第78回 住所変更登記は自分でできる? 2026年4月義務化の手順と、「住所がつながらない」ときの対処法

この記事のポイント

  • 2026年4月1日から、不動産の所有者の住所・氏名の変更登記が義務になりました(変更から2年以内、怠ると5万円以下の過料の対象)。
  • 4月より前の引っ越し・改姓も対象です。こちらの期限は2028年(令和10年)3月31日です。
  • 手続き自体は自分でもできます。ただし、登記簿の住所から今の住所まで書類で「つながらない」と、一気に難しくなります。
  • スマート変更登記(法務局による職権登記)は便利ですが、すでに古い住所のままの方を自動で救ってくれる仕組みではありません。

こんにちは。つくば市の司法書士、時任です。

ご自宅や実家の登記簿を最後に見たのは、いつでしょうか。

住宅ローンを組んで家を買ったときの住所のまま、その後に転勤で二度、三度と引っ越している。結婚して名字が変わったけれど、親から贈与された土地の名義はそのまま。こういう方は決して珍しくありません。これまでは、住所が古いままでも罰則はありませんでした。

実務でよくあるのは、家を売ることになった、あるいは住宅ローンを完済して抵当権を消そうとした、その直前になって初めて「登記簿の住所が違う」と気づくパターンです。そこから慌てて書類を集め始めると、昔の住所の記録がもう役所に残っていない、ということも起こります。

今回は、2026年4月から義務になった住所変更登記について、自分で申請する手順と、その途中でつまずきやすい「住所がつながらない」ケースをお話しします。

まず、登記簿の住所を確かめてください

最初にやることは簡単です。お持ちの不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を取り、「権利部(甲区)」のいちばん新しい所有者の欄に書かれている住所が、今の住民票の住所と同じかどうかを見てください。登記事項証明書は法務局の窓口のほか、オンラインでも請求できます。

土地と建物は別々に登記されていますので、両方確認してください。過去に一度住所変更の登記をしている場合は、「付記1号」のような形で変更後の住所が記録されています。

今の住所と同じであれば、今回の話はひとまず関係ありません。違っていたら、以下を読み進めてください。

住所変更登記の義務化、押さえておきたい点

対象になる人不動産の所有者として登記されている人(個人も法人も)
期限住所・氏名(法人は本店・商号)が変わった日から2年以内
2026年4月1日より前の変更これも対象。2028年(令和10年)3月31日までに登記が必要
怠った場合正当な理由がなければ、5万円以下の過料の対象
過料までの流れいきなり過料ではなく、まず登記官から書留郵便などで催告書が届く。期限内に申請すれば、裁判所への過料通知はされない

ひとつ混同しやすいのが、相続登記の期限です。2024年4月より前に起きた相続で、まだ相続登記をしていない不動産の期限は2027年(令和9年)3月31日。住所変更登記の期限(2028年3月31日)とは1年ずれています。親の家の相続登記と、自分の家の住所変更登記の両方が残っている方は、期限を分けて管理してください。

なお、義務の対象は「所有者」の住所・氏名です。住宅ローンを貸している銀行(抵当権者)の住所や名称が変わっても、こちらは義務の対象ではありません。

自分で申請する手順

住所がきれいにつながる方であれば、住所変更登記は登記の中でも比較的シンプルな手続きです。流れは次のとおりです。

①書類を集める
住民票の写しを取ります。マイナンバーが載っていないもので、登記簿上の住所・今の住所・引っ越した日が載っている必要があります。名字が変わった場合は、そのことがわかる戸籍謄本(抄本)も必要です。
②申請書を作る
法務局のホームページに様式と記載例があります。登記の目的は「○番所有権登記名義人住所変更」。原因の日付は、役所に届け出た日ではなく実際に住所を移した日です。何回か引っ越して一度も登記していない場合は、最後に移った日を書きます。申請書に住民票コードを書くと、住民票の写しを省略できる場合があります。
当事務所の申請書式ダウンロードページにも、住所変更登記申請書のひな形(Word・PDF)を用意しています。
③登録免許税を用意する
不動産1個につき1,000円です。土地1筆と建物1棟なら2,000円。収入印紙を別の台紙に貼り、申請書と一緒に綴じます。
④法務局に提出する
不動産の所在地を管轄する法務局へ。窓口に持参するか、書留郵便で送ります(封筒に「不動産登記申請書在中」と書きます)。オンライン申請もできます。
⑤登記完了証を受け取る
登記が終わると登記完了証が交付されます。窓口で受け取るか、返信用封筒と切手を付けて郵送で受け取ります。

ここまでを読むと「意外と簡単そう」と感じた方も多いと思います。実際、引っ越しが1回だけで、住民票1通で前の住所と今の住所がつながるなら、そこまで難しくありません。問題は、そうでない場合です。

つまずくのは「住所がつながらない」とき

住所変更登記では、登記簿に載っている住所から今の住所まで、途中の引っ越しをすべて公的な書類でつなぐ必要があります。ここが途切れると、申請書をいくらきれいに作っても登記は通りません。

つながらなくなる典型は、次のようなケースです。

  • ✔何度も引っ越している
    住民票に載る前住所は、通常ひとつ前だけです。その前までさかのぼるには、本籍地で戸籍の附票(住所の履歴の記録)を取ることになります。
  • ✔本籍を移した、または結婚で戸籍が変わった
    戸籍の附票は戸籍ごとに作られます。本籍を移したり結婚で新しい戸籍に入ったりすると、それより前の住所は古い戸籍の附票(除附票)を別に取らないとわかりません。
  • ✔古い記録がもう役所に残っていない
    住民票の除票や戸籍の附票の除票は、かつて保存期間が5年でした。令和元年6月20日の改正で150年に延びましたが、それより前に保存期間が過ぎて廃棄されたものは、今から請求しても出てきません。どこまでさかのぼれるかは市区町村によって違います。

⚠ 附票が取れなかったら、ご自身で抱え込まないでください

登記簿の住所が何回も前のもので、附票を請求したらすでに廃棄されていた。私の実務でも、これはよくあることです。こうなると、別の資料を組み合わせて「登記簿の人と今の自分が同じ人物である」ことを示す必要があります。ただ、何をどこまで用意すればよいかは事情によって変わり、正直なところ、個人の方がご自身で対応するのは難しいと思います。この段階まで来たら、司法書士にご相談ください。

もうひとつ多いのが、冒頭でも触れた「直前になって発覚する」ケースです。たとえば住宅ローンを完済して抵当権抹消登記をするとき、所有者の住所が登記簿と違っていると、前提として住所変更登記が必要になります。不動産を売るときも同じで、決済日が決まってから住所の違いに気づき、そこから附票を取り寄せると間に合わないこともあります。抵当権抹消をご自身でやる方法は、第63回「抵当権抹消登記のやり方【第3回・実践編】」で解説しています。抵当権と住所変更の関係を詳しく知りたい方はレアケース9「抵当権、根抵当権と名変」もどうぞ。

マンションの方は、建物だけでなく敷地(敷地権の目的となっている土地)の扱いも絡みます。登録免許税の計算や申請書の書き方が一戸建てと変わりますので、レアケース10「区分建物と名変」をあわせてご覧ください。

スマート変更登記で解決すること・しないこと

今回の義務化とセットで、「スマート変更登記」という仕組みも始まりました。所有者があらかじめ法務局に氏名・住所・生年月日などの「検索用情報」を申し出ておくと、登記官が住基ネットの情報を照会し、住所や氏名が変わったときに職権で変更登記をしてくれる、というものです。申出は無料で、申出をしておけば義務違反に問われることはありません。

これからの引っ越しに備えるなら、とても便利な制度です。ただ、「これがあるから放っておいても大丈夫」と考えるのは早計です。理由は4つあります。

①すぐには登記されない
住基ネットへの照会は2年に1回以上の定期的なものです。売却や抵当権抹消が控えている場合は、法務局自身が「自分で申請してください」と案内しています。
②古い住所のままの人は、申出の段階で同じ壁に当たる
すでに登記簿の住所と今の住所が違っていて、その経緯を住基ネットで確認できない場合は、申出のときに戸籍の附票などで変更の経緯を示す必要があります。法務省の案内では、変更日が平成22年10月5日以降であれば原則として書類は不要とされていますが、それより前の引っ越しが絡む方は、結局ここで「つながらない」問題に向き合うことになります。
③申出をした不動産だけが対象
申出をしていない不動産は対象外です。あとから所有していることがわかった土地などは、改めて申出が必要です。また、登記の前には登記官から本人に可否を確認する連絡(メールまたは書面)があります。
④海外に住んでいる方は対象外
海外居住者は申出をしても職権登記の対象になりません。住所が変わったら、ご自身で変更登記を申請する必要があります。

私の考えをまとめると、「これからの変更にはスマート変更登記、今すでにずれている住所は先に自分でつなげておく」です。特に、登記簿の住所が何回も前のものになっている方は、2028年3月の期限を待たず、書類が取れるうちに動いた方がいいと思います。

検索用情報の申出については、相続登記DIY第4回(10月からの申請書の変更点)でも触れています。司法書士向けの実務的な内容になりますが、職権による住所等変更登記の仕組みはレアケース16「職権による住所等変更登記 自然人と法人について」で整理しています。

補足:相続登記のとき、亡くなった方の住所変更は必要?

