第22回 親の銀行口座が凍結!パニックにならないための相続手続きと生前対策 その1


はじめに

大切なご家族が亡くなられた時、深い悲しみに暮れる中、故人の銀行口座がどうなるのか、不安に思われる方は少なくありません。

特に、

  • 「いつ口座が凍結されてしまうのか」
  • 「葬儀費用や当面の生活費は引き出せるのか」
  • 「凍結されたらどんな手続きが必要なのか」

といった疑問は当然のことで、パニックに陥りがちです。

このブログでは、そうした皆様の不安を少しでも和らげ、故人の銀行口座の相続手続きをスムーズに進めるための具体的な情報と、ご自身の将来やご両親のために今からできる生前対策について、専門家の視点から詳しく解説していきます。

口座凍結の正確なタイミングから、緊急時の資金引き出し方法、そしてトラブルを防ぐための賢い準備まで、順を追って見ていきましょう。


1. なぜ故人の銀行口座は凍結されるのか?

その理由とタイミング

故人の銀行口座が「凍結」されると、預金の引き出しはもちろん、公共料金などの自動引き落としも一切できなくなります。
つまり、口座内のお金が完全に動かせない状態になるのです。

これは、故人の預金が法律に基づいて相続人に引き継がれるべき**「相続財産」として安全に保全するため**、そして、特定の相続人が他の相続人の同意なしに預金を引き出してしまい、相続人間での無用なトラブル(「争続」)を防ぐための大切な措置です。

多くの方が「役所に死亡届を出したら、自動的に銀行に情報が伝わり、すぐに口座が凍結されるのでは?」と心配されますが、実はそうではありません。
市区町村の役所と民間の金融機関は、相続において直接的に情報連携しているわけではないのです。

銀行が口座凍結を実行する最も一般的なタイミングは、ご遺族(相続人)の方が銀行に連絡し、口座名義人が亡くなったことを伝えた時点です。
つまり、銀行が「口座名義人の死亡の事実を知った時点」で口座は凍結されます。

裏を返せば、銀行がその事実を把握するまでは、キャッシュカードと暗証番号があればATMでの引き出しや各種引き落としが継続される可能性もあります。

しかし、銀行に連絡せず預金を引き出し続けることには、大きなリスクが伴います。
次は、絶対に避けるべき行動について詳しく見ていきましょう。


2. 【要注意】口座凍結前後に絶対やってはいけないNG行動

葬儀費用や生活費など、急な出費でお金が必要になる気持ちはよく理解できます。
しかし、焦って行動すると、後々深刻なトラブルに発展したり、法的に不利な状況に陥ったりする可能性があります。


● NG行動①:他の相続人に知らせず勝手に引き出す

故人の預金は相続人全員の共有財産です。
たとえ正当な目的であっても、他の相続人の同意なしにATMなどで預金を引き出すのは非常に危険です。

「何に使ったのか」「なぜ勝手に引き出したのか」といった深刻な「争続」の原因となり、最悪の場合、不当利得返還請求や損害賠償請求といった法的な問題に発展する可能性も否定できません。

また、使い道を明確に説明できないお金は「使途不明金」として扱われ、遺産分割協議が難航する原因となります。


● NG行動②:領収書なしでの安易な引き出し

葬儀費用や病院代など、社会通念上妥当な範囲の支出であれば相続財産から支払いが許容される場合が多いですが、必ず引き出した金額や使途を証明する領収書や明細書を保管してください。

領収書がないと、税務署から相続税の計算においてその支出が認められなかったり、他の相続人から「使い込みではないか」と疑われたりするリスクがあります。

お布施など領収書が出ない場合は、日時・金額・相手先などを詳細にメモしておけば安心です。


● NG行動③:「うっかり引き出し」で相続放棄ができなくなる

故人に多額の借金があるなど、相続放棄を検討している状況で、故人の預金を引き出して自分のために使ってしまうと、法的に「単純承認」したとみなされ、原則として相続放棄ができなくなる可能性が高いです。

