第5回 認知症が進行した場合、資産管理はどうする?

第5回 認知症が進行した場合、資産管理はどうする?

認知症が進み、意思能力が低下してしまった場合、介護費用の管理や財産保護はどのように行うべきでしょうか?この記事では、成年後見制度の活用や家庭裁判所への申立て方法など、認知症進行時の具体的な対策について解説します。


成年後見制度の基礎知識

成年後見制度には、事前に準備をする任意後見と、判断能力が低下した後に利用する法定後見の2種類があります。本記事では特に法定後見制度に焦点を当てます。任意後見については、第2回を御覧頂ければと思います。

法定後見制度とは 

法定後見制度は、認知症などの精神上の障がいにより判断能力が不十分または欠如する状態になった後に利用する制度です。事前に何の対策も取らなかった場合において、資産管理や身上監護(保護)が必要になった際のセーフティーネットの一つです。身上監護(保護)とは、後見人自身がお風呂に入れたりするわけではなく、身の回りの契約ごとを代理することです。

成年後見人は、ご本人様のことが全く分からない状況で就任することになります。最終的には裁判所の判断ですが、親族が成年後見人に就任することも可能です。ただし、総資産額が1,000万円以上の場合、裁判所は、後見監督人を外部の専門家(弁護士、司法書士)から選任することが一般的です。残念ながら、親族の後見人による横領事件が相次いでしまったため、このような運用になっています。


法定後見が必要になるケース

法定後見制度を必ずしも利用しなければならないわけではありませんが、以下のようなケースで利用されることが多いです:

  1. 資産の売却が必要な場合 父親の資産を売却することになったのだけれど、父親の認知症がだいぶ進んでしまっていて売却を理解できないというケース
  2. 銀行口座の凍結 子供が、認知症の親のキャッシュカードを利用してATMから引き出していたが、使用状況が銀行に把握され、口座が凍結された場合。

また、財産管理以外にも、施設入所や入院手続き、介護認定の申請、ケアプランの策定などの身上監護(保護)に関する業務も含まれます。実際のところは、介護医療の現場では子孫甥姪の立場で実質的に対応可能なようなので、あえて成年後見制度を利用して身上監護(保護)権を持つ人を決める必要はないと思います。

身上監護(保護)権者を決める必要がある場合とは、例えば身寄りがなくてそれらの行為をする人が誰もいない場合とか、家族内で医療介護の方針に対立がある場合です。例えば、高額でも高級な施設に入ってもらいたいという家族がいる一方で、資産が目減りするのはもったいないからリーズナブルな施設でいいんじゃないかという家族もいるかもしれません。

成年後見の申し立ての流れ

書類提出先 判断能力が低下してしまった本人を住所地を管轄する裁判所

申し立てに必要な書類 多数の書類が必要になります。

・後見開始申立書

・申立事情説明書 

→本人の状況を詳細に記載します。書面が最も記入欄が多く、大変だと感じるかもしれません。例えば、本人の生活場所入退院の予定・本人の家族関係学歴、職歴・社会生活の状況・本人の認知能力や行動について・社会との交流の程度・家族(相続人)が後見申立について考え

・親族関係図

・親族の意見書

→これらの書類で、どのような相続関係か裁判所に伝えます。また、将来的に本人が亡くなった場合、相続人は何人いて、その方たちが成年後見申立てについて賛成か反対か、また財産管理・身上監護を行っていくうえで協力を得られる親族がいるのか等を裁判所に説明する形になります。

・後見人候補者事情説明書

→後見人となる人について、詳細に報告します。家族構成はもちろんのこと、学歴・職歴・借金の有無についても詳細に記載します。

・財産目録

→成年後見人は、基本的に本人の財産全てを管理することになります。そのため、どのような財産があるのか一覧を作成します。具体的には、預貯金、株式や投資信託や国債等の有価証券、生命保険や損害保険、不動産、債権、その他負債等を詳細に記載していきます。預貯金は、具体的に〇〇銀行の〇〇支店にいくらの預金があるという詳細まで記入し、有価証券も銘柄や個数、評価額まで記入します。

・相続財産目録

→こちらは、本人が相続人となっている相続について、本人が認知症のため遺産分割ができないまま放置されている遺産がある場合に記入が必要になる書類です。

 例えば、本人(女性)の夫が既に3年前に亡くなっていて、ご本人の子供とご本人で預貯金や不動産を相続したけれども、本人が認知症のため遺産分割ができていない場合に必要になります。