相続登記をご自身でやる方からよくいただく質問です。亡くなった方の登記簿上の住所が古いままでも、相続登記の前に住所変更登記をする必要はありません。相続登記の中で、住民票の除票や戸籍の附票によって「登記簿の人」と「亡くなった方」が同一人物であることを示します。

ただし、ここでも書類がつながらなければ同じ問題が起こります。相続登記を自分でやる手順は、【相続登記DIY】第1回目からご覧ください。

司法書士に任せた方がいいケース

次のどれかに当てはまる方は、ご自身で始める前に一度ご相談いただいた方が、結果的に早く済むと思います。

  • ✔登記簿の住所から2回以上引っ越している、または本籍を移したことがある
  • ✔附票や除票を請求したが、保存期間切れで取れなかった
  • ✔売却や抵当権抹消など、期日の決まった手続きが控えている
  • ✔親の相続登記もまだ済んでいない(期限は2027年3月31日)
  • ✔名字も住所も変わっていて、どの書類が必要か判断がつかない

住所変更登記は、それだけを見れば小さな手続きです。けれど、放っておいた年数が長いほど、つなぐための書類は取りにくくなっていきます。「売る」「抹消する」といった本番の手続きの前に、まずは登記簿の住所を一度確認してみてください。

住所がつながらない・期日が迫っている方はご相談ください

登記簿の確認から、書類の取り寄せ、申請まで一括でお引き受けします。

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【相続登記DIY】相続登記を自分でやる方法 第4回目2026年10月5日から、相続登記の申請書が変わりました

相続登記DIYシリーズ、久しぶりの更新です。

第1回〜第3回を公開したのは2023年12月でした。その後、2026年10月5日から相続登記の申請書の書き方が変わりました。

とはいえ、ご安心ください。変わったのは「相続人」の欄と「添付情報」の欄の2か所だけです。

今回は、紙の申請書で申請する方に向けて、法務省が公開している新しい記載例に沿って変更点だけを解説します。第2回で申請書を作った方は、この回で答え合わせをしてから提出してください。

何が変わったのか

①相続人の欄に4項目が増えました
氏名ふりがな・生年月日・国籍等・メールアドレスを書きます。
②添付情報が1つ増えました
「国籍を証する情報」を書き加えます。ただし、日本国籍の方は新しく集める書類はありません。
③書くのは「申請する相続人」だけ
不動産を取得しない相続人や、申請人にならない相続人の分は書かなくて大丈夫です。

登記の目的、原因、課税価格、登録免許税、不動産の表示の書き方は、これまでと変わりません。

なぜ変わったのか

2026年4月から、不動産の名義人の住所や氏名が変わったときの変更登記が義務になりました。

あわせて、登記所が定期的に住基ネットを検索して住所や氏名の変更を把握し、名義人にメールで了解をとったうえで、登記所の側で変更登記をしてくれる仕組みが始まっています(海外にお住まいの方は対象外です)。

そのために必要なのが、ふりがな・生年月日・メールアドレスです。相続登記をするときに、これらを一緒に法務局へ伝えておく、というのが今回の変更の趣旨です。

国籍等の欄は2026年10月5日から加わりました。詳しくは第77回「相続人が海外にいる」「相続人が外国籍」――相続登記はどこが違う?で解説しています。

相続人の欄はこう書きます

法務省の記載例をもとにすると、相続人の欄は次のようになります。

相 続 人 (被相続人 法務太郎)
  ○○郡○○町○○34番地
  法務一郎 印
  氏名ふりがな ほうむ いちろう
  生年月日 昭和45年6月7日
  国籍等 日本
  メールアドレス abcdefg123@example.com
  連絡先の電話番号 00-0000-0000

赤字の4行が新しく増えた部分です。1つずつ見ていきます。

■ 氏名ふりがな

氏名の読みをひらがなで書きます。住民票の写しに書かれている氏名のとおりに書いてください。

■ 生年月日

記載例と同じく、和暦で書けば大丈夫です。

■ 国籍等

日本国籍の方は「日本」と書きます。

■ メールアドレス

ここは少し注意が必要です。

  • ✔ご本人だけが使っているアドレスを書きます。ご家族のアドレスを代わりに書くことはできません。
  • ✔兄弟2人で2分の1ずつ相続する場合など、申請人が複数いるときは、それぞれ別のアドレスを書きます。同じアドレスを書くと、法務局から修正を求められます。
  • ✔メールアドレスを持っていない方、普段ほとんどメールを見ない方は「メールアドレスなし」と書けば大丈夫です。私も実務ではそう書いています。

なお、この4項目は「申し出るもの」とされていて、書かずに出すと法務局から書くように連絡が来ることがあります。申し出ないと書いて出すこともできますが、その場合、将来住所や氏名が変わったときにはご自分で変更登記をすることになります。特別な理由がなければ、書いておくことをおすすめします。

⚠ 4項目を書くのは、申請する相続人だけです

第2回でお話ししたとおり、申請書の「相続人」の欄に書くのは、不動産の名義を取得する方です。不動産を取得しない相続人の分は書きません。2人で相続して2人とも申請人になる場合は、2人分をそれぞれ書きます。

添付情報はこう書きます

第2回では、添付情報は「登記原因証明情報」と「住所証明情報」の2つを書けばOK、とお伝えしていました。10月5日からは、ここに1つ書き加えます。

添付情報
  登記原因証明情報  住所証明情報  国籍を証する情報

「書類が1つ増えるの?」と思われるかもしれませんが、日本国籍の方は新しく集める書類はありません。相続人であることを証明するために出す、相続人の戸籍謄抄本で兼ねられるからです。

相続人が外国籍の場合は、国籍が記載された住民票の写しなどが必要になります。こちらも第77回をご覧ください。

書類集めで気をつけたいこと

申請書に生年月日を書くようになったことで、生年月日を確認できる書類も必要になりました。といっても、通常は住所証明として出す書類で兼ねられます。

注意したいのは戸籍の附票です。令和4年1月11日より前に取得した戸籍の附票の写しには、生年月日が書かれていません。これを住所証明として使う場合は、別に住民票の写しが必要になります。

住民票の写し(マイナンバーの記載がないもの)を住所証明にする場合は、生年月日が載っているので心配いりません。以前に集めた古い書類が手元にある方は、念のため確認してください。

変わっていないところ

登記の目的、原因、課税価格、登録免許税、不動産の表示の書き方は、第2回のとおりで大丈夫です。印刷して、収入印紙を貼って、法務局へ提出し、完了書類を受け取るまでの流れも第3回のとおりです。

1点だけ訂正があります。第2回で、評価額100万円以下の土地の登録免許税の免税を「令和7年3月31日まで」とお伝えしていましたが、この措置は延長されていて、現在は令和9年(2027年)3月31日までです。詳しくは第75回「その土地、登録免許税が0円かもしれません」で解説しています。

申請書のひな形も新しくしました

当事務所のホームページで公開している「相続登記申請書 ひな形」を、新しい書式に差し替えました。Word版とPDF版があります。

申請書式ダウンロード → 『不動産の相続登記で必要な書式一覧』 → 『相続登記申請書 ひな形』

以前にダウンロードしたひな形は古い書式です。これから申請する方は、新しいひな形をお使いください。

提出前のチェックリスト

  • ✔相続人の欄に、氏名ふりがな・生年月日・国籍等・メールアドレス(または「メールアドレスなし」)を書いた
  • ✔住所・氏名・ふりがなは住民票の写しのとおりに書いた
  • ✔申請人が2人以上いる場合は、全員分を書き、メールアドレスはそれぞれ別のものにした
  • ✔添付情報に「国籍を証する情報」を書き加えた
  • ✔住所証明に使う書類に生年月日が載っている(古い戸籍の附票ではない)
  • ✔評価額100万円以下の土地がある場合は、免税の根拠条文を書いた(第2回参照)

今回はここまでです。変わったところさえ押さえれば、あとはこれまでどおり進められます。迷える相続登記DIYチャレンジャーの皆様の一助となれば幸いです。

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司法書士に丸ごとお任せいただくプランのほか、書類はご自分で集めた方向けのリーズナブルなプランもご用意しています。集めた書類はそのまま使えますので、途中からのご相談も歓迎です。

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第77回 「相続人が海外にいる」「相続人が外国籍」――相続登記はどこが違う? 10月から始まった”国籍の申出”も解説

この記事の要点

✔ 相続登記の書類が変わるかどうかは、相続人の「国籍」よりも「どこに住んでいるか」で決まります
✔ 海外に住む日本人の相続人は、印鑑証明書の代わりに「署名証明(サイン証明)」、住民票の代わりに「在留証明」を使います
✔ 2026年10月5日から、相続登記で新しく名義人になる方は「国籍等」を申し出ることになりました。日本人も対象です

外務省の統計によると、海外で暮らす日本人は2025年10月時点で約130万人。そのうち、期限を決めずに海外で暮らしている「永住者」は58万8千人あまりで、前年より増えています。

一方、つくば市は茨城県内で最も外国人住民の多いまちで、2025年末時点で1万5千人を超えています。

ご家族の誰かが海外に住んでいる。外国籍のご家族がいる。そうした相続は、これからますます身近になっていくはずです。

日本の相続手続きは、「日本に住んでいる日本人」を前提にできている部分が少なくありません。印鑑証明書が取れない、住民票がない。そうした相続人がいると、用意する書類が変わります。

加えて、この10月5日からは、登記の申請書そのものにも変更がありました。今回はそのお話から始めます。

1.10月5日から、申請書に「国籍」の欄ができました

2026年10月5日から、相続登記を含む所有権の移転登記などで、新しく名義人になる方は「国籍等」を申し出ることになりました。日本人も外国籍の方も対象です。

  • ✔ 日本国籍の方は「日本」、外国籍の方は国名を記載します
  • ✔ 証明する書類は、日本国籍なら本籍の記載のある住民票の写しや戸籍の附票の写し、外国籍なら国籍の記載のある住民票の写し、旅券や在留カードの写しなどです
  • ✔ 申し出た国籍は、登記簿に載って公開されるものではありません

法務省は、この制度の理由の一つとして、名義人が亡くなったときにどの国の法律で相続するかは国籍で決まるため、将来の相続登記を円滑に進めることにも役立つ、と説明しています。

国籍は、氏名のふりがな・生年月日・メールアドレスなどと一緒に「検索用情報」として申し出ます。今回の改正で、海外に住所がある方も、この検索用情報を申し出ることになりました。

なお、始まったばかりの制度で、法務局側のシステム対応は施行後に順次進むとされています。細かな運用は、今後変わる可能性があります。

2.書類を分けるのは「国籍」ではなく「住所」

相続人がどこに住んでいるかで、遺産分割協議書に添える書類(印鑑証明書にあたるもの)と、不動産を取得する方の住所を証明する書類が変わります。

相続人協議書に添えるもの住所の証明
①日本に住む日本人印鑑証明書住民票の写し
②海外に住む日本人署名証明(在外公館で取得)在留証明(在外公館で取得)
③日本に住む外国籍の方印鑑証明書(住民登録をして印鑑登録をしている場合)住民票の写し
④海外に住む外国籍の方現地の公証人による署名の証明本国または居住国の政府が作成した住所の証明、または現地の公証人が認証した宣誓供述書と旅券の写し

分かれ目は、日本に住民登録があるかどうかです。外国籍の方でも日本に住んでいれば、日本人とほぼ同じ書類で進められます。反対に、日本人でも海外に住んでいれば、別の書類が必要になります。

関連記事:[不動産登記レアケース6]在日外国人・在外日本人で迷う

3.海外に住む日本人の相続人

署名証明(サイン証明)

海外に住所を移すと、日本の印鑑登録もなくなります。そこで印鑑証明書の代わりに使うのが、現地の日本大使館・総領事館(在外公館)が発行する「署名証明」です。

  • ✔ 本人が在外公館に出向き、領事の目の前で署名します。代理での申請や郵送での申請はできません
  • ✔ 遺産分割協議書と証明書を綴じ合わせる形式と、署名だけを証明する形式があり、どちらにするかは提出先によります
  • ✔ 手数料は1通あたり1,700円相当です

在留証明

不動産を取得する方の住所を証明する書類で、住民票の代わりになります。

  • ✔ 日本国籍の方が対象で、現地に3か月以上住んでいることが条件です
  • ✔ 原則として本人が在外公館で申請します。郵送で申請できる場合も、受け取りには一度出向く必要があります。ただし、オンライン在留届(ORRネット)を使ったオンライン申請なら、一定の要件のもとで出向かずに済む場合があります
  • ✔ 手数料は1通あたり1,200円相当です