単純承認とは、故人のプラスの財産(預貯金など)もマイナスの財産(借金など)も全て無条件で引き継ぐ意思表示です。

故人の財産を自分のために使う行為(「処分」)は、法律上「法定単純承認」とみなされることがあるためです。

少しでも相続放棄を考えている場合は、故人の預金には一切手を付けず、すぐに弁護士や司法書士などの専門家に相談するのが最も安全な方法です。


次回は、凍結口座の相続手続きと解除までの最短ステップについて解説をしていきます。

第21回 「うちは関係ない」は危険!一般家庭に潜む遺留分トラブルとその回避策

皆様、こんにちは。司法書士の時任です。

ご自身の、あるいはご両親の財産をめぐる「相続」は、誰もがいつか向き合う大切なテーマです。

特に、「遺言書」を準備されるご家庭も増えていますが、

「うちは揉めるほどの財産はないから大丈夫」「専門家に相談するほどではない」と、

漠然と捉えていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。

しかし、そうした思い込みが、かえって将来のトラブルの種になることがあります。

今回は、「遺留分」という制度と、それが原因で起こる相続トラブルについて、

特に「一般家庭」でこそ知っておくべき実情と、その回避策を分かりやすくお伝えします。

「遺留分」とは?遺言書があっても「保障される権利」

「遺留分」とは、亡くなった方が遺言書で財産の配分を決めた際、

その内容が特定の人に偏っていた場合でも、一定の相続人に最低限保証される財産の割合を意味します。

たとえば、「全財産を長男に相続させる」と遺言書に書かれていても、

配偶者や子、親には「法定相続分の半分」までの金銭請求権が認められており、

遺言内容を一部是正できるのです。

■「うちには関係ない」は誤解!一般家庭でこそ遺留分トラブルが多い理由

「遺留分なんて大富豪の話」と思いがちですが、実は違います。

相続税がかからない一般家庭でこそトラブルが多発しています。

理由は以下の通りです:

・「偏りやすい」自筆証書遺言の存在:

自筆証書遺言は簡単に作れる一方で、内容が偏る傾向があります。

公正証書遺言は専門家が関与するため、公平性が保たれやすい特徴があります。

・制度の拡充による利用増:

令和2年7月10日から法務局による保管制度が開始され、

自筆証書遺言の利用が広がりましたが、形式面しかチェックされないため、

内容の偏りに対するフォローがありません。

・資産規模と利用者の実態:

法務省調査では、自筆証書遺言作成希望者の6割以上が「総財産額3,000万円未満」。

一般家庭ほど利用率が高いことがわかります。

■遺留分を請求できるのは誰?

請求権があるのは、亡くなった方の「法定相続人」のうち、以下の者です:

・配偶者

・子(または代襲相続人である孫)

・直系尊属(親や祖父母)

兄弟姉妹や甥・姪には遺留分がありません。

■遺留分が侵害されたらどうなる?

請求手続きの流れは以下の通りです:

1. 相手方への「通知」

内容証明郵便で1年以内に通知する必要があります。

2. 相続人同士の「話し合い」

金額や方法を協議し、合意すれば合意書を作成します。

3. 家庭裁判所での「調停」

解決しない場合は調停を申立てます。

4. 「訴訟」

最後の手段は訴訟。長期化・費用負担が重くなります。

■トラブルを防ぐ3つのポイント

1. 遺留分を侵害しない遺言書を作成する

法定相続分と遺留分を踏まえた配分を。感情的配慮も大切です。

2. 生命保険金を戦略的に活用する

生命保険金は受取人固有の財産となるため、遺産分割対象外にできます。

非課税枠(500万円×法定相続人)も利用できます。

3. メッセージを残す(付言事項・エンディングノート)

法的効力はなくとも、気持ちを伝えることで争いの回避につながります。

最も有効なのは生前の話し合いです。

■まとめ

遺留分は、多くの家庭にとって「無関係ではない」問題です。

自筆証書遺言の普及により、より身近な課題となっています。

遺言内容の工夫、生命保険の活用、気持ちを伝える工夫などで、

円満な相続を実現することができます。

当事務所でも、状況に応じた相続対策をご提案しています。

お気軽にご相談ください。

第20回 40代・50代必見!親の預貯金相続 実はもっと簡単にできた?賢い「少額預貯金」手続きの全貌

少額預貯金の相続手続き、実はもっと簡単にできるって知っていますか?

親御様の相続、またはご自身の将来を見据えて準備を進めている40代〜70代の皆様へ。

「相続手続き」と聞くと、

  • 複雑そう
  • 費用がかかりそう

というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?

特に預貯金の相続は、最も身近な財産であるがゆえに、「どう対応すればいいのか分からない」という不安を抱く方が少なくありません。

司法書士として多くの相続案件に関わってきた経験から、今回は“知っておくと安心”な「少額預貯金の簡単な相続手続き」について、わかりやすくご紹介いたします。

「こっそりATM引き出し」はもう不要

堂々とできる、相続手続きの新常識

相続発生後、

「専門家に頼むほどでもないし、少しずつATMで引き出そうかな…」

と考える方もいらっしゃるかもしれません。

  • ATMでは1円単位で引き出せず端数が残る
  • 「こっそり」行うことに心理的な抵抗がある

という声も多く聞かれます。

本記事で紹介する制度を活用すれば、堂々と金融機関で預貯金を引き出す/解約することが可能になります。

不安や後ろめたさから解放される新しい相続のかたちです。

簡略化のカギは「提出書類の大幅削減」

一般的な預貯金相続手続き

 通常は、以下のような煩雑な準備が必要です:

  • 戸籍謄本(出生から死亡まで)をすべて集める
  • 相続人全員で協議し、「誰が相続するか」を決定
  • 遺産分割協議書を作成し、全員が署名・捺印
  • 印鑑証明書を全員分用意
  • 上記すべてを金融機関に提出

少額預貯金の簡略化された手続き

一定の条件を満たす「少額」のケースでは、必要書類が大幅に減ります:

