第14回 相続時の預金の取り扱いでよくある疑問5選|口座凍結・税金・仏壇費用まで

相続が発生すると、故人名義の預金口座をどのように扱えば良いのか、様々な疑問や不安が生じることがあります。司法書士として相続のご相談をお受けする際にも、預金に関するご質問は非常に多く寄せられます。

例えば、「亡くなる前に故人の預金を引き出して使っても良いのか?」「亡くなった後、口座は凍結されてしまうのか?」「相続した預金で相続税を払っても問題ないのか?」といったことです。これらの疑問について、今回は5つのポイントに分けて分かりやすく解説いたします。(一部税務に関する記載がありますが、当職は税理士ではございません。ご参考程度にして頂き税理士にご確認頂きますようお願いします)

  1. 亡くなった方の預金、いつ引き出せる?(相続開始前後の対応)

相続が発生すると、お通夜や葬式など様々な費用が発生し、手元にお金が必要となる場面が多くあります。そのため、故人が入院中に、今後の葬儀費用などに充てるため、あるいは口座凍結を懸念して、亡くなる直前にご家族が故人の預金を引き出しておく、という話はよく聞かれます。これらの行為自体は、他の相続人の方々の了解を得て行う分には、特に問題となることはありません。

しかし、注意が必要なのは、相続税の申告における財産の評価です。相続税における財産評価は、原則として、亡くなった方(被相続人)が亡くなられた当日における財産の価値に基づいて行われます。預貯金や不動産、その他の財産や負債などが含まれます。

例えば、故人が亡くなる直前に、今後の費用に充てる目的で預金口座から300万円を引き出したとします。亡くなった当日の口座残高は、引き出し後の1700万円となります。一見、故人の財産が減ったように見えますが、税務上の評価においては注意が必要です。引き出された300万円は、形を変えて故人の財産として存在していると考えられます。したがって、相続税の申告では、引き出し後の口座残高1700万円と、手元にある現金300万円を合わせた2000万円が故人の預貯金等として計上されるべき、ということになります。安易に引き出し後の口座残高のみで申告すると、過少申告とみなされ、税務調査の際に指摘を受ける可能性があります。

相続税の申告においては、亡くなった日時点での預貯金残高と、引き出されて現金として手元にある分を合わせて計上します。その上で、実際に支払った葬儀費用などは、別途債務控除として差し引くという手続きをとります。固定資産税や入院費、公共料金なども同様に扱われます。

一方、相続が発生した後に、故人の預金を引き出すこと自体は、税務上の問題は生じにくいと言えます。なぜなら、相続財産の評価は亡くなった日時点で行われるためです。この場合も、他の相続人の了解を得て行うことが重要です。遺産分割協議がまとまっていれば、口座名義人以外の方でも手続きにより引き出しが可能になります。

  1. 口座が凍結されたらどうする? 一部を引き出す方法は?

「口座が凍結されてお金が引き出せなくなる」という話を聞いてご心配される方もいますが、実は銀行は自動的に口座名義人の死亡情報を把握しているわけではありません。ご家族が亡くなられたことを銀行に知らせなければ、多くの場合、すぐに口座が凍結されることはありません。

しかし、遺産分割協議がまとまる前に、銀行の窓口で故人の口座から多額(目安として50万円以上)の引き出しを試みたり、残高証明書を取得しようとしたりすると、銀行は口座名義人の死亡を認識し、口座が凍結される可能性があります。口座が凍結されると、原則として相続人全員の同意や、遺産分割協議書などの手続きを経て、凍結解除の手続きをしないとお金を引き出せなくなります。

ただし、2019年7月1日からは、遺産分割協議が完了する前でも、一定の要件を満たせば、故人の預金から生活費や葬儀費用などに充てるために、「仮払い制度」を利用して一部を引き出すことができるようになりました。引き出せる額には上限があり、口座残高に応じた法定相続分の3分の1まで、かつ最大150万円までとなっています。他の相続人の同意を得ずに手続きを進めることも可能ですが、後々のトラブルを防ぐためにも、他の相続人への配慮は重要です。

また、遺産分割協議がまとまる前に一部の相続人が勝手に預金を引き出す行為は、他の相続人との間で争いの火種となる可能性があるため、十分な注意が必要です。さらに、故人に借金が多く相続放棄を検討している場合に、安易に預金を引き出してしまうと、相続放棄ができなくなる場合もあります。

  1. お墓や仏壇の購入費用、相続財産から引ける?

相続税の計算において、故人の借金(債務)や葬儀にかかった費用は、相続財産から差し引いて計算することができます(債務控除、葬式費用控除)。では、故人のためにお墓や仏壇を購入した費用は、この控除の対象となるのでしょうか?

亡くなられた後にご家族が故人のためにお墓や仏壇を購入した場合、その費用は相続税計算上の「債務控除」の対象とはなりません。つまり、相続財産から購入費用分を差し引いて相続税を計算することはできない、ということです。

一方、故人が生前にご自身の預金などでお墓や仏壇を購入されていた場合、これらの祭祀財産は相続税法上「非課税財産」とされており、相続財産に含めなくて良いとされています。故人生前にご自身の財産で購入しておけば、その購入費用で資産は減少し、購入したお墓や仏壇は非課税財産として相続されるため、結果として相続税の負担を軽減できる可能性があると言えます。

  1. 相続税の支払い、相続した預金からでも大丈夫?

