕組みの3つのメリット
① お子様の「生活」を守れる 管理役である次女(または信託銀行等の専門家)が財布の紐を握るため、長女が一度に全財産を使い果たすことを防げます。長女は面倒なアパート経営に関わらず、安定した収入だけを受け取れます。
② 柔軟な資産運用が可能 次女に法的な管理権限があるため、将来アパートが古くなっても、次女の判断で修繕や建て替え、あるいは売却して現金化することがスムーズに行えます。
③ 「その次」まで決められる(受益者連続型信託) さらに、「長女が亡くなった後は、お世話をしてくれた次女(またはその子供)に財産を継承させる」と決めておくことができます,。 これにより、最終的に大切な資産が家系以外に散逸することを防げます。
【番外編】最大6,000万円が非課税に!「特定贈与信託」という選択肢
ここまで解説した「家族信託」は、ご家族同士で柔軟にルールを決めるものでしたが、実はもう一つ、障がいのあるお子様のために税金面で非常に有利な国の制度があります。
それが、信託銀行などが取り扱っている**「特定贈与信託」**です。
これは、親御さんが信託銀行にお金を預け、そこからお子様に定期的に生活費や医療費を払い出す仕組みです。 最大のメリットは、贈与税が非課税になる点です。通常、年間110万円を超えるお金を渡すと贈与税がかかりますが、この制度を使えば、まとまったお金を無税でお子様のために確保できます。
障がいの程度による非課税限度額
• 重度の障がいがある方(特別障害者): 6,000万円まで非課税 (対象:重度の精神障がい、身体障害者手帳1・2級、療育手帳の重度判定など)
• 中軽度の障がいがある方(特定障害者): 3,000万円まで非課税 (対象:中軽度の知的障がい、精神障害者保健福祉手帳2・3級など)
「家族信託」とどう使い分ける?
• 家族信託(今回のメインテーマ): 家族が管理します。不動産の管理や、将来の資産承継先の指定など、「オーダーメイドの管理」が得意です。
• 特定贈与信託: 信託銀行が管理します。対象は主に金銭で、「非課税での資金確保」と「定期給付」に特化しています。
「不動産は家族信託で守り、まとまった現金は特定贈与信託で非課税にする」といったように、これらを組み合わせて対策される方もいらっしゃいます。 なお、特定贈与信託を利用するには、取り扱いのある信託銀行等の窓口で手続きを行う必要があります。
まとめ:頼れる親族がいない場合は?
「うちは頼れる兄弟がいない」という場合でも、法人を受託者(管理する人)に設定する方法があります。
親なき後の対策は、親御さんに判断能力がある元気なうちしかできません。 「あの子のために何を残せるか」ではなく、「どう残せばあの子が幸せに暮らせるか」。
その答えの一つが家族信託です。ご家族ごとの事情に合わせた設計が必要ですので、まずは一度、司法書士事務所TOKITOまでご相談ください。








