こんにちは。司法書士の時任です。
このブログを読まれているあなたは、ご自身の将来、またはご両親の相続について、漠然とした不安を感じているのではないでしょうか。
特に40代から70代の現役世代にとって、**「家族が争わないこと」と「円満な継承」**は最大の関心事です。
実は、生前に対策を講じることは、財産を巡る「争続」を防ぎ、残されたご家族の負担を大きく軽減します。
この記事では、私が日々相続の現場で感じている教訓をもとに、今すぐ始めるべき生前対策を具体的な3つのステップに分けて解説します。財産額の大小に関わらず、ぜひ取り組んでいただきたい内容です。
はじめに:なぜ生前対策が必要なのか?3つのリスク
生前対策は、主に以下の3つのリスクに備えるために行います。
- 相続トラブルのリスク:家族間で遺産を巡る争いが発生する
- 認知症のリスク:ご本人の判断能力が低下し、財産管理ができなくなる
- 相続税のリスク:税金の負担が必要以上に大きくなる
これら3つのリスクに備える前に、まず最も重要な最初のステップから始めましょう。
ステップ1:現状を把握する(財産目録の作成)
相続対策のスタート地点は、**「ご自身の財産が一体どれだけあるのか」**を正確に把握することです。
財産状況がわからなければ、適切な対策を立てることはできません。
このステップで目指すのは、どんな書式でも構いませんので、**プラスの財産とマイナスの財産を一覧にした「財産目録」**の叩き台を作ることです。
1. プラスの財産の整理
まず、お手持ちのプラスの財産を分類し、整理・整頓していきましょう。
- 預貯金:どの銀行に、いくつ口座があり、それぞれの口座にいくら入っているのかを具体的に分類します。
- 不動産:自宅やマンション、その他の土地建物があれば、その所在地(住所・地番・家屋番号など)、マンションの場合は号室まで特定できるように把握します。
- 株式:上場株式を持っている場合、どの会社の株かというよりも、どの証券会社で管理しているのかを特定することが重要になります。
2. マイナスの財産の整理(負債の確認)
プラスの財産だけでなく、負債の状況も必ず把握してください。
住宅ローンや借入金など、マイナスの財産がどれだけあるのかを知ることは非常に重要です。
負債があまりにも多く、相続人が「相続放棄」を検討しなければならない状況も起こり得るからです。
プラスとマイナスの財産を一覧にできれば、今後の対策を講じる準備が整います。
ステップ2:家族が争わないための対策(遺言書の活用)
「うちの家族は仲が良いから大丈夫」「財産は大した額じゃないから揉めないだろう」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、相続の現場で実際に起きている現実は異なります。
遺産分割調停事件の統計を見ると、なんと約8割のご家庭が、5,000万円以下の相続財産を巡って争っているのです。
特に1,000万円以下の財産で争うケースも全体の34%を占めており、遺産が少ないからこそトラブルが起きやすい傾向にあります。
家族が財産を巡って争わないよう、**「誰に、どれだけ遺産を相続させるか」**をあらかじめ話し合っておくことが絶対に大切です。
確実なトラブル回避策は「遺言書」
ご自身の意思を明確に反映させ、遺産分割を確実に行うための最も確実な方法は、遺言書を正式に残すことです。
遺言書があれば、原則として、遺産は遺言書の内容通りに分割されます。
これにより、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)で、不必要に喧嘩が生じるのを防ぐことができます。
遺言書は**「法的効力が強い書面」**であり、遺産分割協議で全相続人が内容以外の分割方法に合意した場合を除き、遺言書の内容が最優先されるため、非常に強力な対策となります。
ステップ3:財産を「凍結」から守る対策(認知症対策)
日本人の高齢化は急速に進んでおり、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」ですが、75歳以上の方は1全人口の18%超になります。
現在、600万人以上の日本人が認知症を発症しているという現実があります。
認知症対策をなぜ急ぐ必要があるかというと、認知症になってしまうと、事実上、ほとんどの相続対策が行えなくなるからです。
- 不動産の売却や購入ができなくなる
- 生命保険への加入ができなくなる
- 有効な遺言書を作成できなくなる
例えば、老人ホームの入居費用を捻出するために不動産を売却しようとしても、認知症発症後では売却できず、手元の資金でなんとかしなければならない事態に陥りかねません。
認知症対策の切り札「家族信託」
認知症で財産が凍結する事態を防ぐために、近年注目されているのが**「家族信託」**です。
家族信託とは、従来の認知症対策として活用されてきた成年後見制度に代わり、より柔軟な財産管理を行うことができる仕組みです。
財産を管理してもらう人(受託者)を指定し、**「どの財産を、誰に、いつ、どれくらい渡すか」**を事前に決めておくことができます。
ただし、家族信託を利用する上で絶対的な注意点があります。
それは、認知症発症後には家族信託を利用することはできないということです。
遺言書も家族信託も、ご本人の判断能力がしっかりしている「発症前」に組んでおくことがマストになります。
(番外編)もしも相続税がかかるなら(税金対策)
相続税の基礎控除額が引き下げられたことで、相続税の対象となる方は増えています。
特に都市部に不動産をお持ちの方は、相続税がかかる可能性が非常に高いので注意が必要です。
基礎控除額を必ず把握する
まず、ご自身の相続財産が基礎控除額を超えているかどうかを確認しましょう。
基礎控除額は以下の計算式で求められます。
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が2人いる場合、
基礎控除額は 3,000万円 +(600万円 × 2人)= 4,200万円 となります。
つまり、財産が4,200万円以上ある場合、相続税が発生する可能性があるため、申告の義務が発生します。
特例や控除を最大限活用する
相続税には、配偶者控除や小規模宅地等の特例など、税額を大幅に減らせる特例・控除が多数存在します。
これらの特例を適切に活用すれば、相続税額がゼロになることも珍しくありません。
しかし、これらの特例控除を利用する場合でも、相続税の申告は必要になります。
税金に関する複雑な手続きや対策については、必ず相続専門の税理士に相談してください。
まとめ:相続対策は「家族全員の共同プロジェクト」
相続対策というと、「縁起でもない」「自分の金は自分で使う」といった考えから、なかなか進まない傾向がありますが、もし少しでもご家族に財産を相続させる意向があるなら、これはご家族全員で取り組むべき共同プロジェクトであると心得てください。
繰り返しになりますが、最も重要な生前対策は、財産額の多寡にかかわらず、ご家族が争うことなく相続を迎えられるようにすることです。
そのためにも、以下の3ステップをぜひ実行してください。
- 財産の現状を整理し、財産目録を作る
- ご自身の意思を反映させる遺言書を作成する
- 認知症になる前に家族信託などの対策を講じる
私たち司法書士事務所や相続専門の税理士事務所では、無料相談を行っているところが多くあります。
まずはお気軽に専門家にご相談いただき、不安を解消するところから始めることを強くお勧めします。