「被相続人から相続した財産を使って相続税を支払ってはいけない」という話を聞いて、不安に思われる方がいらっしゃるようですが、そのような法律上の制限は一切ありません。ご安心ください。多くの相続人の方が、相続によって得た預貯金などから相続税を支払われています。ご自身の固有の預金から支払っていただいても全く問題ありません。

ただし、相続財産の大部分が不動産で、預貯金などの現金資産が少ない場合、相続税を支払うための現金が不足し、納税に苦労する可能性があります。このような事態を防ぐため、財産を残す側のご両親などは、遺族が相続税の支払いに困らないよう、生前のうちから現預金をある程度確保しておいたり、不動産の一部を持分贈与するなどして対策を検討することが望ましいでしょう。専門家である税理士などに相談し、計画的に対策を進めることをお勧めします。

  1. 遺産をまとめて分配するのは贈与?

遺産分割協議がまとまった後、相続財産である預金などを代表相続人(例:長男)の口座に一度集約し、そこから各相続人の口座へ、協議で定めた割合に応じて分配するという手続きをとる場合があります。この場合、代表相続人の口座を経由したとしても、それは遺産分割の履行として行われるものであり、贈与には該当しません。贈与税がかかる心配はありませんのでご安心ください。

通常、家族間でも年間110万円を超える財産のやり取りには贈与税がかかる可能性がありますが、相続財産の分配はこれとは異なる扱いとなります。

まとめ

相続における預金は、日常生活と密接に関わるため、多くの疑問が生じやすい部分です。適切な知識がないまま手続きを進めると、他の相続人とのトラブルに発展したり、税務上の問題が生じたり、場合によっては相続放棄ができなくなるといったリスクもあります。

特に、相続開始前後の預金の引き出しについては、税務上の注意点や、他の相続人との事前の話し合いが不可欠です。また、遺産分割協議がまとまる前に預金を引き出す場合は、口座凍結のリスクや、「仮払い制度」の利用を検討するなど、慎重な対応が求められます。

相続手続きは複雑で、預金一つをとっても様々な注意点が存在します。ご自身の状況に合わせて、適切な手続きを進めるためには、専門家である司法書士にご相談いただくことをお勧めします。当事務所では、預貯金の解約、遺産分割協議の支援や相続登記など、相続手続き全般をサポートさせて頂きます。

第13回 知っておきたい。身内が亡くなった時の相続手続き完全版

司法書士の時任です。今回は、身内が亡くなられたときの相続の手続きについて解説していきます。

大切なご家族を亡くした場合、悲しみと同時に様々な手続きに直面することになります。特に、初めて経験する相続手続きは複雑で戸惑うことも多いでしょう。大切な人を失った直後は、悲しみと喪失感に包まれ、先のことを考える余裕もないかもしれません。それは当然のことです。大切な人を失った直後は故人に寄り添う時間をもってください。それから故人を見送る準備をしても遅くはないと思います。

それでは、身内が亡くなった時の相続手続きを、臨終当日から順を追って解説します。

1:臨終の当日から1週間に行う相続手続き

1-1:訃報連絡

まず、関係の深い家族や親族(目安は3親等)に訃報を伝える必要があります。家族等の身内にはどんな時間帯であっても早く知らせることが基本です。それ以外の友人や縁戚には、葬儀の日取りが決まった時点でお知らせします。

1-2:ご遺体の搬送、安置

病院で亡くなった場合、病室から病院の霊安室へ移動します。その間にご遺体の安置場所を決めます。自宅か葬儀社や火葬場の霊安室などです。都心部に限り、火葬までの間、故人を宿泊させることができる「遺体ホテル」というサービスもあります。ご遺体の搬送は、病院提携の葬儀社に依頼することもできます。その場合でも、その後の葬儀は別の葬儀社に依頼しても問題はありません。

1-3:死亡診断書の受取

医師から死亡診断書を受け取ります。死亡診断書は、火葬や埋葬の際に必要となる書類です。

1-3:通夜、葬儀、告別式

故人を偲ぶために、通夜、葬儀、告別式を行います。形式や内容は、宗派や地域によって異なります。

  • 葬儀社に依頼する場合は、希望に合わせてプランを選ぶことができます。
  • 家族だけで行うことも可能です。

1-5:遺言書の確認

故人が遺言書を残していないか確認します。遺言書があれば、その内容に従って遺産を分配する必要があります。

  • 遺言書は、自宅や銀行の貸金庫など、様々な場所に保管されている可能性があります。
  • 公正証書遺言の場合は、公証役場で原本を確認することができます。あるかないか分からない時でも調べることができます。

