40代から始める賢い対策 「名義預金」はトラブルの元 預貯金相続に備える

ご自身の、あるいはご両親の相続について考え始めた40代から70代の皆様へ。

「名義預金」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
実は、多くのご家庭で無意識のうちに作られており、いざ相続が発生した際に思わぬトラブルの種となることがあります。

「まさか自分の家に限って」と思われるかもしれませんが、この「名義預金」に関する誤解や無知が原因で、家族間の亀裂や余計な税金が発生するケースは少なくありません。

今回は、この「名義預金」について、よくある疑問とその対策を分かりやすく解説します。
早めに知識を身につけ、賢く相続に備えましょう。


1. 「名義預金」とは? なぜ相続で問題になるのか

「名義預金」とは、預金名義は本人以外(例えば子供や孫、配偶者など)になっていても、実質的にはお金を拠出した人(亡くなった方)の財産であると見なされる預金のことです。

「預金通帳の名義がAになっているから、それはAの財産だ」と安易に考えていると、相続の際に大きな問題となることがあります。
例えば、亡くなったおじい様が、孫のためにと孫名義で貯めていた預金などが典型的なケースです。
しかし、この孫名義の預金は、法的にはおじい様の遺産として扱われる可能性が高いのです。


2. 名義預金は「遺産」になる?ならない?遺産分割協議書への記載の注意点

多くの方が疑問に思われるのが、「名義預金は遺産分割の対象になるのか」という点です。
結論から申し上げると、名義預金は、たとえ亡くなった方以外の方の名義であっても、実質的に故人の財産と見なされ、遺産分割の対象となります

では、遺産分割協議書にはどのように記載すれば良いのでしょうか?

遺産分割協議書に名義預金を記載する方法は、主に以下の2通りがあります。

  • 通常の預貯金と同様に記載する方法
  • 名義人に対する「預け金債権」として記載する方法

どちらの方法でも問題はないとされていますが、特に注意が必要なのは、相続人以外の方(例えば孫など)が名義人となっている預金や、名義人がその預金を相続しないケースです。
このような場合、通常の預貯金として記載すると、銀行での手続きが煩雑になる可能性があります。

例えば、孫名義の預金を銀行に持参して名義変更しようとしても、銀行側は「本当に亡くなった方の財産なのか」と調査する必要が生じ、手続きに時間がかかることがあります。
このような事態を避けるためには、名義預金を故人の「預け金債権」として遺産分割協議書に記載し、一旦相続人名義に振り替えるなどの対応を検討する方が、手続きをスムーズに進められることが多いでしょう。

ただし、故人が生前、その名義人に財産を残したいという遺言的な思いがあったと認められる場合は、例外的に名義人がその預金を取得するケースもあります。
しかし、相続税の申告上は、基本的に名義預金も相続税の対象となりますので、申告書には含めておくのが安全でしょう。


3. 「名義預金に時効はない」って本当?贈与税との関係

「名義預金には時効がある」という話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、これは正確ではありません。
実は、名義預金そのものに「時効」という概念は当てはまらないのです。

ここでいう「時効」とは、多くの場合「贈与税の時効」を指します。
贈与税の時効は、原則として贈与税の申告期限から6年間(悪質な場合は7年間)と定められています。
しかし、これは「贈与が法的に成立している場合」に適用されるものです。

名義預金の場合、お金を拠出した故人の意思として「預けているだけで、贈与ではない」と判断されることがほとんどです。
つまり、贈与が成立していないため、贈与税の時効が適用される余地がないのです。
結果として、名義預金は、いつまで経ってもお金を拠出した人の財産として扱われ、相続の対象となる可能性があるわけです。


4. 生前に名義を本来の所有者に戻すべきか?ケースごとの判断

「生前に名義預金を本来の所有者である自分(故人となる人)の名義に戻すべきか?」というご疑問もあるでしょう。

この問いに対する答えは、「案件ごとに判断する」ということになります。
もし名義預金を本来の所有者名義に戻したとしても、それは真の所有者に財産を戻す行為であるため、贈与税の対象となることはありません

しかし、いつ、いくらを戻すべきかという判断は、特に生前の段階では非常に難しいのが実情です。
計算が煩雑になることが多く、実務上は「無理に名義を戻さない」というケースも少なくありません。
特に夫婦間の名義預金などでは、計算が複雑になりすぎるため、あえて変更しない方が良い場合もあります。

ただし、明らかに贈与が成立していないと判断できる子供や孫名義の預金など、状況が明確な場合は、本来の所有者名義に戻すことを検討する価値はあります。実行する前に税理士や会計士にご相談することをお勧めします。


5. 見落としがち!「逆名義預金」の落とし穴

「逆名義預金」という言葉をご存じでしょうか?
これは、例えば夫が外で働き、その稼ぎを専業主婦である妻の名義で預金していたようなケースを指します。
妻名義の預金でも、実質的な拠出者は夫であるため、これも一種の名義預金と言えます。

ここで注意したいのは、もし妻が夫より先に亡くなった場合です。
通帳だけを見ると、妻名義の預金残高が多額(例えば1億円)に見えることがあります。
その金額だけで判断すると、相続税の基礎控除を超えるため、相続税の申告が必要だと考えるかもしれません。

しかし、実質的にこの預金が夫の稼ぎであり、妻の固有の財産はごく一部(例えば1,000万円程度)であると証明できれば、その金額は相続税の基礎控除以下となり、相続税の申告が不要となるケースがあります。

ただし、ここに大きな落とし穴があります。
もし、この「逆名義預金」を真の所有者である夫ではなく、子供などの他の相続人が相続してしまうと、夫から子供への贈与と見なされ、贈与税が発生してしまう可能性があるのです。
真の所有者が相続する分には問題ありませんが、それ以外の相続人が取得する際には、別の税金が発生しないよう細心の注意が必要です。


まとめ:名義預金は早めの対策が肝心

「名義預金」は、税務調査で指摘されることも多く、相続トラブルの原因となる典型的なケースの一つです。
ご自身の、あるいはご両親の相続財産の中に、ご紹介したような名義預金がないか、今一度確認してみることをお勧めします。

「自分たちの場合はどうなるのだろう?」「具体的な対策を知りたい」そうお考えになった方は、ぜひ一度、相続の専門家である司法書士にご相談ください。税務関係のご質問の場合には、最適な専門家をご紹介させて頂きますのでご安心ください。