・収支予定表

→収入がいくらで支出がいくらか、ということを記入する書類になります。

収入としては、厚生年金、国民年金、その他の年金、給与、賃料報酬等の項目別に、それぞれいくらもらえる予定なのかを詳細に記載していきます。

支出の記載はかなり細かく記載します。例えば

  • 生活費(食費・日用品・電気ガス水道)
  • 療養費(施設費・入院費・医療費)
  • 住居費(家賃、借地の地代)
  • 税金(固定資産税・所得税・住民税等)
  • 保険料(国民健康保険料・介護保険料・生命保険損害保険料)

このように、何にいくら支出することが予定されているかを記載していきます。

また、収入も支出も根拠となる資料の添付が必要になります。2ヶ月分必要です。

以上の書式は、以下の裁判所の公式ホームページでダウンロード可能です。


https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_01/index.html

成年後見制度のデメリット

法定後見制度を利用する際には、いくつかのデメリットがあります:

  1. 裁判所による管理 家族が成年後見人に就任した場合でも、一定の資産があると裁判所から後見監督人が選任される可能性が高いです。これは不正行為を防止するための国の方針です。
  2. 途中でやめられない 一度、法定後見を開始すると、本人が亡くなるまで継続する必要があります。不動産の売却が終わったからといって、後見を終了することはできません。
  3. 費用がかかり続ける 申立て時の初期費用に加えて、成年後見制度の利用中は毎月一定の費用がかかります。成年後見人に家族が就任した場合でも、後見監督人が外部の専門家となることがほとんどで、その費用負担が重くのしかかります。裁判所の資料によると通常の後見監督事務を行った場合の報酬(基本報酬)の額は, 管理財産額が5000万円以下の場合には月額1万円~2万円,管理財産額が500 0万円を超える場合には月額2万5000円~3万円としています。 例えば、月額2万円の場合、年間24万円、10年間で240万円もの費用が発生します。

また、法定後見制度では財産の自由な処分が基本的に認められていません。本人の利益のために必要な場合に限り売却が可能となり、場合によっては裁判所の許可が必要です。。例えば、家族みんなで旅行に行く資金を出してもらうとか、子供の教育資金を贈与してもらうとか、このようなことは一切できません。


まとめ

法定後見制度は、認知症が進行した場合の最後のセーフティーネットとして重要な役割を果たしますが、その分家族に大きな負担を与える制度でもあります。これらのデメリットを考慮すると、いかに事前の備えを行い、法定後見を利用せずに対処できるかが鍵となります。

事前に任意後見制度や家族信託の活用を検討し、認知症進行時に困らない対策を講じておくことを強くお勧めします。

第4回 家族信託—メリットとデメリット

第4回

家族信託—メリットとデメリット

 家族信託は、生前対策として非常に汎用性の高い仕組みです。本日は、主なメリットとデメリットをご紹介します。

メリットその1 資産凍結リスクに対応できる 

予め契約で決めた目的に沿っていれば、親が判断能力を喪失してしまったあとでも受託者の判断で資産の運用が可能です。

メリットその2 名義は移転するが権利はそのまま

お父様の資産を息子さんに信託するという例の場合に、息子の名義にするには早いなあと言われる方がいます。そのお気持ちよくわかります。けれども名義だけ息子さんにするだけで、権利はお父様のままです。権利をお父様のままである以上、贈与税も不動産取得税もかかりません。ただ、受益者という実質的な権利を持っている人を、お父様以外にするとその人への課税は発生してしまいます。税務上は、贈与という扱いになってしまいます。

メリットその3 遺言ではできないことができる 

例えば、長男夫婦に子供がいない場合に長男には資産を承継させたいが、長男が旅立ったあとに長男の配偶者に承継させることは避けたいと希望される方がいます。民法の原則だと長男の配偶者が他界してしまうと子がいない場合には、配偶者の兄弟に相続されてしまいます。つまり考え方によっては資産が他家に流出してしまうことになります。信託を使うと、長男が旅立ったあとは次男に承継させるということも可能です。