1-6:初七日法要

故人の冥福を祈るために、初七日法要を行います。初七日法要は、亡くなってから7日目の法要です。

  • 初七日法要は、自宅や寺院で行うことができます。
  • 僧侶を招いて読経を行うこともできます。

1-7:お墓を考える

故人の遺骨を安置するためのお墓について考えます。お墓の種類や費用は様々です。

  • 既存のお墓に入る場合と、新しいお墓を購入する場合があります。
  • 費用は、墓地の種類や石材の種類によって異なります。

1-8:死亡届出の提出

市区町村役場に死亡届を提出します。死亡届は、亡くなってから7日以内に出す必要があります。

  • 死亡届には、故人の氏名、住所、死亡日時などが必要です。
  • 死亡診断書が必要です。

1-9:埋火葬許可証の申請と提出

火葬場や埋葬場へ、埋火葬許可証を申請します。埋火葬許可証は、市区町村役場で発行されます。

  • 埋火葬許可証には、故人の氏名、住所、死亡日時などが必要です。
  • 死亡届が必要です。

2:臨終から14日以内に行う相続手続き

2-1:年金受給停止と未支給年金請求(10日以内)

公的年金の受給者が亡くなった場合、国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内に年金事務所等に年金受給権者死亡届を提出します。死亡届が提出されないと年金が支給され続け、あとで返さなければならなくなるので注意しましょう。

また、年金は亡くなった月の分まで受け取ることができます。受け取っていない年金については未支給金として請求できます。

2-2:健康保険資格喪失届

資格喪失の届出をして、保険証を返納します。世帯主が亡くなった場合は世帯主を変更して新しい保険証の発行が必要となります。

2-3:介護保険資格喪失届

介護保険を利用していた場合は届け出が必要になります。14日以内に資格喪失届を役所に提出し保険証を返却します。

2-4:世帯主変更届

亡くなった方が世帯主だった場合は世帯主変更届を市町村に提出します。変更後の世帯主には15歳以上であれば誰でもなることができます。

2-5:公共料金などの各種契約の名義変更や解約

名義を変更するか、契約を解約します。利用料金の引き落とし口座も変更が必要です。

3:臨終から3か月以内に行う相続手続き

3-1:相続人の特定

遺産分割協議に参加する相続人の確定が必要です。戸籍を調査して、相続人を全員もれなく把握することが必要です。

3-2:相続財産の特定

現金、預貯金、有価証券、不動産、車や貴金属、金銭的価値があるものは基本的にすべて相続の対象となります。

相続財産に漏れがあると、あとで遺産分割がやり直しになってしまう可能性もあるので慎重に調査をしましょう。

3-3:遺産分割協議

相続財産を分けるときには、全ての相続人で話し合う遺産分割を行います。遺産はさまざまな分け方ができますが、相続人全員の合意がなければ分割することができません。遺言書があればその内容に従うことになります。

3-4:相続放棄と限定承認

被相続人の借金や債務などマイナスの財産があった場合、財産放棄と限定承認の2つの選択肢があります。

3-5:四十九日法要

法要を執り行う際には、お坊さんのスケジュールを押さえたり、親族や友人などの都合もあるためにも、事前に日取りを決めておかなければなりません。日程は一般的に49日前の土日祝日で調整します(49日よりあとにはしません)

3-6:納骨

骨壺をお墓に納める納骨法要を行います。これは49日法要とあわせて実施されるのが一般的です。

4:4か月以内に行う相続手続き

4-1:個人の方の所得税準確定申告と納税

年の途中で亡くなった故人の所得の申告と納税を相続人が代わって行うことを準確定申告といいます。申告することで高額医療費の還付を受けられることもあります。不慣れな人にとっては大変な作業です、専門家に相談してもよいでしょう。

4-2:遺産分割協議書作成

相続人全員で分割案がまとまれば合意の証拠として書面を作成し、全員が実印を押印します。

手書きやパソコンでの作成でもOKですが、亡くなった方とその相続人が誰で相続人が何をどれだけ相続するのかが明確に記入されていなければなりません。

5:10か月以内に行う相続手続き

5-1相続税の申告と納税

相続税の申告と納付の期限は、被相続人の死亡した翌日から10か月以内です。期限を過ぎると延滞税が発生することもあります。

5-2:預貯金、車、不動産有価証券などの相続

  • 金融機関に口座名義人の死亡を連絡するとすぐに口座が凍結され、引き落としができなくなります。
  • 預貯金、の継承者が決まったら被相続人の口座を解約して払い戻しの手続きをします。金融機関によっては書類の提出から数週間かかる場合もあるので早めに手続きをしましょう。
  • 不動産の分割には家や土地を売却したお金を遺産として分け合う「換価分割」と家や土地を相続した人がほかの相続人に相応のお金を支払う「代償分割」があります。
  • 家や不動産を相続したら法務局で登記申請を行いないます。専門的な知識が必要な場合もあるので司法書士に依頼することも検討してください。
  • 有価証券を相続した場合も相続手続きが必要です。解約や売却する場合でも相続人に名義変更をしてからの手続きになります。
  • 自動車は売却や廃車、又はそのまま乗り続けるかによって手続き方法が違います。
  • また、税金や保険、駐車場のこともあります。なるべく早く手続きをしましょう。

5-3:生命保険の受取

保険契約者または保険金受取人が保険会社に連絡します。必要書類が届いたら保険金の受取人が記入します。その後、保険会社による支払い可否判断があり決済になれば振込されます。

6:1年以降および5年以内にする手続き

6-1:一周忌法(1年後)

死去後1年目の祥月命日に行う法要です。一周忌法要をもって喪明けとなり親族、知人・友人を招いて寺院などで行います。

6-2:葬祭費と埋葬費の申請(2年以内)