戸籍

2025年3月24日から、在外公館で証明を申請する際の戸籍謄本は、「電子戸籍パス」で代わりにできるようになりました。

時任の実例から

在外公館は、日本の市役所のように、すぐ行ける距離にあるとは限りません。実際に、大使館や総領事館まで飛行機で行かなければならない、という方もいらっしゃいました。

法務局での相続登記に限っていえば、在外公館から遠い場合などには、現地の公証人が作成した署名証明を使うことも認められています。ただし、銀行など登記以外の手続きでは、受け付けてもらえるかどうかは提出先が判断します。

相続人の方に何度も足を運んでいただかないよう、どの手続きにどの書類を使うかを、最初にまとめて把握しておくことが大切です。

4.外国籍の相続人

亡くなった方が日本人であれば、相続人が外国籍でも、日本の民法に従って相続します(法の適用に関する通則法36条)。結婚などで外国籍を取得したお子さんも、もちろん相続人です。相続分も変わりません。

  • ✔ 日本に住んでいれば、表の③のとおり、印鑑証明書と住民票で進められます
  • ✔ 海外に住んでいる場合、署名の証明は現地の公証人に依頼します。外務省も、外国籍の方は現地の公証人に依頼するよう案内しています
  • ✔ 日本国籍を離脱・喪失した元日本人の方は、遺産相続の手続きであれば、失効した日本の旅券や除籍謄本などを持参することで、在外公館で署名証明を出してもらえる場合があります
  • ✔ 外国語の書類には、日本語の訳文を付けます

外国籍の方が不動産の名義人になる場合は、申請書にローマ字の氏名も記載します。証明には、ローマ字氏名の載った住民票の写しや、旅券の写しを使います。

関連記事:[不動産登記レアケース15]外国人が日本の不動産を売却(購入)する場合(令和6年4月1日改正)

⚠ ご注意:亡くなった方が外国籍の場合は、話が変わります

相続は、亡くなった方の国籍のある国の法律によります。亡くなった方が外国籍の場合は、その国の法律で相続人や相続分が決まるため、今回ご説明した内容とは別の検討が必要です。個別にご相談ください。

5.海外に住む相続人が不動産を取得するとき

海外に住む相続人が不動産を取得する場合、2024年4月からは、日本国内の連絡先となる方の氏名・住所なども登記することになっています。

  • ✔ 連絡先になれるのは、日本国内に住所がある方です。個人でも法人でもよく、司法書士なども想定されています
  • ✔ 連絡先になる方の承諾書と印鑑証明書が必要です
  • ✔ 連絡先となる方がいない場合は、その旨を登記することもできます

もう一つ、将来のための注意点です。2026年4月から、住所や氏名が変わったときの変更登記も義務になりました(変更から2年以内)。登記官が住民基本台帳の情報をもとに職権で変更してくれる仕組みもありますが、海外に住所があるときに検索用情報を申し出た方が、その後日本に戻って住所を移した場合は、改めて申出をしないと、この職権による変更の対象になりません。帰国の予定がある方は覚えておいてください。

6.時間がかかるポイントと、期限

海外に相続人がいる相続で時間がかかるのは、主に次の3つです。

①在外公館への出向き:本人が出向く必要があり、距離によっては日程の調整が必要です
②国際郵送の往復:書類を送り、署名をして、送り返してもらうまでに時間がかかります
③翻訳:外国語の書類には訳文が必要です

書類に不備があれば、また一往復増えます。必要な書類を一度でそろえられるよう、段取りを最初に組むことがいちばんの近道です。

⚠ 期限に注意

相続登記は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になります。相続人が海外に住んでいても同じです。

書類がそろわず期限に間に合いそうにない場合は、自分が相続人であることを法務局に申し出る「相続人申告登記」で、ひとまず義務を果たすこともできます。

7.司法書士事務所TOKITOでできること

  • ✔ 海外にお住まいの相続人の方とは、郵送・メール・オンラインでやり取りできます
  • ✔ 署名証明・在留証明など、どの手続きにどの書類が必要かを整理し、取得の段取りをご案内します
  • ✔ 遺産分割協議書の作成から相続登記の申請まで、一貫してお手伝いします
  • ✔ 国内連絡先は、ケースによっては当事務所がお引き受けします

※当事務所では英語での対応はしておりません。日本語でのやり取り(日本にいるご家族を通じてのやり取りも含みます)をお願いしております。

相続人が遠く離れて暮らしていると、それだけで話を切り出しにくくなるものです。「長く連絡を取っていない」「どう声をかければいいか分からない」――そうした、争いになる手前の段階での連絡や調整、書類の段取りは、司法書士がお手伝いできる部分です。

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【参考】
法務省「不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」(令和8年9月4日付け法務省民二第872号通達)
法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて」
法務省「令和6年4月1日以降にする所有権に関する登記の申請について」
法務省「外国居住の外国人や外国法人が所有権の登記名義人となる登記の申請をする場合の住所証明情報について」
外務省「在外公館における証明」
外務省「海外在留邦人数調査統計(令和7年10月1日現在)」
茨城県「在留外国人の状況等(2025年12月末現在)」

第76回 「実家を売れば3,000万円控除」は本当?

――司法書士が見た、特例の前でつまずくケース

こんにちは。つくば市の司法書士事務所TOKITO、代表司法書士の時任です。

親御さんが亡くなり、誰も住まなくなった実家をどうするか。売却を考えたとき、「相続した家を売るなら3,000万円まで税金がかからない特例がある」という話を耳にされた方も多いと思います。

確かにそのような特例はあります。ただ、相続のご相談を受けていると、特例の話にたどり着く前の段階でつまずいてしまうケースを少なからず見かけます。今回は、8月末に公表された令和9年度の税制改正要望の内容も交えながら、相続した実家を売る前に確認しておきたいことをお話しします。

茨城県でも空き家は増えています

総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、茨城県内の住宅約139万戸のうち、空き家は196,200戸。空き家率は14.1%で、全国平均の13.8%を上回っています。

特に気になるのが、賃貸用や売却用ではない、いわゆる「使い道の決まっていない空き家」です。管理されずに放置される可能性が高いこの種の空き家は、県内でこの10年に約1.4倍(6.7万戸→9.3万戸)に増えました。

そして、空き家を取得したきっかけで最も多いのが「相続」です。国土交通省の調査(令和6年空き家所有者実態調査)では58%を占めています。空き家の問題は、多くの場合、相続の問題でもあるのです。

相続した空き家を売ったときの「3,000万円特別控除」とは

正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。亡くなった方が住んでいた家やその敷地を相続した人が、一定の要件を満たして売却した場合、売却で得た利益(譲渡所得)から最高3,000万円を差し引くことができる制度です。

主な要件は次のとおりです。

  • ✔ 亡くなった方が住んでいた家と、その敷地を相続した人が売ること
  • ✔ 家が昭和56年5月31日以前に建てられたものであること
  • ✔ 相続の直前に、亡くなった方以外に住んでいた人がいないこと
  • ✔ 相続してから売るまで、貸したり、自分で住んだりしていないこと
  • ✔ 耐震基準を満たした状態で売るか、建物を取り壊して売ること(令和6年以降は、売却した年の翌年2月15日までに買主側で耐震改修や取壊しをする場合も対象)
  • ✔ 売却代金が1億円以下であること
  • ✔ 親子や夫婦など、特別な関係にある人に売るのではないこと

このほか、家と敷地を相続した相続人が3人以上いる場合、控除額は2,000万円までとなります(令和6年1月1日以後の売却)。また、亡くなった方が老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件を満たせば対象になります。

手続きとしては、売った物件のある市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受け、確定申告をする必要があります。

なお、特例が使えるかどうかの最終的な判断は税務の領域です。当事務所では、個別のケースについては連携する税理士と一緒に確認するようにしています。

いつまでに売ればいいのか

期限は「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」です。少し分かりにくいので例を挙げます。

たとえば2024年5月に親御さんが亡くなった場合、3年を経過するのは2027年5月。その年の12月31日、つまり2027年12月31日が売却の期限です。

もう一点、見落としやすいのが特例そのものの期限です。この特例は現行制度では令和9年(2027年)12月31日までの売却が対象とされています。たとえば2025年に相続した方の場合、本来の「3年」の期限は2028年末ですが、制度が延長されなければ、実際に使えるのは2027年末までということになります。

「3年あるからゆっくりでいい」とは限らない、ということです。

⚠ ご夫婦で住んでいた家は、この特例の対象外です

意外に知られていないのが、「相続の直前に、亡くなった方以外に住んでいた人がいないこと」という要件です。つまり、この特例が想定しているのは、一人暮らしだった親御さんの家(施設に入る前に一人で住んでいた家を含みます)です。

お父様が亡くなったとき、お母様が一緒に住んでいた――このようなご家庭は多いと思いますが、その場合は「相続した実家だから3,000万円控除」とはなりません。

以前、こんな事例がありました。

お父様が亡くなり、相続人はお母様とお子さんお一人。ご両親が暮らしていた実家は、お父様が亡くなったことをきっかけに売却し、お母様はお子さんと同居されることになりました。

私は、相続登記、遺産分割協議から売却時の登記まで、一連の手続きをお手伝いしました。意識したのは、売却の時期から逆算して相続登記を急ぐことと、相続人の間で売却の方針を先にまとめておくことです。売ると決めてから名義を変えるのでは、買い手が見つかったときに手続きが間に合わないことがあるからです。

このケースのように、亡くなった方と一緒に住んでいたご家族が実家を売る場合は、空き家の特例ではなく、住んでいた方ご自身の「マイホームを売ったときの特例」が検討の対象になります。ここで大事なのは、遺産分割で誰が実家を取得するかによって、検討できる特例が変わりうるという点です。

売却まで見据えているのであれば、遺産分割協議の内容を固める前の段階で、税理士に一度確認しておくことをおすすめします。

売る前に「名義」を確認してください

特例以前の問題として、司法書士の立場から必ずお伝えしているのが名義の確認です。不動産の名義が亡くなった方のままでは、売却することができません。

当たり前のように聞こえますが、実際には思わぬところで止まることがあります。

以前ご相談をいただいたケースです。ご主人が亡くなり、奥様がご自宅の土地を相続されました。土地の相続登記はすぐに済んだのですが、問題はその上に建つ古い家でした。登記簿を確認すると、建物の名義は30年前に亡くなったご親戚のまま。その方は長く施設で暮らされ、家はずっと空き家になっていました。

相続人をたどると何代にもわたる相続(数次相続)が発生しており、最終的には奥様が一度も会ったことのない遠縁の方々が建物の権利を持っている状態でした。建物を取り壊すにも、土地を売るにも、建物の所有者の同意が欠かせません。