遺言では父親自身が先の相続人の他界後の承継者を決めることはできません。また年金のように毎月定額を渡したい、相手が一定の年齢になったら渡したい、特定の使用目的(ex教育資金)に限定して渡したい、そのようなことも可能です。

デメリットその1 損益通算の禁止と損失の繰り越しの禁止

受益者が個人の場合、信託から生じた損失は原則として損金になりますが、信託不動産から生じた損益は、なかったものとされるので、他の所得と損益通算できず、また翌年以降に損失を繰り越すこともできません。また不動産を信託財産とする信託契約を複数実行する場合、収支計算は契約ごとに完結するため相互の損益通算もできません。

例えば、A賃貸不動産:信託財産 B賃貸不動産:信託していない財産

A賃貸不動産は赤字 B賃貸不動産は黒字の場合の損益通算は不可になります。

この場合には、ABまとめて信託不動産とするか、または大規模修繕で赤字が予想されるのであれば修繕が終わってから信託をする形になります。

デメリットその2 有価証券の類は信託が難しい(特に上場株式)

 信託できる財産は不動産・現金・未上場株式が中心です。金融実務が家族信託に対応できておらず、上場株式を信託財産に入れることに対応してくれる証券会社が少ない状況です。大手証券会社では扱うところもありますが、①特定口座の利用ができない可能性②受託者名義に移管する際に株主優待の保有期間はリセット③法人受託者や受益者連続型が不可というデメリットがあります。受益者連続型とは資料6のように一人目の受益者は父親自身、父親が他界したあとは長男に承継させて、長男が他界したあとは次男に承継させるというように一代限りで信託が終了せずに連続して続いていく信託のことを言います。

上場株式がある場合には、実務上は証券会社の代理人制度を利用することが多いです。ただし代理人制度には遺言機能がないため、資産承継は別途遺言で対応する必要があります。

デメリットその3 初期費用がかかる

専門職のコンサルティング費用、公証役場手数料・司法書士の登記手続き費用・登録免許税等が初期費用としてかかります。おおまかには、信託する財産の価格の1.5%から2%が初期費用の目安です。例5000万の資産だと75万から100万円が目安です。高額ですが、その分ランニングコストはほとんど発生しないため、永続的にランニングコストがかかる後見制度と比較することが大切です。ただし家族信託の場合でも信託監督人に専門家を選定した場合にはランニングコストがかかります。信託監督人とは平たく言うと信託を見守ってくれる人。

デメリットその4 身上監護権がない

資産と管理の承継のシステムなので、身上監護権はありません。身上監護権とは、施設の入所や入院の手続き、介護認定の申請やケアプラン策定等の身体にまつわることをする権利です。ご家族内で済むことが望ましいですが、適任者がいない場合やご家族内で介護方針が対立する懸念がある場合には、任意後見を併用する形がおすすめです。

ここまでは、事前の対策のお話をしてきました。次は、もう認知症が進んでしまっていて判断能力が落ちてしまっているご家庭はどうしたらいいのでしょうか?というところをお話ししていきます。

第3回 家族信託—大切な財産を守る仕組み

第3回

家族信託—大切な財産を守る仕組み

本日、ご説明する生前対策は家族信託という手続きになります。信託というと投資信託のように投資とか運用的な商品をイメージされる方もいるかもしれませんが全く違います。後見と対照的なのは、裁判所は関与せず基本的には家族内で完結させることができる仕組みです。

そもそも信託とは何ですか?

信託とは、信じて財産を預けることです。簡単に言うと、自分の財産を信頼できる人に預けて、その人が約束通りに管理するようにすることを指します。これには主に3人の登場人物が関わります。以下のイラストをご覧ください。

「財産を預ける人」「財産を預かる人」、さらに「預けられた財産から利益を受け取る人」この3人が信託の登場人物であり、信託法ではそれぞれに名前が付けられています。「財産を預ける人」は「委託者」、「財産を預かる人」は「受託者」、そして「利益を受け取る人」は「受益者」と呼ばれます。

家族信託の歴史

理解を深めるために、少し昔のお話しをします。どれくらい昔かというと中世です(笑)