国民健康保険や後期高齢者医療保険に加入していた場合に葬祭費用の一部として葬祭費が、また健康保険に加入していた場合は埋葬費が支払われます。

期限はそれぞれ2年以内ですが、健康保険資格喪失届提出時にあわせて申請するとよいでしょう。

6-3:高額療養費の払い戻し(2年以内)

保険の加入者が自己負担額を超えて支払った高額な医療費をあとから払い戻す制度があります。亡くなってから2年以内なら故人も適用されます。払い戻金は故人の財産に含まれます。

6-4:遺族年金の受給(2~5年以内)

故人の加入していた年金や支払っていた保険料、払い込み期間により受給できる遺族年金の金額が異なります。故人がどの年金の加入者であったかを確認してください。

また、書類提出から裁定までに約2か月くらい時間がかかります。

手続き先は市役所や年金事務所で遺族基礎年金の場合提出期限は5年となります。

以上になります。

相続の際には、大切な人の最期を看取った直後から、悲しみの中でも故人を見送る弔いの儀式を進めなければなりません。 

次々に判断をせまられる状況に戸惑うかもしれません。だからこそ「その時」に備えて、 ものごとの流れやすべきことを把握しておく

ことは大切です。 

当事務所では

ご遺族の皆様のご負担を軽減するために相続手続きの丸投げのサービスも承っております。

皆様の一助となれば幸いです。

第12回 あなたの遺言書、見つけてもらえる?改ざんされない?安心の対策とは?!

本日は、遺言の中でも「自筆証書遺言書保管制度」についてお話ししていきます。ご自身で書かれた遺言書を法務局に預けることができるこの制度について、その概要からメリット・デメリット、手続きの流れまで、詳しく解説していきたいと思います。この制度をご理解いただくことで、遺言書の保管方法について新たな選択肢を持つことができ、皆様の相続対策の一助となれば幸いです。

1. はじめに

まず、遺言書には主に2つの種類があることをご存知でしょうか。1つは、ご自身で手書きで作成する「自筆証書遺言」、もう1つは、公証役場で公証人の関与のもと作成する「公正証書遺言」です。

自筆証書遺言は、手軽に作成でき、費用も抑えられるというメリットがありますが、一方で、法律で定められた形式を満たしていないために無効になってしまうリスクや、遺言書の紛失、改ざんといったリスクも存在します。また、相続開始後には、家庭裁判所での検認という手続きが必要になります。

そこで注目されているのが、本日解説する「自筆証書遺言書保管制度」です。この制度を利用することで、自筆証書遺言のデメリットの一部を解消し、より安全かつ確実に遺言書を保管することが可能になります。

2. 自筆証書遺言書保管制度とは

自筆証書遺言書保管制度は、ご自身で作成した自筆証書遺言の原本を、ご本人が生前に法務局に申請して保管してもらう制度です。法務局に預けることで、遺言書の紛失や改ざんのリスクを大幅に減らすことができます。

また、保管申請の際には、法務局の職員による遺言書の形式面のチェックが行われます。これにより、日付や署名、押印など、民法で定められた形式に不備がある可能性を低くすることができます。ただし、遺言書の内容そのものについての審査は対象外であるため、内容が不明確であったり、法的に問題がある可能性は残る点には注意が必要です。

さらに、この制度を利用して法務局に遺言書を預けた場合、相続開始後に家庭裁判所で行う検認の手続きが不要となります。これは、相続人にとって時間と手間を省ける大きなメリットと言えるでしょう。

法務局での保管手数料は一律3,900円です。公正証書遺言を作成する際の公証人手数料と比較すると、費用を抑えられるという点もこの制度の魅力の一つです。

3. 自筆証書遺言のメリット・デメリットと保管制度の役割

ここで、改めて自筆証書遺言のメリットとデメリット、そしてこの保管制度がどのようにデメリットを解消するのかを見ていきましょう。

自筆証書遺言のメリット

  • 手軽に作成できる:ご自身で書くだけなので、いつでもどこでも作成できます。
  • 費用が安い:公証人や証人の関与がないため、費用を抑えられます。
  • 証人が不要:公正証書遺言と異なり、証人を立てる必要がありません。

自筆証書遺言のデメリット

  • 無効になるリスク:民法の形式要件を満たしていない場合、無効となる可能性があります。
  • 発見されない・紛失のリスク:自宅などで保管する場合、発見されなかったり、紛失したりする可能性があります。
  • 改ざん・隠匿のリスク:相続人によって改ざんや隠匿が行われる可能性も否定できません。
  • 相続手続きでの手間:相続開始後に家庭裁判所での検認が必要となります。
  • 遺言書の真実性の証明:内容について争いが生じた場合、遺言書の真実性を証明する必要が出てくることがあります。

これらのデメリットに対し、自筆証書遺言書保管制度を利用することで、以下の点が改善されます。

  • 紛失・改ざんのリスク軽減:原本を法務局が保管するため、紛失や改ざんの心配がなくなります。
  • 形式面のチェック:保管申請時に形式的なチェックを受けることで、無効になるリスクを軽減できます。
  • 検認手続きが不要:相続開始後の検認が不要となり、速やかに相続手続きを進めることができます。
  • 遺言書の存在の把握が容易:相続人は、被相続人の死亡後に法務局に遺言書の保管の有無を照会することができます。また、遺言者が事前に指定した方への通知してもらう制度もあります。