戸籍から相続人の方々を特定し、私から事情をご説明する手紙をお送りして、お一人ずつご理解をいただきました。突然、面識のない親戚の家のことで手紙が届くわけですから、受け取る側の戸惑いも当然です。経緯を丁寧にお伝えすることを何より大切にしました。

最終的に、建物の権利を奥様に集約することができ、古家付きのまま買い手が見つかったため、土地と建物をまとめて売却することができました。

このように、土地と建物で名義が違う、何十年も前の方の名義のまま、といったケースは決して珍しくありません。そして、相続人の中に疎遠な方や連絡先の分からない方がいる場合、名義の整理だけで数か月単位の時間がかかることもあります。

また、3,000万円の特例を受ける際の確定申告でも、売った人が相続によって取得したことを登記事項証明書などで明らかにする必要があります。相続登記は、売却の前提であると同時に、特例を受けるための前提でもあるのです。

なお、2024年4月1日より前に発生した相続については、相続登記の期限が2027年3月31日です(詳しくは第75回で解説しています)。売却を考えているかどうかにかかわらず、まずは名義の確認から始めていただければと思います。

令和9年度税制改正要望で求められていること

2026年8月28日、国土交通省が令和9年度の税制改正要望を公表しました。その中に、この空き家の特例について次の内容が盛り込まれています。

①期間の延長
令和10年1月1日から令和13年12月31日まで、4年間延長する
②築年要件の緩和
現在の「昭和56年5月31日以前に建築された家屋」という要件を緩和する
③民事信託への対象拡大
「相続・遺贈と同視し得る民事信託契約の終了に伴い家屋・敷地等を取得した場合」を対象に加える

要望資料では、制度ができて10年が経ち、新耐震基準を満たすような比較的新しい家でも傷みが進んでいるものが増えていることが背景として挙げられています。築年要件が緩和されれば、これまで対象外だった家も対象になる可能性があります。

家族信託を検討している方へ

私が特に注目したのは③です。国土交通省は要望の背景として、「相続後に空き家が放置されないためには、民事信託の活用など、相続前の準備を進めておくことも重要」と述べています。国の資料で、家族信託(民事信託)が空き家対策の手段として名指しされているわけです。

一方で、要望として対象への追加が求められているということは、裏を返せば、現時点では家族信託を経由して実家を取得した場合の扱いが明確ではないということでもあります。

家族信託を設計する際には、「信託が終わったとき、実家を誰が取得し、どうするのか」まで決めておくことが大切です。今後の税制の動きも踏まえながら、信託の出口まで含めて考えておくことで、相続後に家が宙に浮くことを防ぎやすくなります。

まだ「要望」の段階です

ここまでご紹介した改正内容は、あくまで国土交通省からの要望です。実際に改正されるかどうか、どのような内容になるかは、例年12月に取りまとめられる税制改正大綱を経て決まります。

「延長されるだろうから」と先送りにするのではなく、まずは現行の期限(令和9年12月31日)を前提に段取りを考えておくことをおすすめします。

まとめ

相続した実家の売却で3,000万円の特例が使えるかどうかは、税金の話です。ただ、その手前には、

  • ✔ 不動産の名義が誰になっているか
  • ✔ 相続人全員と連絡が取れるか、売却の方針がまとまっているか
  • ✔ 遺産分割で誰が実家を取得するか

といった、相続手続きの段階で決まってしまうことがたくさんあります。特例の期限から逆算すると、思っているほど時間の余裕はありません。

「名義がどうなっているか分からない」「長く連絡を取っていない相続人がいる」「何から手を付けていいか分からない」という段階でも構いません。早めにご相談いただくほど、取れる選択肢は多くなります。

相続した実家のこと、まずはご相談ください

相続登記・遺産分割協議から売却時の登記まで、一貫してサポートいたします。
税務については連携する税理士と協力して対応します。
疎遠な相続人がいらっしゃるケースもご相談ください。

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司法書士事務所TOKITO 代表司法書士 時任 裕

第75回 その土地、登録免許税が0円かもしれません

その土地、登録免許税が0円かもしれません|相続登記の免税措置と「2027年3月末」

この記事の要点

  • 相続登記には、登録免許税がかからない「免税措置」が2種類あります
  • どちらも期限は2027年(令和9年)3月31日。義務化前の相続についての登記期限と同じ日です
  • 2026年8月31日、法務省が免税措置の2年延長を要望しました。ただし、まだ決まったわけではありません

親の名義、あるいは祖父母の名義のままになっている土地。「登記にいくらかかるのか分からないから、そのままにしている」という方もいらっしゃると思います。

実際、法務省も、相続登記がされないまま放置される原因の一つとして「費用の負担」を挙げています。

相続登記では、法務局に納める登録免許税という税金がかかります。ところが条件によっては、この税金がかかりません。0円です。知っていれば使えたのに、知らないまま払ってしまったり、費用を心配して手をつけずにいたりするのは、もったいないと思います。

今回は、この「免税措置」の話です。ちょうど8月末に、この制度をめぐって動きがありました。

1.登録免許税がかからない2つのケース

相続登記の登録免許税は、原則として土地の固定資産評価額の0.4%です。評価額1,000万円の土地なら4万円になります。

これが免税になるのは、次の2つの場合です。

ケース① 登記をしないまま、次の方が亡くなった場合

たとえば、祖父名義の土地を父が相続したものの、登記をしないまま父も亡くなった。よくあるケースです。

このとき、ケースによっては、いったん「祖父から父へ」の登記をすることになりますが、この登記の登録免許税はかかりません。こちらは土地の評価額に上限がないので、評価額の高い土地でも免税になります。

ただし、その次の「父から子へ」の登記は、通常どおり課税されます。

ケース② 評価額が100万円以下の土地

土地の評価額が100万円以下であれば、その土地の相続登記に登録免許税はかかりません。

共有の場合は、土地全体の評価額に持分の割合をかけた額で判断します。評価額の低い農地や山林、私道の持分などでは、100万円以下に収まることもあります。

どちらにも共通する注意点

  • 対象は土地だけです。建物は含まれません
  • 申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項(または第2項)により非課税」と、根拠となる条文を書く必要があります。書かなければ、免税は受けられません

最後の点は、ご自身で相続登記をされる方は特に気をつけてください。条件を満たしていても、書き忘れれば税金を納めることになります。

2.8月31日、法務省が「延長」を要望しました

この免税措置は、期限つきの制度です。現在の期限は2027年(令和9年)3月31日までです。

これについて、2026年8月31日に公表された法務省の令和9年度税制改正要望で、次の2点が求められました。

  • 2つの免税措置を、2年間延長すること
  • 100万円以下という要件の緩和など、さらに対象を広げること

要望書によると、令和7年度の利用件数は、ケース①が14,015件、ケース②が311,949件でした。これだけ使われている制度です。所有者不明土地の割合も約22%と高止まりしていると書かれていて、法務省としては続けたい、広げたいという姿勢がはっきり読み取れます。

ただ、ここで注意していただきたいのは、これはあくまで「要望」だということです。延長されるかどうか、何年延びるのか、どこまで広がるのかは、例年、年末にまとまる税制改正大綱で決まります。

参考までに、前回(令和7年度)の改正では、法務省は3年の延長を要望していました。実際に認められたのは2年です。要望がそのまま通るとは限りません。

3.2027年3月31日は「二重の締切」

この日付には、もう一つ意味があります。

① 相続登記の義務化(2024年4月開始)より前に発生した相続の、登記の期限
正当な理由なく申請しないと、10万円以下の過料の対象になります
② 登録免許税の免税措置の期限
延長されなければ、この日を過ぎた申請は課税されます

祖父母や親の名義のまま長年そのままになっている土地は、①と②の両方にかかわります。義務の期限と、費用が0円で済む期限が、同じ日に重なっているわけです。

なお、2024年4月1日以降に発生した相続は、相続と取得を知った日から3年以内が登記の期限です。

4.3代前の名義が出てきたケース

私どもで扱った事例を一つご紹介します。

きっかけは名寄帳でした。名寄帳は、市区町村がその人名義の土地や建物を一覧にしたものです。取り寄せてみると、今の相続人の方のお名前と並んで、すでに亡くなった方のお名前が記載されていました。登記を確認すると、3代前の方の名義のままになっていました。

3代前ともなると、ふつうは相続人の数がかなり膨らみます。このケースでは、途中の相続が戦前の「家督相続」でした。旧民法のもとでは、戸主が亡くなると、家の財産は原則として家督相続人お一人が引き継ぎます。そのおかげで、相続人は数人で済みました。

それでも、ご依頼者が一度も会ったことのない相続人の方が出てきました。この方には、手紙でご連絡をしました。面識のない方への最初の連絡は、その後の話し合いの空気を左右します。ご依頼者ご本人からは切り出しにくいこうした連絡も、私どもがお手伝いできる部分です。

登録免許税は、土地の評価額が低かったため、すべて免税になりました。

このケースで一つ感じたのは、「自分の家には関係ない」と思っている土地ほど、名寄帳や課税明細書を見て初めて気づくことが多いということです。

なお、2026年2月2日からは、亡くなった方が登記上の所有者になっている不動産を全国分まとめて一覧にできる「所有不動産記録証明制度」も始まっています(窓口での請求は1通1,600円)。ただしこの証明書は、登記上の氏名・住所で検索します。昔の住所のまま残っている名義は、うまく拾えないことがあります。古い名義を探すときは、名寄帳や課税明細書とあわせて確認するのが確実です。

5.「延長されるだろう」と待つ前に

⚠ 延長を前提に待つのは危険です

  • 今回の延長は、まだ要望の段階です。決まってはいません
  • 前回は、要望より短い期間しか認められませんでした
  • 時間がたつほど、相続人は増えます。相続人の方が亡くなれば、その方のお子さんたちが新たな相続人になります
  • 面識のない相続人がいる場合、連絡を取り、話し合いがまとまるまでには時間がかかります

免税になるかどうかは、評価額と名義を見れば、ある程度判断がつきます。まずは次のことを確かめてみてください。

  • ✓固定資産税の課税明細書で、土地ごとの評価額を見る(100万円以下かどうか)
  • ✓名寄帳を取り寄せ、亡くなった方の名義が残っていないか確認する
  • ✓必要に応じて、所有不動産記録証明書を請求する
  • ✓登記簿で、名義が誰になっているかを確かめる(祖父母の代のままのこともあります)
  • ✓相続人の中に、連絡を取りにくい方がいないか書き出してみる

期限までに話し合いがまとまりそうにない場合は、「相続人申告登記」という方法で、ひとまず登記の義務を果たすこともできます。ただしこれは、名義を変える手続きではありません。売却などをするには、あらためて相続登記が必要です。

おわりに

正直に申し上げると、登録免許税は評価額の0.4%ですから、評価額の低い土地一筆あたりでは、大きな金額にならないことも多いです。

それでも、この制度をご紹介したかったのは、2027年3月末が「費用が0円で済む期限」であると同時に、「義務を果たすべき期限」でもあるからです。費用の心配で止まっていたのなら、その心配はもしかすると要らないかもしれません。