信託の発祥は、戦乱が絶えない中世ヨーロッパに遡ります。当時、財産を持つ者が戦争に従事する際、信頼できる人物に財産を託して戦場へと向かったことが始まりです。

例として、Aさんのケースを挙げます。Aさんは小さい子供と奥さんと平和に暮らしていました。しかし、戦争に行かなければならなくなりました。Aさんの財産は不動産や金融資産で構成されており、奥さんや子供には管理が難しい状況でした。そこでAさんは信頼する人物Bさんに財産を委ね、その収益を家族に渡すように取り決め、戦場に赴く前にその準備を整えました。

財産を預かるBさんは、Aさんの指示に従い、財産を管理します。BさんはAさんに代わり、賃貸契約や不動産の売買などを行います。財産名義がAさんのままでは、これらの取引が円滑には行えません。

契約の都度、戦場に契約書を送りAさんのサインをもらうことは現実的ではないですよね。そのため、戦争に出発する前に、財産の名義をすべてBさんに変更しました。これにより、財産の管理と契約がスムーズに行えるようになります。

Aさんの財産を預かるBさんは、その財産を誠実に管理し運用する責任があります。財産が自分の名義になっても、勝手に使うことは許されません。Aさんの指示に従い、適切に管理し家族に利益をもたらすことが信託の本質です。

生前対策の中では、最も汎用性が高い制度になります。ただ医療でいうと先進医療のようなものなので専門家ですら適切に理解している方は多くはないというのが実情です。

この受託者に金融機関等が就任するのが商事信託で、家族や身内が就任して基本的に家族内で完結するのが家族信託と呼ばれます。

親が元気なうちから始める生前の財産管理の仕組みですが、将来財産の承継先を指定できる遺言の機能もあります。

 それでは家族信託を利用した具体例を見ていきたいと思います。

家族信託のポイント

・契約ですから親の認知症が進んでいると手遅れです。ただ、信託の仕組み自体は、特定の財産の管理や処分を特定の方に任せるという非常にシンプルな仕組みです。従いまして、親がある程度弱ってしまっていても「自分がどんな財産を持っていて(=信託財産)」「その財産を誰に託すか(=受託者)」「管理や処分を任せることで何が実現できるか(=信託目的)」について概要を理解して納得できていれば、契約が可能なケースもあります。

・受託者となる子は、財産の管理処分を担当するだけです。財産は引き続き親のものであることには変わりません。→贈与税や不動産取得税は基本的にはかかりません。

 家族信託を活用して老後の財産管理と生活支援の仕組みを作ることは、会社経営や家業の事業承継と同じように「まだちょっと早いかな」と思うタイミングで始めて、時間をかけて徐々に後継者を育てるという気持ちを持つことが大切ですし、任せてみる覚悟も必要だと思います。

それができれば、自分の希望や方針を伝えつつ法務・税務などの煩わしい手続きは全て後継者に任せて自分は今まで通りの生活をより気楽に楽しく過ごせるのではないでしょうか。次回は家族信託のメリットとデメリットをお伝えさせていただきます。

第2回 「任意後見の活用とその魅力」

第2回

家族が安心できる未来を築くために:任意後見の活用とその魅力

家族の将来を見据えて財産管理や法的な準備を整えることは、安心な生活を送るうえで非常に重要です。今回は、その中でも「任意後見契約」という仕組みについて詳しくご紹介します。この制度は、判断能力が低下した場合でも自分の希望に沿った生活を続けるための強力なサポートとなるものです。


任意後見とは何か?

任意後見契約は、自分が元気なうちに信頼できる人と契約を結び、判断能力が低下した将来のために代理してもらいたい事項や希望を事前に取り決めておく制度です。契約の内容は多岐にわたり、生活費の管理から施設入所時の希望まで幅広く対応可能です。

任意後見の大きなポイント
この契約の効力が発生するのは、本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所が後見監督人を選任してからです。これにより、家族だけでなく専門的な管理が入るため、安心して運用ができます。


任意後見で可能なこととは?