このように、自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の持つ手軽さや費用面のメリットを維持しつつ、保管や形式面での不安を軽減する有効な手段と言えるでしょう。

4. 保管申請の流れと注意点

では、実際に自筆証書遺言書を法務局に保管申請する際の流れと、いくつかの注意点についてご説明します。

保管申請の流れ

  1. 自筆証書遺言書の作成:まず、民法の定める形式に従って遺言書を作成します。保管制度を利用する際には、用紙サイズ(A4)、余白の規定(左20mm以上、上下右5mm以上、下10mm以上)、片面のみの使用、ホチキス留めをしないなどの様式に関するルールがあります。また、本文と財産目録には各ページに手書きで通し番号を記載します。本文、日付、氏名は必ず手書きである必要があります。財産目録はパソコンで作成することも可能ですが、その場合は全てのページに遺言者の署名と押印が必要です。
  2. 保管所の決定:遺言者の住所地、本籍地、または所有する不動産の所在地を管轄する法務局(遺言書保管所)を選択します。管轄については、法務省のウェブサイトで確認できます。
  3. 保管申請書の作成:法務局の窓口で入手するか、法務省のウェブサイトからダウンロードして申請書を作成します。申請書には、遺言者や相続人の情報などを記載します。
  4. 保管申請の予約:事前に電話またはウェブサイトから、法務局への訪問日時を予約します。予約なしでの申請はできませんのでご注意ください。
  5. 法務局への訪問と申請:予約した日時に、遺言者本人が法務局へ行きます。代理人による申請は認められていません。
  6. 必要書類の提出:以下の書類を提出します。
    • 作成した遺言書の原本(封筒に入れない)
    • 保管申請書
    • 遺言者の住民票(本籍・筆頭者の記載があり、3ヶ月以内のもの)
    • 遺言者の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど顔写真付きのもの)
    • 手数料3,900円分の収入印紙
  7. 形式面の確認:法務局の職員が、提出された遺言書が形式的な要件を満たしているかを確認します。
  8. 保管証の受領:手続きが完了すると、保管証が交付されます。保管証には保管番号などが記載されており、変更等の届出や遺言書情報証明書を相続人が請求する場合に役立ちます。

申請時の注意点

  • 遺言書はホチキスで留めずに提出します。複数枚になる場合も、バラバラのまま提出します。
  • 遺言書を封筒に入れる必要はありません
  • 法務局では、遺言書の内容に関する相談には応じられません。内容に不安がある場合は、事前に専門家(司法書士など)に相談することをおすすめします。
  • 保管申請には遺言者本人が必ず行く必要があります。病気などで法務局へ行くことが難しい場合、この制度の利用は難しいと言えます。
  • 遺言書の控えを残しておきたい場合は、法務局へ行く前にコピーを取っておきましょう。原本は法務局で保管され、手元には戻りません。

5. 相続開始後の手続き

遺言者が亡くなり、相続が開始した後、この制度を利用して保管された遺言書に基づいて相続手続きを行う場合の流れをご説明します。

相続人は、法務局に対して遺言書情報証明書の交付を請求します。この請求の際には、被相続人の死亡の事実や、請求者が相続人であることを証明する戸籍謄本などの書類が必要になります。これは、家庭裁判所の検認手続きで必要な書類とほぼ同様のものです。

法務局が遺言書の保管を確認し、提出された書類に不備がなければ、遺言書の情報が記載された証明書が交付されます。この証明書を、不動産や預貯金の名義変更などの相続手続きに利用することができます。

また、いずれかの相続人が遺言書情報証明書の交付を受けた場合、法務局は他の相続人に対して、遺言書が保管されている旨を通知します。これにより、全ての相続人が遺言書の存在を把握することができます。

6. まとめ

この制度は、自筆証書遺言の紛失や改ざんのリスクを減らし、形式的な不備による無効を防ぎ、相続開始後の検認手続きを不要にするなど、多くのメリットがあります。また、公正証書遺言と比較して費用を抑えられる点も魅力です.

しかしながら、遺言書の内容そのものの有効性や、複雑な遺産分割については、この制度だけでは解決できない場合もあります。遺言書の内容に不安がある場合や、複雑な内容の遺言書を作成したい場合は、公正証書遺言を選択することも重要です。

ご自身の状況や希望に合わせて、最適な遺言書作成・保管方法を選択することが大切です。

当事務所では、遺言書や家族信託など、もめない困らないための生前対策に関するご相談も承っております。ご希望の方はお気軽にお問い合わせください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

第11回 故人のパスワードが分かずトラブルに…もしものときに困らない対策とは?