そして、実際に手続きを止めているのは、費用よりも「疎遠な親族に連絡しづらい」「誰が相続人なのか分からない」といった事情であることのほうが多いように感じます。そこは司法書士がお手伝いできるところです。

延長が決まったら、このブログでもあらためてお知らせします。

相続登記・生前対策のご相談は、司法書士事務所TOKITOへ

つくば市を中心に、キャリア21年・2,000件を超えるご相談に向き合ってきました。ご相談の約6割が、生前対策・家族信託に関するものです。

「祖父母の名義のままの土地がある」
「相続人に、会ったことのない親族がいる」
「何から手をつければいいか分からない」

そうした段階のご相談こそ歓迎しています。揉めてしまう前に、整えておく。それが私たちの仕事です。

司法書士事務所TOKITO 代表司法書士 時任 裕(茨城県つくば市)

TEL:029-875-5991

受付:8:30〜18:00(月〜金)

【参考にした資料】

・財務省「令和9年度税制改正要望(法務省)」所有者不明土地・建物問題の解決のための登録免許税の特例
・財務省「令和7年度税制改正要望(法務省)」所有者不明土地等問題の解決のための登録免許税の特例
・法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」
・法務省「相続登記の申請義務化について」
・法務省「所有不動産記録証明制度について」

第74回 「実家しか遺産がない」家庭ほど、相続は揉める──”分けられない不動産”を、元気なうちに片づけておく

「うちは大した財産はないから、相続で揉めることなんてない」——ご相談にいらっしゃる方の多くが、最初はそうおっしゃいます。ですが実際には、家庭裁判所まで持ち込まれる相続争いのうち、遺産額5,000万円以下のケースが約4分の3を占めます。「財産が多いから揉める」のではなく、むしろ限られた財産、とりわけ「分けられない不動産」をめぐって、ごく普通のご家庭で争いが起きているのです。2026年に公表された民間の相続意識調査でも、相続を経験した人の約半数が「もっと生前に準備・対策をしておけばよかった」と後悔しています。この記事では、なぜ不動産が相続を難しくするのか、そして元気なうちにできる備えを、司法書士の立場から整理します。

なぜ「一般家庭」ほど揉めるのか

最高裁判所の司法統計を見ると、遺産分割がまとまらず家庭裁判所に持ち込まれたケースのうち、遺産額5,000万円以下が全体の約76.7%。1,000万円以下だけでも3割を超えます。相続税がかかるかどうかのボーダーライン(基礎控除)にも届かない規模で、これだけの争いが起きているわけです。

理由はシンプルです。一般的なご家庭の遺産は「実家(不動産)+わずかな預貯金」という組み合わせが多く、遺産全体に占める不動産の割合が大きい。預貯金なら1円単位できれいに分けられますが、実家はそうはいきません。この「分けにくさ」こそが、争いの火種になります。

不動産が「分けられない」3つの理由

1 現物分割には限界がある
一つの土地を相続人で分筆して分ける「現物分割」は、一見公平に見えます。しかし土地の価値は間口や接道で変わり、きれいに等分できることはまれです。30坪程度の一般的な宅地では、建物を解体して分けることになり、費用面でも現実的ではありません。
2 「評価額」で意見が割れる
不動産には決まった値段がありません。固定資産税評価額・路線価・実勢価格——どれを基準にするかで金額が変わり、「安く見積もって取得したい人」と「高く評価して代償金を受け取りたい人」で対立します。
3 「とりあえず共有」が次の世代の火種になる
話がまとまらず「ひとまず兄弟の共有名義に」とするケースは少なくありません。ですが共有不動産は、売却も大きな修繕も共有者全員の同意が必要です。やがて共有者が亡くなればその持分は子や孫へ相続され、面識のない親族が何人もの共有者になっていきます。こうして、管理も処分もできない「所有者不明土地」が生まれます。

放置には「期限」があります——相続開始から10年

「急いで決めなくても、いつか話し合えばいい」と思われるかもしれません。ですが、令和3年の相続法改正で、遺産分割に事実上の期限が設けられました。

相続開始(お亡くなりになった時)から10年を過ぎると、遺産分割で「寄与分」や「特別受益」を主張できなくなり、原則として法定相続分だけで分けることになります(民法904条の3・令和5年4月1日施行)。「長年、親の介護をしてきた」「兄はすでに生前贈与を受けている」——こうした個別の事情を反映できるのが具体的相続分ですが、10年を過ぎるとその主張自体ができなくなるのです。

⚠ ここに注意
この10年ルールは、施行日より前に発生した相続にも適用されます。過去の相続を「そのまま」にしているご家庭も、少なくとも令和10年(2028年)4月1日までには対応が必要です(相続開始から10年を経過する時とのいずれか遅い時まで)。あわせて、相続登記も令和6年4月から義務化され、相続を知った日から3年以内の申請が求められます(正当な理由なく怠ると10万円以下の過料。過去の相続分は令和9年3月31日が期限)。「まだ大丈夫」と思っているうちに、選べる道はどんどん狭まっていきます。

元気なうちにできる、不動産の3つの備え

不動産は「きれいに分けられない」のが前提。だからこそ、遺す側が元気なうちに“行き先”を決めておくことが、いちばんの争い予防になります。

✓ ① 遺言で「誰に何を」を明確にする
実家を誰が継ぐのか、他の相続人にはどう配慮するのかを遺言で示しておけば、そもそも分割協議で揉める余地がなくなります。公正証書遺言は、司法書士事務所TOKITOを窓口に進められます。ご自身で文案を考えて公証役場へ持ち込む必要はありません。ヒアリングのうえ、ご家族に合ったオーダーメイドの文案を作成します。
✓ ② 「換価分割・代償分割」を見据えて設計する
売って現金で分ける換価分割、一人が取得して他の相続人へ現金を渡す代償分割——どちらを選ぶかで、必要な準備(納税資金や生命保険の活用など)が変わります。生前に方針を決めておくと、実際の手続きがぐっとスムーズになります。
✓ ③ 認知症で「売れなくなる」前に、家族信託を検討する
判断能力が低下すると、たとえご家族でも本人名義の不動産を売却・活用できなくなります。家族信託を使えば、信頼できるご家族に管理・処分の権限を託しておくことができます。当事務所では、生前対策のご相談のうち家族信託を含むライフプランニング関連が約6割を占めており、力を入れている分野です。なお、使い道のない土地は「相続土地国庫帰属制度」で手放す選択肢もあります(更地であることなどの要件や、10年分の管理費相当額の負担金が必要です)。

「争い」の手前なら、司法書士が動けます

相続人同士が本格的に対立し、裁判で決着をつける段階になれば、それは弁護士の領域です。一方で、その手前——「相続人が遠方で疎遠」「長年会っておらず今さら連絡しづらい」「相手が何を考えているか分からない」といった段階での連絡・調整や、遺言・家族信託による予防、名義変更などの手続きは、司法書士がお手伝いできます。

私たちが大切にしているのは、争いになってから解決することではなく、争いにならない仕組みを先に作ることです。「心配性だから」ではなく「家族思いだから」——そんな一歩を、つくばで21年、2,000件を超えるご相談とともに支えてきました。

相続の「争いになる前」のご相談は、司法書士事務所TOKITOへ
つくば市を中心に、生前対策・家族信託・遺言から不動産・法人登記までワンストップで。相談実績2,000件以上/キャリア21年。
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第73回 デジタル遺言が成立しました。でも、今日から使えるわけではありません

デジタル遺言が成立しました。でも、今日から使えるわけではありません

この記事の要点

  • 「デジタル遺言」の正式名称は保管証書遺言。2026年6月に法律は成立しています
  • ただし施行日はまだ決まっておらず、最長で2029年6月24日までのどこかです
  • 一方、公正証書遺言の手続きのデジタル化は2025年10月にすでに始まっています

「スマホで遺言が作れるようになるそうですね」

この夏、ご相談の途中でこの話題が出ることが何度かありました。ニュースをご覧になった方が多いようです。おっしゃるとおり、今年の6月に法律が成立しています。報道の内容そのものは間違っていません。

気になっているのは、そのあとに続く言葉のほうです。

「じゃあ、それができてから遺言を作ろうかな」

今回はこの一言について書きます。改正そのものは良い方向へ進んでいると思っています。手書きが負担だという声に応える内容ですし、私も歓迎しています。ただ、「それができてから」というのが、いつのことなのか。今日はそこを確かめていこうと思います。

1.何が決まったのか

令和8年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。報道で「デジタル遺言」と呼ばれているものの正式な名前は、保管証書遺言といいます。

法務省が公表している資料によると、おおよそ次のような制度です。

  • ✓パソコンなどを使って遺言を作成できる(手書きでなくてよい)
  • ✓署名、またはそれに代わる措置(電子署名が想定されています)が必要
  • ✓作成したデータ、またはそれを印刷したものを法務局に提供して、保管を申請する
  • ✓保管の申請はオンラインでもできる
  • ✓遺言書保管官が相当と認めるときは、ウェブ会議を利用した手続きもできる
  • ✓遺言者本人が、遺言の全文を口述する
  • ✓法務局が保管するので、紛失や改ざんを防げる
  • ✓相続が始まったあと、家庭裁判所の検認は不要

あわせて、遺言書への押印も任意になります。自筆証書遺言、秘密証書遺言、特別の方式の遺言、いずれも押印が要件から外れます。加除訂正のときの押印も同じです。

ここまでは、報道されているとおりです。

「スマホで書いて終わり」ではありません

法務局への保管の申請が必要で、しかも遺言者ご本人が遺言の全文を口述することが要件になっています。言い換えると、文章を作る部分が楽になる制度であって、手続きが消えてなくなるわけではない、ということです。

2.ただ、いつから使えるかは、まだ決まっていません

ここが今回の本題です。

この法律は「公布の日から○年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」という形をとっています。そして、改正の中身によって、その期限が違います。

改正の内容 施行の期限
①押印の任意化、証人の欠格事由の見直しなど 公布から1年以内
2027年6月24日まで
②成年後見制度の見直し 公布から2年6月以内
2028年12月24日まで
③保管証書遺言の創設など 公布から3年以内
2029年6月24日まで

保管証書遺言は③です。法務局のシステム改修が必要なので、一番あとのグループに入っています。

そしてもうひとつ、見落とされやすい点があります。これは「2029年6月24日から始まる」という意味ではありません。「2029年6月24日までのどこかで、政令が定めた日から始まる」という意味です。その政令は、まだ出ていません。

つまり今の時点では、開始日そのものが存在していないのです。2年後かもしれませんし、3年近くかかるかもしれません。「いつから使えますよ」と申し上げられる人は、現時点ではどこにもいません。

3.その数年のあいだに、何が起きるか

開始日が決まっていないということは、「待つ」というのは、終わりの見えないまま待つということでもあります。その数年をどう考えるか。ここで、遺言について最も大切なことを申し上げます。