  • 戸籍謄本:死亡記載ありのもの+相続人を示すものだけでOK
  • 印鑑証明書は不要
  • 遺産分割協議書の提出も不要

利用条件:「相続人同士が揉めていない」こと

この制度を利用するうえで最も重要なのが、

相続人同士で争いがないこと

です。

  • 口頭で「争いはありませんか?」と確認される場合
  • 書面でチェック欄への記入を求められる場合

「少額」とはいくらまで?金融機関ごとに基準が異なります

例:ゆうちょ銀行では100万円以下が対象です。

ただし、金額の上限や条件は金融機関によって異なります。事前の確認が必須です。

この制度が有効なケースと注意点

特におすすめできるケース

  • 相続財産が預貯金中心で、金額が少額
  • 相続財産に不動産が含まれていない

注意点

不動産がある場合は、遺産分割協議書の提出が必要となります。ご注意ください。

まとめ:知っておくだけで、相続はもっとスムーズに

相続は多くの方にとって一生に一度あるかないかの出来事。だからこそ、不安になるのは当然です。

しかし、「少額預貯金の簡略化手続き」という制度を知っておくだけで、相続の負担をぐっと軽くすることができます。

ぜひご自身の状況にあわせて、最適な方法を選びましょう

第19回 40代・50代から始める!「相続の不安」を「安心」に変える準備術

相続――この言葉を聞くと、漠然とした不安を感じる方も少なくないのではないでしょうか。

特に40代から70代の皆さまにとって、親御さんのこと、ご自身の将来のことなど、遺産分割や税金、そして何から手を付けて良いか分からないというお悩みは尽きないかもしれません。

ご安心ください。

適切な知識と早めの準備があれば、これらの不安は必ず解消できます。司法書士の時任が、皆さまの相続への「もやもや」を晴らし、「安心」に変えるための具体的な一歩をご案内します。

不安1:複雑な手続き、期限に間に合うか?

相続手続きは多岐にわたります。

例えば、故人の死亡を知った日から7日以内の死亡届提出、相続を放棄するか限定承認するかは3ヶ月以内の検討が必要です。

また、4ヶ月以内に準確定申告、相続税の申告・納付は死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内と、期限が定められているものも多数存在します。

特に重要なのが、不動産の名義変更(相続登記)です。これまでは任意でしたが、登記を行わないと10万円以下の過料の対象となりえますので、注意が必要です。

複数の手続きで戸籍謄本などが必要な場合は、法務局が無料で提供する「法定相続情報証明制度」が便利です。

相続関係を公的に証明する書類として、様々な手続きで活用でき、手間と費用を削減できます。

不安2:故人の預金が引き出せない?

故人名義の預金は、金融機関が死亡を知ると原則凍結され、遺産分割が終わるまで引き出せなくなります。

しかし、ご安心ください。2019年7月1日からの民法改正により、残された遺族の当面の生活費や葬儀費用に充てるため、遺産分割前でも故人の預金の一部を引き出せるようになりました。

引き出し額は、相続開始時の預金残高の3分の1に、引き出しを行う相続人の法定相続分を乗じた金額(ただし、同一金融機関につき150万円が上限)です。

不安3:残された自宅に住み続けられる?

配偶者が長年住んだ自宅にそのまま住み続けたいと願うのは当然のことです。この課題に対応するため、2020年4月1日から「配偶者居住権」が施行されました。

これは、配偶者が自宅に「住む権利」を、他の相続人が「所有する権利」をそれぞれ相続できる制度です。これにより、配偶者は自宅に住み続けながら、他の預貯金などもより多く相続できるようになります。

また、もし遺言で自宅が他人に渡っても、「配偶者短期居住権」により、最低6ヶ月間は無償で居住できるため、急な転居を避けられます。

ただし、配偶者居住権では自宅の売却や賃貸はできませんので、所有者となる相続人との間でトラブルにならないよう、事前にルールを決めることが大切です。

不安4:相続した土地の管理が負担?

相続した土地が遠方で利用予定がなく、管理費や固定資産税が負担となるケースは少なくありません。特に、前述の2024年4月1日からの相続登記義務化で、土地の管理はより重要な課題となります。

もし不要な土地であれば、2023年4月27日から施行された「相続土地国庫帰属制度」の活用も検討できます。これは、一定の要件を満たせば、土地を国に引き取ってもらえる制度です。

ただし、国の管理コスト転嫁を防ぐため、審査手数料や10年分の土地管理費相当額の負担金が必要です。

なお、相続登記の義務化に伴い、令和9年(2027年)3月31日までに行う相続登記には、登録免許税の免税措置が設けられている場合もあります(条件あり)。

相続に関する不安は尽きないものですが、早期に専門家へ相談し、知識を得て準備を進めることが何よりも大切です。

わたしたちは、不動産に限らず相続手続き全般のサポートが可能です。

相続財産の調査や相続人の確定、不動産をはじめ各種財産の名義変更、遺産分割や納税資金の手当てに関するアドバイスなど、多岐にわたるサポートができます。

どんな小さなお悩みでも、お気軽にご相談ください。皆さまの「安心」な未来をサポートいたします。