こんにちは。司法書士の時任です。

相続と聞くと、預貯金や不動産といった目に見える財産を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、それらの手続きは非常に重要ですが、近年、これまでにはなかった新たな問題として、故人が利用していたインターネット上のサービスやデジタルデータ(いわゆるデジタル遺品)に関するトラブル、そして相続したものの手付かずになってしまう不動産(空き家など)の問題が増えています。

これらの問題は、残されたご家族にとって思わぬ負担や混乱を招きかねません。今回は、これらの問題と、いざというときに慌てず、もめずに済むための準備のポイントについて、司法書士の立場から解説します。

増え続ける「デジタル遺品」を巡る困りごと

現代社会では、スマートフォンやパソコンを通じて様々なインターネットサービスを利用しています。ネット銀行での取引、証券口座での資産管理、オンラインショッピングのアカウント、そして音楽や動画、電子書籍などの定額制(サブスクリプション)サービスなど、挙げればきりがありません。

これらのサービスを利用するためには、通常、IDやパスワードが必要です。しかし、ご本人が亡くなった後、ご家族がこれらの情報を把握しておらず、様々な問題に直面するケースが増えています。

  • ネット銀行の口座情報が分からず、財産の確認や手続きができない。
  • スマートフォンの画面ロックを解除できず、連絡先や写真など、故人の大切な情報にアクセスできない。
  • 故人が契約していた定額制サービス(サブスク)の存在に気づかず、あるいは解約方法が分からず、死後も請求が続いてしまう。

特に定額制サービスは、契約者本人が亡くなっても、適切な解約手続きを行わない限り請求が続いてしまうことがあります。 IDやパスワードが不明な場合、解約手続きが煩雑になり、家族が負担を強いられることになります。

これらの問題は、亡くなった後に限ったことではありません。例えば、突然の病気で意識不明になってしまった場合でも、ご本人の意思表示ができなければ、家族が契約内容を確認したり、解約したりすることが非常に難しくなります。

デジタル遺品で家族を困らせないための対策

デジタル遺品の問題を未然に防ぐためには、生前の準備が非常に重要です。

  1. 利用サービスの見直しと整理: 使用頻度の低いサービスや不要な契約は、元気なうちに整理し、解約しておくことが大切です。利用するサービスをシンプルにまとめましょう。
  2. デジタル情報のリスト化と共有: どのようなインターネットサービスを利用しているか、ネット銀行や証券口座はどこにあるか、といった情報をリスト化します。そして、それらのサービスのIDやパスワードなどを一覧にして、信頼できる家族と共有しておくことが重要です。
  3. 情報の共有方法の工夫: セキュリティに配慮しつつ情報を共有する方法として、エンディングノートのデジタル項目に記載したり、パスワード部分を修正テープなどで隠し、必要な時に削って確認できるようにする といった方法もあります。

どの年齢の方にとっても、デジタル情報をまとめて家族と共有しておくことは、いざという時の家族の負担を減らすために非常に大切な準備と言えます。

相続した不動産が「負動産」に?空き家問題

相続財産の中でも特に問題になりやすいのが不動産、とりわけ遠方にある実家や、住む予定のない土地などです。相続登記をしないまま放置したり、適切な管理を行わないでいると、様々なリスクやペナルティが発生する可能性があります。

  • 相続登記の義務化: 2024年4月1日から、不動産の相続登記が義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。
  • 空き家対策の強化: 適切な管理が行われていない、倒壊の危険があるような「特定空き家」や、その手前の「管理不全空き家」に認定されると、自治体からの指導や勧告の対象となります。勧告に従わない場合、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税金が最大で6倍になる可能性があります。

相続はしたものの、遠方で管理が難しかったり、中に故人の家財道具が残っていて片付けられず、どう手をつけて良いか分からない、といった理由で空き家が放置されてしまうケースは少なくありません。家は人が住んでいない期間が長いほど傷みが早く進んでしまいます。

空き家を負動産にしないための対策

相続した不動産を放置せず、有効活用したり、適切に処分したりするためには、早めに方針を決めることが重要です。

  1. 現状把握と専門家への相談: まずは相続した不動産の現状をしっかりと把握しましょう。その上で、活用するのか、売却するのか、賃貸に出すのかといった方針を検討します。司法書士や弁護士、不動産業者などの専門家に相談することで、法的な手続きや市場の動向、活用方法などについて具体的なアドバイスを得られます。
  2. 自治体の相談窓口の活用: 具体的な対策として、市町村によっては相続した不動産に関する相談窓口を設けたり、活用希望者と空き家情報をマッチングさせるサイトを運営する例も見られます。これらの窓口では、専門家への橋渡しなども行っており、不動産業者への直接の相談に不安がある方でも比較的気軽に相談できます。
  3. 活用方法の検討: 最近では、住居としてだけでなく、アート施設や交流スペースなど、様々な形で空き家が活用される事例も増えています。傷みが少ないうちであれば、活用の選択肢も広がります。

相続登記の申請は司法書士の専門分野ですが、当事務所では、登記だけでなく預貯金解約や生命保険の手続き、債務の調査などの相続全般の丸投げを承っております。空き家問題についても、サポートが可能ですので、お気軽にご相談ください。

残された家族への「最後の贈り物」:遺言書の活用

デジタル遺品や空き家問題を防ぐためにも、そして預貯金やその他の財産についても、故人の意思を明確に伝え、相続手続きをスムーズに進めるために非常に有効な手段が遺言書を作成しておくことです。

遺言書は「お金持ちが書くもの」「相続財産がたくさんある人が書くもの」といったイメージを持たれがちですが、決してそうではありません。むしろ、相続財産が少なくても、遺言書があることで相続人同士の無用な争いを防ぎ、残された家族が困らないようにする、身近で大切な準備なのです。