遺言は、いつまでも作れる訳ではありません。

遺言をするには遺言能力が必要です(民法963条)。判断能力が十分でなくなってからでは、自筆証書遺言も、公正証書遺言も、そして保管証書遺言も、同じように作れません。新しい制度ができても、この前提は変わりません。

この仕事を21年続けてきて、いちばん申し訳ない気持ちになるのは、「もう半年早ければ」というご相談です。ご本人は元気なつもりでいらした。ご家族も、まだ先の話だと思っていらした。そして、あるとき急に、選択肢が減ってしまう。

しかもこの話は、ご家族の側から切り出すのが難しいのです。「遺言を書いておいて」とは言いにくい。財産を狙っていると思われたくない。そうやってお互いに遠慮しているうちに、時間だけが過ぎていきます。私が普段お受けしているご相談も、実際にはこの「切り出しにくさ」をどう扱うかという話が多くを占めています。

制度の施行日は政令で決まります。ご本人の状態は、政令とは関係なく変わります。確実にタイムリミットがあります。

4.デジタル化なら、もう使えるものがあります

「待とうかな」という気持ちの多くは、実は「今の手続きが面倒そうだ」というところから来ているように感じます。そこで、すでに始まっているものを整理しておきます。

(1)公正証書遺言の手続きは、2025年10月1日にデジタル化されています

令和5年の公証人法の改正により、公正証書に関する一連の手続きが、2025年10月1日からデジタル化されました。

  • ✓公証役場に出向かなくても、オンラインで嘱託(申込み)ができる
  • ✓条件を満たせば、ウェブ会議を利用したリモート方式で作成できる
  • ✓公正証書は原則として電子データで作成・保存される
  • ✓嘱託人は電子サインのみで、押印は不要
  • ✓正本や謄本は、紙でも電子データでも受け取れる

「公証役場まで行くのが大変だから」という理由で先送りにしていた方にとっては、事情がもう変わっています。

ただし、ウェブ会議が使えるのは、ご本人の希望があり、かつ公証人が相当と認めた場合に限られます。希望すれば必ず、というものではありません。また、この取扱いができるのは指定を受けた公証人の役場に限られますので、実際に進めるときは事前の確認が要ります。

(2)自筆証書遺言書保管制度でも、試行が広がっています

法務局が自筆の遺言書を預かる制度についても、令和8年2月2日から、保管申請の提出書類を電子メールで事前にチェックしてもらえる取扱いが、39都道府県・68の遺言書保管所に拡大されました。書類の写しを先に送っておけば、当日の手続きがスムーズになります。

ただし、保管の申請そのものは、今も遺言者ご本人が法務局に行く必要があります。ここは変わっていません。「オンラインで完結する」と誤解されると当日に困りますので、念のため申し添えます。

(3)民間の「デジタル遺言サービス」には、法的な効力はありません

スマートフォンのアプリやクラウドサービスで「デジタル遺言」をうたうものがありますが、現行法のもとでは、これらに遺言としての効力はありません。改正法が施行されても、法務局に保管を申請していないデータは保管証書遺言にはなりません。

ご自身の考えを整理しておくエンディングノートとしては、とても良いものだと思います。ただ、財産の行き先を法的に決めるものではない、という点は分けて考えていただければと思います。

5.「今作ったら、無駄になりませんか」

ご相談の場でよくいただく質問です。結論から申し上げると、無駄にはなりません。

遺言は、いつでも撤回できます(民法1022条)。前の遺言と内容が食い違う部分は、あとの遺言で撤回したものとみなされます(民法1023条)。つまり、あとから作り直すことが前提として認められている制度なのです。

ですから、こう考えていただくのが現実的だと思います。

  • ✓今は、自筆証書遺言書保管制度か公正証書遺言で作っておく
  • ✓保管証書遺言が始まって、そちらのほうが使いやすければ、そのときに作り直す
  • ✓作り直すまでの数年間は、今の遺言が効力を持ち続ける

この「作り直すまでの数年間」こそが、待つか作るかの差そのものです。何も起きなければ、作り直す手間が一度増えるだけです。何かが起きたときには、遺言があるかないかで、ご家族の手続きがまったく違うものになります。

なお、自筆証書遺言書保管制度の手数料は1件3,900円です。公正証書遺言は財産の額に応じた手数料がかかります。作り直しを前提にするなら、まず前者から、という選択も十分にあり得ます。

6.施設や法人への遺贈をお考えの方へ

最後に、報道ではあまり触れられていない改正をひとつ。一部の方には、これが今回いちばん実務に響くかもしれません。

遺言の証人になれない人の範囲が広がります。

今の民法では、受遺者(遺贈を受ける人)とその配偶者・直系血族は証人になれません。改正後は、ここに受遺者の被用者が加わります。受遺者が法人の場合は、その法人の被用者と役員も証人になれなくなります。

背景には、おひとりで暮らす高齢の方が増え、入所している施設などへ遺贈をされる例が出てきている、という事情があります。そのときに施設の職員の方が証人に入っていると、遺言が本当にご本人の意思なのか、あとから疑いを持たれかねません。

つくばでも、長くお世話になった施設や法人へ財産の一部を、というご相談はあります。心のこもったご判断だと思いますし、私はそうしたご希望をきちんと形にしたいと考えています。だからこそ、証人をどなたにお願いするかは、今後より慎重に考える必要があります。

この部分は、法務省の資料では公布から1年以内の施行とされているグループに入っています。保管証書遺言よりずっと早く、2027年6月24日までには動き出す見込みです。

おわりに

今回の改正は、遺言をもっと使いやすくしようという方向のものです。手書きの負担が減り、押印がなくなり、法務局に行かなくても手続きができるようになる。良い改正だと思います。

ただ、制度が整うのを待っている間も、ご本人とご家族の時間は進みます。

「デジタル遺言が始まったら考えよう」というのは、ご自身の予定を制度の施行日に合わせる、ということです。本来は逆で、ご自身とご家族の状況に合わせて、そのときに使える方法で備えておく。制度が良くなったら、そのときに乗り換える。そういう順番のほうが、無理がないように思います。

新しい制度が始まったら、このブログでもあらためてご案内します。それまでの間、今できることを一緒に考えさせてください。

公正証書遺言は、当事務所を窓口にして進められます

ここまで読んで、「では公正証書遺言のほうを作っておこうか」と思われた方に、ひとつご案内です。

公正証書遺言は、ご自身で文案を考えて公証役場に持ち込んでいただく必要はありません。当事務所を窓口として、作成までひととおりお手伝いできます。

まず司法書士がお話をうかがいます。ご家族の構成、財産の内容、これまでの経緯、そして「誰に何を、どうして遺したいのか」。そのうえで、そのご家族に合った文案をこちらで作成します。公証役場との日程調整、必要書類のご案内、当日の立ち会いまで、一連の流れをお任せいただけます。

お引き受けできること

  • ✓ご家族の状況をうかがったうえでの、オーダーメイドの文案作成
  • ✓公証役場との打ち合わせ・日程調整
  • ✓戸籍謄本など必要書類の取り寄せ
  • ✓作成当日の立ち会い

ご本人にしていただくのは、お話しいただくことと、できあがった文案をご確認いただくことです。

遺言は、書き方によって、遺したい形にならないことがあります。不動産の表示が正確でないために登記が通らない。遺言執行者を定めていなかったために、手続きのたびに相続人全員の協力が必要になる。こうしたことは実際に起こります。文案を作るという仕事は、そのあとの登記や名義変更まで見ている司法書士の領分と、かなり近いところにあります。

どう書けばいいかわからない、という段階でかまいません。むしろ、その段階からご一緒するほうが、良いものになります。

相続・遺言・家族信託のご相談は、司法書士事務所TOKITOへ

つくば市を中心に、キャリア21年・2,000件を超えるご相談に向き合ってきました。ご相談の約6割が、生前対策・家族信託に関するものです。

「何から始めればいいかわからない」

「家族に切り出しにくい」

「相続人同士が疎遠で、連絡を取りづらい」

そうした、まだ形になっていない段階のご相談こそ歓迎しています。揉めてしまう前に、整えておく。それが私たちの仕事です。

司法書士事務所TOKITO 代表司法書士 時任 裕

茨城県つくば市谷田部2980

TEL:〔電話番号〕029-875-5991

受付:〔受付時間〕月~金8:30-18:00 土日祝日定休日

参考にした資料

  • 法務省「民法等の一部を改正する法律案」(令和8年法律第45号)
  • 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」概要資料
  • 法務省「預けて安心!自筆証書遺言書保管制度」
  • 日本公証人連合会「公正証書の作成手続がデジタル化されます!」

第72回 「一度始めたらやめられない」後見は終わります

 「一度始めたらやめられない」後見は終わります

「父の預金が下ろせなくなった」「母名義の実家を売りたいのに、話ができない」

相続のご相談をお受けしていると、こうしたお話を伺うことがあります。解決の手段として案内されるのが成年後見制度なのですが、説明を進めると、多くの方が同じところで手を止めます。「一度始めたら、亡くなるまでやめられないんですよね?」と。

その仕組みが、2026年6月の法改正で変わりました。ただ、この改正には「まだ使えない」という大きな注意点があります。今回はそこを中心にお話しします。

1. 2026年6月、成年後見制度の改正法が成立しました

令和8年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が参議院本会議で可決・成立し、同月24日に公布されました。あわせて関係法律の整備法(令和8年法律第46号)も成立しています。

成年後見制度は2000年に始まった制度です。介護保険と同じ年のスタートでした。私がこの仕事を始めたのはその5年後ですので、司法書士としてのキャリアのほぼ全期間、この制度と付き合ってきたことになります。四半世紀を経て、はじめての抜本的な改正です。

法務省は改正の背景として、高齢化の進展や単独世帯の増加といった家族のあり方の変化により、成年後見制度・遺言制度へのニーズが増加し、多様化していることを挙げています。

2. これまでの成年後見制度は、なぜ「使いにくい」と言われてきたのか

現行の制度は、ご本人の判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。もっとも判断能力が低下している方が「後見」で、選ばれた成年後見人が包括的な代理権と取消権を持ちます。

ここに、二つの難点がありました。

ひとつは、必要のない範囲まで任せることになる点です。たとえば「遺産分割協議をするため」という理由で後見を申し立てたとします。ところが後見が始まると、遺産分割だけでなく、日々の預金の出し入れから契約ごとまで、財産に関わることが広く後見人の権限に入ります。法務省の資料でも、利用の動機と比べて自己決定が必要以上に制限される、という点が課題として明記されています。

もうひとつは、やめられない点です。現行法では、判断能力が回復しない限り制度の利用を終えることができません。実家の売却が終わっても、遺産分割が済んでも、後見は続きます。当然、後見人への報酬もご本人の財産から支払われ続けます。