任意後見契約を通じて任意後見人にお願いできることは以下の通りです:

  • 銀行口座の管理や保険金の受領
  • 日常生活に必要な費用の支払い
  • 不動産の管理や処分(必要に応じた対応)
  • 介護や福祉サービス利用の契約
  • 施設入所時の希望の反映(ライフプランに基づく指示)

また、法律行為の委任とは別にライフプラン(指示書)という文書を作成することで、趣味や食事の好み、旅行の希望などの細かな生活スタイルまで伝えることができます。これにより、自分らしい生活を長く続けることが可能になります。


任意後見の注意点と限界

任意後見契約にはできること・できないことがあります。例えば、医療同意や延命治療に関する決定は任意後見人では対応できませんが、事前に自分の意思を伝えておくことで、医師へその内容を引き継ぐことは可能です。

さらに、以下の点にも注意が必要です:

  • 費用がかかる
    後見監督人の報酬が毎月発生します。一般的に月額2万円前後(令和6年目安)が目安となり、長期的なコスト負担を考慮する必要があります。
  • 途中での解除が難しい
    契約が開始された後、正当な理由がなければ途中でやめることができません。慎重に計画を立ててから契約を結ぶことが大切です。
  • 裁判所の管理が入る
    任意後見契約では、家庭裁判所による厳格な監督が求められます。この管理が信頼性を高める一方で、柔軟な対応が難しい場合もあります。

任意後見と家族信託の違い

最後に、任意後見と並ぶ生前対策として「家族信託」をご紹介します。家族信託は裁判所の関与を必要とせず、基本的には家族内で完結する仕組みです。不動産の管理運用や相続税対策の遂行などの資産管理に適しており、任意後見と組み合わせることでさらに幅広い対応が可能になります。


まとめ

任意後見契約は、信頼できる人に自分の将来を託すための素晴らしい仕組みです。判断能力が低下した場合でも、自分の希望に基づいた生活を送るために大いに役立つと思います。一方で、コストや制度の制約についても理解し、専門家と相談しながら準備を進めることが重要です。

将来に不安を抱える前に、ぜひ一度任意後見契約を検討してみてください。家族の安心と自分らしい人生をまっとうするために、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか?

第1回「認知症が進むとどうなる?お金と資産管理の課題を知る」

第1回

「認知症が進むとどうなる?お金と資産管理の課題を知る」

このブログをお読みくださっている皆さんの中には、老後について既に考えておられ具体的に対策を取られている方もいれば、まだ漠然とされている方、様々だと思います。人間ですので当然いつかは相続を迎えます。そして、相続の直前まで健康でいること、これは誰もが望むところではありますが、残念ながらそうとは限らないのが現実なのですね。

人生100年時代といわれますが、今日は老後にまつわるリスクのご説明とその対応策のお話しをしていきたいと思います。

高齢化社会が示す現実

令和6年6月21日、内閣府から令和6年版の高齢社会白書が公表されました。

この白書は、高齢化の状況や政府が講じた高齢社会対策の実施の状況等について明らかにしているものです。

今回の白書で報告されている高齢化の状況は、次のとおりです。


・我が国の総人口は、令和5年10月1日現在、1億2,435万人です。

・65歳以上人口は、3,623万人で総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は「29.1%」。ちなみに24年前の2000年当時の高齢化率は17.2%です。

・令和52(2070)年には、2.6人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上になっていると推計。つまり38.4%です。急速に進んできています。

老後に潜む「資産凍結」のリスク

このような状況で、老後には、大きなリスクが潜んでいます。それは「資産凍結」というリスクです。言い換えると「認知症などになって、自分の財産が使えなくなってしまう」というリスクです。

平均寿命と健康寿命の差の統計表 

健康寿命というのは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を表します。平均寿命と健康寿命の年齢の差部分は、誰かのお世話にならないといけない年数を表しています。男性で8.96年、女性で12.36年つまり人生の後半10年間は誰かの介助が必要になるというのが現実なのです。相続の直前まで健康でいること、これは誰もが望むところではありますが、残念ながら必ずしもそうとは限らないのが現実ということがこちらの資料からお分かりいただけると思います。

次に認知症の有病率について見ていきます。 

横軸は年齢層を、縦軸は認知症の有病率を表しています。例えば、80歳から84歳の年齢層の場合、男性の認知症の有病率は16.8%、女性は24.2%になります。特に80歳代以降、認知症の発症リスクが急激に高まることがわかります。あくまで統計上のお話しです。