特に遺言書を作成しておいた方が良いケースとしては、以下のような場合があります。

  • 配偶者に全財産を相続させたい場合: 例えば、夫婦間に子供がおらず、故人の兄弟姉妹が相続人になる可能性がある場合などです。遺言書がないと、配偶者と兄弟姉妹が共同で相続人となり、手続きが煩雑になったり、不動産が共有名義となってしまったりすることがあります。遺言書があれば、配偶者が単独で相続できるように指定できます。
  • 特定の不動産を特定の人に相続させたい場合: 相続人が複数いる場合、遺産分割協議で誰がどの財産を相続するかを決めますが、これがまとまらないと手続きが進みません。特に不動産がある場合、遺言書で「この不動産は〇〇に相続させる」と明確に指定しておくことで、後のトラブルを防ぎ、スムーズに名義変更の手続き(相続登記)を行えます。
  • 相続人以外の人に財産を渡したい場合: 内縁の妻や献身的に介護をしてくれた親族ではない人など、法定相続人ではない人に財産を渡したい場合、遺言書が必須となります。

遺言書の種類と特徴

遺言書には主にいくつかの種類がありますが、一般的に利用されるのは以下の二つです。

  1. 公正証書遺言:
    • 公証役場で、公証人が遺言者の指示に従って正確に作成します。
    • 原本は公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がありません
    • 法的に無効になるリスクが非常に低い、最も安全で確実な遺言書と言えます。
    • 作成には証人2名が必要ですが、司法書士などの専門家が証人となることも可能です。
  2. 自筆証書遺言:
    • 遺言者自身が、全文、日付、氏名を自筆し、押印して作成します。パソコンでの作成は認められていません。
    • 費用がかからず、手軽に作成できます。
    • 自宅で保管する場合、紛失や改ざんのリスクがあります。
    • 2020年からは、法務局で保管してもらうことが可能になりました。法務局での保管制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクを避けられ、家庭裁判所での検認手続きも不要になります。

スムーズな手続きのために「遺言執行者」の指定を

遺言書を作成する際、遺言執行者を指定しておくことをお勧めします。遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために、相続財産の調査や各種名義変更、預貯金の解約、不動産の登記手続きなどを行う人のことです。遺言執行者が指定されていれば、その人が単独でこれらの手続きを進めることができるため、相続手続きが非常にスムーズに進みます。司法書士などの専門家を遺言執行者に指定することも可能です。

遺言書は、ご自身の死後、残される大切な家族が困らないように、そしてご自身の最後の意思を伝えるための最後の贈り物とも言えます。

まとめ:早めの準備と専門家への相談を

今回ご紹介したデジタル遺品、空き家問題、そして遺言書の作成は、どれも「いつか」ではなく、「今」考え始めるべきです。

相続に関する問題は多岐にわたり、法的な知識も必要となります。「自分にはまだ早い」「何から手をつけて良いか分からない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、これらの問題は誰にでも起こりうる身近なものです。そして、準備を始めるのに遅すぎるということはありません

相続登記、遺言書作成、その他の相続手続きについて、ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽に当事務所にご相談ください。専門家として、皆様の状況に合わせた最適な解決策をご提案し、手続きをサポートさせていただきます。

第10回 ”争続”を回避!―手遅れになる前に相続対策してください。

相続は、大切な家族の財産を次の世代へ引き継ぐ、人生において非常に重要な出来事です。しかし、残念ながら多くのケースで「争族」となってしまい、家族間の関係がこじれたり、最悪の場合は裁判にまで発展したりすることがあります。今回は、相続を円満に進めるために、ぜひ知っておいていただきたい対策についてお話しします。

相続対策と聞くと、「相続税をどれだけ安くできるか」という税金対策を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん税金の問題も大切ですが、それ以上に重要なのが「家族間の揉め事を防ぐ」ことです。相続税がかかるケースは実は少なく、多くの方が心配すべきは相続による揉め事です。相続をきっかけに兄弟姉妹の縁が切れてしまう、といった悲しい事態を避けるための対策こそが、被相続人から家族への最後の贈り物となるのではないでしょうか。

相続発生から遺産分割まで

人が亡くなると相続が開始し、亡くなった方(被相続人)の財産は、原則として法定相続人が承継することになります。法定相続人とは、民法で定められた相続権を持つ人のことです。

  • 常に法定相続人となるのは配偶者です。
  • 次に、被相続人のがいれば子が相続人となります。子がすでに亡くなっている場合は孫が代わりに相続します。
  • 子や孫がいない場合は、被相続人の(直系尊属)が相続人となります。
  • 子、孫、親(直系尊属)のいずれもいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。

法定相続人には、それぞれ法律で定められた相続分の目安(法定相続分)があります。例えば、配偶者と子がいる場合は、配偶者が財産の半分、子が残りの半分を子の人数で分け合うことになります。

しかし、実際に財産を分ける際には、法定相続分はあくまで目安であり、必ずしもその通りに分けられるわけではありません。相続人全員で遺産分割協議を行い、どのように財産を分けるか話し合って合意する必要があります。

なぜ相続で揉めるのか?