最高裁判所が公表している「成年後見関係事件の概況」によれば、令和7年12月末時点の利用者数は259,901人です。認知症の方の数を考えれば、決して多い数字ではありません。制度が知られていないというより、知ったうえで「それなら使わない」と判断されてきた面があると、私は受け止めています。

3. 何がどう変わるのか

今回の改正で、制度の骨格が次のように変わります。

項目 改正後の内容
① 3類型の一元化 「後見」と「保佐」を廃止し、「補助」に一元化します。特定の行為について個別に権限を付与する仕組みが基本になります。
② 必要な範囲だけ たとえば遺産分割の代理権だけを補助人に与える、といった設計が可能になります。権限を付与するには、原則としてご本人の同意が必要です。
③ 終了できるように 判断能力が回復していない場合でも、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立てまたは職権によって終了できます。
④ 交代しやすく 解任事由に「本人の利益のために特に必要があるとき」が加わります。横領などの不正がなくても、たとえば補助人がご本人と面談しないといった場合に交代を求められます。
⑤ 本人の意見を最優先に 家庭裁判所が補助人を選ぶ際に考慮すべき要素の冒頭に「本人の意見」が置かれます。補助人にはご本人の意向を把握する義務も明文化されました。
⑥ 任意後見も柔軟に 家庭裁判所が明らかに監督の必要がないと認めるときは、任意後見監督人を選任せず、家庭裁判所が直接監督することが可能になります。

あわせて遺言制度も見直されました。押印が任意になるほか、パソコン等で作成した遺言のデータを法務局に提供し、法務局が保管する「保管証書遺言」が新設されます。こちらは別の回で改めて取り上げます。

4. 「では、改正を待てばいいのでは?」──ここが今回いちばんお伝えしたいところです

ニュースをご覧になった方から、すでに何度か同じ質問をいただいています。「新しい制度のほうが良さそうだから、それまで待ちます」。

お気持ちはよく分かります。ただ、ここで施行日を確認していただきたいのです。

成年後見制度の見直しに関する部分の施行日は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされています。公布日が令和8年6月24日ですから、遅くとも令和10年(2028年)12月24日までに施行される、ということになります。政令で定める日ですので、それより早まる可能性はありますが、家庭裁判所のシステム改修や運用ルールの整備が必要ですから、相応の準備期間がかかると見ておくべきでしょう。

つまり、これから2年ほどは、これまでどおりの制度が動き続けます。今日申し立てをすれば、今日の制度が適用されます。「後見・保佐は廃止された」という報道の見出しだけを見て、もう変わったと思い込んでしまうと、判断を誤ります。

なお、改正法には経過措置が置かれています。施行日の時点ですでに後見や保佐を利用している方は、基本的に現行法の内容のまま利用を継続できます。新制度に移りたい場合は、改正後の補助の制度について申立てをすることになり、その際に現在の後見・保佐開始の審判は取り消されます。利用そのものを終えたい場合の申立ての道も用意されています。

5. 待てるご家族と、待てないご家族

ここが分かれ道です。判断の軸は「改正がいつか」ではなく、ご本人の判断能力が今どの状態かです。

すでに判断能力が低下している場合

  • ✓入院費や施設費の支払いのために預金を動かす必要があるなら、待つという選択肢はありません。
  • ✓相続が発生していて、相続人の中に判断能力が低下した方がいる場合、遺産分割協議はその方を抜きに進められません。
  • ✓この段階では、任意後見契約も家族信託も締結できません。契約には判断能力が必要だからです。

まだお元気な場合

  • ✓選択肢が最も広い状態です。任意後見、家族信託、遺言を組み合わせて設計できます。
  • ✓「まだ大丈夫」と思っているうちが、実は唯一の準備期間です。

最高裁の統計で、申立ての動機を見ると特徴がはっきり出ています。もっとも多いのが預貯金等の管理・解約で全体の約93.4%、次いで身上保護が約74.2%、不動産の処分が約36.3%、相続手続が約25.6%です(令和7年、複数計上)。どれも「もう動かなければならなくなってから」の動機です。備えとして申し立てる方は、ほとんどいらっしゃいません。

茨城県のデータも見ておきます。水戸家庭裁判所管内の集計は578件で、そのうち市区町村長による申立てが176件、約30.4%を占めています。全国平均は約23.7%ですから、これを上回る水準です。ご親族が申立てをできない、あるいは申立てをする方が身近にいない、という事情を抱えたケースが、この地域では相対的に多いことがうかがえます。

6. お元気なうちだからできる備え

改正を待つのではなく、今できることを整理しておきます。

任意後見契約は、判断能力があるうちに「将来こうなったら、この人に、この範囲で任せる」と自分で決めておく契約です。家庭裁判所が選ぶのではなく、ご自身で相手と内容を決められる点が最大の違いです。今回の改正では、家庭裁判所が明らかに監督の必要がないと認めるときは任意後見監督人を選任せず家庭裁判所が直接監督できる仕組みや、ご本人が公正証書で指定した方も契約を発効させる申立てをできる仕組みが設けられました。使いやすくする方向の見直しです。

ただ、任意後見の利用者数は令和7年12月末時点で2,833人にとどまっています。全体の259,901人と比べると、ごくわずかです。国会の附帯決議でも、任意後見制度の利用が低調である要因の把握と分析、利用促進が求められました。裏を返せば、備えとして先に手を打っている方はまだ少ない、ということでもあります。

家族信託は、財産の管理や承継の方法を契約で設計しておく仕組みです。家庭裁判所の関与なく、ご家族の判断で不動産の管理や売却を進められる点が実務上の利点です。参議院法務委員会の附帯決議でも、成年後見制度の利用前または利用と同時に備えることのできる将来設計として、福祉型信託の環境整備を進めることが挙げられています。

遺言は、遺す側の意思をはっきりさせておく方法です。相続人が集まって話し合う必要そのものを減らせます。

どれかひとつが正解ということはありません。ご家族の構成、財産の中身、そしてご本人の希望によって、組み合わせ方は変わります。

7. 相続が始まってから気づく方が、いちばん多いのが実情です

私どもにご相談をいただくきっかけで多いのが、相続手続きが途中で止まってしまったというものです。

よくあるのは、こういう流れです。父が亡くなり、相続人は母と子ども2人。実家の名義変更をしようと手続きを進めたところ、母の判断能力が低下していて遺産分割協議ができないと分かる。金融機関でも同じことを言われる。そこではじめて、成年後見制度という言葉が出てくる。

この段階では、もう選べる手はかなり限られています。制度を利用するしかない、という状況です。

これは「争い」ではありません。誰も揉めていないのに、手続きだけが進まなくなる。ここが成年後見の問題の本質だと、私は思っています。相続人同士が本気で争っている案件は弁護士の領域ですが、こうした「止まってしまった手続き」や、相続人の間の意見の調整は、司法書士がお手伝いできる範囲です。

そして、この止まり方の多くは、生前に手を打っておけば起きなかったものです。

⚠ 今すでに申立てを検討されている方へ

「改正されるなら待とう」という判断は、状況によっては取り返しのつかない結果につながります。

施行は早くても2年近く先です。その間に施設費の支払いが滞る、空き家になった実家の管理ができない、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)が迫る、といった事態は待ってくれません。

逆に、急ぐ事情がなく、ご本人の状態も安定しているのであれば、あえて今すぐ動かないという判断もあり得ます。どちらが良いかは、ご事情を伺わなければ判断できません。迷われたら、動く前に一度ご相談ください。

おわりに

今回の改正は、成年後見制度を「守られる制度」から「必要な分だけ選んで使う制度」へ変えるものです。方向としては、ご本人にとって良い改正だと考えています。

ただ、制度が良くなることと、ご自身のご家族が困らないことは別の話です。制度が変わるまでの2年間にも、ご家族の状況は動きます。

成年後見について当事務所が後見人としての実績を数多く持っているわけではありません。そこは正直に申し上げます。私どもがお役に立てるのは、ご事情を詳しく伺ったうえで、後見・任意後見・家族信託・遺言のどれをどう組み合わせるのが最善かを一緒に考え、必要な手続きと登記まで一貫して形にすることです。

「うちはまだ早い」と思われるうちが、いちばん選択肢の多い時期です。

相続・生前対策のご相談は、司法書士事務所TOKITOへ

つくば市を中心に、キャリア21年・相談実績2,000件超。生前対策と家族信託のご相談が全体の約6割を占めています。まずはご事情をお聞かせください。

司法書士事務所TOKITO

〒305-0861 茨城県つくば市谷田部2980

TEL 029-875-5991

FAX 029-859-8806

営業時間 月〜金 8:30〜18:00/定休日:土日祝日

【出典】法務省民事局「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」/法務省民事局「成年後見制度に関する制度改正の状況について」(令和8年7月)/最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況──令和7年1月〜12月──」
※本記事は令和8年(2026年)9月時点の情報に基づいています。施行期日は今後政令で定められます。個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

第71回 千葉の豪雨と「残クレ」――ローンを残したまま、ご他界されてしまったら

2026年8月13日から14日にかけて、千葉県を記録的な豪雨が襲いました。被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

こんにちは、司法書士事務所TOKITOの時任です。冠水した道路に何百台もの車が取り残された映像を、ご覧になった方も多いと思います。報道を見ながら私が思ったのは、「あの中には、まだローンが残っている車も相当あるだろう」ということでした。

車が使えなくなっても、ローンは消えません。では、そのローンを抱えたご本人が亡くなったら、残りの支払いは誰がするのか。今回は災害をきっかけに、「車のローンと相続」について、司法書士の立場からお話しします。

路上に残された車、約2,700台

📊 令和8年8月千葉豪雨をめぐる数字

・道路上に残された車両:約2,700台(県・千葉市への取材にもとづく報道)
・JAFが受け付けた冠水関連の救援要請:3,871件(8月16日までの受付分・速報値)
・車両保険の加入率:全国47.4%/千葉県50.5%/茨城県43.9%(2025年3月末時点)

まず押さえておきたいのが、車両保険は任意加入だということです。すべての車に加入が義務づけられている自賠責保険は、人身事故の被害者を救済するための保険ですから、ご自分の車が水につかっても補償されません。車両保険に入っていなければ、修理費も買い替え費用も自己負担が原則になります。

そして目を引くのが、茨城県の加入率が43.9%と、全国平均を下回っていることです。つくば市のように車が生活の足になっている地域で、半数以上が未加入。これは決して他人事の数字ではないと感じます。

その車、本当に「あなたのもの」ですか

近年よく耳にするのが「残クレ」、正式には残価設定型クレジットです。数年後の下取り価格をあらかじめ「残価」として据え置き、その差額を分割で払う仕組みで、月々の負担を抑えられるのが特徴です。日本自動車工業会の「2025年度 乗用車市場動向調査」によれば、新車購入者のうち残価設定・据置型ローンを利用した人は1割台半ば。新車の平均購入価格は331万円だそうです。