では認知症になった場合、どんな不自由が出てくるのでしょうか。

判断能力低下による法的行為の制限

民法という法律上、認知症を発症して判断能力が低下してしまうと法律行為が制限されてしまう可能性があります。

例えば

・不動産を売却したり、賃貸不動産のオーナーさんであれば大規模修繕が難しくなったり、銀行から多額のお金を引き出すことも難しくなります。賃貸不動産をお持ちでなかったとしても、例えば自宅を所有されていて、将来自分たちが高齢になって自宅に住むことが難しくなったきた場合にはどこか施設に入ることを考えているというケース。結構多いんじゃないかなと思いますが、その時にその自宅は、売却するとか賃貸に出して施設の費用に当てたい。このようなことも認知症になってしまうと難しくなります。つまり活用できる資産があったとしても使えなくなってしまいます。

・相続税対策をとっていくこともできなくなります。相続税対策として生命保険に加入するとか、アパートを建築して資産を圧縮するとかそのようなこともできません。

 ・また金融資産も凍結されてしまいますので基本的には、口座も凍結されてしまいます。基本的にと申し上げたのは、引き出す方法がないわけではないんですね。既に介護されているご家庭ではやってらっしゃる方もいるかもしれません。親の口座からキャッシュカードで引き出すという方法ですね。これは法的に正しいことなのですか?と聞かれると非常に難しいですね。私が司法書士ではなくて皆さんと同じ立場だったらやると思います。いややるかもしれませんくらいにしておきます。法的にはこの行為は無権代理という行為になり正しい行為ではないですね。民法上はアウトすれすれですが、ただ刑事罰の対象ではないです。

ただキャッシュカードというのは一定確率で磁気不良を起こすのですね。再発行手続きには本人確認が必須で、認知症が銀行にばれてしまうと凍結です。

また銀行によっては代理人届というものがあります。代理人届とは、銀行に予め代理人として親族を届けておくもので、代理人が預金の入出金や振込等一部の取引ができるようになります。ただ、この代理人届も、本人の意思確認が困難な場合には利用することができず、何かのタイミングで本人の判断能力低下が銀行に把握されてしまうと取引を継続することができなくなる可能性があります。

キャッシュカードも代理人登録もどちらも、ある日突然使えなくなるというリスクがあるということを知っておいて頂きたいと思います。

長生きの喜びと背中合わせのリスク

長生きをされるということは本当に喜ばしいことなのですが、このようなリスクをはらんでいることは事実です。それに伴い生活費や介護費、入院費も確保しなければなりません。いつお迎えが来るかということは誰にも分からないので、その費用がどれだけ必要になるか、予測することが難しくなっています。

ここで認知症になってしまうとどれくらいのお金がかかってくるのか?ということを見ていきたいと思います。

認知症になってしまった場合の、医療費と介護費の目安について

どこで介護するかによって費用は変わりますが、いくつか例をあげます。

大体の方は、親も子も自分の財産は自分のために使いたいと思っていると思います。そうした場合、 認知症で自分の意思でお金が使えなくなったときに、 自分の意思に沿った形で誰がサポートしてくれるかということは非常に重要な問題です。支える側の子供にとってみても、親の資産状況というのは何か触れてはいけないような感覚になっている方もいると思います。

けれでも先ほどの資料のようなお金が現実としてかかってくる未来があります。

そうであれば、 自分が元気なうちに老後の希望と資産をできるだけ家族(子だけでなく孫の代まで)にオープンにして、 老後の生活設計の収支シミュレーションを踏まえた財産管理の仕組みを構築する必要があります。お元気な時にこの仕組みを整えておく、これが非常に大切です。

家族全員で支える仕組みづくりの重要性

 シミュレーションの結果、毎月の収入だけでは赤字になるのであれば、資産の売却を検討する必要もありますし、売却できる資産がないのであれば子の援助や公的な支援も模索していかなければなりません。

そのため、 家族一人の負担に頼るのではなく、 家族全員が結束して長生きを応援することが理想です。老後のリスクに備えるために、本人はもちろん家族の負担も軽減できる仕組みを作ることが大事だと考えます。

具体的な対策:「任意後見」と「家族信託」

ここまでで、認知症や要介護に事前に備えておかないと困ったことになるかもしれないということはお分かり頂けたかと思います。そしてお元気な間に財産を管理する仕組みを作っておくことが大事ということもお話ししました。では次回以降は、その事前の対策として具体的には、どんなことができるのか?についてお話ししていきたいと思います。ご紹介するのは「任意後見」という手続きと「家族信託」という手続きになります。はじめに任意後見からです。