遺産分割協議で揉めてしまう原因は様々ですが、よくあるケースの一つに、特定の相続人が被相続人の介護や世話を献身的に行っていたにも関わらず、他の相続人はほとんど関わっていなかった、という状況があります。法律上の相続分は貢献度を必ずしも反映しないため、貢献した側の相続人が納得できず、感情的な対立が生じやすくなります。

また、特定の財産(不動産など)を誰が相続するか、あるいはどのように分けるかで意見が対立することもあります。相続人全員の合意が得られない限り、遺産分割協議は成立せず、財産は「未分割」のままになってしまいます。これは、財産の名義変更などができず、塩漬け状態が続くことを意味します。未分割の状態が長く続くと、さらに手続きが複雑になったり、関係者の増加によって話し合いが困難になったりするリスクが高まります。

揉め事を防ぐための最も有効な手段「遺言書」

こうした相続をめぐる争いを未然に防ぐために、最も有効な手段となるのが遺言書を作成することです。遺言書があれば、被相続人ご自身の意思で誰にどの財産をどれだけ渡すかを指定することができます。これにより、法定相続分とは異なる分け方をすることも可能です。

遺言書は、遺産分割協議を経ずに相続手続きを進められるため、手続きがスムーズになるというメリットもあります。ただし、遺言書があっても、兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」という、法律で保障された最低限の取り分を請求する権利があることには注意が必要です。遺言書を作成する際には、遺留分にも配慮した内容にすることで、後々のトラブルを防ぐことができます。

遺言書の種類と選び方

遺言書にはいくつかの種類がありますが、一般的に利用されるのは以下の2つです。

  1. 自筆証書遺言: 遺言者が自分で全文、日付、氏名を書いて押印する遺言書です。手軽に作成できるのがメリットですが、方式に不備があると無効になったり、紛失・隠匿・偽造・変造のリスクがあったりします。家庭裁判所の検認手続きが必要になる場合もあります。
  2. 公正証書遺言: 公証役場で、公証人に作成してもらう遺言書です。証人2名以上の立ち会いが必要となります。作成には費用と手間がかかりますが、法律の専門家である公証人が作成するため方式の不備の心配がなく、原本は公証役場で保管されるため紛失や偽造のリスクが極めて低いという大きなメリットがあります。司法書士として、トラブルを防ぐ観点から最もお勧めしているのがこの公正証書遺言です。

遺言書はいつ作るべきか?

遺言書は、一度作成したら終わりではなく、財産の状況や家族構成の変化に応じていつでも書き換えることができます。「まだ早い」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、相続はいつ発生するか分かりません。遺言書を作成しようと決意しても、準備中に不測の事態が起こり、間に合わなかったというケースも実際にあります。

ですから、「いつか作ろう」ではなく、「〇歳までに作る」といった具体的な目標を決めておくことが大切です。そして、作成後も定期的に内容を見直し、必要に応じて修正・加筆することをお勧めします。

経営者の相続と不動産を活用した相続対策

経営者の方は、会社の株式も相続財産に含まれるため、相続税の負担が大きくなる可能性が高い傾向にあります。さらに、誰に会社の株式を相続させるかは、その後の事業承継を円滑に進める上で非常に重要です。遺言書で後継者を明確にし、その者に株式を集中させるように定めておくことで、共同経営による混乱や他の相続人からの権利主張によるトラブルを防ぎ、事業の継続性を確保しやすくなります。

また、資産家の方の中には、相続税対策として現金で所有している財産を不動産(アパートやマンションなど)に組み替えることを検討される方がいらっしゃいます。これは、不動産の相続税評価額が一般的に現金や時価よりも低くなるため、相続税の負担を減らせる可能性があるからです。特に、アパートなどを建築して人に貸し付けると、評価額が大幅に圧縮されるケースがあります。

しかし、この対策は安易に実行すべきではありません。不動産は流動性が低く、売却したいときにすぐに現金化できるとは限りません。また、アパート経営には空室リスク、家賃滞納、修繕費の発生、金利変動など、様々な経営リスクが伴います。これらのリスクを十分に理解せず、あるいは相続人がアパート経営の経験がないまま引き継ぐことになると、かえって負担になってしまう可能性が高いのです。

相続対策として不動産を検討する際は、税金対策だけでなく、その後の維持管理や経営、そして何よりも相続人となるご家族が、その不動産を本当に望んでいるのかをしっかり話し合うことが非常に大切です。多くの場合、多少相続税を支払ったとしても、手元に現金が残る方が相続人にとっては助かるという声が多いのが実情です。それでも不動産を検討した方が良いケースがあることも事実です。その際は、専門家(不動産業者、税理士)に十分ご相談の上で進めて頂くことが良いと思います。

まとめ

相続対策は、単に財産をスムーズに引き継ぐためだけのものではなく、残されるご家族が争うことなく、お互いを思いやりながら生きていけるようにするための大切な準備です。その中でも、ご自身の意思を明確に示せる遺言書は、家族間の揉め事を防ぐための強力なツールとなります。

「うちは財産が少ないから関係ない」「うちは家族仲が良いから大丈夫」と思っている方こそ、万が一に備えて遺言書の作成を含めた相続対策について考えてみることをお勧めします。

どこから手をつけて良いか分からない、自分の場合はどうしたら良いのだろう、といった疑問や不安がある場合は、ぜひ相続に関する専門家であるつくば市の司法書士事務所TOKITOにご相談ください。司法書士は、遺言書の作成支援や相続手続きを通じて、皆様の円満な相続をサポートいたします。

あなたの「家族への想い」を形にするために、今できることから始めてみましょう。