ここで、ぜひ一度ご自宅の車検証(自動車検査証)の「所有者」欄を見てみてください。残クレやディーラーローンの場合、この欄がご自分の名前ではなく、信販会社や販売店の名前になっていることが少なくありません。

これを所有権留保といいます。ローンを完済するまで、車の所有権は信販会社等に残したままにしておく、という約束です。つまり乗っている方は法律上「使用者」であって、所有者ではない。この一点が、後々の手続きに大きく効いてきます。

ここからが本題――契約者が亡くなったら、残債は誰が払うのか

相続というと、預貯金や不動産といったプラスの財産を思い浮かべる方が多いのですが、民法896条は「一切の権利義務を承継する」と定めています。借金などのマイナスの財産も、当然に引き継ぐということです。車のローンも例外ではありません。

しかも、ここには相談の現場でよく誤解される点が3つあります。

1
「長男が全部払う」と家族で決めても、それだけでは足りない
金銭債務は、遺産分割協議を待たず、相続開始と同時に法定相続分どおりに分かれて各相続人に承継されます。相続人同士の取り決めは有効ですが、それを信販会社(債権者)に対して主張することはできません。債権者の承諾がなければ、ほかのご兄弟にも請求が及ぶ可能性があります。
2
車がなくなっても、債務は残る
水没して廃車になった車でも、残債務そのものは相続の対象です。「乗れない車のローン」と「新しく買う車のローン」を同時に抱える、という事態も起こり得ます。
3
所有権留保がついていると、車を動かせない
車検証の所有者が信販会社のままでは、相続人への名義変更も、売却も、廃車手続きも進みません。完済して所有権解除を受けるのが先になります。全損や盗難の場合に一括返済を求める契約もありますので、まずは契約書の確認と、販売店・信販会社への問い合わせが出発点です。

相続放棄を考えるなら、「3か月」と「うっかり」に注意

明らかに債務のほうが多い、というときには相続放棄という選択肢があります。放棄が認められれば、はじめから相続人でなかったものとみなされ、残クレの残債も引き継ぎません。

ただし期限があります。自分のために相続が開始したことを知った時から3か月(民法915条)。この間に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。そして、この3か月のあいだにやってはいけないことがあります。

⚠ 放棄を検討中の「やってはいけない」

・車を売却したり、廃車手続きをしたりする

・車の名義を相続人に変更する

・故人の預貯金を引き出して使ってしまう

これらは「相続財産の処分」にあたり、単純承認したものとみなされるおそれがあります(民法921条1号)。いったんそうみなされると、あとから放棄することはできません。

「3か月では財産の全体像がつかめない」という場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。過去には東日本大震災の際、特例法によって熟慮期間が延長された例もありました。被災された状況では、まず期限を延ばす手立てがないかを検討するのが定石です。

見落とされがちな「車両保険金」の扱い

もう一つ、意外と知られていないのが保険金の扱いです。

生命保険金は、受取人が指定されていれば受取人固有の財産となり、相続放棄をしても受け取れるのが原則です。ところが車両保険は、車という「物」の損害を補償する保険ですから、支払われる保険金は相続財産に含まれます。

つまり、相続放棄を検討している段階で車両保険金を受け取って使ってしまうと、これも単純承認とみなされるおそれがあるということです。同じ「保険金」でも扱いがまったく違いますので、手続きの順番を間違えないようにしてください。

災害は、隠れていた「名義」の問題をあぶり出す

災害が起きると、ふだんは見えていなかった名義の問題が、一気に表面化します。車もそうですが、より深刻なのは不動産です。

被災した実家の名義が、何年も前に亡くなったお父さまのままになっている。この状態では、解体も売却も、思うように進みません。相続登記は2024年4月から義務化され、「相続を知った日から3年以内」という期限も設けられました。

そしてこういう場面では、相続人同士で意見が割れることがあります。「修理して残したい」「もう売ってしまいたい」「そんなお金は出せない」——。本格的な争いにまで至れば弁護士の領域ですが、その手前で意見をすり合わせ、必要な調査をして、手続きの形に落とし込むところは、私たち司法書士がお手伝いできる部分です。連絡が取れない相続人がいる、長年疎遠で今さら自分からは話しかけにくい――そうしたご相談も、これまで数多くお受けしてきました。

まとめ:今日、車検証を1枚見てみてください

災害がいつ来るかは、誰にも分かりません。それでも、今日のうちにできる備えはあります。

✓ 車検証の「所有者」欄を確認する(信販会社の名前になっていないか)

✓ 車両保険に入っているか、補償の範囲はどこまでかを確認する

✓ ローンの契約書の保管場所を、家族が分かるようにしておく

✓ 誰が、どこと、どんな契約を抱えているかを家族で共有しておく

とくに最後の一つが大切です。ご本人が亡くなったあと、残されたご家族が「どこの会社と、いくらの契約をしていたのか分からない」という状態から始めるのは、本当に骨が折れます。逆に言えば、紙一枚の情報共有が、ご家族の負担を大きく減らします。

つくば市を中心に21年間、2,000件を超えるご相談をお受けしてきました。「これは相続に関係あるのだろうか」という段階のご相談で結構です。どうぞお気軽にお声がけください。

相続・生前対策のご相談は
つくば市の司法書士事務所TOKITOへ

遺言・家族信託から相続登記まで、経験豊富な司法書士がサポートします。初回相談は無料です。

無料相談のご予約はこちら

お電話でのご相談 029-875-5991
受付時間:8:30〜18:00(月〜金)

【参考】損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版(2025年3月末時点)/日本自動車工業会「2025年度 乗用車市場動向調査」/令和8年8月千葉豪雨に関する各報道(放置車両台数・JAF救援要請件数)

第70回 「うちは普通の家だから」――その安心こそ、”争族”のはじまりかもしれません

お盆やお正月に家族が集まると、ふと「実家はこの先どうなるんだろう」と頭をよぎることはありませんか。

こんにちは、司法書士事務所TOKITOの時任です。つくば市を中心に相続のご相談を21年間、2,000件以上お受けしてきました。その中でよく耳にするのが、「うちは資産家じゃないから、相続でもめるなんて無縁ですよ」というお言葉です。ですが実は、その"普通の家"こそ注意が必要だ、というのが私の正直な実感です。

この記事では、最新の司法統計をもとに、なぜ一般的なご家庭ほど相続トラブルになりやすいのか、そして元気なうちにできることを、司法書士の視点でわかりやすく解説します。

もめている家の約8割は「遺産5,000万円以下」

📊 最高裁判所「令和6年 司法統計年報(家事編)」より

・家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件のうち、遺産額5,000万円以下が約78%
・解決まで1年以上かかった事件が約3割(3件に1件)

「争いになるのはお金持ちの家だけ」というイメージとは、むしろ逆なのです。ごく一般的なご家庭でこそ、遺産の分け方をめぐって話がこじれてしまう。数字がそれをはっきり示しています。金額の大小ではなく、「どう分けるか」でつまずくのが相続だと、私は考えています。

こじれると長い――解決まで「1年以上」が3件に1件

いったんもめると、解決までに時間がかかります。同じ司法統計では、家庭裁判所での手続きが「1年以内」に終わるのは全体の約7割。裏を返せば、およそ3件に1件は、解決まで1年以上かかっています。

その間、預貯金の解約や不動産の名義変更といった手続きも進めにくくなり、残されたご家族の生活にも影響が出かねません。感情のもつれが絡むほど、短期間では終わらない――これが相続の難しいところです。

なぜ"普通の家"ほどもめるのか

理由はシンプルで、多くのご家庭の財産の中心が「不動産」だからです。特に、主な遺産が「自宅の土地・建物だけ」という場合、これは非常に分けにくい財産です。

  • ✓現金なら等分できるが、一軒の家を3等分することはできない
  • ✓誰かが住み続ければ、他のきょうだいには何も残らない
  • ✓その結果、分け方をめぐって不公平感が生まれやすい
  • ✓持ち家の多いつくばエリアでも、決して他人事ではない

金額の問題ではなく、「分けにくい不動産をどう扱うか」が、円満に相続できるかどうかの大きな分かれ道になります。

では、元気なうちに何ができるのか

「もめてから」では、選べる手段が限られてしまいます。だからこそ、生前の"設計"が大切です。

正直に申し上げると、いったん本当の"争い"にまで発展した案件は、代理人として交渉にあたる弁護士の領域です。ただ、その一歩手前――「まだもめてはいないけれど、放っておくと危ういかもしれない」という段階の準備や、相続人どうしの意見の調整であれば、司法書士がお役に立てます。私たちでは、弁護士や税理士の力が必要な場面でも、連携してご案内する窓口の役割を担っています。

具体的に、司法書士事務所TOKITOがお手伝いできるのは次のようなことです。

1
遺言書の作成サポート
「誰に何を遺すか」をあらかじめ形にしておき、分け方の迷いをなくします。
2
家族信託・任意後見
判断能力が落ちた後の管理や承継の仕組みを、元気なうちに用意しておきます。
3
相続登記の手続き
2024年4月から義務化されました。期限は「相続を知った日から3年以内」です。
4
相続財産・相続人の調査
財産の全体像と相続人を確定し、後のトラブルの芽を防ぎます。
5
相続全般の相談窓口
「何から始めればいいかわからない」という段階から、ご相談に応じます。

「連絡がつかない相続人がいる」ときこそ、ご相談を

相続の現場で意外と多いのが、「相続人の中に、長年連絡を取っていない人がいる」というケースです。

⚠ こんなお悩み、よくいただきます

・疎遠になっていて、今さら自分から連絡するのは気が引ける

・住所も分からず、どこにいるのかも把握できていない

・何を考えているのか見当もつかず、話を切り出せない

遺産分割は、相続人全員がそろわないと前に進みません。かといって放置すれば、相続登記の義務化もあり、後々ご自身やお子さんの負担になってしまいます。司法書士は、戸籍をたどって相続人を確定し、所在を調べ、話し合いの土台を整えるところからお手伝いできます。「誰に、どう声をかければいいのか分からない」――そんな段階こそ、まずは司法書士にお任せください。

まとめ:いちばんの対策は「元気なうちの話し合い」

相続トラブルは、財産の多い少ないではなく、「分けにくい財産をどうするか」「家族で情報を共有できているか」で決まります。そして最大の予防策は、親御さんがお元気なうちに、家族で少しずつ話をしておくことです。

「実家はどうするつもりか」「どんな財産があるのか」――それを共有しておくだけでも、いざというときの手続きは驚くほどスムーズになります。家族が顔をそろえる帰省の機会に、ぜひ一度、将来の話をしてみてください。

相続・生前対策のご相談は
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遺言・家族信託から相続登記まで、経験豊富な司法書士がサポートします。初回相談は無料です。

無料相談のご予約はこちら

お電話でのご相談 029-875-5991
受付時間:8:30〜18:00(月〜金)

【参考】最高裁判所「令和6年 司法統計年報(家事編)」