第24回 「これだけは避けて!」相続NG行動7選!

ご家族を亡くされた直後は、悲しみの中で心身ともに大変な時期であり、多くの方が手続きに頭を悩ませることと思います。

しかし、そうした感情の渦中で、知らず知らずのうちに 将来の相続トラブルの原因 となるような行動をとってしまうケースが少なくありません。

今回は、ご自身やご両親の相続に備える方のために、ご逝去直後に特に注意して避けたい 「やってはいけない」相続手続き を、司法書士の視点から解説します。


1. 故人の預貯金を安易に引き出す

ご逝去後、急な出費などで故人の口座からお金を引き出してしまう方は少なくありません。

しかし、これは後に深刻な 相続トラブルの火種 となる可能性があります。

現金で引き出した場合、何にいくら使ったかを明確に記録に残せない と、他の相続人から「不当な使い込みではないか」と疑われかねません。

後で説明を求められても証明できず、泥沼の争いになるケースもあります。

もし、どうしても故人の預貯金から費用を捻出する必要がある場合は、必ず領収書を保管し、何にいくら使ったかを明確にすること が重要です。


2. 故人の遺産に手を付ける

故人が多額の負債を抱えていた場合、相続人にとって 相続放棄 は非常に重要な選択肢です。

これは、故人の借金を含め、一切の財産を相続しないという手続きです。

しかし、故人の遺産にたとえ少額でも手をつけてしまうと、その行為自体が「相続を承認した」とみなされ、相続放棄の権利を失ってしまう 恐れがあります。

たとえば、故人の形見分けで腕時計を一つ受け取っただけでも、相続放棄ができなくなる可能性があります。

特に借金の有無が不明な場合は、遺産には一切手を触れないよう、細心の注意 を払ってください。


3. 故人の銀行口座をすぐに凍結させるよう銀行に伝える

銀行に故人の死亡を伝えると、その口座は 即座に凍結 されます。

そうなると、当然ながらお金の引き出しはできませんが、同時に 入金もできなくなってしまう 点に注意が必要です。

注意すべき例

  • 家賃収入のある不動産をお持ちの場合、その収入が凍結口座では受け取れなくなる
  • 電気・ガス・水道などの公共料金やクレジットカードの引き落としが止まり、滞納の恐れがある

凍結の連絡をする前に、必要な引き落としや振込の手続きを済ませておく ことが賢明です。


4. 故人の遺言書を勝手に開封する

故人が遺言書を残していたとしても、勝手に開封してはいけません。

遺言書は、相続人全員が立ち会いのもと、家庭裁判所で「検認」という手続きを経て開封する ことが法律で義務付けられています。

この検認手続きを怠ると、5万円以下の過料 が科されたり、最悪の場合、不動産の名義変更ができなくなる 可能性もあります。

もし遺言書を見つけても、開封せずにすぐ専門家へ相談してください。

遺言書自体に「この遺言書は家庭裁判所で開封してください」と記載しておくのも有効です。


5. 死亡届提出後、すぐに戸籍謄本を取得する

相続手続きには多くの戸籍謄本が必要ですが、取得のタイミングに注意が必要です。

死亡届を提出してすぐに戸籍謄本を取ると、まだ故人の 死亡の事実が記載されていない ものが発行される場合があります。

死亡届の情報が戸籍に反映されるまでには、通常 1週間〜2週間 ほどかかります。

焦って取得すると、再度取り直す手間が発生しかねません。個人の戸籍は1通450円から750円するためもったいないです。


6. 故人の携帯電話をすぐに解約する

故人の携帯電話をすぐに解約するのは避けましょう。

亡くなったことをすぐに伝えきれない遠縁の親戚や友人も多くいます。

そうした方々が故人の訃報を知り、ご家族の連絡先が分からず、故人の携帯電話に連絡してくる ケースは非常に多いです。

すぐに解約してしまうと、大切な連絡を取り損ねてしまう恐れがあります。

しばらくは契約を維持しておくこと をお勧めします。


7.口約束だけで遺産分割を決める

遺産分割を口約束だけで決めてしまうことは、相続の場面では非常に危険です。

兄弟や親族同士であっても、「言った・言わない」の食い違いは時間が経つほど増え、感情的な対立に発展しやすくなります。

特に相続財産に不動産や預貯金が含まれる場合、名義変更や解約のためには、法的に有効な書面である遺産分割協議書が必要です。

この書類には相続人全員の署名と実印押印、印鑑証明書の添付が求められます。

口約束では、金融機関や法務局での手続きができず、結果的に相続が長期化してしまうのです。

さらに、口頭だけの合意では、後から一部の相続人が合意内容を否定したり、財産の存在や評価額を巡って争いが再燃する可能性があります。

こうした事態を避けるためには、話し合いの結果を必ず書面にまとめ、全員が内容を確認したうえで署名押印することが重要です。

遺産分割協議書は将来の証拠となり、相続手続きを円滑かつ確実に進めるための不可欠な道具です。

感情や信頼関係だけに頼らず、法的に有効な形で合意を残すことが、相続トラブルを未然に防ぐ最大のポイントです。


まとめ

ご逝去直後は、精神的な負担に加え、多くの手続きが重なり、冷静な判断が難しくなります。

今回ご紹介した「やってはいけないこと」は、どれも後々の大きなトラブルや困りごとに繋がりかねない重要なポイントです。

少しでも不安を感じたら、一人で抱え込まず、専門家にご相談ください

私どもでは、財産の調査から預金口座の解約、不動産や各種財産の名義変更まで幅広く対応させていただきます。

空地空家の相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。ご連絡をお待ちしております。

第23回 親の銀行口座が凍結!パニックにならないための相続手続きと生前対策 その2

前回に引き続き、パニックにならないための相続手続きと生前対策 について解説していきます。

今回は「凍結してしまった口座を解除する」ためのステップと遺産分割前でも預金を引き出せる「仮払い制度」を解説します。


凍結口座の相続手続きと解除までの最短ステップ

口座凍結の解除には、銀行所定の相続手続きが必要です。

手続きは金融機関ごとに異なりますが、預金の払い戻しを受けるまでにかかる期間は、
通常2、3週間程度、長ければ1、2ヶ月以上かかる場合もあります。


● 手続きは以下のステップで進めます:


STEP 0:故人の取引銀行と口座情報を確認

通帳やキャッシュカード、郵便物などから、どの銀行に口座があったかを確認します。


見当たらない場合は、銀行の「全店照会」サービスを利用して故人名義の口座がないか調べてもらうことも可能です。

注意して頂きたいことは最低でも金融機関は特定しなければなりません。日本における全金融機関に一括で照会をかけるという制度はありません。そのため、遺品やメールの履歴からある程度金融機関は特定する必要があります。


STEP 1:銀行へ死亡連絡と凍結解除依頼

取引銀行の窓口または相続専門部署に連絡し、口座名義人が亡くなった旨を伝え、相続手続きを進めたい旨を申し出ます。

この時、今後の手続きの流れや必要書類について詳しい案内がありますので、
必ずメモを取るか、書面で受け取りましょう。


STEP 2:必要書類の案内受領と収集準備

銀行から受け取った必要書類のリストに基づき、収集を開始します。

遺言書の有無や相続人の状況、銀行の規定によって必要書類は異なります。
複数の銀行に口座がある場合は、それぞれ個別に確認が必要です。


STEP 3:遺言書の有無を確認する

故人が遺言書を残しているかどうかは、手続きに大きく影響します。

  • 遺言書がある場合:
     公正証書遺言であればそのまま使用できます。
     自筆証書遺言の場合は、原則として家庭裁判所での「検認」手続きが必要です。
     遺言書の内容に従って手続きが進むため、遺産分割協議は基本的に不要です。
  • 遺言書がない場合:
     法定相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行い、
     その結果をまとめた「遺産分割協議書」を作成する必要があります。

STEP 4:相続人の確定(戸籍謄本等の収集)

誰が法的に相続人となるのかを確定させるため、

  • 故人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本

が必要となります。

戸籍謄本の収集は手間と時間がかかる場合がありますが、
「法定相続情報一覧図」を取得すれば、各金融機関に戸籍の束を提出する必要がなくなるため非常に便利です。これは、家系図を法務局に認証してもらうイメージです。


STEP 5:遺産分割協議の実施と遺産分割協議書の作成(必要な場合)

遺言書がない場合などに、相続人全員で遺産分割協議を行います。

協議がまとまったら、相続人全員が実印を押し、
印鑑証明書を添付した**「遺産分割協議書」**を作成します。必ず実印での押印が必要です。


STEP 6:銀行へ必要書類を提出

すべての必要書類が揃ったら、銀行の窓口に提出します。
不備がないか事前にしっかり確認しましょう。


STEP 7:預金の払い戻し・名義変更(解約)手続き

書類が受理されれば、口座凍結の解除手続きが進められます。

  • 預金の払い戻しを受ける
  • 相続人の誰かの名義に口座を書き換える

といった選択が可能です。


続いて、遺産分割前でも預金を引き出せる「仮払い制度」について解説していきます。

遺産分割前でも預金を引き出せる「仮払い制度」とは?

故人の銀行口座が凍結されると、遺産分割協議が完了するまでは原則として預金を引き出せません。

しかし、葬儀費用や当面の生活費など、緊急の資金が必要になることもありますよね。

そのような場合に備え、2019年の民法改正により、遺産分割前でも一定額の預金を引き出せる「相続預金の仮払い制度」が創設されました。

この制度は、主に以下のような支出を想定しています:
・葬儀費用の支払い
・故人の借金の弁済
・相続人の当面の生活費

※遺言によって特定の相続人が預金を相続することになっている場合など、この制度を利用できないケースもあります

  • ● 引き出せる金額と2つの手続き方法

【方法①:家庭裁判所の判断を経る方法】
遺産分割の調停または審判を申し立てている場合、家庭裁判所が個別の事情を考慮して払い戻し金額を決定します。

【方法②:金融機関で直接手続きする方法】
各相続人が金融機関の窓口で直接払い戻しを請求する方法です。
「相続開始時の預金額 × 1/3 × 払戻しを行う相続人の法定相続分」で計算。
同一金融機関からは最大150万円までという制限があります。

  • ● 利用時の注意点:相続放棄を検討している場合

仮払いを受けて生活費などに充てると、「相続財産を処分した」とみなされ、
単純承認(全ての財産と債務を相続)したことになり、
その後に相続放棄ができなくなる可能性があります。

もし、故人に多額の借金がある場合や借金の有無が不明で相続放棄を検討している可能性がある場合は、この制度の利用は慎重に判断しなければなりません。信用情報機関に照会して故人の借金の有無を確認することも検討すべきでしょう。

いかがでしたでしょうか。

少し安心していただければ幸いです。文章で読むと簡単そうですが、実際は各金融機関で取り扱いや手続きに関する要望は様々なのが現状です。

特に、社会的にもお忙しい40代から50代の方々が、日々の日常に加えてこれらの手続きを進めることは時に大きな負担となります。

その際には、ぜひ私たちにお任せください。